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モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのプリンス [音楽]

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CDやレコードといった再生音楽の場合、対象として評価する音はなるべく正規音源について語るべきであって、ブートに深入りしていくときりがないと思う。というより単純に、入手しにくいものや著作権に触れるものに執着するのはマニアックに堕ちた方向性でしかないことは確かだ (マニアックさが最も魅惑に満ちたものであることには触れないでおく)。

だがプリンスの場合、あまりにも音源そのものが多過ぎることと、あまりにも肝心なオフィシャルのメディアが出ていないことに愕然とする。こうした場合、都合の良い言い訳になってしまうのかもしれないが、非正規音源を採ることは、それを何とかしてオフィシャルなメディアとして発売して欲しいという願望に他ならないのだということにしてしまいたくなる。
前の記事にも書いたが、プリンスの作品で《Musicology》というアルバムは私の中でのいわば分節点であり、このアルバムによってそれまでの彼の航路が初めて客観的に眺められたような気がしている。それまでの時期、それぞれの過去のアルバムが見えにくかったのは、個々のアルバムに籠められた自己主張があまりにも強過ぎてハレーションを起こしていたからかもしれない。YouTubeにはLive at Webster Hallという動画があるが、表記に拠れば2004年4月20日は《Musicology》の発売日であり、つまり発売日ライヴなのだ。
この時期のプリンスはスタイリッシュであり、リンクした〈Dear Mr. Man〉も、バックの管はモダン・ジャズ的テイストのアレンジがなされている。そしてギターの弾き語りによる〈Sometimes It Snows In April〉はシンプルでありながら鋭角的であり、そして何と余裕のあるステージングなのだろうと感じてしまう。

だが、それとは全く異なるライヴが存在する。それはスイスのモントルー・ジャズ・フェスティヴァルにおけるライヴである。ジャズ・フェスティヴァルといいながらモントルーはジャズに限らずかなり広いジャンルの演奏者を受け入れている伝統的なフェスティヴァルである。モントルーにおける最も印象的で有名なライヴはもちろんビル・エヴァンスの《Bill Evans at the Montreux Jazz Festival》(1968) である。
プリンスはモントルーに2007年、2009年、2013年の3回出演しているがその最後にあたる2013年のパフォーマンスについて見てみたい。コンサートは3夜連続で行われたがいずれの日もその音楽の密度は高い。

オーディトリアム・ストラヴィンスキーにおけるその第2夜の冒頭、休むことなく約20分続く演奏はこのモントルーのパフォーマンスの中でも白眉である。プリンスのヘアスタイルはいかにもR&B風で、音全体もタイトにまとまっていて、いわばコテコテなR&Bテイストのステージングを狙っているのだが、それでいて本来のR&Bとは全く違う。つまり決してジェームス・ブラウンにはならないのだが、プリンスの目指すスタイルはそのファンクの源流への真摯なオードに他ならない。
リズムセクションも管もシンセも、フリをつけているだけでなく、その音はトゥッティでピタッと合い、全く綻びを感じさせない。たぶん何度も練習しなければこれだけ合わないはずなのに、その大変さを感じさせない楽しげな演奏。プリンスに言われてイヤイヤやっているのではなく、誰もが自発的によりよい完成形を目指そうとしているのがわかるのだ。特にリズムセクションのタイトさがすごい。どうしてこれだけ持続できるのだろう、と思ってしまうくらいすごい。

この映像にしてもオフィシャルとしか思えないクォリティなのだから、Rでなく是非プレス盤で正式にリリースしてもらいたいと願うのである。
尚、モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのオフィシャル・ページには各年度毎の紹介アーカイヴがあるが、プリンスのステージングは全く収録されていない。

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Prince/Montreux Jazz Festival
Show 2: 2013.07.14. Auditorium Stravinski
https://www.youtube.com/watch?v=DGFVDwjUwwY

Prince/Dear Mr. Man
Live at Webster Hall, 2004.04.20.
https://www.youtube.com/watch?v=C3yzaTNel_A

Prince/Sometimes It Snows In April
Live at Webster Hall, 2004.04.20.
https://www.youtube.com/watch?v=iBThX4o2_KI

     *

参考・Montreux Jazz Festival 2013
https://www.youtube.com/watch?v=ehFmUAUNajI
https://www.youtube.com/watch?v=UB1XcwZg8u4

Prince/Musicology (SMJ)
ミュージコロジー

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コメント 4

英ちゃん

ぁぁ、この前西武多摩湖線に乗ったけど青い電車は走ってなかったよw
その後、拝島線に乗って玉川上水の電車区に青い電車がありました。

by 英ちゃん (2019-09-09 00:40) 

末尾ルコ(アルベール)

「マニアック」というスタンスがここ10年ほどのわたしに欠けている部分でして、生活全体をマニアックにしたいとは思いませんが(笑)、人生において偏愛している対象については今後できるだけマニアックに見つめていきたいと思ってます。
このところマニアックできなかった大きな理由はシンプルで、要するに時間と経済状態(笑)の問題であり続けておりました。
この2つの問題に対しても大ナタを振るいつつ取り組んでいく所存でございます。

> あまりにも肝心なオフィシャルのメディアが出ていない

そうなのですか。
不思議ではありますね。
プリンス自身が意図していた状況なのか、あるいはある部分無頓着だったのか。
わたしは時系列的にプリンスの活動を知らないのでよく分かりませんが、そうした素っ気なさはカッコよく感じなくもありません。
一概には言えませんが、いつも自らのアーカイブスを眺めてほくそ笑んでいる(笑)ような人たちはどうも・・・という場合もあります。

> 《Musicology》というアルバムは私の中でのいわば分節点

間違いなく聴いているのですが、どんなアルバムだったかすぐに記憶に昇らないのです(笑)。
わたしの聴き込み不足が露呈してしまっておりますが、リンクしてくださっている動画は、すべてではありませんが視聴させていただきました。
やはりモントルー・ジャズ・フェスティヴァルは興味深く、愉しいですね。
今後じっくり視聴させていただきます。

モントルーについてはこれまた大雑把に知っているだけでしたが、「ストラヴィンスキー」を冠したオーディトリアムがあるんですね。
素敵ですね。
モントルーという街自体に興味が湧いてきました。
スイスやベルギーなど比較的小さな国の歴史や文化は見逃されがちですが、だからこそ好奇心が湧きます。

そう言えば今朝のラジオでプリンスがスタイリスティックスをカヴァーしている曲がかかってました。
いろいろ奥が深いですね。



・・・

映画の『レイチェル』もレイチェル・ワイズ以外はさほど著名な俳優は出てませんがまずまずおもしろかったです。
もちろんヒッチコックとはいきませんが、あの時代の設定で作る映画はコクがありますね。
『鳥』は、カラー映画である利点をとてもよく生かしていると感じました。
ヒッチコックはモノクロとカラー、それぞれのポテンシャルを十分に生かす監督だったですね。
だからこそ「ヒッチコック」だったのですが(笑)。

わたしは大時代的なものも好きですし、先鋭的な作品も好きで、ただ「同傾向を続ける」のがあまりやや苦手なんです。
先鋭的な作品を読めば次は大時代的なものを読んでみたり、幻想小説の次はリアルな作品を読んでみたりと、バランスを取るのが好みのようです。
それは映画でも音楽でもけっこう同様なんですね。
しかし考えてみれば、現在「クラシカル」とされているものの多くは発表当時は先鋭的だったのでしょうから、結局ほとんど先鋭的なものを鑑賞しているのかもしれません(笑)。

> 歴史をもとにした小説が得意のようですが

日本人で欧州の歴史を題材にする小説家の中でわたしは最近佐藤賢一が好きで、この人は深い歴史知識を駆使しつつ講談調を意識した作品をよく書いており、特にフランス史中心ですから好みなのです。

ところで最近レイ・ブラッドベリの『何かが道をやってくる』を呼んだのですが、今一つピンと来ませんでした。
あの作品についてはどう思われますか?

>プリンスは日本ではこのくらいの立ち位置がいいのではないかとも思います。
> 自分について来れないヤツは来なくていい

その感じ、分かる気がします。
視点を変えれば、全体的には米国人の鑑賞力の方が高いと言えるでしょうか。
歴史的にも米国のチャートを見ていると、凄い曲やアルバムがスーパーヒットしていることが無数にあり、日本もいい曲がヒットすることはありますが、奥行きや幅はかなり違っているかなとどうしても感じてしまいます。
鑑賞眼を持った人が多くいなければ、芸術も上質なエンターテインメントも生まれ難いですよね。

> 品格があるかないかというのは

英国の首相もジョンソンですからね。
見た目からして(笑)英国史を覆しているような。
わたしの考えでは、品格というものはお金とか学歴とかは関係なくて、まさに精神性、そして精神性から自ずと湧き出る言葉遣いや立ち居振る舞いに表われるのではないかと。
まあそれにしても、日本で愚言を連発する政治家たちの浅ましいことといったら。
わたしは「炎上狙い」の発言や言論が大嫌いなのですが(結果的に炎上してしまったもののなかにはまた違う意味のものもあるでしょうが)、さらに世の中に「知名度を上げるためには炎上狙いは当然の方法だ」という風潮があります。
こんな風にどんどん「言葉のハードル」を下げていくからダメなんですよね。

> ツルゲーネフという言葉を使いたかったというのは正解ですね。

「人名の語感」というテーマもわたしはずっと興味を持っていて、確かに「ツルゲーネフ」、特に日本人にとっては美しい音ですよね。
女子高生が「いつもゴーゴリを持っている」ではロマンティックな雰囲気が出ません(笑)。
でもこれらの音がロシア人にとってはどうかとか、とても興味があります。
フランス人の名前でも、「ボードレール」や「ランボー」「マラルメ」とか、カッコよく響きますが、「プポー」とかになると大方の日本人にとっては・・・(笑)。      RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-09-09 13:09) 

lequiche

>> 英ちゃん様

そういうのってなかなかうまくいきませんね~。
忘れた頃にばったり出会うかもしれません。(^^)
by lequiche (2019-09-12 02:04) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

プリンスの場合、自らをマニアックな方向に持っていったので、
つまりCDの売り方をわざと市場流通にしないとか、
それは現在の音楽ビジネスに対する不満でもあったのですが、
ともかくそうしてマニアックになるのなら、
リスナーも同様にマニアックになっても許されるのでは、
というのが私の考えた抜け道です。(笑)

プリンスは無頓着ということはありませんが、
彼の考えるレヴェルがとても高過ぎるのではないかと思います。
上記のモントルーのライヴなど、ライヴとしては
非常に高いクォリティなのですが、
たぶんプリンス本人は満足していません。
プリンスの見ているもの、聴いているものは
一般人のそれとは違うのだと私は推理するのです。
ですからボツにしてしまう、ということが起こるのです。
それは最近出ているマイルス・デイヴィスのブートでもそうです。
いままでブートだった音をソニーで正式に出しているのですが、
やはりマイルスにとってはブート程度のクォリティだと
考えていたのだと思います。

初期の頃のプリンスには試行錯誤もあって、
ちょっとどうかなという完成度の作品もないわけではないです。
ですが、後期になるとその完成度は極端に上がります。
逆にいうとその 「そつなさ」 が欠点なのかもしれませんが、
私は滅多に天才という言葉は使いたくないのですが、
プリンスは天才なのです。
でも日本では異常に過小評価されています。
いまだにプリンスのフィールドに追いつけないのです。
もう少し 「時」 が必要なのかもしれません。

モントルー・ジャズ・フェスティヴァルは最初の頃、
Casino Barrière de Montreuxというカジノを
会場にしていました。ビル・エヴァンスのライヴなどはここです。
その後、Montreux Convention Centreができて、
メインの会場となりました。
Auditorium StravinskiとかMiles Davis Hallというホール名は
少し経ってから付けられたようです。
スイスにも住んでいたストラヴィンスキーを偲ぶという意味で
良い名称だと思います。
サイトはここです。
http://www.2m2c.ch

私は映画については疎いのでよくわかりませんが、
やはりモノクロとカラーの使い分けというか
それぞれの特性はあるのかもしれませんね。
クラシック音楽は確かに先鋭的な作品が多いですが、
必ずしもそうとは限りません。
現代音楽でも、わざと懐古趣味に戻ってみたりとか、
そうした 「揺れ」 も考慮された上での作品なのだと思います。

佐藤賢一という作家は知りませんでした。
プロフィールや作品リストを読むと面白いですね。
つまり深緑野分に限らず
こうしたアプローチ/作風も多々あるのかもしれません。

ブラッドベリは読んだかもしれませんが、
読んだかどうかも忘れてしまいました。(^^;)
ブラッドベリには毒があるので、
好き嫌いの幅は意外に広いような気がします。

炎上狙いというのもよくわかりませんが、
わざと変なことを書いて注目を引くという手法ですね?
私にはそもそもそういう発想が無いので
そういうのも選択肢としてあるのだろうなぁ、
というふうにしか思いません。
わざと人目を引くようなことをするというのは
昔からいたずらっ子のやりかたですよね。

名前の響きのよさ、そういうのもあるでしょうね。
ただ、その言語によっての感性の違いはあると思います。
どの言語においても同様に美しい響き、
というのは限られるように思います。
by lequiche (2019-09-12 02:04) 

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