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ガイドブック大好き ―『21世紀ブラジル音楽ガイド』 [音楽]

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ガイドブックが大好きってどうなんだろう?
たとえば『サンリオSF文庫総解説』っていう本があって、サンリオSF文庫という、かつて存在した文庫について解説しているのだけれど、これを読みたいと思っても実際にはほとんど入手できないのです。良い翻訳もあったし、ちょっとこれは、っていう翻訳もあったとのことなんですが、どれがそうなのかもわからない。だって本そのものが入手できないんだから。古書店で探すときのガイドにしろ、という意味なのかもしれません。私も何冊かは持っていますが、でもほとんどは見たこともない表紙ばかり。これで、ざっとあらすじを読めば読んだ気になるかというと絶対ならない。SFファンにとってはマニアックだけれど欲求不満に陥るリストなのです。
その『サンリオSF文庫総解説』は『ハヤカワ文庫SF解説2000』、マイク・アシュリー『SF雑誌の歴史』、池澤春菜『SFのSは、ステキのS』と並んでウチの書棚にあります。なぜなら本の高さが同じだから。本の高さを揃えることは書棚に本をいっぱい詰め込むための基本技です。

さて、それらと同じ高さの本として『21世紀ブラジル音楽ガイド』という本をこの前買いました。21世紀になってからのブラジル・ポピュラー・ミュージックの、主としてCDのガイドなんですが、こういうの見てるとジャケ買いしたくなる気持ち、よくわかります。
こういうのを見ているだけで、よしこれを聴いてみたい買ってみたいと思ったのなら、本を書いた人にとっては、しめしめなリアクションなわけです。

ブラジルは南アメリカのなかで例外的なポルトガル語の国、という表現を最近知って、あ、そういえばそうだし、そういう意味では孤独な国なんだとも思いますが、ブラジルとアルゼンチンではやはり何か違う、それは言語に違いがあるからということがその要素のひとつだという説明に納得しました。
で、ブラジルってリオのカーニヴァルってことからどうしてもお祭り好きみたいな明るいイメージがあって、アルゼンチンはボルヘスだしクライバーだしピアソラだし、どうしてもそっちに惹きつけられてしまうという感じでした。ブラジルはヴィラ=ロボスとジスモンチだけれど、私のなかでは、やぱ、ちょっと弱いかな。

でも、このガイドブックを読むと、まずジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン、そしてカエターノ・ヴェローゾの影響力っていうのはその基本になっていてすごい、という印象はあります。21世紀の音楽といいながらそれらをまだ引き摺らざるをえない。リストの冒頭にある 「+2」 (マイス・ドイス) のモレーノってカエターノの息子ですし。
ただ、ブラジルの音楽って何ていうのかなぁ、軽いんですよね。軽いから悪いとか価値が無いとかいうんじゃなくて、むしろ日本人の心にはフィットしやすいのかもしれない。ボルヘスとかピアソラとかそのへんを例にとると、スペイン語圏ってやっぱりねちっこいような気がする。あくまでも気がするのは私の感性であって、これって偏見なのかもしれませんけど。

それで先に書いたジャケ買いの話に戻るんですけれど、この本は総カラーページなので、うーん、これ何かよさそう! という気にさせます。それはこの本全体の装丁とかレイアウトにも言えるんですが、ちょっとだけヌケていて、ややダサカッコイイみたいな、そのへんの軽みがあります。あんまり考えてないのか、熟慮の上でそうなったのかがよくわからないんだけど、たぶんあんまり考えてなくて、えいっと作ってしまった手抜き加減なほうがデザインとしてカッコよかったりします。
アメリカのジャズレーベルにブルーノートっていうのがあって、昔のデザインはホントに手抜きなのがあって、でもその手抜き具合がカッコイイみたいな、もう 「あばたもえくぼ」 状態です。けれどもジャズレコードの場合は、残念ながら暑苦しい。それがブラジルデザインにはないんです。そしてそれは中身の音楽をもあらわしているように思えます。

さてもう1冊、小島智『アヴァン・ミュージック・イン・ジャパン』という、これもCDガイドなんですが、ジャンル的にくくれないというか、曖昧な、ちょっとアウトな音楽についてのリストです。前記の『21世紀ブラジル音楽ガイド』は中原仁・監修の下に複数の著者が書いていますが、この本はひとりで、しかも日本の音楽について書いていて、身近だけれどちょっと閉塞感があるのかもしれないという感じです。もちろん文章に閉塞感があるということではなくて、今の日本の音楽そのものがどんどん閉塞しているように私には感じられるんですが、それはあまりにステロタイプ化され過ぎていて、外への目が無くなってしまっている。だからブラジルの音楽なんて、まったく真逆で良いと思うんです。
小島智の選択は、いわば独断と偏見で、自分が良いと思う音楽のリストアップで、でもそういうほうが、こういうのがいいんじゃない? という主張がはっきり出ているから参考になります。だからってそれを全部鵜呑みにするわけでないことは、前のブラジル音楽と同様ですが、参考になるかならないかというのは重要で、たとえばamazonのシロウト評なんて、ほとんどは参考にならないので、なぜかといえばそれは編集がされていない状態、つまりネットの垂れ流し情報なので、それは情報としては弱いんです。ネットで見かける 「どこの歯医者が良い歯医者か」 という情報が全く役にたたない、むしろ害悪なのと同じです。
ま、ですからこの私の記事もそんなに信用してはいけない。

ランダムなんだけれど整合性がある、という一定の基準が小島智のなかにあるので、それに沿って読んでいくと大体の手がかりがつかめますのでこれは便利。あ、そうなんだ、という個所も結構あって、ざっと読んだだけですけど面白い。G-Schmittもゲルニカも取り上げられていましたので、ふむふむと読みました。ペーター・ブロッツマンの《Dear Davil》というのはちょっとマニアックかも。
ただ、ナーヴ・カッツェの項で、「サエキけんぞういわく、“日本で二番目に古いレディス・バンド (最古はゼルダらしい)」 と書いてあるんですが、wikiで調べてみるとSHOW-YAのほうがNav Katzeより古いんじゃないかな? 単純に結成年で較べてもSHOW-YAは1981年、Nav Katzeは1984年、メジャーデビューも1985年vs1991年です。そしてZERDAの結成は1979年なので確かにこれらのグループより古いですが、なんといっても奥野敦子のいたガールズ (GIRLS) がありますからね。ガールズの結成は1977年です。でもYouTubeで見たら、あんまりなパフォーマンスなので、レディス・バンドとしてカウントされていないのかもしれません (グレコのピンクのブギーが再発されているんですね。この前、見ました。ま、どうでもいいんですけど)。
残念ながらこの本、少し誤植が多いです。高橋幸弘とか、G-Schmittも最後の 「e」 は不要です。誤植の多い本って、厳しい言い方かもしれませんが、それだけで内容としての価値が下がってしまうと私は考えます。

ジャケット・デザインを見ても日本のデザインは求心的というか、やっぱり良くも悪くも日本なんだなぁと思います。どんなにやってもブラジルのアルバムのようにはならないし、逆にブラジルの人がどんなにがんばっても日本のようなデザインにはならない。色使いもそうです。『アヴァン・ミュージック・イン・ジャパン』は1色刷なので、どんな色なのかはわかりませんけれど、知っている限りはやはり日本の色ってある。だからゲルニカの《改造への躍動》みたいなのはそれを逆手にとってるからウケます。

結局、ガイドブックってカタログ文化なのかもしれないけれど、でもカタログは便利ですよね。結婚式の引き出物のカタログは味気ないけど。


21世紀ブラジル音楽ガイド (Pヴァイン)
21世紀ブラジル音楽ガイド (ele-king books)




小島智/アヴァン・ミュージック・イン・ジャパン (DU BOOKS)
アヴァン・ミュージック・イン・ジャパン 日本の規格外音楽ディスクガイド300




Caetano Veloso, Gilberto Gil/Nossa Gente (Avisa Lá)
https://www.youtube.com/watch?v=BY4KeCak17U

ジューシィ・フルーツ/そんなヒロシに騙されて
https://www.youtube.com/watch?v=RiXU5Mj2zDM
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きよたん

先日 ポルトガル旅行中にブラジルの方から日本からいらしたのですか
って聞かれたのでブラジルからだと言葉がポルトガル語で通じるから
いいでしょう と言ったら少しは。。と言ってわらってました
by きよたん (2018-10-27 07:00) 

末尾ルコ(アルベール)

わたしもガイドブックは大好きです。
本や映画、そして音楽も好きだし、食べ物とか、あるいは行きそうにもない外国のガイドブックとかも、眺めているだけで想像を膨らませることができて快感です。
ガイドブックのおもしろさは、作品そのものや実際の場所などが未知の段階で、それらに対する知識を得、そこから想像を膨らませられるところですね。
もちろん良質なガイドブックを選ぶ必要がありますが。
海外文学ベスト100とか、歴代ミステリ、歴代映画ベスト云々といった本もガイドブックの一種として、これまた良質のものを選ぶ必要はありますが、わたしは愛好しております。
そうしたベスト100的な本は、そのランキングを鵜呑みにはしませんが、特に10代に各ジャンルのものを何冊か読んでおけば、鑑賞姿勢のベースとして役に立つものですよね。

で、ブラジルのイメージと申しますと、やはりポルトガル語。
あの広大な地域をあの小さなポルトガルが握っていたという不思議さはあります。
サンバ、ボサノバ、そしてジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビンはもちろんですが、それらよりも前に浮かんでくるのが、映画『黒いオルフェ』です。
この作品は原作がヴィニシウス・ヂ・モライスの戯曲ですし、とても南米的な・・・と言うのは、外から見ての南米的・ブラジル的イメージなのですが、その雰囲気に満ちていたと思います。
そもそもオルフェの神話自体が凄い内容ですよね。
下手に映画などにしたら大失敗すると思うのですが、『黒いオルフェ』は神話的雰囲気がよく出ていました。
近年リアルな犯罪映画で評価の高い作品がいくつかありましたが、もちろん『黒いオルフェ』ほどのクオリティではありませんでした。
ブラジルの文学はほとんど読んでません。
パウロ・コエーリョは2冊ほど読みましたが、この人の作品は、登場人物が生きているとは言い難いですからね。
こうして見ていくと、ブラジルは知らぬ者のないメジャーな国ながら、文化的には未知な部分が多い感がありますね。
まあ格闘技ファンにとってはブラジリアン柔術という大きなキーワードがありますが、いや、それを言うなら、サッカーが先ですね。
サッカーにはあまり興味がないのです。

>小島智『アヴァン・ミュージック・イン・ジャパン』

おもしろそうな本ですね。
わたしはかつてロックに関しては少なからず渋谷陽一の批評の影響を受けていたのですが、若い頃とかなり言ってる内容が違ってるんです。
売れ線のポップに対してとても寛容になってますし、かつて子馬鹿にしていたヘヴィメタルも番組で普通にかけてます。
まあ批評家も人間ですから、年齢を重ねれば考えが変わっても当然かもしれませんが、こういうのを知っているから、例えば現在20代とか30代前半の批評家や学者が声高に主張していることも、(どうせ10年後は違ったことを言うようになるだろうな)と距離を置いて見るようにしています。
芸術鑑賞と人生経験の関連も無視できないなと今では思っております。

セシル・テイラーと言えば、彼は詩人でもあったのですね!
次の動画でいきなり朗読してるんで、びっくりしちゃいました。

https://www.youtube.com/watch?v=RagN7jTSJe0

これはとても興味深いなあと。

>お客が皆、ぞろぞろ帰ってしまうんだそうです。

なるほど!アヴァンギャルドで戦うのは生半可なことではありませんね。

そして、『未来のイヴ』ですか。
うっとりしちゃいますね。
一時期、フランス19世紀文学ばかり読んでましたから、おそらくわたしの血となり肉となり、このようなヘンな大人に(笑)。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2018-10-27 13:43) 

lequiche

>> きよたん様

ポルトガルに行かれたのですね。
美しい写真の数々、拝見しております。
ブラジルとポルトガルではポルトガル語でも差があって、
今はブラジル語のほうがメジャーなのかもしれません。
イギリス英語よりアメリカ英語がメジャーなのに
似ています。
by lequiche (2018-10-28 11:51) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

そうですか。ご賛同いただけてうれしいです。
想像を膨らませるだけで終わってしまいがちですので、
CDガイドなら、せめて何枚かは買ってみたいです。
中原仁先生のブログはとても参考になり、
ときどき拝読させていただいております。

《黒いオルフェ》に関しては、
今福龍太先生の『ブラジル映画史講義』という本があり、
その最初に取り上げられています。
ブラジル映画ではないのだけれど、
ブラジル映画を語る際に重要な作品であるとのことで、
内容的に非常に示唆に富むことがあり熟読しております。
wikiに書かれていることとは正反対の内容もあります。
作品的に非常に評価されている部分がある一方で、
ファヴェーラの描き方がロマンティック過ぎるし、
ギリシャ神話は関係ないという批判もあるとのことですが、
つまりそれだけの批評に値する作品だということです。

ブラジルの文学というのは私もよく知りません。
それは一般的にラテンアメリカ文学と言った場合、
どうしてもスペイン語主体で語られてしまうことが多く、
結果としてスペイン語の翻訳が多くなってしまう
ということなのだと思います。

かつて渋谷陽一のDJ番組を聴いていたことがありますが、
最近はそうなんですか?
以前は聖飢魔IIのことをボロボロにけなしていましたが、
けなしながらもかけるのでデキレースかなとも思いました。(笑)
でも、だんだんと考え方が変わるというのは
誰にでもあることであり、寛容になっていくのもわかります。
若い頃は歴史全体が把握できませんから、
どうしても短絡的にしか批評できない部分はあります。
それと若い人はどうしても 「他人にきびしく自分にやさしい」 ので
「他人にやさしく自分にきびしい」 ようになるためには
ある程度の時間と経験が必要です。
もっともこの頃は年齢を重ねても
「他人にきびしく自分にやさしい」 人が増加しているようですが。

セシル・テイラーは演奏中に言葉を発したりしますし、
延々と言葉だけでステージを続けることもあります。

オスカー・ピーターソンの話は極端ですがよくある反応で、
音楽もいろいろな楽しみ方があり、
爽快でエンターテインメントな音楽で、
かつテクニックがあればどうしても持てはやされます。
でも果たしてそれが音楽の真実であるかどうかはわかりません。
それがいつまでも残るのか、それとも泡沫となって消えるのか、
そして泡沫となって消えるものが必ずしもダメとも限りませんし、
泡沫として消えてしまうもののほうがかえって美しい
という穿った見方もあります。
芸術に限らず、評価というものはその時点ではわからないものです。

リラダンは齋藤磯雄訳を持っていますが、
今回の翻訳は一見してとても読みやすそうです。
それがあの文庫のウリでもあるのですが。
リラダンが文庫に収録されるということだけでもすごいです。
by lequiche (2018-10-28 11:56) 

sknys

黄色い腰巻きには「600作以上を紹介 !」と謳っているけれど、
数えてみたら580枚だった(コラムに掲載されているアルバムを除く)。
所有しているアルバムを数えてみたら、84枚しかなかった。
これを多いと思うか少ないと感じるかで、
ブラジル音楽への愛が量れるかもしれません^^;

新ミナス派の詩人Makely Ka(マケリー・カー)がボルヘスに言及しています。
http://makelyka.com.br/disco/cavalo-motor/
by sknys (2018-10-28 15:21) 

lequiche

>> sknys 様

少し水増しだったんですね。(^^)
でも、84枚しか、ではないと思います。
84枚も! ではないでしょうか?

Makely Kaをご紹介いただきありがとうございます。
早速聴いてみましたが、う~んこれは!
素晴らしいです。いままで聞いたことのない音です。
by lequiche (2018-10-29 00:25) 

johncomeback

拙ブログへのコメントありがとうございます。
スーパー銭湯のフードコートが10時半に営業開始なので
飲み会はいつも10時半スタートです(*´∇`*)
学生の頃は講義をサボって本を読んでいましたが、
近年はカメラ雑誌を眺める程度で殆ど本を読まなくなりました。
by johncomeback (2018-10-29 08:57) 

lequiche

>> johncomeback 様

スーパー銭湯とのことですが、まさに温泉ですね。
リラックスした雰囲気がよくわかります。
降っても晴れてもOKですね。(^^)
by lequiche (2018-10-30 14:43) 

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