SSブログ

モグラネグラはドグラマグラではない [雑記]

aibo_170622.jpg
《相棒》の 「花の里」 店内

今日 (といってももう昨日になってしまったが)、テレビ朝日で《相棒》の再放送を見ていた。シーズン11#8の〈棋風〉という作品で、将棋名人とコンピューターとが対戦するという話である。おりしも 「ひふみん」 こと加藤九段がついに現役から引退することになり、その生まれかわりのようにして出現してきた中学生の藤井四段がデビューから負けなしで今日は歴代タイの28連勝になるかどうかという日、テレ朝がタイムリーな将棋ネタのドラマを持ってきたのは当然だろう。

この〈棋風〉の回は見た覚えがないので、楽しく視聴していた。
将棋名人と対決する将棋ソフトの開発者が死んでしまう。単なる事故死だと思っていたのに杉下右京がやってくると簡単に殺人に切り替わってしまうのはいつものこと (右京さんとコナン君の行くところに事件は起こる)。人工知能を研究するためには開発費が必要で、その開発費が欲しいソフトの開発者と、絶対に名人に負けて欲しくない将棋連盟の会長の思惑が一致して裏取引になりそうなとき、それを断固として止めようとした研究員・彩子 (高野志穂) は、実は過去に新進の女性棋士であったのに将棋のプロになるのを諦めて、ソフト開発の研究員となっていた。そして名人である時田 (竹財輝之助) のことを恨んでいるらしい、というふうに話が進展してゆく。

推理ドラマとしては比較的単純なストーリーなのだが、最後に時田名人と将棋ソフトが対決する場面で、コンピューターを操作して次の手を指示していた彩子は、肝心な一手をコンピューターに頼らず自分の手で指して、名人に負けてしまう。
そして彩子の過去の怨念は読み違いであり、時田は彩子の指す手が好きだったのだという結末となる。愛情が、彼女という人でなく、その棋風にあったところがほろ苦い。

事件が終わり、杉下は 「花の里」 で 「将棋には棋風というものがあり、棋譜を見れば誰が指していたのかが分かる。時田名人は彩子がその手を指したとき、それはコンピューターでなく彩子が指した手であることがわかったのだ」 というようなことを甲斐に言う。

人間と機械、アナログとデジタルの対比になっていて今っぽい話題だったのだが、その花の里の最終シーンのとき、画面の上にテロップが出て、「藤井四段が28連勝を達成しました」 というニュースが流れた。
あまりに絶妙なタイミング! その後、16時50分からの 「スーパーJチャンネル」 で、トップニュースとしてその28連勝が報道された。調べてみると相手の澤田六段が投了したのが16時47分なので、テレ朝はわざとニュースを抑えていたようなインチキはしていない。まさに最後の右京の言葉の個所で投了され、テロップが出されたのである。そういう偶然ってあるんだなぁと思ってしまう。

《相棒》の、この 「花の里」 のシーンはとてもなごむ。ヨルタモリの 「WHITE RAINBOW」 も魅力的な店だったが、「花の里」 のほうがずっと年季が入っている。この世には存在しない店に対して憧れを持ってしまうのは一種の幻想譚への希求であるのかもしれない。
そして鈴木杏樹の演じる月本幸子は、実は単なる小料理店の女将ではなく、過去のある人なので、その不幸な過去の末にたどりついた花の里という店が、とても存在感を持って目に映る。

鈴木杏樹はミュージックフェアの司会を長く続けていたが、彼女のキャリアの初期の頃に出演していたテレビ東京の番組《モグラネグラ》のことをふと思い出した。テレ東はいまでもちょっとユルい放送局だけれど、以前はもっと東京ローカルで、もっとずっとユルくて、そのユルいのがたまらなかった。
《モグラネグラ》は夜の音楽寄りのバラエティ番組みたいなもので、いろいろな司会者がいたのだが、鈴木慶一と鈴木杏樹の木曜日のときだけ、よく見ていた。この鈴木慶一と鈴木杏樹というW鈴木の司会は、調べてみたら1993年の半年くらいしか続かなかったらしくて、だから数回見ただけなのかもしれないが、いまでも印象に残っている。

といっても私は鈴木慶一のことはよく知らなくて、でもその数年前に出た高橋幸宏とのユニット The Beatniksの2枚目のアルバム《EXITENTIALIST A GO GO》(1987) を偶然聴いていたので、鈴木慶一はビートニクスの鈴木慶一でしかなかった。その後あたりだったと思うが、ムーンライダースのコンサートに誘われて1回行ったことがあるばかりである (もちろん、まだかしぶち哲郎は健在だった。かしぶちの曲はいつもせつない)。《センチメンタル通り》を聴いたのはさらに後で、それは70年代の憂愁に満ちていた。
《EXITENTIALIST A GO GO》はノスタルジックな名盤で、何度も何度も繰り返し聴いていた記憶がある。1987年には鈴木さえ子の《STUDIO ROMANTIC》もリリースされているが、その前の《緑の法則》(1985) のほうが私は断然好きだった。最初の自転車のベルの音が、子どもの頃の夏休みの楽しさの記憶に共鳴する。

鈴木慶一の、これらの鈴木さえ子アルバムを経て原田知世の《GARDEN》(1992) に連なる流れは、もっとも冴えていた時期、というか私にとってまさに心の微細な揺れにフィットする音が聞けた時期であったような気がする。
テレ東では1991年から98年まで、呆れるほどホントにしょーもない《ギルガメッシュないと》というバラエティがあって (イジリー岡田さん、最高です)、あれはやっぱり世紀末への退廃的な怒濤の流れだったのだ。
というふうに最初と最後で話題が変わってしまうのは、森茉莉的話題のずらしかたの手法で、現在私はその影響下にある。

     *

追記
木曜モグラネグラの1本目のリンクが間違っていましたので訂正しました。尚、夢野久作ではドグラマグラが一番有名ですが、私が好きなのはあやかしの鼓です。


THE BEATNIKS/EXITENTIALIST A GO GO (ポニーキャニオン)
EXITENTIALIST A GO GO




鈴木さえ子/緑の法則 (ミディ)
緑の法則(紙ジャケット仕様)




原田知世/GARDEN (フォーライフ)
GARDEN




木曜モグラネグラ
https://www.youtube.com/watch?v=EEFb9WUp8Ps
https://www.youtube.com/watch?v=XJ799Zu5xpI

THE BEATNIKS/ちょっとツラインダ
https://www.youtube.com/watch?v=NbRyV6vmixw

原田知世/さよならを言いに with鈴木慶一&佐野史郎
https://www.youtube.com/watch?v=0ayBqVMW50c
nice!(71)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 71

コメント 8

NO14Ruggerman

突っ込みたいネタが多々ありますが男子なので
ギルガメッシュないと、で展開します。
土曜の深夜はギルガメで一部男子の人気を独占したテレ東ですが
元々土曜深夜枠にはオールナイトフジ(フジテレビ)があり
更にその元を辿れば土曜イレブン(日テレ)だったかと思います。
土曜深夜のテレビ番組は男子にとってワクワクの時間帯でした。

高田馬場ライブ、明日ですがいかがですか。
by NO14Ruggerman (2017-06-22 22:17) 

sakamono

ギルガメ、懐かしです...^^;。
将棋はよく分からないけれど、「棋風」に惚れた、などと言われたら、
感動してしまいそうな気がします。
by sakamono (2017-06-22 22:34) 

末尾ルコ(アルベール)

『相棒』は・・・観たことないんです(笑)。水谷豊に関しては、かつて『熱中時代』というドラマがあって、それ以前と以後ではずいぶん変わってしまったので、ずっと(どうかなあ)と思うところあったんですが、『相棒』を『刑事コロンボ』のようなブランドにまで高めたのはすごいですね。映画版もいつも当たってますし。ずっと映画から遠ざかっていた水谷豊ですが、最近またいろいろやり始めていて、若い頃の情熱が戻ってきたのかなとも感じています。優秀な俳優は死ぬまで現役ですから、いろいろな展開があっておもしろいです。
鈴木慶一は、(ちょっと聴いてたかな~)という感じで、やや曖昧な記憶。大貫妙子はずっと聴いていたし、間接的には鈴木慶一もいろいろ聴いているのだと思いますが、はっきりしません。YMOがブームになった時、わたしの当時の友人がいきなりテクノに有頂天になり、「ギターミュージックなんかもう終わり」とか言い出して、それでYMOおよびその周辺に対してしばらくアレルギーを持っていたのですが、思えばアホの元友人一人が浮かれたくらいでYMOにまで反発しなくてもよかったわけですけれど、わたしも当時は狭い世界に住んでおりました。
高知にはいまだテレビ朝日、テレビ東京はネットされておらず、よって『ギルガメッシュないと』もタイトルだけは知っていたけれど、一度も観ておらず、それどころか当時はフジテレビもネットされていませんでした。
リンクしてくださっている原田知世、視聴しました。不安定な音程が味わい深いですね(笑)。しかし映画『時をかける少女』一本でフォーエバーな存在になっているのが凄い、歌は『どうしてますか』というのが結構好きで、原田知世は身体のこなしがとても綺麗なんです。
最近『ドグラマグラ』、読み返したんですが、ちと冗漫な印象でした。確かに夢野久作、楽しい短編の方におもしろいのがあるような気がしてます。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2017-06-22 23:20) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

すみません。知ったようなことを書きましたが、
実はギルガメッシュは、ちらっと見たような記憶があるのですが、
イジリー岡田さんがキモチ悪かったということ以外、
ほとんど覚えていません。
wikipediaで出演者の名前を見てもほとんど知らないので、
イジリーさんも記憶というより後から得た知識のようにも思います。
つまり、TVの懐古番組で昔の録画を映したりしますが、
そういうのの記憶で見たような気になっていたのかもしれません。

オールナイトフジの場合はほとんど知らないといっていいです。
もっというと、オールナイトフジとおニャン子クラブの
区別がつきません。(^^; トホホ)
でも、土曜深夜のワクワクの時間帯というのはいいですね。
TVに発信源としてのパワーがまだあった時代だったのだと思います。

最近の深夜番組で、私が一番好きなのは
稲垣吾郎の《ゴロー・デラックス》ですが、
その頃のTVの元気なパワーとは無縁の内容ですね。

おお、ライヴなんですね。
でも今日 (金曜日) は仕事があるため、残念ですがお伺いできません。
また次の機会にお願い致します。
by lequiche (2017-06-23 14:11) 

lequiche

>> sakamono 様

ご存知でしたか!
ギルガメッシュなんて歴史的な名前を使っているのに
内容がぐだぐだという乖離感がいいですよね〜。(^^)

将棋は私もよく分かりません。
どうしたら先の先まで手が読めるのかが謎です。
by lequiche (2017-06-23 14:12) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

そうなんですか。
逆に、熱中時代というドラマを私は知りません。

相棒は、ハズレな脚本のときもありますが、
総合的にはよく作られているドラマだと思います。
コロンボのパクリもありますが、
名探偵コナンの影響もあるように思います。
昔の推理小説のおいしいところをいろいろカッパラッてますね。
でもコナン君がすでにそうしたパロディ性を備えていて、
たとえば毛利蘭が
モーリス・ルブランと森蘭丸の合体名であることは
以前に書きました。
ルブランはアルセーヌ・ルパンの原作者です。
http://lequiche.blog.so-net.ne.jp/2013-01-11

鈴木慶一は音楽歴が長いですから、多彩な貌を持っていますね。
大貫妙子と鈴木慶一の接点は
ダイレクトにはあまり無いような気がします。
「あのあたり」 のジャンルという大雑把な括りのなかに
YMOなどとともに含まれるとは思いますが、
直接的な関係性は坂本龍一とのつながりでしかないし、
大貫さんはシュガーベイブの頃の
当時の音楽シーンからの隔絶性を自身で語っていましたし、
YMO全盛時のテクノ系の音楽からもやや遠い位置にあると思います。

テレビ東京といえば今は 「なんでも鑑定団」 ですが、
昔も今も、マニアックな路線を続けているのは確かです。
でも見ても見なくてもよいというのが実情であって、
つまりTVとはそんなものです。

時をかける少女は、松任谷由実も歌っていますが、
歌のうまさからいえば当然ユーミンですけれど、
原田知世には言葉で表現できない何かがあって、
それがたった1本の映画をカルト化させている要因です。
通俗な作品であっても、それなりに絵になる、
というところがすごいです。
私は〈雨のプラネタリウム〉(秋元康/後藤次利)
という曲が好きなのですが、
つまりプラネタリウムという必殺アイコンに
惹かれただけなのかもしれません。

原田知世:雨のプラネタリウム
1986.07.09 夜のヒットスタジオ (このとき19歳)
https://www.youtube.com/watch?v=Xx1_JEYSpIY

最近、ヴォーカルをとっているpupaのライヴを観た人の話では、
原田知世には独特のオーラがあるそうです。

夢野久作は作家としては2流です。
ですからそんなに人口に膾炙してはいけないんですが、
水木しげるなどと同様に特殊な魅力があるようです。
現在、新全集が刊行中なので、
まとまった時点で再度読んでみたいです。
by lequiche (2017-06-23 14:18) 

NO14Ruggerman

3番組の共通点は今の地上波ではあり得ないトップレスの女性たちがあられもない姿で生出演していたんです。
よく言えば牧歌的な時代でした。
土曜イレブンの時代は思春期の頃でしたから心臓バクバクでした(#️⃣^^#️⃣)

これからLIVEスタートです。
by NO14Ruggerman (2017-06-23 20:13) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

おぉ、それは若者には刺激的ですね。
当時は倫理コードも低かったんだと思います。

ライヴの記事、お待ちしております。(^^)
by lequiche (2017-06-24 00:46) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0