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アムランのシマノフスキ — マズルカ op.50 [音楽]

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マズルカはポーランドの民族音楽が発祥であり、もとは土俗的なダンスのリズムである。そしてマズルカといえばもちろんショパンの名前が思い浮かぶが、私はちょっとマズルカが苦手で、なぜならその特有なクセのあるリズムとか、メロディに感じる独特のスケール感みたいなのに慣れないということよりも、どこで曲が盛り上がるのかがすごく気まぐれで、うまくそれを摑みきれないからなのかもしれない。

シマノフスキにもマズルカがあって、でもシマノフスキのマズルカはショパンのそれよりもさらにわかりにくい。
NAXOS盤にマーティン・ラスコー Martin Roscoe のシマノフスキのピアノ曲全集という4枚のディスクがあって、これを聴けばシマノフスキの輪郭がわかると思っていたのだが、わかるのだけれどなんとなく捉えどころのない印象きり持ち得なくて、う〜ん、むずかしい曲なんですね、という曖昧な言い方しかできなかったのが私の正直な感想だといえるだろう。
これは例えばサイモン・ラトルのEMI盤のシマノフスキ・セットにもいえて、ラトルはきっと好演なのだと思うのだけれど、どこかに失われてしまっている部分があるかのようなもどかしさを感じる。

それで、とりあえずラトルはあらためてもう少し聴き直してみようということにしておいて、ピアノ演奏にはhyperion盤にアムランの弾いているシマノフスキのマズルカがあるので、それがどんなものか、ずっと気に掛かっていた。聴いてみたら、あぁやっぱり、というくらいラスコーとは印象が違っていた。
op.50の 「20のマズルカ」 はラスコーのディスクでは、なぜかVol.1とVol.2に分散されているのだが、アムランのは全曲を通して聴くことができる。

たとえば1曲目〜2曲目で比較すると、ラスコーのは 「常に坦々」 としていて、これだけを聴けば先に書いた表現のように 「むずかしい曲なんですね」 という印象なのだけれど、アムランの1曲目 Sostenuto, Molto rubato はラスコーのと速度的にはそんなに変わらないのだが妙に官能的で、これが2曲目 Allegramente, Poco vivace の急速な速度との対比になって生きてくる。アムランは速いだけでなく、その基本となるマズルカの内包しているリズム感がまるで違う。
アルベニスやグラナドスに見られるスペイン的リズムと同じように、マズルカもまたポーランドというローカルなリズムのひとつであって、こうしたローカルなリズムは時として熱情的で刹那的だ。
だがアムランの刻むリズムはそういうのとは異なって正確で理知的であり、でもそれでいてマズルカの揺れるリズムの面白さをとらえているように感じる。

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2曲目は左手で刻まれる短2度の執拗なリズムの個所があるが、この短2度の不協和な音がアムランの場合はそんなに濁った音として感じられない。これは打鍵が確実にコントロールされている証拠であり、何よりこの速度で弾きながら全然余裕ありありなのが聴いていてよくわかる。余裕があるから曲全体が見渡せるのだと思う。
逆にいえばこの曲が誰でも簡単に弾けそうな錯覚に陥りそうだが、それはいつものアムランのマジックに過ぎない。
ラスコー盤のVol.1のメインはシマノフスキのソナタ第2番なのだが、あの密集した和音と込み入ったフーガを持つこのソナタをアムランが弾いたらどうなるのか聴きたいものである。

音楽とは関係ないが、アムランのジャケットには Nicolai Dmitrieff-Orenburgsky の A day of Celebration in Old Russia (1884) という写実的で雰囲気のある絵が使われている。


Marc-André Hamelin/Szymanowski: The Complete Mazurkas (hyperion)
Mazurkas Complete




Martin Roscou/Szymanowski Piano Works Vol.1 (NAXOS)
シマノフスキ:ピアノ曲集 第1集




Simon Rattle/Karol Szymanowski (EMI classics)
Rattle Edition: Szymanowski




追記:
ソナタ第2番のことを書いた後、YouTubeを探していたらアムランの演奏を見つけた。2002年3月17日の東京・紀尾井ホールにおけるシマノフスキ・プログラムで、マズルカ op.50から6曲とソナタ第2番、それにアンコールの自作曲という内容である。
第2番第2楽章は27:17から、そのフーガは40:02あたりから始まる。
アンコールの2曲目、スカルラッティへのオマージュも軽快である。
http://www.youtube.com/watch?v=wBlxVdN4KYU

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シマノフスキ:ソナタ第2番第2楽章・フーガ冒頭
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