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Et que je ne peux t'oublier ― フランシス・レイ [音楽]

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フランシス・レイ (Francis Lai, 1932-2018) といえば映画《男と女》の音楽を担当した、という紹介記事ばかりで、それだけ売れた映画なのかもしれないのだけれど、そればかり言われるのではちょっと悲しい。
wikiを読んでみても、さらっとアウトラインをなぞっているだけで 「そんなもんなの?」 と思ってしまう。さらにfr.wikiを見てもたいして違いはなかった。もう過ぎてしまった人だということなのだろうか。

《男と女》の音楽はフランシス・レイにとっての出世作であるだけでなく、俳優として出演し、主題歌を歌ったピエール・バルーにとってもその後の活動のきっかけとなる作品だった。バルーは映画の中で〈サンバ・サラヴァ〉という曲を歌っているが、この曲はヴィニシウス・ジ・モライスの詞にバーテン・パウエルが曲をつけた作品であり、バルーはその詞をフランス語に翻訳して歌った。ヴィニシウスはブラジルの音楽を考える上で非常に重要な人物であり、それは今読んでいる本から得た知識なのだが、バルーがそうした曲に着目し、そしてその後の自分の音楽レーベルにサラヴァと名づけたことなど、すべてがこの映画から始まって派生していったと思えなくもない。
サラヴァといえば、サラヴァ・レーベルにおける最も有名なブリジット・フォンテーヌのアルバム《comme à la radio》のアナログ盤がつい最近、復刻されたばかりである。

さて、ja.wikiよりはやや詳しいfr.wikiに拠ればフランシス・レイのPrincipales chansonsとして、フランスではエディット・ピアフ、マリー・ラフォレ、ピエール・バルー、ニコール・クロワジールなどが挙げられている (ニコール・クロワジールは〈男と女〉をバルーとデュエットした人である)。
そしてマリー・ラフォレの〈Je voudrais tant que tu comprennes〉はミレーヌ・ファルメールが最初のコンサートで、コンサート最終曲としてカヴァーしたことで知られる作品であるが、ラフォレ自身の歌唱も複数に存在する。
フランシス・レイはもともとアコーディオン奏者であり、聴きようによってはチープなその音色が、きっとこの曲には合っているのだろう。ホーナーの、少しキツいかもしれないと思える音色のボタン・アコーディオン、涙とともに歌う歌のようなのだが、そんなに優れている歌詞とはいえなくて、つまり比較的通俗な歌詞でしかなくて、曲の魅力のほとんど全てはそのメロディにあるような気がする。

 Je voudrais tant que tu comprennes
 Toi que je vais quitter ce soir
 Que l’on peut avoir de la peine
 Et sembler ne pas en avoir

Et que je ne peux t'oublierというのが歌詞の最終行で、 je ne peux t'oublierは英語だとI can not forget you、あなたを忘れることはできない、という意味だが、それは今まさにフランシス・レイへの言葉となって響く。


Marie Laforêt/Marie Laforêt (Musidisc)
Marie Laforet




Marie Laforêt/Je voudrais tant que tu comprennes
https://www.youtube.com/watch?v=KvYvc7RHbBI

Marie Laforêt/Je voudrais tant que tu comprennes
Les archives de la RTS
https://www.youtube.com/watch?v=rFgnQZ7WwJI

Mylène Farmer/Je voudrais tant que tu comprennes (Live)
https://www.youtube.com/watch?v=Ocl1fVuMEFg
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末尾ルコ(アルベール)

wikiって、日本語版のお粗末さは言わずもがなですが、フランス語版も時に凄く情報量が少ないのがありますね。
この前も日本の俳優か映画かを調べていて、フランス版にも載っていると表示されていたので見てみると、2行くらいしか(笑)情報がありませんでした。
でも日本版はたいがい酷いことが多いですよね。
とるに足らないテレビタレントに延々と情報があるかと思えば、重要な俳優や小説家などはほんの少しの記載しかないとかしょっちゅうです。

フランシス・レイの音楽の中では、『白い恋人たち』が比較的好きです。
映画自体はさほど印象に残ってませんが、音楽はよかったです。
『男と女』はいまだ古びない、おそらく永遠に新しい作品なのだと思いますが、音楽ももちろんエポックメイキングでした。
リアルタイムで観たわけではありませんが(笑)、そしてそんなにしょっちゅう観たい映画でもないのですけれど、タイプは異なりますが、『シェルブールの雨傘』と並んで永遠に女性誌に愛される作品と言いましょうか。

リンクくださっている動画、すべて視聴させていただきました。
最初の動画はマリー・ラフォレがある程度の年齢になってからのものですね。
このくらいの年齢の映像は観たことなかったので新鮮です。
ラフォレと言えば、『太陽がいっぱい』で、ヌーベルバーグ支持者からは批判を受けたこともあったようですが、何度観ても飽きない、演出、キャストとも完璧な映画だと思います。
ドロンはもちろんですが、マリー・ラフォレの大きな目、あの雰囲気が地中海の紺碧にピッタリでした。

2番目の映像はとても若くて美しいのですが、視聴している人間がじっと見つめられているようで、いい意味で(笑)悪夢のようですね。
このようなあからさまな映像は時代性を感じるとともに、ヨーロッパらしさもあり、昨今の凝ってお金かけたMVなどよりもインパクトが強かったりします。

そして3番目のMylène Farmer - Je voudrais tant que tu comprennes – Live

これは凄い歌唱ですね。観客の盛り上がりも凄い!
濃厚さ、奥深さ・・・またMylène Farmerをじっくり聴きたくなりました。

渋谷陽一は今でもNHK FMで番組やってますが、時間帯が夕方になったりと、けっこう際どい状況なのかもしれません。
NHK FMも渋谷のように豊富な知識と批評性を持ったDJよりも、益体もないトークが延々と続く番組が主流となっております。
これはネットで益体もないユーザーレヴューが、まともな批評よりも読まれていることと同様の現象でしょうね。  RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-11-14 02:00) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

仕方がないといえば仕方がないので、
ぐずぐずなのがネットの特質なのかもしれません。
日本人のタレントなどの記述が大変充実しているのは
それなりのファンに支えられているからですね。
それが歪みでもありますが現代とはそういうものなのだと
最近はあきらめるようになりました。
ただ、ともかく情報量が無いときはがっかりしてしまいます。
基本的には英語版のwikiを利用することですね。

ああ、古びない映画と古びてしまう映画ってありますね。
シェルブールは永遠に古びない傑作だと思います。
男と女もそうでしょうね。
ただ、古びてしまうのも最近はそれはそれで面白いな、
と思うようになりました。
これ、ダサいよなぁと思うものも
その作り手が一生懸命作っているのがわかると
逆に親近感が湧いてきます。
完成度も必要ですけど、そのときの熱意が見えるかどうか
というのが意外に評価の基準になってしまうのかも
しれません。

ラフォレも少し年齢を経てからのほうが、
それなりに味わいがあると思います。
フランシス・レイとの共演の動画なので
これを選んだのですが、なかなかいいですね。
若い頃は逆にエキセントリックな雰囲気がありますし、
この時代だとこういう撮り方もありだったのでしょうが、
確かにちょっと不気味感もあります。
単に手抜きな動画なのかもしれませんけれど。

ファルメールの動画は、
彼女のファースト・コンサートのラスト曲ですが、
彼女のほとんどの曲はファルメール作詞、
ローラン・ブトナの作曲なのにもかかわらず、
このコンサートの冒頭曲はボードレールの詩に曲をつけた
〈L’Horloge〉であり (といってもほとんど語りですが)、
そして最後がフランシス・レイなのです。
ボードレールとフランシス・レイへの
オマージュなのかもしれません。
これがラフォレの曲のカヴァーだということは
後から知りました。
つまり私が最初に聴いた〈Je voudrais tant…〉は
ファルメールの歌のほうなのです。

渋谷陽一、そうですか。
でも番組が存続しているというのはすごいですね。
延々と続くトークとか軽い文章のほうが
現実には受け入れやすいですし、それが主流のようです。
現代では知識や批評はあまり必要とされないのです。
なるべく軽く、上澄みだけがよろしいのです。

なかには私のこのブログの駄文を
むずかしいと言われるかたがいらっしゃいますが、
それはたぶん文章がこなれていないせいで
それが至らない部分なのでしょうけれど、
でもこんなのがむずかしかったら、まともな本は
ほとんど読めないんじゃないかとひそかに思います。
by lequiche (2018-11-16 03:16) 

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