市川紗椰の歌う《夜が明けたら》と浅川マキのこと [音楽]

「タモリ倶楽部の衣装は毎回私服で、今回はお気に入りのステラ・マッカートニーのつばめワンピ」 という市川紗椰のブログの意味が一瞬わからなくて、あ、そうか、つばめ! と納得しました。さすがタモリ電車クラブ会員だけのことはあります。
その市川紗椰の歌う〈夜が明けたら〉を聴く。いきなり鉄道系のSEが入り、そして正面にデッドな市川紗椰の声が現れる。夜の静寂のようなこのクリアな空気感がいい。一瞬の、音がすっと立ち上るそのまさに一瞬をとらえている音楽ってそんなに無いはずだ。プロデュースは小西康陽。
夜が明けたら一番早い汽車に乗るから
この歌詞はまさに列車に乗って旅立つ歌なのだ。でもまだ旅だってはいない。繰り返し繰り返し、夜が明けたら汽車に乗るとは言っているが、でもまだ乗ってないじゃん。やがてそれは、あくまで仮想なのだということがわかってくる。乗りたいのだけれど乗っていないというよりは、本当は乗りたくないのかもしれないのに乗るんだ乗るんだと言ってるんじゃないかという結論に辿り着く。いやそれより、もしかすると夜が明けないことだってある。
というようなことがこのCDを聴いているうちに、わかってきた。いつも歌詞をよく聴いていないから、そんな初歩的なことにいまさら気がついたりするのだと誰かから叱られそう。
でもこのCDがマニアックなのは、11トラックあるうちのM1が〈夜が明けたら〉で、残りの10トラックは市川紗椰がフィールドワークした鉄道音なのだ。すべてがアンビエント・ミュージックなのかもしれない。
彼女自身、そうした音をBGMとして聴いているということだし、電車の走行音でも、南の音と北の音、夏の音と冬の音は違うとも言っている。
〈夜が明けたら〉という意外な曲を持ってきたところが小西康陽らしい。原曲は浅川マキだが、その雰囲気を残しながらも全然新しいイメージになっている。浅川マキの〈夜が明けたら〉のシングル盤は1969年、そしてそれを収録したファースト・アルバム《浅川マキの世界》のリリースが1970年である。47年も前の歌なのだ。
ところが浅川マキの音源は手に入りにくい。それはマキ本人が、自分の音源をCD化することに懐疑的だったことにもよる。アナログディスクに較べるとCDの音は良くないという持論だったのである。
今、音源が見つからないのでこれからの記述は記憶だけで書くのだが、1曲目の〈夜が明けたら〉の後、SEがあって2曲目の〈ふしあわせという名の猫〉につながっていたと思う。市川紗椰のシングルはそのSEが延々と続くという感じだといってもよい。
〈ふしあわせという名の猫〉の作詞は寺山修司。作曲は当時宮間利之&ニューハードのギタリスト/アレンジャーであった山木幸三郎。このアルバムの多くの曲を作曲している。後半の数曲はライヴ録音になっていて、新宿・アンダークラウンド・シアター 「蠍座」 での収録となっている。この蠍座というのは、アートシアター新宿文化という映画館の地下にあって、atgの拠点となった場所である。
と書いたが、実際の蠍座を私は知らないので、それに言及する文章と写真から想像するしかないのだが。今年、当時のポスター展があったのだが見逃してしまった。
寺山修司は天井桟敷という演劇集団を主宰していたが、それは伝説の劇団で、その実態についても同様に想像するしかない。それは単純な劇団ではなく、市街劇をも含む、過激でアナーキーなものであったのだと伝えられている。
演劇は最も具体的なかたちとして残りにくいものだ。かろうじて残っているような動画にしても、その演劇空間を再現できているとはとても思えない。それは単なる参考に過ぎない。
そんなわけで、浅川マキのアルバムはCD時代になってから散発的に再発されるだけで、それもすぐに品切れになってしまったりするので、とびとびにしか聴いていないのだが (調べてみたら、今年になってまた再発があったようだが)、印象に残る2人のトランペッターがいる。
それは《裏窓》(1973) における南里文雄、そして《CAT NAP》(1982) の近藤等則である。
南里文雄 (1910−1975) は日本のジャズ創生期の人で、《裏窓》では〈セント・ジェームス病院〉で吹いているが、そのスクエアな音はすでに時代としては過去のものだったのかもしれなくて、でもそれゆえに今聴いても全く古びていない。この力強い輝きには独特の味がある。
《裏窓》のタイトル・ソング〈裏窓〉は寺山修司の作詞によるもので、間奏部における市原宏祐のバス・クラリネットがおそろしくダークである。
近藤等則 (1982-) は《CAT NAP》リリース時34歳で、全曲、近藤の作曲によるアヴァンギャルドなアルバムである。ジャケットは内容に合わせて野中ユリ。だが今聴くと、かえって時代性を感じさせてしまう部分があるが、それもまたアヴァンギャルドの宿命であって、その過ぎた時代感もまた音楽の積み重なった歴史の一端として感じられる。
全く異なったトランペットがどちらも歌に寄り添っているのに暖かな音楽の感触がある。それはいつもダークだけれどやさしい。
市川紗椰/夜が明けたら (TOWER RECORDS)
http://tower.jp/item/3829262/

市川紗椰/夜が明けたら
https://www.youtube.com/watch?v=pf-5_JD_Ay8
浅川マキ/裏窓 (4:00〜)
https://www.youtube.com/watch?v=KYz-1mZjhRE
やっぱり浅川マキの方が良いです
あの歌い方
それに裏窓のバスクラリネットいいですね
聞き惚れます。
by きよたん (2016-09-29 17:50)
市川紗椰さん、美しいのでファンです(笑)
色々な事、物のマニアであるのは有名ですが、大のロック好きなんだそうです。
その筆頭にビートルズを挙げていますが、彼女のお父さんとお母さんの名前が、何とジョンとヨーコなんです!!
以上、無駄知識でした(笑)
by Speakeasy (2016-09-29 21:18)
市街劇ノックの記録映像をイメージフォーラムの講座の中で観たことがありやす。
あと、資料として、阿佐ヶ谷のどの場所でどんなことが行われたかの地図もいただきやした。
市街劇ノック、ワープできたらあっしも参加したかったでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2016-09-29 22:23)
>> きよたん様
浅川マキはオリジナルですからね。
ただ、市川紗椰ヴァージョンの新しさにも惹かれます。
《裏窓》は初期アルバムのなかでは傑作だと思います。
ラストに入っている〈ケンタウロスの子守歌〉もいいです。
だいたい41:09〜 あたり。
筒井康隆・作詞、山下洋輔・作曲です。
by lequiche (2016-09-30 02:34)
>> Speakeasy 様
あまり美し過ぎる画像にすると嫉妬をかうかもしれないので、
ややラフな雰囲気なのをトップ画像にしました。(笑)
ジョンとヨーコのことはすでに知っております。(^^)
ロックはかなりマニアックなのにハマッてたみたいですね。
ヴァイオリンも弾くそうですが、どの程度なのかは不明です。
でもヴァイオリンは最近、ヴィジュアルなAYASAがいるからなぁ。
https://www.youtube.com/watch?v=P6Fs-xwFI4A
by lequiche (2016-09-30 02:35)
>> ぼんぼちぼちぼち様
おおお、それはすごいですね。私も観たい!
昔の記録を読んでも文章とスチルだけですから、
イマジネーションだけでは限度があります。
当時はかなり問題になったのでしょうが、
いまだったらそもそも市街劇なんてできませんよね。
だとすると、やっぱりドラえもんに
ワープをお願いしなくちゃ。(^^)
by lequiche (2016-09-30 02:35)
残念ながら曲は聞いていないです(^_^;)
by green_blue_sky (2016-09-30 16:37)
何度もすいません!
ジョンとヨーコのことは知っていたのですね・・・これは失敗しました!
しょぼ~ん(笑)
AYASAさんは始めて知りました!
才色兼備の凄い方ですね。
凄いと言えばXperia、ハイレゾ再生出来るんですね!?
私はiPhoneなので、多分ハイレゾ再生は無理だと思います。
さすがSONYです!!(←それが言いたかった・・・笑)
by Speakeasy (2016-09-30 20:11)
汽車と言えば、現代人(若い人)は汽車がどういう乗り物か分からないと言う人が多いらしいニャ(^^;
まぁ、現代では汽車はほとんど走ってないからね。
って、思い出した、10/1に高崎~水上までSLの重連が走るんだよ。
見に行きたいけど行けない(^^;
by えーちゃん (2016-09-30 23:57)
市川紗椰はフジテレビのニュース番組もやってますね。あまり見てませんが、一見しただけで、アナウンサーと全く違う空気感が伝わってきます。キャスターとしては賛否両論のようですが。
近藤等則はカッコよかった。『夜が明けたら』、聴きました。発音がとてもオーソドックスで好感が持てます。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-10-01 01:32)
>> green_blue_sky 様
そうですか。
お時間のあるときに、上のリンクから
お聴きになっていただけるとうれしいです。
by lequiche (2016-10-01 11:27)
>> Speakeasy 様
ふふふ。アケチ君、残念だったね。
20面相は永遠に不滅なんだよ。(ナガシマかっ! ^^;)
ポピュラー系ヴァイオリニストは、宮本笑里みたいなのは
いっぱいいるので、AYASA的アプローチは新鮮ですね。
彼女も最初はもっとカワイイ系を狙っていたみたいですが、
少し傾向を変えたようです。
Xperiaの実力はよくわかりませんが、
最近のSONYは元気を取り戻したように思います。
by lequiche (2016-10-01 11:28)
>> えーちゃん様
この場合の汽車というのは蒸気機関車ということではなくて、
たぶん列車という意味での汽車だと思います。
それとも浅川マキが石川から上京してきたころは、
まだSLが引っ張ってたりして? それだったらすご過ぎる〜。
教えて、鉄の人!(笑)
重連って2台連結ってことですか?
きっとそのうち誰かのブログに記事が載るのでは。(^^)
by lequiche (2016-10-01 11:29)
>> 末尾ルコ(アルベール)様
本職じゃないから無理がありますよね〜。
でも夜の時間だし、そういうのもありでいいんじゃないでしょうか。
そのうち慣れてくるかもしれませんし。
うっとうし過ぎるキャスターなんかより好感が持てますけど。
「わりといい街だったけどね」 の部分の音の外しかたは上手です。
CAT NAPの頃の近藤等則は、まだバリバリ売り出し中の時期ですね。
浅川マキのライヴのとき、某有名ベーシストとソリが合わなくて、
みたいな話を聞いたことがあります。
その頃はきっとトンがっていたんでしょう。
by lequiche (2016-10-01 11:30)
西荻窪のジャズ喫茶「アケタの店」で
浅川マキさんのライブを聞いた覚えがあります。
男専の痴漢がでて、騒いだら
浅川マキさんに叱られました。
弁解も出来ずやや苦い思い出です。
by そらへい (2016-10-05 21:01)
>> そらへい様
それはある意味スゴイですね〜。(^^;)
ライヴハウスで痴漢とは。
つまりそれだけ混んでいたということでしょうか?
不謹慎ですが、音楽のことだけ考えれば、
そんな空間で浅川マキのライヴを聴かれたというのは
とても貴重な経験ですね。
by lequiche (2016-10-05 21:56)