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椎名林檎《三毒史》 [音楽]

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椎名林檎の《三毒史》を聴く。三毒史というタイトルはもちろん三国志のパロディだろうが、そのカバー写真は甲冑を着たペガサスがRDを持っているというメチャクチャさ。中に収められた歌詞のパンフレットは、まるで年代を経たようなシミやヤケが印刷されている。トラックはずっとつながっていて、曲間が無い。

椎名林檎はデビューの頃にはかかさず聴いていたのだが、そのうち人気が出過ぎてしまって、するとワタクシ的には 「まぁいいか」 状態になってしまい、一応買ったり買わなかったり、マジメに聴いたのは久しぶりかもしれない。それはPerfumeも同じことで、あまり人気があるミュージシャンに関しては買わないというのが私の不文律でもあるのだ。だからDMの音楽に関しては、桑田佳祐もドリカムも買わない。だって誰でも知ってるし、いつでも買えるじゃん!

今回の椎名のアルバムのPV〈鶏と蛇と豚〉を見たとき、ん~、まず音がPerfumeだし、つまり声の変調が、そして絵柄は寺山修司だしみたいな、腐敗した風景はグロテスクでありフリークスみたいな絵柄はどうなのかな、でもPV作る人にとってはそういうのが魅力あるんだろうな、とは思うのだけれど。お坊さんのお経みたいなのに対して私は、ズバリ好きじゃない。
最近はカラオケボックスにVT-4を持って行ってPerfume歌うって話も聞くけどホントなのかな。単にローランドの回し者の戯れ言のような気もする (念のためですがホストクラブの人じゃないです)。つまりピッチ変えてフォルマントいじれば面白いのかもしれないけれど、皆、同じ音になってしまうんですよね~、と私は思うのです。そうしたオモチャの音とは根本が違うのかもしれないけど、でも出てくる印象はそんなに変わらない。
般若波羅蜜多と潰れた英語詞の声という傾向から思うのは、つまり声はサウンドであって歌詞を聞かせようとは考えていないのかもしれない。

幸いなことに、結果としてVTみたいな音響は〈鶏と蛇と豚〉と〈長く短い祭〉のみ顕著な特徴で、あとはいつもっぽい林檎節だったわけです。それより今回のは、デュエットというのがコンセプトだったとも言えます。
宮本浩次、櫻井敦司、向井秀徳、トータス松本といった豪華メンバーで、しかもフルバンドの蠱惑みたいなサウンドには痺れる。最後に持ってきたのは齋藤ネコ・コンダクトの〈目抜き通り〉と、そしてヴァーニャ・モネヴァというブルガリアン・コーラス、それにからむアコーディオンが美しい〈あの世の門〉。アコーディオンの背後にひそむルーム感が、なにげなくだけど深い。
サンレコの椎名とエンジニア・井上雨迩のインタヴューによれば、マスタリングしないことというのが今回の録音に用いられたポリシーでありテクニックらしいのだが、その意味がよくわからない。Pro Tools内でのミックスというのが従来のマスタリングとどのように違うのか。でも知ったからってどうなるものでもないのだけれど。私にとってのドキッとする音というのはたとえば〈TOKYO〉の冒頭のピアノだったりする。

今観ることができる映像のなかで、あえてPerfumeな〈長く短い祭〉を選んでみる。これは2018年のアリーナツアー・林檎博’18のものだと思えるが、弦の厚みなどCDの演奏より豪華である。
腕のアクションを多用するダンスは、先日記事にしたミレーヌ・ファルメールのライヴを連想させるが、つまり世界的にこうしたスタイルが流行なのだろうか。同じ曲の2015年の百鬼夜行ライヴもあるが、パフォーマンスの方向性がまるで違う。3年経つとこうなるのかとも思うし、だからそれを進化とするのか、しかし逆にそうしたトレンド感は必ず古びるのだからとも思うし、その刹那感が良いのだとも思う。常に新しい面を拓き、それまでの結果を捨象することで椎名林檎は生き続ける。つまり〈鶏と蛇と豚〉のフリークスは一種のメタファーなのだ。それは単に私の素朴な印象に過ぎないのだが。

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*動画リンクは貼れないので適宜検索してください。

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たじまーる

Perfumeは今みたく売れる前の方が
好きな方もいますね♪
私は一時期Perfumeのファンクラブ入ってましたが
ライブへ行く時間がここ数年取れないことが原因でファンクラブはやめました。
Perfumeの進化を見届けて来ましたひとりとしましては
才能もありますが運とタイミングが大きいとも思えますね(^_^;)
Perfumeは歌声加工しなくともアカペラで歌っても三人とも歌上手なのですね(^○^)
by たじまーる (2019-05-29 09:03) 

末尾ルコ(アルベール)

わたしにとって椎名林檎は、(カッコいいな、本物のロックだな、本物のカリスマがあるな、言葉遣いも凄いな)というイメージの人でして、しかしチェックしてみるとしっかり聴いているアルバムは『無罪モラトリアム』と『勝訴ストリップ』の2枚だけという有様でした。
近年のNHKサッカー中継のテーマ曲「NIPPON」はあまり好きではなかったです。
これは曲に問題があるのではなく、使い方に問題があるのだと思いますが、テレビっていうのは一度何かをテーマ曲と決めると、もうしょっちゅうその曲のサビの部分を繰り返し繰り返し流すのですね。
まあ、どのような曲でも嫌になるかなと、いわばクリスマスソングに罪はないのに、11月が始まると毎日延々と流し続けられてげんなりするのと似たような状況になります。
「NIPPON」の場合は椎名林檎が使われ方を承知の上でテーマ曲として提供したのでしょうが、テレビ局の音楽(だけではないですが)に対するリスペクトの無さをいつも感じている次第です。

わたしの場合、「誰でも知っている」対象のファンであることも少なからずありますが(ロバート・デ・ニーロとか、世界中誰でも知ってますよね、普通)、「誰でも知っている対象さえ知っていたら安心」という人たちのメンタリティはとても嫌です。
日本人って、まあ昔から言われているので今更ですが、このメンタリティ強すぎますよね。

「鶏と蛇と豚」はたまたま数日前に聴きました。
椎名林檎の全貌を知っているわけではないのでなかなか感想は述べ難いですが、敢えて感想を欠かしていただくとすれば、(なかなかいいなない)というところでしょうか(笑)。
しかしなにせ同曲も一度聴いただけですので、聴き込めばもう少し深く分かってくると思います。

椎名林檎に関してもう一つ素朴なことを書かせていただければ、「このような人がシーンの中に存在するのは実に頼もしい」ということです。
日本に椎名林檎がいるといないとでは、まったく違うと思います。

・・・

> 「自分と相手とどちらをも納得させるための手軽な言い分」

そうでしょうね。
その女性のいつもの言動が、そんな月並みな言葉を嫌うタイプのように振舞っていたので、件のセリフが出た時には内心、(ケッ!)と感じたものです(笑)。
まあそのセリフを言ってくれたおかげで、わたしの方も自分で創り上げていた虚像だと理解できたので結果的にはよかったと言えますが。

> ライヴでこのクォリティというのはなかなか無いです。

お記事を拝読させていただいた後、柴田淳、ちょいちょい聴いておりますが、おっしゃる通りですね。
深く潜り込んでいけるような歌唱であり、ステージだと思います。
この「深さ」というもの、結局のところ、「どこを見ているか、何を見ているか」で決まってしまいますよね。

「インテリパンク」って、10代の頃は憧れの境地でした。
ストラングラーズのジャン・ジャック・バーネルが三島由紀夫の愛読者であるとか、そういうのに弱かったです(笑)。
ま、ちょっと、「最近のジャン・ジャック・バーネル」の姿を見た時にはげっしょりでしたけれど。

> このアメリー・ノートンのことではありませんか?

ぎょえええええええ!!!(笑)
そうなのです!わたしもトンデモナイ勘違いをしてしまっていたのですね。
アメリー・ノートン、大好きなのですが、(『アリエッティ』とアメリー・ノートン、どう繋がるのだろう???)と不思議空間に彷徨っていたのですが、メアリー・ノートンだったのですね。
わたしも以後、もっと注意深く生きていきたいと思います。

わたしの文章は基本、すべてが本音ですが、塩加減など味付けにはかなり気を配っております。
以前は批判の対象をもっとボロカスに書いていましたが、そうした判断が間違っていたことも少なからずあると気づきまして、さらに言えば、絶賛していた対象が数年後には、(ちょっと違うんじゃない)ということも少なからずありますし、より慎重に書くべきだと思うようになっております。
「慎重になった上での、滅茶滅茶(笑)」にも挑戦したいと考えておりますけれど。    RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-05-29 18:09) 

lequiche

>> たじまーる様

Perfumeがお好きなんですね。
確かに才能だけではなく運も必要ですし、
どういう時期なのかによってヒットするかどうかは
違うと思います。
by lequiche (2019-05-30 01:43) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

音楽に限らず処女作はその人の今後も含めて
特質が出てくるような気がします。
そういうふうに見た場合、
無罪モラトリアムと勝訴ストリップは最も彼女らしい
骨格を備えているテーマだといっていいです。

サッカーのテーマ曲はイヴェント用のCMソングですから
最大公約数を目指しますし、仕方がないでしょう。
でもその頃、サビが繰り返し流されていたとのことですが、
私はそのNIPPONという曲をまともに聴いたことがありません。
あまりTVは見ていなかったのだと思いますが。
そういうふうに見た場合、
私の中で、たとえば宇多田ヒカルと椎名林檎では
聴く姿勢が違うように思います。
ヴァージニア・ウルフとSFくらい違いますが
どちらもそれぞれに好きです。

私の場合、ロバート・デ・ニーロは
あまりよく知らない人の範疇ですので、
逆にいえば一般的常識は持ち合わせていないかもしれません。
今、某有名編集者の舌禍事件 (笑) が取り沙汰されていますが、
彼の論理は、本は売れなければ本ではない、
つまり売れてナンボの世界ということですから、
それなら売れ線のノウハウ本でも作っていればいいのです。
それは本でも音楽でも同じです。
売れればいいだけのものを重用するような世界は
私とは無縁です。

あなたのことを忘れる/忘れないみたいな言い方は
卑俗に考えれば 「男と女のラブゲーム」 という歌があって、
タイトルだけでも赤面しますけれど
今でもカラオケでよく歌われているようですが、
それと同じなんですよね。
あなたのことを忘れる/忘れないみたいに表現すると
妙にシリアスに感じてしまいますし、
言葉が純文学的でそうとわかりにくいんですけど、
実はそうです。
「男と女のラブゲーム」 のヴァリエーションなのです。

柴田淳についてはまだうまく書けないのですが、
現在の私の気分は椎名林檎より柴田淳なのです。
でもそれはまた変化していくのかもしれいません。

名前の勘違いはよくあることです。
同姓同名も多いですし、ちょっと違うだけだったり、
全然違う人なのに間違って信じ込んでいたり、
いろいろですね。

椎名林檎はガードがかかっているようで
オフィシャルのリンクは貼り込めないようです。
2015年のライヴを見つけましたが、
これだと果たして貼り込めるでしょうか。やってみます。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm33516040
by lequiche (2019-05-30 01:44) 

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