SSブログ

〈シンクロニシティ〉― スティング [音楽]

sting_181231.jpg
Sting, 2014

スティングは私のなかで奇妙な位置を占めている。聴きたい曲として近づいてきたり離れてしまったりする人だ。〈Synchronicity〉を聴きながら解説を読んでいたら、The Policeはなかなかライヴ盤を作らなかったというので、そうなのかなぁと思わず疑問を感じたのだが、よく考えたらそれはポリスでなくスティングのソロなのだった。

ソロとしての1st《The Dream of the Blue Turtles》(1985) が初めて聴いたスティングで、そのアルバムをリリースした後、翌1986年に出されたのが《Bring on the Night》というライヴだった。とても良いライヴなのだけれど、ブルータートルに較べると何となく外交的過ぎるように感じて、聴くことから遠ざかってしまった。外交的というか、音そのものの総体がきらびやかで、その時代のおしゃれな感じを内包しているのはわかるのだが、きっとそういう世界に私は入れなかったのだ。
でもリュック・ベッソンの《Léon》(1994) のラストに現れる〈Shape of My Heart〉の予期せぬ歌に涙する。ささくれた心を癒やす歌であり、でも悲しさは払拭されない。《さらば青春の光 Quadrophenia》(1979) というモッズの映画を観ていたら突然スティングが出て来てびっくりしたり、そのようにして私のなかでいつも見え隠れしているのがスティングなのだ。

でも再結成したポリスでのライヴもあって、それを聴くととても胸がすくような、やっぱりこの人は聴いていていいなあと思ってしまう。単純に音としての爽快感があるし、それにもっと驚いたのは、私が過去に《Synchronicity》を初めて聴いたときによくわからなかったアンディ・サマーズの音が、瞬間的に理解できてしまったことだ。だからきっとその言葉通り、まさにシンクロニシティなのだ。
ただ、たとえば〈Russians〉とかプロコフィエフだし、曲想が沁みるし、いいところを突いてくると思いながらも、こうしたナマな歌詞ってどうなの? とも思う。ところどころカスッていきながら音楽を作っていくこと、そうしたいわゆる政治的なことにかかわることも否としない姿勢が彼にはあるように思う。それはスティングに限らず、よくあることだ。
自分の立ち位置を明確にすること、芸術至上主義に逃げないこと、それは敵を作ることでもあるが同時に強い味方を作ることでもある。

そうしていくつかの曲を聴いているうちにだんだんと気づくことがあるのだが、スティングのメロディ・ラインはいつも同じだと突然私は理解する。そう、いつだって私にとっては突然なのだ。スティングが悲しみに持って行く音はみな同じ。この言葉はもちろん、死の色は皆おなじというヴァーノン・サリヴァン名義のボリス・ヴィアンのタイトルのパロディでしかなく、そしてサリヴァンという名前から連想するのはギルバート・オサリヴァンで、そのオサリヴァンという名前はギルバートとサリヴァンという2人の通俗オペラ作家の名前からの連想であることも。そしてピナフォアがディッシュの『歌の翼に』のなかに出てくるので通俗オペラとはこういうものなのだと思う。これは一種の連想ゲームであり深い意味はない。

〈Russians〉のPVはシンプルなモノクロで、そのモノクロ感が曲の内容を暗示する。でもオーケストレーションに技巧のあるライヴもあるのでリンクしておく。
ポリスとしての東京ドームでのライヴも懐かしい曲ではあるのだが、力が衰えてしまっている過去バンドの音のようではない。ポリスのリユニオン・ツアーは2007年5月から2008年8月まで行われたが、最終日8月7日のマジソン・スクエア・ガーデンでは〈Purple Haze〉と〈Sunshine of Your Love〉がカヴァーされたとのことである。


The Police/Synchronicity (ユニバーサルミュージック)
シンクロニシティー




Sting/Russians
https://www.youtube.com/watch?v=wHylQRVN2Qs

Sting/Russians (in Moscow)
https://www.youtube.com/watch?v=EiWvlpSyzbw

The Police/Synchronicity II
live 2008, Tokyo
https://www.youtube.com/watch?v=qZ9GwWY5hF4

The Police/Message in a Bottle
live 2008, Tokyo
https://www.youtube.com/watch?v=0e2CuyIG7x8

The Police/Purple Haze
Madison Square Garden 2008.8.7.
https://www.youtube.com/watch?v=ar4ngBoOT6s
nice!(86)  コメント(16) 
共通テーマ:音楽

nice! 86

コメント 16

(。・_・。)2k

本年もお世話になりました
来年も宜しくお願い致します
どうぞ良いお年をお迎え下さい

by (。・_・。)2k (2018-12-31 05:49) 

ぽちの輔

今年もお世話になりました。
良いお年を^^
by ぽちの輔 (2018-12-31 07:14) 

kick_drive

おはようございます。今年もお世話になりました。
ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
よいお年をお迎えください。
by kick_drive (2018-12-31 10:10) 

末尾ルコ(アルベール)

スティングは外見的にもあまり老けませんね。
肉体もかなり鍛えていて、筋肉が凄いという話を聞いたことがあります。
スティングやポリスはわたしにとっては、追ったことないけれど、だいたい聴いているという音楽家ですね。
「ファン」だったことはないのですが、聴けばとても満足できる・・・そんな人であり、バンドです。

ポリスもパンク・ニューウェイヴのムーヴメントの中で出てきたわけですが、「パンクバンドと認識されるために、わざと下手にプレイしていた」という逸話があるように、最初からわたしには「パンク」に聴こえておりませんでした。
荒く演奏しているようで、完成度の高さはデビュー時から他のパンクバンドとは違っていた印象です。
わたし自身パンク・ニューウェイヴに暴力衝動ややたらな反体制を求めていたので、当時はポリスを積極的に聴く気にはなれなかったのもあります。
でもその後のスティングの活躍ぶりは、かれの才能がいかに飛び抜けていたか実証しておりますよね。
ユング思想で知る人ぞ知るだった「synchronicity」という言葉もポリスのアルバムタイトルで、日本でぐうっと広まった印象があります。
あの当時渋谷陽一も鼻息荒く(笑)「シンクロニシティ」という言葉の意味を解説しておりました。
しかし乃木坂何とかが今年「シンクロニシティ」という歌を出してたんですね。
いやはや、何とも(笑)。

>ささくれた心を癒やす歌

これはわたしも彼の曲を耳にする時に同様の経験があります。
曲想の美しさや深さももちろんですし、時に耳障りに感じるほどのスティングの高い声がダイレクトに心の芯を直撃することがあります。


「パターン認識」という概念と方法は、常に意識しておくとよさそうですね。
芸術関係に限らず、この世界に生じる様々な事象に対応できそうです。
そして時に対象を前にしての逡巡などを除いてくれそうですね。

今の『ロッキングオン』は読んでないので知りませんが、以前は確かにどのライターの文章にも共通するトーンがあって、それは当然渋谷陽一の考えが同誌の隅々まで浸透していたからであって、渋谷の考え方自体も常に独特なパターンを持っていたからなのだと思います。ある程度以上購読していると、どんな人をどう評価するかだいたい分かっていたのですよね。
でもかなりの期間、渋谷陽一のラジオも聴いてなかったのですが、数年前にまた聴き始め、ある意味パターンが変わっているのに驚きました。
かつては「自分の解釈しかありえない」という唯我独尊的態度だったのですが、近年は「ファンの望むものを提供することが最も幸福な結果になる」とか言ってるんです。
それはそのような場合もあるでしょうが、しかし衆愚に陥る危険性も高いですよね。
ただでさえ世の中で、「評論・批評なんて必要ない」という暴論がまかり通っている現状なので、あまりこうしたことは言ってほしくないとは思います。

今野雄二の『AVALON』のライナーノーツなのですが、当時はロックファンの間でけっこうネタになっておりました。
大まかに言えば、次のようなものでした。

「波。

(緩い感じのエッセイ的評論文)

波。

(緩い感じのエッセイ的評論文)

波。

(緩い感じのエッセイ的評論文)

波。


・」

要するに、「波。」という言葉の入れ方の自己陶酔感が一部でネタになり、渋谷陽一の逆鱗には触れた(笑)・・・といった経緯でした。

・・・

2018年もお世話になりました。
2019年もよろしくお願いいたします。
よいお年を!                 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-12-31 14:46) 

ぼんぼちぼちぼち

来年も精力的に記事を更新されてくださいでやす。
よいお年を(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2018-12-31 17:32) 

(。・_・。)2k

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願い致します

by (。・_・。)2k (2019-01-01 04:13) 

kiyokiyo

equicheさん
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします^^
by kiyokiyo (2019-01-01 09:28) 

yam

輝かしい新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
by yam (2019-01-01 09:59) 

英ちゃん

謹賀新年
今年もよろしくお願いします。
by 英ちゃん (2019-01-01 12:34) 

lequiche

>> 皆様

年末のご挨拶ならびに新年のご挨拶ありがとうございます。
あけましておめでとうございます。
こちらこそ本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
by lequiche (2019-01-01 23:28) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ポリスを最初に聴いたのは、
イメージフィルム的映像にBGMを流す短いTV番組があり、
そのバックに流れていた曲でした。
でもその頃ははっきり言ってギターの音が嫌いで、
何かもやもやしたサウンドだなぁと思うばかりでした。
スティングがソロになってからの1stで
初めて、この歌手はすごいと気がついたのです。
そして今になってライヴ映像などを観ると
アンディ・サマーズって非常にトリッキーなテクニックで、
こういう音の作りかた・出し方があるんだと思いました。
普通のロック・ギタリストとはかなり違います。
速弾きでもないし、技巧派でもないのですが、
一種のプログレなんでしょうが、でも一般的なプログレとも
やや違うような気がします。
スチュワート・コープランドのドラムもタイトで
聴いてきて気持ちがいいです。やはりリズムは重要です。
でも最もすぐれているのは、もちろん、スティングの声です。

「わざと下手にプレイしていた」 ――
あぁ、そうなのかもしれませんね。
でも別に上手いパンクがあってもいいと思うんですが。

それでスティングのソロを聴いてから遡って
あらためてポリスを聴いてみると、やっていることが
よくわかるようになりました。
シンクロニシティというタイトルも暗示的です。
乃木坂何とかは、よく知らないので何ともいえませんが、
ミスチルもそうですけれど、過去の名曲タイトルを
そのままパクるのはやめて欲しいです。
それは自分で自分がバカだと証明していることに他なりません。

渋谷陽一の発言、

>> ファンの望むものを提供することが最も幸福な結果になる

が本心から出た意見なのだとすれば悲しいですね。
でもたぶん、昨今の流行語の 「忖度」 で言っているだけでしょう。
「忖度」 って言葉自体、ずいぶん下品な言葉ですので、
こうしてタイピングするのにも気が引けますが。(笑)

今野雄二のライナーノーツの解説、ありがとうございます。
これは素晴らしい! 今度、使ってみたいです。(^^;)
なぜ「波。」 なのかが謎ですが、何らかの意味があるんでしょうか。
どうせ入れるんだったら 「波」、「上」、「特上」 というふうに
変化させてみるのもいいですね。(コラコラ ^^;)
by lequiche (2019-01-01 23:28) 

NO14Ruggerman

おめでとうございます。
本年もJAZZをはじめとした独創性の高い
記事を楽しみにしております。
by NO14Ruggerman (2019-01-02 01:09) 

ニッキー

明けましておめでとうございます( ^ω^ )
楽しくて笑顔溢れる素敵な一年になりますように*\(^o^)/*
本年もよろしくお願いいたします=(^.^)=
by ニッキー (2019-01-02 09:58) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様
>> ニッキー様

あけましておめでとうございます。
こちらこそ本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
by lequiche (2019-01-03 00:34) 

ネオ・アッキー

明けましておめでとう御座います。
昨年中は大変お世話になりました。
本年も何卒宜しくお願い致します。
by ネオ・アッキー (2019-01-03 01:11) 

lequiche

>> ネオ・アッキー様

あけましておめでとうございます。
こちらこそ本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
by lequiche (2019-01-03 18:45) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。