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Kate Bush Remastered [音楽]

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Kate Bush (bbc.co.ukより)

ケイト・ブッシュの全スタジオ・アルバムが昨年末、リマスター盤としてリリースされた。リマスターされたのは今回が初めてとのこと。1stの《The Kick Inside》から《The Red Shoes》までがCDのbox 1、《Aerial》以降と拾遺とでもいうべき音源がbox 2に収録されている。同時にリリースされたアナログ盤はCDのbox 1とbox 2がそれぞれ2つに別れているので、CDは2セット、アナログは4セットという形態である。CDのボックスはサック状になっていてそれぞれのアルバム毎のデジパック。アナログ盤は堅牢な箱に入っていて、背文字などのパッケージに使われているフォントは古風なリボンのタイプライターで打刻されたようなぼそぼそのクーリエ。レーベルはParlophoneとFish Peopleのダブルネームである。
EU輸入盤のみで日本盤は製作されていない。このデザイン性は輸入盤にアドヴァンテージがあるといわれていた時代のセンスを彷彿とさせる作りで、パッケージング自体が単なる箱ではなくて、統一感のあるひとつの作品となっている。デジパックはオリジナル・デザインに付加されたフィッシュピープルライクなイメージで統一されていてCDレーベルも全て新しく作成されたもので、作りは甘いかもしれないがイングランドの香気がする。昨年の発売日に購入したのだが、CDパッケージとしてはあまりにも美しい仕上がりで、実は私だけで独占しておきたくて、あまり売れて欲しくなくて、このレビューは書かないでおこうと思ったくらいである。

ケイト・ブッシュは長い経歴の割にはアルバムの数が少ない。前回の紙ジャケットのリリースのときは《The Red Shoes》までだったが、つまりその時点で全7点である。今回はパッケージとしては5点増えて12点となったが (複数組のがあるのでCD box 2の枚数は11枚)、枚数は少ないけれどそのクォリティは異常に高い。それゆえに寡作になってしまったのだともいえる。

私がリアルタイムで聴いたのは《The Sensual World》からであり、そこから遡って旧作を聴いていったのだったが、1stからの4枚はどれも瑞々しい輝きに満ちている。3rdの《Never for Ever》、4thの《The Dreaming》が代表作であると考えてよいだろう。アナログbox 1にはこの最初の4枚が収録されているが、ボックスのパッケージはヴィジュアル的にキャッチのある3rdではなくて4thの《The Dreaming》である。
つまりここでケイト・ブッシュ・サイドの考え方がわかって、ああなるほど、と納得する。《The Dreaming》は最もエキセントリックではあるが、音楽そのものの斬新さは傑出しているからだ。
私が最初にこの時期のアルバムを聴いた頃、参考にした紹介記事には《The Dreaming》を 「狂気の表出」 と評しているものがあったが、この人わかってないなぁとそのとき思ったものである。《The Dreaming》における注目すべき点はそのリズムにある。

さて、肝心のリマスターであるがたとえば《Never for Ever》の場合、私は最初の英EMI盤 (CD初期のEMI盤はmade in West Germanyである)、そして紙ジャケット、今回のリマスターの3種類を持っているが、厳密に比較はしていないけれどそんなに驚くような変化はないように聞こえる。リマスターのほうがやや音が深いというか、でもそれは単なる漠然とした印象で気のせいかもしれない。比較試聴する気になれないのは、音を較べるという非生産的な行為よりも、音楽そのものに心を奪われてしまうからだ。あらためて聴いてみるとそれほどにケイト・ブッシュの作品は魅力的であり、最初から音的にも完成されているのでリマスターなどどうでもよいのである。もっともケイト・ブッシュ本人は過去の音に不満だったからリマスターをしたのだろうけれど。

ただ、タワーレコードの宣伝誌『intoxicate』#137のリマスター盤の紹介記事には《The Dreaming》でフェアライトを導入したととれるような記述がされているが、フェアライトが導入されたのは《Never for Ever》のときであり、ほとんど内容のないja.wikiにさえ書いてあるエピソードであるので、正確な記述が望まれる。ちなみに《Never for Ever》ではProphet-5やmini moogなどとともにヤマハのCS-80も使われているが、CS-80は外見がエレクトーンのような初期のヤマハのポリシンセで、DX7以前の黎明期のヤマハは不安定だったかもしれないがユニークである (発売されたのはProphet-5より1年前)。フェアライトにしても今のレベルからすればチープな音色なのかもしれないが、そうした印象は受けない。

1980年に《Never for Ever》をリリースしたとき、ケイト・ブッシュは22歳、《The Dreaming》(1982) が24歳の作品であり、それ以後《Hounds of Love》(1985)、《The Sensual World》(1989)、《The Red Shoes》(1993) までのCD box 1が20世紀の彼女の主要作品であり、これらのアルバムに彼女のほぼ全てが集約されているといってよい。The Sensual Worldのキーワードはジェイムズ・ジョイスであり、The Red Shoesはタイトルからすぐにわかるがアンデルセンである。
21世紀になってからの《Aerial》(2005) になるとさすがに声の輝きは失われてきているが、その音楽的な表情は変化していない。《Aerial》での鳥の声とか、そうしたネイチャー志向がその後も継続していて、今回のジャケット・デザインにも生かされているのではないかと思う。中尊寺ゆつこが今回のデザインを見たら何というだろうか、と想像を巡らせてみる。

でもネットでケイト・ブッシュ関連の記事を探していたら“Never For Ever” sessions / 4 Bonus Tracksというのに行き当たった。つまりどこまでいってもきりがない。さらに当該動画にあるwordpress.comの記事を見たら、The Dreamingの解説として 「Inspirée par Shining de Stephen King . . . 」 とあるが、en.wikiにはそのことも書いてあった。不明を恥じるばかりである。


Kate Bush Remasterd part 1 (Warner Music)
REMASTERED PART 1 [CD BOX]




Kate Bush Remasterd part 2 (Warner Music)
REMASTERED PART 2 [CD BOX]




Kate Bush Remasterd in Vinyl 1 (Warner Music)
REMASTERED IN VINYL 1 [180GRAM VINYL BOX] [Analog]




Kate Bush Remasterd in Vinyl 2 (Warner Music)
REMASTERED IN VINYL 2 [180GRAM VINYL BOX] [Analog]




Kate Bush Remasterd in Vinyl 3 (Warner Music)
REMASTERED IN VINYL 3 [180GRAM VINYL BOX] [Analog]




Kate Bush Remasterd in Vinyl 4 (Warner Music)
REMASTERED IN VINYL 4 [180GRAM VINYL BOX] [Analog]




(それぞれ単売もあるが、CD box 1は絶対のオススメである)

Kate Bush/Song of Solomon (Director's Cut)
https://www.youtube.com/watch?v=fhcCcL1k9ek

Kate Bush/And So Is Love
https://www.youtube.com/watch?v=qxrwE6Hc9UA

Kate Bush/“Never For Ever” sessions / 4 Bonus Tracks
https://www.youtube.com/watch?v=4-q2PJDtzEs

Kate Bush/Never for Ever (Full Album)
https://www.youtube.com/watch?v=C-p9K_Ieloo&t=297s
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Speakeasy

私もCDの『Remasterd Part I』と『Remasterd Part II』を購入しました・・・が、最初の2枚のアルバムしか聴いていません(汗)
リマスターにしては音圧が低かったような(聴いたのが少し前なので忘れかけていますが・・・)?
『Remasterd Part II』のレア音源集にエルトン・ジョンのカバー「Rocket Man」が入っていたのが、嬉しかったです!

by Speakeasy (2019-02-10 00:55) 

lequiche

>> Speakeasy 様

お買いになりましたか。さすがです。(^^)
音圧に関してはいろいろと言われていますね。
もっと上げろという意見もあり、これでいいとする意見も。
SNを稼ぐのには有利ですが、音圧を闇雲に上げてしまうのは
音が変わってしまいますし、どうするべきか悩む部分ですね。
クラシックなどではあまりやりませんけれど。
それと音圧レベルというのは感覚的なものなので、
人によって感じ方が違うというのもあると思います。
でも以前、山下達郎はヴェンチャーズのCDの音圧が低いといって
自分でベスト盤を監修して出し直させたということがありました。

レア音源も良いですが、実は私もそのへんはあまり聴いていません。
ボックスはとりあえずキープしておくという意味合いもありますので、
隅から隅まで聴かなくても構わないと思います。
私の場合、ビートルズのモノ・ボックスを後から買いましたが
いまだに開封していません。(爆)
ただ、今回のケイト・ブッシュはアナログまで買ってしまいましたので
しばらく耐乏生活が続きます。(^^;)
by lequiche (2019-02-10 02:31) 

Boss365

こんにちは。
ケイト・ブッシュ、当時?余り真剣に聴いていませんでしたが、
この年代の曲を聴いていた人の「購買力」が世界的に高いと痛感します。
現在、80年代のリマスター盤・AOR名盤に興味ありです!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2019-02-10 13:35) 

末尾ルコ(アルベール)

ケイト・ブッシュは全アルバム聴いておりますし、なにせ我が人生にとっても大きな大きな存在です。
ケイト・ブッシュは1978年に来日し、『東京音楽祭』出演しているのですが、その時の放送は観ておりますし、はっきり覚えております。
ただ、まだわたしはお子様で、強烈なインパクトは感じましたが、「ファンになった」のはもっと後でした。
もともと知っていたケイト・ブッシュにのめり込むきっかけははっきりしませんが、ハマースミスのライブもビデオソフトで購入し、繰り返し繰り返し鑑賞しました。
あのライブは絶品ですね。
実はバレエファンになったのも、もとを辿ればケイト・ブッシュの影響大でした。
ハマースミスのライブは二人のダンサーとともに、始めから終わりまで完璧に振り付けられ、物語性を伴いながら進んでいきますが、当時ここまでのステージングをやる人はいなかったのではと思います。
今の感覚ではシンプルなステージにも感じますが、隅々まで彼女の意志や美意識が生き届いており、現在の多くのパフォーマーのように、大人数のスタッフがビジネスを計算しながら創り上げる豪勢なステージとは違って、どこまでも手作り感覚がありました。
そこで繰り広げられるケイト・ブッシュの指先までデリケートな動きに魅了され、彼女にバレエレッスンの経験ありと知ったことが、後年熱烈なバレエファンになる大きなきっかけになっております。

どのアルバムも好きですが、1番となると迷いなく『The Dreaming』です。
発表当時はその凝りに凝った録音が、ロックファン・音楽ファンの間で話題になりました。
まあ、わたしは音質については明るくないのですが、『The Dreaming』購入時は毎日のように聴いておりましたし、あのジャケットを部屋のど真ん中に飾ってました。
それにしても、『The Dreaming』が24歳の時とは、あらためて驚きですね。
そして、『シャイニング』にインスパイアされていたのですか。
それを知っても、あまり関連性は感じないのですが。
スティーヴン・キングって、好きな人多いですが、わたし、あまり読んでないのです。

中尊寺ゆつこをお好きでしたか。
わたしも『お嬢だん』など、けっこう読んでました。
彼女はケイト・ブッシュのようになりたかったのですよね。
若くして亡くなってしまい、とても残念でした。

「ケイト・ブッシュのようになりたい」という気持ちはよく分かりますね。
男性のわたしも、なりたかったですもの(笑)。
ハマースミスライブでハンフリー・ボガートのようなコートを着て、帽子を目深に被って、いなせに踊ったり、とりわけラストの「嵐が丘」は圧巻でした。

・・・

「書くこと」に関してですが、わたしもいつもノートを携帯し、極力手書きすることを心掛けております。
時間がないときはいきなりタイピングもしますし、それによって「書きながら」予想外のことがどんどん派生するおもしろさもありますが、手書きこそ精神、心、知性、感性に最もフィットする方法だと思います。

L/Jalouse (original PV)、視聴させていただきました。
おもしろいですね。何度も視聴してみます。

フランスの場合、若い人たちの多くが英米系の音楽を聴く傾向があるようで、フランス人の友人に、「フランスに、若い人に人気あるミュージシャンはいないの?」と聞いたら、「特にいないねえ」と大雑把な答え(笑)が返ってきました。
まあ、日本の場合は洋楽にまるで興味のない10代~20代が多く、それもまた困ったことですが。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-02-10 13:39) 

lequiche

>> Boss365 様

あぁ、購買力! 確かにそうかもしれませんね。
今、映画が評判のクイーンも80年代を中心とした活動ですし、
やはり音楽が今よりいきいきしていたような気がします。
リマスターやアナログ盤が持てはやされるのも
懐旧の意味もありますすけれど、
そうした気持ちをうまく引き出すレコード会社の商魂もあって
簡単にはだまされないぞ、と思うのですが、
でも今度は何が出てくるのか、という期待もあります。
今の世界は残念ながらあまり音楽的に豊かではない
というふうにも読み取れます。
by lequiche (2019-02-12 02:23) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

東京音楽祭、それはすごいですね。
記憶されているというだけでもすごいです。
ハマースミスは1979年ですから、
アルバムはまだ2枚しか出ていない頃なんですが、
それであれですから。
私はライオン・ハートがとても好きで、
終盤でそれが歌われるとまさにイングランド!
という感じがしました。
だからエミリー・ブロンテなんですね。

手作りの感じというのは最初から常にあって、
音楽的にもケイト・ファミリーみたいなものの固い結束で
作り上げていくというような印象があります。
自然や動植物への愛情というのも感じますし、
それはフィッシュ・ピープル的な思想もそうですけれど、
プリミティヴなものへの志向が感じられます。
最先端なんだけれどメカニックなものをナマで見せない
という方法論もありますね。

リンクした〈Song of Solomon〉も
バレエの映像 (アレッサンドラ・フェリ) を採用していますが、
わざわざディレクターズ・カットとして作り直したのでは、
と思います。

《The Dreaming》はやはりすごいです。
私の読んだ評論家の聴き方はすごく偏っていたというか
センスが無かったんじゃないかと思います。
でも初めて聴いたのがリアルタイムではありませんので
その時点で、もう少しまともな情報が知りたかったですね。
シャイニングはスティーヴン・キングというより
キューブリックというイメージなのではないでしょうか。

中尊寺ゆつこもほとんど読んだことはないのですが、
ケイト・ブッシュ・ファンクラブの会長をされていたので
ちょっと連想してみました。
といっても、昔も今も、ケイト・ブッシュって
この国ではそんなには知られていません。
最近はマイケル・ジャクソンだって知らない人がいたり、です。

JalouseのPVはトーンが暗めで洒落た雰囲気があります。
森の中の鼓手たちというのは何かの引用なのですが、
いまだにそれが思い出せないのが歯がゆいです。
森の木陰でどんじゃらほい、ではないです。(笑)

日本の場合、洋楽に興味がないのではなくて、
音楽全般に魅力を感じていない、それは他の芸術でもそうで、
そんな無駄なこと、というような考えが蔓延しているように思います。
では重要なのは何かというと金儲けとか……。
そういう国なんです。ああいう総理大臣ですし。(-_-;)

文章を書く方法については今、考えていることがあって、
手書きだけでは間に合わないので、それではどうするか、
というところで模索しています。
by lequiche (2019-02-12 02:24) 

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