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シュタルケルのコダーイ《無伴奏チェロソナタ》 [音楽]

Kodaly_Zoltan.jpg
Zoltán Kodály

シュタルケルといえばコダーイの無伴奏チェロソナタで有名である。
コダーイ Zoltán Kodály はハンガリーの作曲家であり、バルトーク (1881〜1945年) の盟友としても知られるが1歳年下であり、バルトークよりずっと長く活動し84歳で没した (1882〜1967年)。
無伴奏チェロソナタ op.8 は1915年、彼が33歳のときの作品であり、スコルダトゥーラ (変則チューニング) による難曲である。難曲であるが難解ではなく、心がしんとする音に満ちている。

ヤーノシュ・シュタルケル János Starker はこの曲を1948年、1950年、1970年と3回録音しているが、最も有名なのは1950年の Period Record のものである。エンジニアはバルトークの息子であるペーテル (ピーター)・バルトーク Péter Bartók である。
ところがこのピリオド録音というのは、現在、HMVのサイトなどで見るとLPからの復刻音源ということになっているのがよくわからない。というのは私の持っているのは西独Philipsの Legendary Classics というシリーズだが、聞いていてもこの元がLP音源のようには思えない。Licensed by Everest Record Group とあるのでエヴェレストの持っているレーベルの中にピリオドがあるのだろうか。
enregistrementはca.1950 と表記されているから (ca.=circa: およそ、大体) たぶんこれが1950年の録音だろうと思われる。なぜなら1948年の録音はSP盤からの復刻のはずだし、とてもそんな類の音でもないからだ。

3楽章のうち、1: Allegro maestoso ma paassionatoと2: Adagio (con gran espressione) は遅く、3: Allegro molto vivaceは速くて、緩—緩—急という構成になっている。
正直に言ってしまうと、私はチェロの音というのがあまり好きではなくて、というのはその音色が妙に説得力がありすぎて、どんなふうに弾いても聞かせてしまうところがちょっとずるいように思えて、だから嫌いっていうのは理由としてあんまりなのだけれど。嫌いというより気持ちの良すぎる音色に欺されないぞ、という警戒心のようなものと言えるのかもしれない。

第2楽章の冒頭はゆったりと流れていくようで、でも明るくもなく暗くもない情感を湛えていて、無彩色のような風景が見えるように思う。ぼんやりとスコアを見ていると、単に同一パターンで音が連なっているわけでなく6/8と9/8が入れ替わるリズムが存在していることがわかる。モートン・フェルドマンに見たリズム (→2013年03月19日ブログ) と同様に内在するリズムは複雑である。

Kodaly_CelloSonata_II.jpg

大雑把な見方でしかないが、各フェルマータを一区切りと見れば各小節の拍子数 (8分の 「幾つ」) は順に

ア 6・6・6・9・6・9
イ 6・6・6・6・9
ウ 8・6・6・6・6・9
エ 6・6・6・6・9
オ 6・6・6・6・7・6・6

となっていて、「6・6・6・6・9」 というパターンのかたまりが存在する。アイウエオというのは仮につけたグループの名称である。
各グループの拍子数の和は

ア [6・6・6・9・6]・9 =33+9=42
イ [6・6・6・6・9] =33
ウ 8・[6・6・6・6・9] 8+33=41
エ [6・6・6・6・9] =33
オ 6・6・6・6・7・6・6 =43

となる。
アは [6・6・6・6・9] でなく [6・6・6・9・6] だし、オは最後なので [6・6・6・6・9] のかたちから離れて少し崩れているけれど、それらに目をつぶれば小節数もほぼシンメトリーな構造をとっていて、イ・エの33をア・ウ・オの42、41、43がサンドイッチしている。すべて42でなく1拍分増減があるのがわざと破調を作っているようで面白い。それでいて表面的にはそんな構造は微塵も感じさせず、滔々と流れるメロディに終始させているように聞かせるというのがミソである。
そしてこういうアナリゼ的な目で見なくても、聞いた印象で整合性がとられていることは漠然と捉えることができるはずだ。そうした構造からくる美しさはバルトークに似ていて、でもコダーイはやや異なる。これもまた纏いつくマジャールの影なのかもしれない。

そのシュタルケルの訃報を聞いた。コダーイよりさらに長く88年の生涯を送り数日前に永眠したとのことである。ご冥福をお祈りしたい。

Janos_Starker.jpg
János Starker


János Starker’s Legendary Period Lps vol.1 (Essential Media Grp)
Legendary Period Lps 1




János Starker/Kodály: Sonate op.8 Violoncell Solo
(1988.07.29 Tokyo)
1:
http://www.youtube.com/watch?v=4MEUIGjfHNw
2:
http://www.youtube.com/watch?v=2qm7_cI2b30
3:
http://www.youtube.com/watch?v=ZvOEwGlwgJo
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コメント 2

Loby

”コダーイの無伴奏チェロソナタ”と見て、
早速、動画サイトでサーチして聴いて見ました。

奏者を見ると…
シュタルケルでした。

やはりコダーイの無伴奏チェロソナタ奏者としては、
第一人者なのでしょうね。


by Loby (2013-05-03 22:25) 

lequiche

>> Loby様

わざわざサーチしていただきありがとうございます。
曲をリンクするのを忘れていまして申し訳ありません。
早速探して記事にリンクを追加してみましたが、
なるほど、YouTubeにあるのはシュタルケルですね。
この曲は彼の18番だったようです。
by lequiche (2013-05-04 01:11) 

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