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駅から駅へ ―《関ジャム》竹内まりや特集を観る [音楽]

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05月12日の夜《関ジャム 完全燃SHOW》〈竹内まりやのスゴさ〉大特集を楽しく観た。
さすがに本人が登場することはなく、本人からの取材ということだったが、それを元にした竹内まりやフリークなシンガーソングライター・さかいゆう、作詞家・zopp、評論家・能地祐子の3人を中心としたトークがなかなか面白い。

まずオキマリの好きな曲ランキング。20~50代の選んだベスト20ということなのだが、

1位 駅(1987)
2位 元気を出して(1987)
3位 不思議なピーチパイ(1980)
4位 SEPTEMBER(1979)

ああ、やっぱり〈駅〉が1位なのかと納得する。
〈駅〉は中森明菜に提供した曲、〈元気を出して〉は薬師丸ひろ子に提供した曲だが、セルフカヴァーしてむしろそのほうがヒットした自作曲である。しかし3位と4位は竹内の作曲ではない。初期のヒット曲である〈不思議なピーチパイ〉は安井かずみ/加藤和彦、〈SEPTEMBER〉は松本隆/林哲司の作品であり、3rdアルバム《LOVE SONGS》(1980) に収録されているが、年齢の高い層に最も刷り込まれている曲のようである。初期の頃は自分の曲でない、意に染まない曲を歌わせられていたことが不満だったみたいなことをどこかで読んだような記憶があるが、さすがにこのへんの大ヒット曲はそんなことはないのだとは思うけれど、ではどのへんの曲が苦痛だったのかがちょっと知りたい。でも当然ながらそういう話にはならなかった。

〈純愛ラプソディ〉を素材にした歌唱法へのアプローチ。微妙なこぶしと鼻濁音に関しての話、そしてヴォーカルがダブルで入っていることの指摘など、この部分の分析も面白い。大瀧詠一が 「まりやさんの鼻濁音が日本で一番スゴい」 と言っていたとのことだが、そう言われるととても納得できる。でも、たとえば松任谷由実には東京生まれにもかかわらず鼻濁音が無い。それはそれぞれの好みや志向もあるのだろうし、今は 「一匹、二匹、……」 という 「ひき」 の使い分けを正確にいえない人だって随分いるから、しかたがないのかなぁと嘆息する。
〈純愛ラプソディ〉に関する竹内まりやの回答というのは次のようである。

 純愛ラプソディですが、実はこぶしが入るということは意識した事があ
 りません。デビューの時から本能的に音が移り変わるところにちょこっ
 と装飾音を入れるという歌い癖があり、それは誰かに指導されたもので
 はないんです。ただ、この曲をあえてダブル歌唱で入れたのはちょっと
 歌に自信がなかったからなんです。アレンジも割と穏やかなので、シン
 グルでやるには強さが足りないなと自分で判断して、ダブルにしました。
 ダブルって微妙にずれてるからこそ重なって聴こえる。だから言葉尻や
 ビブラートの位置などを合わせていくのにすごく集中して歌いましたね。

確かにそういうのを注意して聴くと、微妙に音が変化している個所があって、本人は歌いグセと言っているし、それ自身が歌手としての味になっているのだろうけれど、全部ダブルで入れちゃったというのはやっぱりすごい。

こうした竹内まりやの回答の中で最も印象的だったのは、もちろん山下達郎との音楽的関係性、もっといえば力関係である。2人ともそれぞれ曲を作るし、かつ歌手でもあるという同業者なのだから、ぶつからないほうがおかしいと考えてしまうのが普通である。これについての回答は素晴らしく明快だった。

 デモの段階で、自分の中では具体的に見えている音像がある。
 それを達郎に伝えて「ここの間奏は絶対トロンボーンを入れたい」 とか
 「ハーモニカがいい」 とか伝えうる限りのことは伝えて、でも達郎が 「そ
 うじゃなくてこの曲はもっとこういう風にした方がいい」 という別のア
 イディアを出してくることがあるのでそっちが良かったらそっちにする。
 自分で見えているものは全て伝える。
 コードなども、もちろん自分で決めるが、達郎が 「このコードの方がい
 いんじゃない?」 と出してきても、自分の生理感にないものは元々のコ
 ードに戻してもらう。というのは、それをどんどん許容していくとだん
 だん山下達郎の音世界になってしまうので。達郎の音楽性と私の音楽性
 は明らかに違うので。達郎自身の音楽と違う部分がある接点を持つこと
 の面白さが私のプロジェクト。
 サブカル出身の達郎が大事にしないといけない部分と、芸能活動から入
 ってる私の世界とは、おのずと線引きがあるしファン層も違うので、で
 もそれが重なり合う時の科学反応的な面白さとか、一緒にやる必然性を
 音楽で感じてもらわないといけないので。

「デモの段階で、自分の中では具体的に見えている音像がある」 というのが当然だがすごい。つまり自分で編曲はしないけれどそのコンセプトは固まっているのだ。コードに関しても 「自分の生理感にないもの」 は却下というのが毅然としている。他の回答のときも、彼女は 「自分は最先端である必要はない」 と言い切っていた。自分の音楽がどうなのか、ということを知っていて、解説者が指摘していたように、あまり高い音まで無理に持っていかないという作曲理念もその一環である。
山下達郎と自分の音楽は違うという主張は当然だが、その説明の中で 「サブカル出身の達郎」 と 「芸能活動から入ってる私」 という比較の語法が、もうそのものズバリで、自分の最初の一歩は 「芸能活動」 なのだと理解しているのもすごい。それが 「意に染まなかった曲」 云々につながっているのだと思う。

人気第1位だった〈駅〉に関してはwikiにも書いてあること (山下達郎が中森明菜ヴァージョンについて否定的だったこと) だからわざわざ繰り返さないが、シンガーソングライターが他人に曲を書いた場合の機微というか、むずかしいことがあるものだと感じる。その〈駅〉の中森明菜ヴァージョンも聴いてみた。オリジナルではなく、後年のライヴ映像だが、歌の乗りにくそうな弦楽の編曲は鬱陶しさの一歩手前みたいな印象があって、いや、むしろ一歩過ぎているかもしれなくて、それに乗せて歌える中森明菜の歌唱テクニックを聴く。歌手によってその歌詞を違うふうに解釈したのだとしても、解釈が違うのは当然であり、それもまた歌詞に対する別の角度からの視点なのである。

中森明菜の〈駅〉は10枚目のスタジオ・アルバム《CRIMSON》(1986) に収録された。クリムゾンなのに黒いモノクロのジャケットで、でもそれは異なった意味のクリムゾンなのかもしれない。ちなみに相川七瀬にも《crimson》(1998) というタイトルのアルバムが存在する。もっとも相川の場合は、《Red》(1996) とか《FOXTROT》(2000) とか、もうねぇ。

実は私はそんなに竹内まりやを聴いてきたわけでもないし、山下達郎もそこそこ聴いてはいるが、全てを聴き込んでいるような聴き方ではなく、ごく普通のリスナーに過ぎない。でも今回の番組は、久しぶりにややマニアックで楽しめた。
以前住んでいた街に公営のプールがあって、でもそこは9月のはじめで営業を終えてしまう。賑わっていたプールは9月になった途端、客数が急激に減り、秋の気配がただよう。そのプールでその時期に、いつも竹内まりやの〈SEPTEMBER〉が、プアなスピーカーから繰り返し繰り返し流れていたことを唐突に思い出す。こういう曲こそが良質な歌謡曲なのだと私は思う。でもこうしたシンプルで美しかったはずのメロディは、今の時代には、もはや喪われてしまっている。それはきっと永遠に、かもしれないのだ。


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竹内まりや/駅
https://www.youtube.com/watch?v=gjyXtpdX_Bw

中森明菜/駅
https://www.youtube.com/watch?v=ZMmHBtc60-E

番組自体をご覧になる場合は
画像は小さく音も悪いですがコレ (お早めに)
https://www.youtube.com/watch?v=mYIKg69HRUI
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末尾ルコ(アルベール)

竹内まりやも山下達郎も積極的に聴いたことは一度もないのですが、日曜午後2時にFMで山下達郎が番組を持ってまして、やはり選曲のクオリティが違いますから、カフェで仕事をしながらよく聴いております。
このところはNHK FMの番組レベルが下がっていて、クラシック番組はいいのですが、その他がかなり酷いものが多く、民放FMを聴くことが多いです。
わたしのブログへも書きましたが、山下達郎の「マイナンバーカードなんて作らないよ」とか、遠藤ミチロウがカバーしたことを嬉しく思っている話とか、聴いていてよかったなあと感じたトークが最近ありました。
山下達郎って昔から有名ですから、遠藤ミチロウより年上だと思ってたんです。
ミチロウが年上だったことも、その話の時知りました。

「駅」はもちろん知っておりますが、中森明菜に提供していたのですね。
明菜版は今回初めて聴きました。
おどろおどろしい感じがいかにも中森明菜ですね。

鼻濁音はほとんど意識したことがなく、とてもおもしろく拝読させていただきました。
どちらかと言えば、鼻母音ばかり意識する生活(笑)を送って参りましたので、とても新鮮です。
今後は鼻濁音、意識して聴いていきます。

「こぶし」というのもとてもおもしろい歌唱技法ですよね。
多くの日本人ヴォーカリスト、特にポップスやロックのカテゴリーの人たちの歌唱から、しょっちゅう「こぶし」っぽい部分が聞こえてきます。
かつて宇崎竜童が、「レイ・チャールズ(だったと思いますが)風に書いたつもりなのに、〈さすが、日本の心ですね〉とか言われる」という意味の発言をしていましたが、わたしも10代くらいの頃は竜童がバラードなんか歌うと、(演歌っぽいな)と感じていました。

竹内まりやの「芸能界」という言葉解釈もおもしろいですね。
これも明らかに日本特有の感覚で、「芸能」という言葉自体にはあらゆるジャンルが含まれているはずだと思うのですが、日本で一般的に使われると、「主にテレビを中心とした、ワイドショーや週刊誌などでよく取り上げられる人たちの世界」というような意味になってしまいますね。
これってどうなんだろうと常に思っているのですが、竹内まりやのようにしっかり割り切っている感覚もおもしろいですね。

・・・

>昔の映画は独特の存在感を持っているように思えます。

ですよね。
それだけに、ディートリッヒの映画とかを益体もないPVでは使ってほしくない。
シンディ・ローパーの「Time After Time」ならもちろん歓迎です。

>とりあえずキアロスタミBOX1&2を買いました。

もうお買いに!
ここはもう、最敬礼させていただきます。

>1975年の日本公演でのこの大阪ライヴの昼・夜

そうなのですね!
実はわたし、マイルスのアルバムを概ね聴いた時点では、エレクトリック・マイルスの時代がけっこう好きでした(笑)。
それはわたしがずっとジャズが理解できずにほとんど聴いてこなかったことが大きく影響していて、最初からどこかロックなテイストがあるものを好んでいたというか、聴きやすかったのだと思います。
今ではもちろん違った感想を持っておりますが、ジャズを聴き始めた頃はちょっとロックに辟易していた時期でもありまして、(じゃあ、ジャズでも)と分からないまま聴いておりました。

>人数が多いほど低劣な番組であると私は認識しています。(笑)

同感です。
まあフランスもくだらない番組いろいろ多いようですが、どう考えても
国、そして国民の芯に、「文化芸術に対する大いなる尊敬」が感じられます。
ここはもう、日本は永遠に追いつけないどころか、差が開くばかりだと思います。

吉本隆明の講演をお聴きになっているのですね!
彼の信奉者でないわたしでも(笑)、(それは凄い!)と感じてしまいます。

>一種の魔術師的な

それはまた著作を読み返してみようかな~(笑)。
晩年のエッセイや対談などは割と最近読んでいるんです。
確かに「独特さ」は生涯変わらなかったようですね。
それと現代思想家の中では比較的分かりやすい書き方が多いのはとてもいいと思います。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-05-15 18:50) 

猫毬

シングルアゲインが好きで、「くらーい」って
言われます><なんでやー(つД`)ウェーンw
by 猫毬 (2019-05-16 01:44) 

johncomeback

拙ブログへのコメントありがとうございます。
30年位前までは弘前の桜(ソメイヨシノ)は
GWに開花しましたが、温暖化のせいか年々開花が
早くなって近年はGWには満開を過ぎてしまいます。

竹内まりやですか、僕はSEPTEMBERが好きです。

by johncomeback (2019-05-16 06:07) 

sakamono

年齢的なモノでしょうか。私はカラオケで「不思議なピーチパイ」を
よく歌います^^;。あ、「純愛ラプソディ」と「家に帰ろう」も
好きだなぁ。最後に書かれた、公営プールのエピソードが、
とてもよいと思いました。
by sakamono (2019-05-16 23:03) 

しのぴん

この番組良かったですね!
すっかり感化されて、今までスマホに入れてなかった竹内まりやの音源、CD引っ張り出して変換してスマホに入れ、毎日聞いています(^_^)。
by しのぴん (2019-05-16 23:43) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

日曜午後のカフェで聴くFM。オシャレですね~。(^^)
NHKの番組が芳しくないんですか。
最近、FMは全然聴いていないので知りませんでした。

マイナンバーカードは身分証明証が欲しいけれど
自動車免許が無い等々の場合に便利なのだと思います。
それ以外には……何か使い道があるんでしょうか?(-_-;)
遠藤ミチロウという名前は知っていますが、
スターリンなど、聴いたことはないのです。
日本のロックの創生期のかたですね。

〈駅〉の歌詞に対する解釈の違いはあると思います。
キーワードは歌詞の最後のほうの
「消えてゆく 後ろ姿」 を見送った後で

 雨もやみかけた この街に
 ありふれた夜がやって来る

んです。私だけの夜とか、特別な夜ではなくて
ありふれた夜。この突き放した残酷性、
と言っては言い過ぎですが、でも私はそう感じます。
竹内まりやは 「まぁ、そんなもんよ」 と解決しようとし、
でも中森明菜は、ドーンと暗く淀んでとじこもってゆく。
同じ歌詞を歌いながらこのように表現に違いが出る――
それが歌が魔物だということだと思います。

鼻濁音は極端にいえば東京方言ですから、
関東地方でないとわかりにくいと思います。
私は松任谷由実に鼻濁音が無いのが
最初から気になっていました。
でもこれは経験的で無意識に刷り込まれるものですから、
後から学習しようとしても無理のような気がします。
鼻母音。あ、確かにそうですね。(^^)
あと、「r」 の発音も人によって (というか地方によって?)
いろいろあるように感じます。

こぶしは番組の中では 「微こぶし」 と言っていましたが、
それは竹内本人が歌いグセだと答えていましたし、
私はごく短いグリッサンドではないかと思います。

別の番組で竹内まりやはデビューの頃のことを話していて、
その頃、たまたまアイドルがあまりいなくて、
アイドルの代わりみたいなことをさせられていた、
ということなのです。
芸能人運動会で走り高跳びしたとか。
その頃はTVの企画ものでそんなのが多かったようです。
そのへんが、芸能活動がスタート地点である
という自意識になっているのではないでしょうか。
たぶん不本意なんだと思いますが割り切っています。

シンディ・ローパーのこの曲もすでに
歴史の中に位置付けられている曲ですから、
そのうちそれを引用したPVが出てくるのではないでしょうか。

映画はメディアを買ってしまうと安心して
かえって観なかったりするのでそれも困ったものです。
キアロスタミはいいとしても、
ゴダールはどうすべきか、とか、
でもゴダールは人気があるからいつでも手に入るはずで、
それよりファスビンダーを買っておくべきだとか、
種々の葛藤があります。手に入れにくくなりそうなものは
とりあえず押さえておくというのが基本だと思います。

エレクトリック・マイルスは私の感覚ではジャズです。
ジャズ以外の何物でもなくて、
どうしてもロックにしたいのなら 「ロック風」 程度でしょうか。
でもマイルスはロックを目指していたし、
ジミヘンとかマディ・ウォーターズとか言っていたらしいです。
でも聴いていてとても面白いです。

文化芸術に対するスタンスは、
やはりその国の成熟の度合いだと思うんです。
逆にいえばヨーロッパは熟れ過ぎているのかもしれないです。
腐る寸前のほうがおいしいという言い方もされますが。

吉本の『言語にとって美とはなにか』は読んだはずですが
全然覚えていません。
きっとわかっていなかったんだと思います。
本は読むべき時期というのがあるように思えて、
私の中では今、吉本というのはあまりターゲットとして
見えてきません。
そのうちに照準が定まったら読んでみたいとは思っています。
by lequiche (2019-05-17 01:50) 

lequiche

>> 猫毬様

うーん、暗いんでしょうか?
やっぱり暗いのかもしれないですね。(^-^)
サビが印象的な曲で耳に残ると思います。
by lequiche (2019-05-17 01:50) 

lequiche

>> johncomeback 様

桜はその花びらの色が明るさ100%だったり、
幽玄だったり、いろいろな表情があると思います。
〈SEPTEMBER〉は初期の名曲ですが、
私は林哲司の曲ってとても好きなのです。
曲の仕上がりが職人的でうまいなぁ、と感じます。
by lequiche (2019-05-17 01:51) 

lequiche

>> sakamono 様

〈不思議なピーチパイ〉は加藤和彦ですが、
ビートのあるポップスっぽいテイストが
さすが加藤和彦、といつも思うんです。
あ、こんなところにも加藤和彦が、
とびっくりするほどいろんな人に書いていますね。

夏の終わりの気怠いプールって憂いがあって好きです。
というより、あ、夏休みの宿題がまだ!
というほうがトラウマ (笑) としては強く残っていますが。
そのプールは無くなってしまいました。
諸行無常です。
by lequiche (2019-05-17 01:52) 

lequiche

>> しのぴん様

ご覧になりましたか。(^^)v
わかりやすくて、それでいてマニアックな内容で、
すっかり感化されたというお気持ちもわかります。
もうすぐ出るベストアルバムのプロモーションか?
という勘ぐりはよくないですが。(コラコラ ^^;)
by lequiche (2019-05-17 01:52) 

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