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バラーティのバルトークを聴く [音楽]

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Kristóf Baráti

5日夜のNHK 「クラシック音楽館」 は、フィンランドの指揮者ユッカ・ベッカ・サラステのシベリウスの夜であったことは確かだが、シベリウスに挟まれたバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番を聞いた。
ソリストはハンガリーのクリストフ・バラーティ (Kristóf Baráti, 1979−) である。

バラーティの弾くバルトークの音色は太く、そして重い。バラーティはやや猫背のような姿勢で、楽器の角度もやや立てるようにして、譜面台を立ててヴァイオリンを弾く。ちょっと地味だ。サラステの指揮も、すごく的確にサインを出しているけれどそのコントロール感が職人技のようで地味だ。ところがこの地味なふうにしている2人の、そのバルトークにどんどん引き込まれる。

この曲が作られたのは1937〜38年であるが、このあたりのバルトークの作曲リストを見ると有名曲ばかりが並んでいる。《弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽》が1936年、《2台のピアノと打楽器のためのソナタ》が1937年、そして《弦楽四重奏曲第6番》が1939年に作曲されていて、それは1940年に彼がアメリカへ移住するまでの、最後のハンガリーにおける作品群であった。
バルトークは第二次大戦直前の暗いハンガリーを捨ててアメリカへ向かったのだったが、そのアメリカは決して夢の国ではなく、そしてその地であまり恵まれることもなく亡くなる。

ヴァイオリン協奏曲第2番はこうしてあらためて聴くと、その構成の確かさというか厳格性に少し気圧される。その音こそ調性がやや不明瞭ではあるが、決して12音ではなくて一定の調性感が持続しているし、なによりその構成的な全体像はまさに古典派であると言える。気まぐれに次々に変奏が続くことは決してないのだ。
こうして映像で見ていると、印象的なハープの入りがはっきりわかるし、コーラングレやバスクラリネットの持ち替えもしっかりとカメラで捉えられるので、ああここで入るのか、と視覚的に理解できる。
ハープとともに重要なのがホルンと、そしてスネアで、シンプルなのだけれど効果的だ。

バラーティのアプローチは決してきらびやかで派手なバルトークではない。けれど余裕を持ってこの長い協奏曲を正確に積みあげていく、そんな印象がある。興に乗って弾き倒してしまったらぐちゃぐちゃになってしまうという危惧があるのかもしれないし、バルトークはそんなヤワな音楽ではないのだと考えていて、そしてカデンツァに到達するまでその緊張の糸はぴんと張られたままだ。まさに古典的だけれどバルトーク的なカデンツァに突入すると、その構成は、はるかに現代的ではあるけれど、はっきりとベートーヴェンの幻影を感じさせる。

Andante Tranquilloと提示された、あちこちに散らばる鳥の声のような、やや破調な第2楽章を経て、第3楽章は暗いワルツだ。この死を連想させるようなワルツを、私はいままでそのようには意識していなかった。バルトークの1938年の不安を増幅したようなバラーティの音が胸に迫る。この曲はこういう曲だったのだ、と改めて悟る。
でもワルツだと思ってしまったのは、その前に演奏されたシベリウスのクオレマの中の曲、 「悲しいワルツ」 からの連想なのかもしれない。

アンコールで弾かれたイザイのソロ・ヴァイオリンが、決して薄っぺらなわけではないが、ごくありふれた曲に聞こえてしまったのは、私の耳がまだバルトークの暗い影から逃れられなかったからなのだろう。

バラーティの経歴を見ると、2010年第6回パガニーニ・モスクワ国際ヴァイオリンコンクールで第1位とあるが、このコンクールはその後継続しているのだろうか。むしろ、1996年のロン・ティボー国際音楽コンクールで第2位に入ったことが、その後の彼を形作ったように思える (ちなみにこの年の第1位は樫本大進である)。
バラーティはフランツ・リスト音楽院でミクローシュ・セントヘイ、ヴィルモシュ・タートライに師事したとあるが、タートライとはタートライ・クァルテットのタートライであり、フンガロトンの旧バルトーク全集の弦楽四重奏曲は同クァルテットにより演奏されている。

ロン・ティボー受賞をきっかけにしてバラーティはエドワード・ウルフソンに師事するが、ウルフソンはメニューイン、ミルシテイン、シェリングに学んだ人である。
YouTubeにバラーティがヴュータンのグァルネリを弾くと解説されている動画がある。1741年製のグァルネリ・デル・ジュスは、私の偏愛する作曲家/ヴァイオリニストであるアンリ・ヴュータンの愛器であり、それはメニューイン、パールマン、ズーカーマンといったヴァイオリニストを経て、現在はアン・アキコ・マイヤースが使用しているが、楽器の持ち主は匿名とのことである。

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バルトーク/ヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章冒頭


Kristóf Baráti/Ysaÿe: Solo Sonatas (Brilliant Classics)
Solo Sonatas




Kristóf Baráti/Ysaÿe: Sonata for solo violin no.2 1st mov.
https://www.youtube.com/watch?v=AJGOyoV3sj8

Kristóf Baráti/Schubert: Der Erlkönig
https://www.youtube.com/watch?v=O_8M9Ycd35k

Yehudi Menuhin/Bartók: Violin concerto no.2
https://www.youtube.com/watch?v=nq0b7k0WEVo
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johncomeback

拙ブログへのお祝いコメントありがとうございます。
今後は不定期更新となりますが、宜しくお願い致します。
by johncomeback (2015-07-11 07:12) 

U3

音の違いがわたしには分かりません。
by U3 (2015-07-11 20:53) 

lequiche

>> johncomeback 様

ご無理のない範囲で更新されてください。
などと言いながら、きっとますます活発な更新になりそうかも、
と期待しております。(^^)
by lequiche (2015-07-11 21:46) 

lequiche

>> U3 様

漠然と音の違いといってもいろいろありますが、
人間の声がひとりひとり異なるように、
作曲者も演奏家もそれぞれに個性があると思います。
それをどのように違いとしてとらえるか、ですね。
by lequiche (2015-07-11 21:47) 

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