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非情な鳥の声 — Prestige のオリヴァー・ネルソン [音楽]

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Oliver Nelson

オリヴァー・ネルソンのプレスティッジへのレコーディングは1959年から62年にかけて8枚を数えるが、そのうち私が聴いているのは《Screamin’ the Blues》(1960) と《Straight Ahead》(1961) の2枚で、なぜならこの2枚でエリック・ドルフィの演奏が聴けるからに他ならない。

レコーディング日を正確に見るならば《Screamin’ the Blues》は1960年5月27日、《Straight Ahead》が1961年3月1日で、この間に有名なブルーノート盤の《The Blues and the Abstract Truth》が挟まるのだが (1961年2月23日録音)、ドルフィ自身のリーダーアルバムは1stアルバムである《Outward Bound》の録音が1960年4月1日である。
ドルフィはもうすぐ32歳という年齢であり、レコード・デビューとしては比較的遅かったといわざるを得ない。それまでにも幾つかの録音をこなしてきたが、おそらくそれほど知られた存在ではなかったのだろうと思われる。
この年には、2枚目のリーダー作《Out There》(1960年9月15日録音) もリリースされるが、そのすぐ後には《Felipe Diaz/The Latin Jazz Quintet》(9月19日録音) のような、単なるギャラ稼ぎだけのような仕事もしていて、ドルフィが自分の目指す音楽を演奏することはまだ困難だった時期である。

プレスティッジにはジャズの数多くの種々の録音が存在するが、それはつまり玉石混淆の面もあり、でもそれが逆に当時のリアルな活況に触れるようで面白い。私の興味は常に前のもの、最初の頃の録音に遡っていくことにあり、今はマイルスの10インチ盤の頃の録音に興味があるが、ドルフィはマイルスなどに較べるとずっと恵まれないままにその生涯を過ごしたわけであり、それが余計に私のシンパシィに訴える。

このオリヴァー・ネルソンの2枚のアルバムは、苦難の多かったドルフィの歴史のなかで、比較的恵まれた居心地のよさそうな環境にあるような音で、明るい表情が見られるような気がする。
アルバム全体を支配する雰囲気は、ごく普通な、まさにストレイト・アヘッドなジャズであって、その中でドルフィは好意的なオリヴァー・ネルソンの領域のなかで自由に吹かせてもらっているといってよい。
《Screamin’ the Blues》の6曲目の〈Alto-Itis〉のテーマのメロディはまるでパーカー風で、バックも完全なフォービート、でもソロが始まるとパーカー風から発展したドルフィ節が頻出して来るのだが、でありながら比較的調性感が保たれたままでの演奏を展開する。

これは《Straight Ahead》にも同様に感じられて、5曲目のタイトルナンバー〈Straight Ahead〉はユニゾンを使った軽快なリズムのテーマが楽しいし、その後のオリヴァーのソロも美しく正統派である。そのスイングしたままのリズムを引き継ぐドルフィのソロもなめららかで、そんなにトリッキーに偏っていかない。6曲目の〈111-44〉はホレス・シルヴァー風なテーマに続いてドルフィのバスクラのソロになるが、ここでもそんなにドルフィはラインを外さない。
このようなソロを聴くと、ドルフィの演奏のベースにはパーカーが色濃く反映されていることが実感できる。そういう意味ではオーネット・コールマンなどよりドルフィのほうがずっとメインストリームに近いはずなのだ。

このオリヴァー・ネルソンの2枚の録音は、外から見れば、まとまり過ぎているのかもしれないけれど幸せなセッションといえたのではなかったかと思えてしまう。こうした明るい音楽は、しかしドルフィには飽き足らなかったのだろうか。その後のドルフィはどんどん暗く孤高なほうへと沈潜してゆく。

1961年のその後のドルフィはコルトレーンのアフリカブラスセッション (6月7日)、ファイヴスポット (6月11日) と続くことによって、自分の世界を確立させようとするが、しかし 「雇われ」 の仕事も多かったように思える。それは金を得るための仕事であって演奏芸術とは少し異なる。コルトレーンとのセッションの記録のなかにさえ、乗り切れない惰性の演奏が幾つも存在していることを私は感じる。

常に暗いほうへ、禁欲的で抽象的なほうへとドルフィが傾斜して行ったのは自分に残された時間が少ないことをぼんやりと感じていたからではなかったのだろうか。ドルフィが巡りあった人々はチャーリー・ミンガスを含め枚挙にいとまがないが、そうした人脈のようなものは、ドルフィにとってはすべて通り過ぎる風景の中のものにしか過ぎなかったのではないだろうか。1964年6月、ドルフィはベルリンに客死する。《Last Date》から後年の人間たちが作り上げる物語はあまりに感傷的で、ドルフィの見ていた虚ろな光、聴いていた鳥の声の非情さとは無縁のような気がする。


Oliver Nelson/Screamin’ the Blues (Prestige)
Screamin the Blues: Rudy Van Gelder Remasters




Oliver Nelson/Straight Ahead (OJC)
Straight Ahead




Oliver Nelson/Alto-Itis
Ohttps://www.youtube.com/watch?v=i6B8ZEZNP7w
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