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カーニヴァルの朝に — ジェリー・マリガン《Night Lights》 [音楽]

GerryMulligan_1953.jpg

やっと少しずつ涼しくなってきて、この夏も終わろうとしている。
その季節を感じさせる音楽というのがあって、それは夏だから太陽の輝く灼熱の昼ということでは必ずしもなくて、夏の夜、エアコンの効いたほの暗いバーで、コップに触れあう氷の音の聞こえるような、都会の気だるい記憶と共に甦ってくるような曲であったりする。
ジェリー・マリガン Gerry Mulligan の《Night Lights》もそうしたクールさを感じさせる1枚だ。

最近ではこの録音もジャズの名盤と言われているらしいが、やたらに名盤の安売りをされるのはあまり心地よくなくて、ひっそりとした佳盤としての存在であったほうが正しいポジションのような気がする。

マリガンはバリトン・サックスのプレイヤーであるが、このアルバムの1曲目、タイトル曲でもある〈Night Lights〉ではピアノを弾いている。そして2曲目が〈Morning of the Carnival〉——いわゆる〈黒いオルフェ〉のテーマだ。A面2曲目に最も重要曲を持ってくるという王道の曲順である (と思っているのは私だけかもしれないが)。
マルセル・カミュの1959年の映画〈黒いオルフェ Orfeu Negro〉のテーマとしてルイス・ボンファ Luiz Bonfá が作曲したものだが、たぶん映画よりも曲のほうが有名になってしまっていると思う。

アート・ファーマーによって淡々とシンプルに吹かれるテーマの終わりの、一番最後のフレーズだけを掠めとってマリガンのソロが始まる。この部分が鳥肌が立つほどに美しい。それはブライトな輝きではなくて、乾いたさりげなさのような美学だ。
ピアノレスなのでギターの和音だけが聞こえてきて、その、わざと音数を少なくした隙間を感じさせるサウンドの絡み合いが夏の暑苦しさとは無縁で、つまりNight Lightsはニューヨークの夏の夜なのだ、と納得してしまう。実はこの曲の録音が行われたのは10月なのだが、きっとその年は10月でもまだ暑かったのかもしれない。などと勝手なことを考えてみる。
この時期の、アート・ファーマーとジム・ホールを迎えたセッションのコンプリート盤も存在するが、《Night Lights》はオリジナルのままで聴くのがよいはずだ。

トップのマリガンの画像はこの録音時よりさらに10年前の若き頃のショットだが、その音は最初から完成されたマリガンの音だった。
しかし《Night Lights》後、マリガンも時代の趨勢からだんだんとフュージョン (当時の表現だとクロスオーヴァー) に傾斜していくことになる。市場はコマーシャルな魔物であるので仕方がないとはいえ、残念な時代である。


Gerry Mulligan/Night Lights (Universal Music)
ナイト・ライツ




Morning of the Carnival from Black Orpheus
http://www.youtube.com/watch?v=27b8wAp8nMg

Marcel Camus/Orfeu Negro (1959)
http://www.youtube.com/watch?v=dGEVUHkJG1o
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mwainfo

われらがマリガン、ですが、まさに「残念な時代」でした。コルトレーンもデイビスも変貌してしまいました。ジャズが歌を失った時代ですね。
by mwainfo (2012-09-21 15:44) 

lequiche

>>mwainfo様
確かに!
その当時はきっとカッコイイと思っていたんでしょうね。
でも新しく見えるもののほうが古びるのも早いです。(^^)
by lequiche (2012-10-31 16:01) 

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