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While My Guitar Gently Weeps ― Beatles [音楽]

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ビートルズの通称《ホワイト・アルバム》は私にとってずっと〈While My Guitar Gently Weeps〉の入っているアルバムでしかなかった。それは、最初に《ホワイト・アルバム》というレコードの存在を知った頃には、統一のとれていない色々な傾向の曲を詰め込んだような白いジャケットが、まだ未完成のデモ盤のようにも思え、自分の家でない場所で聴いてみても1回や2回ではなんだかよくわからなかったという記憶だけが鮮明に残っている。
今考えればそれは、単に音楽の聴き方が不慣れで幼稚だったのに過ぎないのだが、そんな中で強く印象に残った曲のひとつが〈While My Guitar Gently Weeps〉だった。わかりやすい曲だったということなのだろう。

その頃、私たちはド下手なバンドをやっていて、何かの折りに誰かが〈While My Guitar…〉をやろうと突然言ったのだ。いや、正確にいえばそれにはきっかけがあったのだと思う。初めて借りた練習スタジオは渋谷の坂の途中にあって、ずっと過去のことのはずなのに、階段に差し込む光線の具合やその勾配の感触が、今でもありありと蘇る。階段を上がっていくと部屋は身分不相応に広くてグランドピアノが置いてあった。普通、ロックバンドの練習スタジオなんてもっとずっと狭くて、しょぼいキーボードが1台置いてあるのがせいぜいのはずだ。もしくはキーボードは無くて持ち込みだったり、別料金でレンタルだったりした。それなのにグランドピアノである。けれどその時の練習がどんな結果だったのかは全く記憶になくて、でもそれからしばらくして、〈While My Guitar…〉をやろうと言い出した理由として 「あのイントロがカッコイイんだよな」 と付け足された言葉には、きっとそのときのスタジオのグランドピアノを意識して言ったのだということがすぐに理解できた。

よぉし、練習するぞ、とそのときは思ったのだが結局そのスタジオに再度行くことはなかった。きっとスタジオ代が高かったのだと思う。それに〈While My Guitar…〉をやろうという提案は、ごく軽い思いつきに過ぎなくて、誰もがそんなにこだわっているような曲ではなかったのだろう。私を除いて。
確固とした目標を持たないバンドは、所詮音を出すためのお遊びにしか過ぎず、やがてそれは消滅してゆき、そういうことがメンバーを変えて、あるいはバンドを変えて繰り返され、そして私がやりたいと思うような曲はいつも採用されず、あまり気乗りのしない曲だとやる気が起こらず、その結果として私は次第にそうした活動から遠ざかっていった。それはそんなに間違ったことではなかったと思う。もともとそうした情熱は持ち合わせていなかったし、時間は決して永遠にあるのではないからだ。
だが、今思い出してみると、そうして時間が永遠に続くと思っていた頃のほうが、時間を無駄に消費していたにせよ、もっと何か純粋なものがあったように思える。それは私だけが抱いていた幻想かもしれないのだが、その稀有ななにかは経験値という手垢のついたものと引き換えに永遠に失われてしまったのだ。それが年齢を重ねるという残酷な証拠なのだ。

YouTubeから幾つかの〈While My Guitar…〉を探し出して聴いてみる。オリジナルは思っていたよりもチープなのだけれど、でもこの音はこれしかない。あたりまえだけれどジョージ・ハリスンの声が若い。
1987年のプリンス・トラスト・ロック・コンサートのジョージは、少し前へ前へと食ってゆくリズムが刹那的でカッコイイ。ピアノがオリジナルとは違うのが残念。
2004年のア・トリビュート・トゥ・ジョージ・ハリスンは、最後にプリンスが全部持って行ってしまうところが思わず笑う場面なのだろう。ギターは全然、gently weeps していないが。

今回のリミックスと諸々の別テイクは、分厚い美術書のような立派なパッケージングをされていて、モノクロの4人の肖像が透明な厚手のフィルムに印刷されてカヴァーになっている。それはビートルズが音楽という歴史のなかにこうしたアーカイヴとして認知されてしまったことをも意味する。豪華で美麗なのだけれど、同時にもう甦らない秘匿の匣のようでもある。
私の心のなかにあるホワイト・アルバムは、そうしたよそゆきの貌でなく、カドの擦り切れたジャケットの白いアルバムに過ぎないのだ。


The Beatles [white album] (Universal Music)
ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)(スーパー・デラックス・エディション)(限定盤)(6SHM-CD+Blu-ray)




George Harrison/While My Guitar Gently Weeps
The Prince’s Trust Rock Concert 1987
https://www.youtube.com/watch?v=gF-l93gRr68

Prince, Tom Petty, Steve Winwood, Jeff Lynne and others/
While My Guitar Gently Weeps
A Tribute to George Harrion 2004
https://www.youtube.com/watch?v=6SFNW5F8K9Y

The Beatles/While My Guitar Gently Weeps
https://www.youtube.com/watch?v=D-dONCnY_Yg

*トップ画像はNo.0000001のホワイト・アルバム (amass2016/09/02より)
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末尾ルコ(アルベール)

最近はちょいちょいビートルズを聴いています。
LPレコードを買い始めた最初期に『Let It Be』を買ったのですが、それっきりビートルズのレコードは買わずじまいでした。
もちろんビートルズは既に解散しておりました。
『Let It Be』の中の曲とか、あるいは「Yesterday」とか、もちろん子ども心に(まあ、いいな)とは感じましたが、その後すぐにクイーンとかハードロック系に走り、その後、プログレ→パンク・ニューウェイブへ行きましたので、まとまってビートルズを聴くことはなかったのです。
もっとも、ローリング・ストーンズはほとんど聴いておりましたので、周囲にストーンズファンが多かったこともありますが(と言っても、数人ですが 笑)、思えば、ビートルズを正面から聴いている人は周囲にいなかったですね、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドならいましたけど(笑)。

リンクしてくださっている『While My Guitar Gently Weeps』の動画、すべて視聴させていただきました。
もちろんこの曲は知っておりますが、ジョージ・ハリスンが作詞・作曲なのですね。
あらためて聴いてみると、日本語の歌詞を乗せても違和感が出ないようなメロディがいかにもハリスンかなと感じました。
あと、プリンスはやはりカッコいいですね。
プリンスのアルバムに熱狂したことはありませんが、彼のような存在は今後は出そうにありません。
そう言えば、渋谷陽一はJay-Zとかカニエ・ウエスト(←トランプ支持者 笑)とかのヒップホップ、ラップのスターをやたらと誉めそやすのですが、(そこまでかな?)といつも思います。
もちろん悪くはないですが、米国のポピュラー音楽シーンががヒップホップ、ラップ中心なのでおもしろくなくなったという意見も一理ありかなとも。
渋谷陽一は今でも「レッド・ツェッペリン=命」というスタンスは辛うじて(笑)守っているようですが、しかし番組でロバート・グラスパーをかえて絶賛したり、プライベートで愛聴しているものは既に違うのではないかと想像しております。
番組で若手のバンドを褒めまくるのもやや痛々しい感じもしなくもないのですが(笑)。
まあでも、ロックへのこだわりを生涯貫く姿は正しいのではないかと。

わたしも10代に一瞬パンクバンドをやってまして、楽器はリコーダーくらいしかできなかったのでヴォーカルでしたが、初めて行ったスタジオやライブハウスなどはとても記憶に新しいです。
あと、初めてステージで歌う前に、(こりゃあ、とても声なんて出せない・・・)と感じるくらい緊張していたのですが、第一声を発した後は、ぜんぜん大丈夫になったとか。
演じたのは、ピストルズ、クラッシュ、パブリック・イメージ・リミテッドなどでしたが、当時高知にはこれらのバンドを知っている人自体が少なかったので、けっこうウケました。

アムラン、カヤレイ、スチュワート、そして「演奏の速度」などのご説明、ありがとうございました。
今後のクラシック鑑賞がますます愉しみになりました。

秋吉敏子のお記事、拝読いたしました。
『孤軍』~「Elegy」も聴かせていただきました。
いいですね~。
lequiche様がおっしゃるように、この曲に「Elegy」というタイトルが付いているのも凄いですね。
このアルバム、しょっちゅう聴かせていただきます。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-11-10 14:40) 

うりくま

アルバムジャケット、While My Guitar
Gently Weepsに纏わる記憶と時の流れ
・・繰り返し拝読させて頂き、しみじみ
名文だなあと思いました。lequiche様の
文章、やっぱり好きです~(^0^)。
ちなみに当時lequiche様が演奏したかっ
たのはマニアックな曲だったのでしょう
か?ちょっと知りたいような気も・・
by うりくま (2018-11-10 22:34) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

音楽の好みはいろいろですね。
ストーンズですか。そしてそれからハードロック。
そういうふうに音楽シーンが流れていったのではないか
ということを何となく感じます。
私もビートルズはシングル盤を数枚持っていただけで、
アルバムを初めて買ったのは廉価な輸入盤でした。
たまたま目についたからで、いつでも買えますので
積極的に買おうとは思わなかったのです。
ロック自体、いまだによく知りませんし。

ジョージ・ハリスンの曲として有名なのは
While My Guitar…以外だと
Taxman、Somethingあたりでしょうか。
ジョン、ポールの楽曲に較べると
ジョージの曲はちょっと異質ですね。
やはり最初は2人の影に隠れていたような印象があります。

プリンスはそのステージアクションなど、
やはりジミ・ヘンドリックスの影響があるように思います。

渋谷陽一はまだラジオ番組を持っているのですか?
今の流行を推すのはビジネスが介在しているからで、
仕方がないといえば仕方がないですし、
自分の好みはこっそりと別に隠しているのかもしれませんね。

パンクバンドはまだ黎明期の頃ですね?
そういう環境だとウケたというのはわかります。
全然イメージしない部分をいきなり突きつけられると
拒否反応になるか、ものすごくウケるか、どちらかです。

クラシックについては私は大御所については書きませんし、
有名な人をいまさら書いても、という気持ちがあります。
ですからトレンドからは外れています。(笑)
カヤレイなんてかなりマイナーですが、
彼女のことはそのうちに改めて書くつもりです。

穐吉は、まず女性であったためのバッシングというか、
昔はやはりジャズは男のものという認識があって
音楽業界ってすごく古い体質があったようです。
それにビッグバンドの維持は大変だと思います。
特に金銭面において。
また穐吉のオーケストレーションは演奏がむずかしい
という話も聞きました。
でもグレン・ミラーみたいなのもそれはそれなりで、
私はリラックスするのには適切な音楽だと思います。
by lequiche (2018-11-11 10:49) 

lequiche

>> うりくま様

0000001番のホワイト・アルバムは
世界で一番高価なレコードといわれているものです。(^^;)

そう言っていただけるのは光栄ですが、
いえいえ、どう考えても名文ではありません。
回りくどくていつもぼんやりと陰鬱なばかりです。
この昔の思い出とWhile My Guitar…のことは
以前にも書きました。同工異曲です。同工同曲かも。(-_-;)
繰り返して同じことを書いてしまうのはお恥ずかしい限りです。
なぜそうなってしまうのかというと、
結局それはその時、何か納得できないことがあって
それがずっと心に引っかかっているからだと思うんです。
スパッと解決してしまったことを人間は覚えていません。
わだかまりがあるからいつまでも引き摺るんです。

当時演奏したかった曲……何だったんでしょうね?
私はあまり自己主張をしなかったので、
人に合わせてしまうのが常でした。
ですから強力に 「これがやりたい」 とは言いにくいんですね。
それではいけなかったと思うようになったのは最近です。
あの頃だと、う~ん……家に帰ってくると
バッハのチェンバロ曲を聴いていたのかもしれません。
それはロックバンドとはあまりにも離れ過ぎていました。
by lequiche (2018-11-11 10:50) 

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