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Tres Amigos — アニバル・トロイロを聴く・2 [音楽]

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アニバル・トロイロのRCA Victor盤が一度に発売された時があって、1941年から71年に至る録音で枚数は26枚、これはとても全部は買い切れないのでとりあえず44年の《Tres Amigos》など数枚を買っておいた。ヒズ・マスターズ・ヴォイスのマークのついているジャケットデザインのシリーズのアルゼンチン盤である。

なぜ44年かというと、トロイロ楽団は若きアストル・ピアソラが1939年から44年まで在籍していた楽団で、とりあえず10代〜20代はじめの頃のピアソラの音を聴きたいと思ったからである。しかし内容としては古典的なタンゴであって、まだピアソラの特徴までを聴き取ることはできない。
そして最初はピアソラの初期の音への興味から聴き出したのだが、聴いていくうちにトロイロ自身の魅力にとりつかれてしまったのである。トロイロは多作であり、同様にピアソラが多作なのも師匠に似たのかもしれない。

今、改めて《Tres Amigos》を取り出して聴いてみると、内容的にも全く風化していなくて、生き生きとしていてタンゴの最盛期の音の輝きを保っている。多少音質が悪く、SPから起こしたため針音が目立つのもあるが、そんなことはほとんど問題にならない。2004年にリマスターされた旨、クレジットされているのでかなり音質が改善されたのだと思われる。
歌はアルベルト・マリーノとフランシスコ・フィオレンティーノという2人が交互に歌っているが、どちらも耳に馴染む。1曲は2分から3分台で4分に達することはない。その短い時間の中にこれだけ濃密な音が詰まっている音楽はそんなにないのではないだろうか。
幸いなことにこのトロイロのシリーズはまだ現役で入手可能なので、全部揃えてもいいと思っているほどだ。

音楽の中で最も人工的なジャンルはおそらくボサノヴァだろうが、タンゴもボサノヴァほどではないけれど、人工的なテイストの強いジャンルといえるだろう。音楽なんて人間が作ったものなのだからすべてが人工的といえばその通りなのだが、音楽の出自があまり自然発生的でなくて、突発的なブームが作られ、それが一種の流行としての期間を経て次第に衰退してしまったという点で両者は似ている。
たとえば同じアルゼンチンのアタウアルパ・ユパンキの伝統的なフォルクローレとアルゼンチン・タンゴとの関連性はほとんど無い。アメリカにおけるジャズの発生と同じように、タンゴにもある程度の自然発生的な部分はあるにせよ、それを発展させたムーヴメントは多分に人工的だ。

ブームというのは必ずステロタイプを伴うものであり、ステロタイプは風化し通俗化する元凶となる。ピアソラは、伝統的タンゴのシーンから遠ざかり、自分自身の音を出すために変節したことで伝統的タンゴファンからの顰蹙を買ったが、それはステロタイプからの脱出を試みたためとも言えよう。ピアソラの作るメロディラインはクロマティックが多用されたため、伝統的なタンゴの音構造としての気持ちよさからは遠ざかる。
しかもピアソラの音はその後継者を欠くために、彼の死後、クラシック音楽としてのポジションを固定されかけているが、それも通俗化とは違った意味での風化にさらされているのかもしれない。クラシックとして認識され扱われたとき、音は残るがピアソラとしてのタンゴの精神は死ぬのである。

しかしトロイロの音は終生トロイロであった。初期のトロイロはその音作りが革新的といわれたのかもしれないが、音の発展が止まれば革新性もいつか伝統的と呼ばれる音に変化する。そういう意味ではステロタイプなのだけれど、知らないはずのタンゴ全盛期に思いをはせる動機となりうる。トロイロの音は感傷的でない分、見知らぬ懐かしさのような印象はかえって深い。
たとえば日本の伝統芸能に感じる 「粋」 な印象がトロイロにも同様に存在する。それは音だけでなく、ジャケットのデザインや服装などそうした諸々のものからである。タンゴは滅びゆく音楽なのだけれど、それゆえに録音として残された音は貴重である。


Anibal Troilo/Tres Amigos (BMG)
Tres Amigos: 1944




Anibal Troilo/Palomita Blanca
http://www.youtube.com/watch?v=jYssCdwhIUc
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