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モーリス・ラヴェルの弦楽四重奏曲 [音楽]

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モーリス・ラヴェルの弦楽四重奏曲というのは不思議な曲である。
ラヴェルの評価は、フランスのおしゃれな、そつのない、職人的な作曲家という印象があって、たとえばストラヴィンスキーは彼のことを 「スイスの時計職人」 と評したとのことだし、技巧的な人であるという印象があるが、それは同時に、自分の真実の顔を見せない、つまりベートーヴェンのようなドロドロとした内面性を作品に表出せず、音符の後ろに押し隠しているような、どこかよそよそしい印象も同時に持っているということも否めない。

そして 「管弦楽の魔術師」 とも呼ばれたりするが、交響曲を1曲も書いていない。交響曲を書いていないということではバルトークだって同様だが、でもバルトークが交響曲という名称の曲を作らなかったということとラヴェルのそれとはやや意味あいが違うような気がする。かくて、ラヴェルというとどうしても 「ボレロ」 の作曲家というイメージが一般的になってしまっているのではないだろうか。

さて、ラヴェルの弦楽四重奏曲というのは1曲しかない。最初に不思議な曲と書いたのは、果たしてこれを書いていいのかどうかやや迷うのであるが、私はこの曲の最初のテーマがどうも好きになれないからである。魅力的なメロディではないというか、なんとなく 「痩せた」 イメージがある。むしろ55小節目から出てくるメロディのほうが居心地がよいのだが、それはあっという間に風のように消え去ってしまい、この最初のテーマが全曲を支配していると言える。

だが逆にいえば、こんな 「痩せた」 テーマだけでそれを変奏していくことにより1曲を作ってしまえるというところにラヴェルの凄さがあるのかもしれない。ピチカートの特徴的な第2楽章を経て、第3楽章のTrès lentと表示されたすごくのろい音の流れ。最初に聴いたときは何だかわからないが、聴くたびに細かな技が隠されているのがわかってきて新たな発見がある。暗闇に目が次第に慣れてくるにしたがって細部が見えてくるような、そんな気がする。この第3楽章がこの曲の白眉なのかもしれない。2楽章以降は曲中でリズムも煩雑に変わるのだが、それを意識させないなめらかな流れこそが時計職人と呼ばれるテクニックだろう。第4楽章は5/8拍子だが、5拍子であることも自然の流れの中にあるように思える。

私はこの曲をパレナン・クァルテットによる演奏で聴いた。パレナンはこの曲を2回録音しているが、最初の録音で現在発売されているのはLP起こしのCDであり、モノラルであるし、音としてはちょっと悲しいものがある。スタンダードになっている演奏は1969年に録音されたステレオ盤になるが、この録音は仏EMI盤のラヴェルの室内楽集のセット《Ravel: Musique de chambre》に収録されていたが現在は廃盤のようである。
パレナン・クァルテットを私が最初に聴いたのは仏Adès盤のバルトークであるが、それまでのフンガロトンの全集盤に収められていたタートライ・クァルテットなどとは違って、非常に理知的でありながらバルトークをわかりやすく演奏しているというふうに感じられて愛聴していた (もちろんタートライのような演奏のほうがバルトーク演奏としては正統的なのだろうとは思うが)。そのパレナンのフランスものならきっとそれなりの演奏だろうと思ったからである。

ラヴェルはフランスのエスプリを体現しているようなことを書いたが、彼は都会ではなくてバスク地方の生まれであり、つまりややローカルな民族的な精神がその根底にあるように思う。ただそれをバルトークのように直截には出して来ず、たまにチラッと見せるところにラヴェルの屈折した孤独な精神のようなものを感じることがある。


Ravel: Musique de chambre
http://tower.jp/item/1005877/

とりあえず廉価盤を。
Melos Quartett/Debussy&Ravel: String Quartets
ラヴェル:弦楽四重奏曲

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