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死の花 —— パーカー・フィッツジェラルド [アート]

ParkerFitzgerald01.jpg
Parker Fitzgerald/Overgrowth04

《COMMERCIAL PHOTO》の2月号は野村浩司の特集になっていて、彼はCDジャケット写真で有名なフォトグラファーである。残念なことに昨年亡くなった。
木村カエラの写真が私には印象に残っていて、でも記事を読むと8×10のポラロイドを使ったりした撮影があったとのことだ。フィルムカメラを出自としているのでデジタルに移行しつつある時代でもそうした発想があるのだろう。キーワードはフィルムである。撮った後にあまりいじらない。それがフィルムの基本だとも書いてある。

だがこの雑誌の表紙は少し気色の悪い写真で、男と女が抱き合っているのだがどちらも長い髪、そしてその顔が花で隠されているという構図である。
フォトグラファーはパーカー・フィッツジェラルド (Parker Fitzgerald)、この花のアレンジメントをしたのはライリー・メッシーナ (Riley Messina) というフラワー・アーティストで《Overgrowth》というプロジェクトなのだそうだ。

フィッツジェラルドは 「オーガニックな時代を代表する静謐かつ濃厚なイメージ」 とキャッチにもあるように、やや禁欲的で冷たいトーンで知られる。冷たいというのはよそよそしいとか冷酷という意味ではなくて、綿や麻のような天然素材を連想させる清潔感と、薄くブルーのフィルターがかかったようなpaleな色味の印象を言うのだ。
そしてフィッツジェラルドは今年29歳なのだが、彼もまた、フィルム撮影にこだわっているのだという。

《Overgrowth》は多分にメッシーナのディレクションが濃厚のように思えるが、花で隠されているその部分——マスキングされてしまったような顔の部分が別の生き物としての顔のように見えてしまって、異様な雰囲気を感じる。それはコラージュであり、一種のシュルレアリスムであって、花は美しくなくむしろ不穏な存在感を、何らかの主張を持っているようで、それは邪悪なものなのかもしれず、そのトータルな質感が静謐の中に固定されている。
これはオーガニックとかナチュラリズムとかいうのと少し違う位置にあるように私には思えてならない。オーガニックとは、彼のホームグラウンドにしていた《KINFOLK》という雑誌の方向性からたまたま連想されたイメージに過ぎない。それにもはやオーガニックという単語は少し手垢が付き過ぎて変質し始めてはいないだろうか。

〈Overgrowth04〉は、水面に浮かぶ花びら、水の中に潜っている人、暗い水の色を俯瞰で撮った作品で、水面にできた波紋は高速シャッターで拘束されて一瞬の時を永遠に変える。賑やかな水遊びのショットかもしれないのに、固定されたこの風景には音が欠落している。
これはたぶん死の色なのだ。もしフォトグラファーがそうではないといったとしても、私の直感は欺されないようにと警告してくる。
そしてそれは Death and the Flower (Keith Jarrett) というよりBONNIE PINKの evil and flowers に似ていて、さらにいえば evil and flowers とはボードレールの The Flowers of Evil (Les fleurs du mal) のパロディなのだということに突然気がついた。


COMMERCIAL PHOTO 2014年 02月号 (玄光社)
COMMERCIAL PHOTO (コマーシャル・フォト) 2014年 02月号 [雑誌]

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コメント 5

シルフ

Parker Fitzgeraldですか。
なかなか感性を刺激する作品ですね。
知らなかったです。早速調べようっと。
どうも有り難うございました。
by シルフ (2014-01-24 09:24) 

lequiche

>> シルフ様

フィッツジェラルドは日本の雑誌の仕事も結構してるみたいです。
ただ、私の今のマイブーム……じゃなくてマイテーマ?は
フィルムによる写真とそれで撮る人なんです。
デジカメ全盛ですがフィルムの歴史はまだまだ途絶えないと思います。
by lequiche (2014-01-24 23:09) 

Enrique

どちらの写真家も知りませんでしたが,フィルム写真,特にコマーシャルフォトで使うフィルムサイズの大きなものには圧倒的な力(画面の立ち上がりと情報量)があり,それを使いこなす人がプロなのだとカメラ小僧の頃思っていました。アオリなどを使って撮影時に徹底的に画像を作り込む。後からいじれるというデジタルとは別の世界だったと思います。
by Enrique (2014-01-25 06:29) 

Loby

一流のプロは感性が違いますね。
普通のものなら撮らないような映像や瞬間を
見事に捉えて我々に見せてくれますね。

by Loby (2014-01-25 09:26) 

lequiche

>> Enrique 様

アナログとデジタルの大きな違いはきっとそこですね。
音楽でいえば一発録りに似ていて、後からの修正はあまり効かないし、
むしろ修正したくないという気概があって作り込む、
という傾向があると思います。

デジタルに共通する思想は、
たとえばコンピュータ・ソフトの基本理念は
「とりあえず完成ということにしておいて、
後でヴァージョンアップすればいいや」 ですから、
それは便利なのかもしれないですけれど、
果てしない言い訳のように私には思えます。


>> Loby 様

感性が研ぎ澄まされているから、
普通だったら見逃してしまう違いがわかるのかもしれないです。
ただ、受け手もその違いがわからなければ宝の持ち腐れですし、
漫然と見ているだけだと通り過ぎてしまう 「美」 というのが
常に存在しているような気がします。
by lequiche (2014-01-26 04:47) 

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