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ボローニャの青 — CMCのマセラティ [ホビー]

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CMC Maserati 300S

クリスマスの頃、新宿の某デパートのおもちゃ売場にCMCのミニカーが飾ってあって、これを子どもにプレゼントする親がいるんだとしたらすごいよなぁ、ちょっともったいないかも、と思ってしまった。

CMC GmbHというのはドイツのミニチュアカーメーカーで、主に古めのノスタルジックな車種を精巧に作っていることで定評がある。私はミニカーのコレクターではないので詳しい事情はよくわからないのだが、一般的なミニカーマニアにはあまり人気が無いようだ (一般的なミニカーマニアとはどういう人を指すのかと問われると困るのだけれど)。マニアはスーパーカーとかレースカーなどの、もっと新しい車が好きな人が多いように思える。
でも私は昔の禁酒法時代の頃の箱形でステップのある車とか、「流線型」 と表現された、今の科学的視点からすればエアロ・ダイナミクスに反するような妙なシェイプだったりするルーズなデザインの車につい目がいってしまう。ルーズというよりむしろビザールなこともあって、それはノスタルジアであるのかもしれないし、一種のスチームパンク的嗜好なのかもしれない。

そしてミニカーマニアは自分が見たことのある車/知っている車にシンパシィを覚えるらしいのだが、私は逆で、実物など見たことのない、もう見られないような車にこそ憧れを抱いてしまう。それはつまりミニチュアライズした幻想の具現化なのだ。金属の輝きと精密さは宝飾品に近い感覚のような気もする。
というように私は何も知らないシロートなので、以下はマニアックでない、ごく初心者の単なるインプレッションである。

CMCはドイツのメーカーらしく、メルセデス・ベンツのモデルを多く製品化しているが、古いメルセデスやアウトウニオンのレースカーの造形は無骨で迫力があって、特に当時のアウトウニオンは獰猛な感じがする。最近、実車のアウディのデザインが先祖がえりしてやや獰猛さが戻ってきたようで、ちょっと微笑ましい。

そのCMCというメーカーのミニカーを知ったのは実はドイツ車ではなくて、何年か前に評判になったマセラティのモデルであった。
マセラティ (マゼラティ) はイタリアの自動車会社で、例によって車はすごいんだけれど経営がヘタというパターンで、今はフィアット傘下らしいが、過去の栄光がノスタルジアの源泉なのだといえるだろう。

Maserati Tipo 61 “Birdcage” — 俗にバードケージと呼ばれるこの車は、フレームが太い鉄骨ではなく、細いパイプで構成されていて、その外見からバードケージ — 「鳥カゴ」 と呼ばれるようになった車で1959〜61年に生産されていた。
つまりミニカーとして再現するには部品数が多くて困難な車である。逆にいえばそういう困難な車から製品化してきたというのがCMCという会社の自負なのだろう。

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CMC Maserati Tipo 61 “Birdcage”

そして今回CMCが製品化してきたのが、バードケージに先立つ300Sというモデルである。300Sには、先行する200Sというモデルがあって、その次に250Fというフォーミュラカーが存在する。この頃のF1というのは、まだサイド・ポンツーンなどない葉巻型の車である。その250Fのエンジンを流用したかたちで、200Sの発展型として作られたのが300Sである。300Sは1955〜8年、そしてその後にくるのがバードケージで、つまりマセラティの歴史を逆に辿っていったかたちとなる。
200Sも300Sも美しい曲線によって構成されたデザインであり、マセラティ最盛期の車だといえる。Wikipediaには200SIの画像があるが、300Sより小ぶりでシンプルだけれどそのマセラティらしいラインは同じだ。

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Maserati 200SI

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Maserati 300S

ミニカーというのは、実車と同じ比率でデザインすると違和感が生じるという厄介な性質がある。つまりある程度デフォルメされないと似ているように見えなくて、これは錯覚の一種なのだが、その縮小比率が高いほどデフォルメ率も高くなる。CMCの製品は1/18が多いが、日本で一般的にミニカーと認識されている製品は1/43が多い (トミカはさらに小さくて1/60くらい)。小さくなればなるほどカワイイ感じになるのは、三頭身キャラみたいなものでデフォルメの結果の一端である。
でもたとえ1/18でもある程度のデフォルメは存在するし、それをどのようにデザインするかが各メーカー毎の味になっているのだと思う。
CMCの300Sもそれだけで見ると素晴らしいが、実車の画像と較べてみると、かなりニュアンスが違う。これはもちろんバードケージにもいえて、ソックリさんが似ているように見えても本人と並ぶと随分違って見えるのと同様だ。

残念なのはこうした知識はミニカーマニアの人のブログなどにはほとんど存在しないことだ。なぜならマニアはコレクターなので、コレクターとは希少価値とか所有欲が優先していて、自動車そのものの歴史とは無縁だったりする。むしろモデラーの人のサイトのほうが視野が広く興味深く教えられる内容が多い。

ミニカーでも鉄道模型でも、人間の考え出した移動機関としての乗り物のミニチュアに存在する魅力とは何なのだろうか。ジブリ美術館ではそのアニメに出てくる精巧な飛行機模型が販売されていて、その質感と形状の美しさはいつまで見ていても見飽きない。アニメという絵画に一度置き換えられているために、かえってそれはリアリティが際だつ。これは現実と幻想をつなぐ橋のようなものなのだと思う。


CMC GmbH
http://www.cmc-modelcars.de/de/index.htm
(最近、サイトの内容に幾つかのヴァージョンが存在し、トップページでJapanを選択すると香港のサイトにつながってしまい、内容がよくない。Germany またはヨーロッパ諸国をSelectするのがベターだ)

CMC Maserati 300S 1956
【正規輸入品】CMC 1/18 マセラティ 300S 1956年 レッド(M-105)


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