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1966年のビートルズ ― サーカス・クローネ・ライヴ [音楽]

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ビートルズの初期の頃の映像をずっと観ていた。ビートルズのデビューは1962年であるが、〈Please Please Me〉が発売されたのが1963年1月11日、そしてその曲をタイトルにした1stアルバム《Please Please Me》の発売が同年3月22日である。ここから1966年の《Revolver》までのアルバムと、それ以降とでは明確に線が引けると思う。あるいは5枚目の1965年8月6日の《Help!》までとそれ以降、つまり《Rubber Soul》《Revolver》までを含めた分類というのも可能である。表面的な区分けとして言うのならば、単なるロックンロールか、それともアーティスティックかの違いである。

もっともキャヴァーンで演奏していた頃のビートルズは、若くてイキはいいけれどまだ未知のバンドに過ぎなかった状態であるように見える。アクション自体も、狭いステージのせいもあるがまだ生硬であり、しなやかさがない。
それが1963年になると俄然、バンドとしての風格が出てくるのはやはり〈Please Please Me〉のヒット以降の自信であり、British Pathé videoの映像を観ても〈She Loves You〉は自作曲であるが、〈Twist and Shout〉のような他人の曲を歌ってもすでにバンドとしてのオリジナリティが出て来ているのがわかる。
〈She Loves You〉は突然始まるような曲の作りとステージングのアクション (特にポール) で、この時期の彼らの極端な上昇速度を如実にあらわしているが、私は個人的にジョンのリッケンバッカーを持ったたたずまいが好きで、それがいつエピフォンに変わったのかというのを追い続けて見てみたという動機もある。もちろんリッケンよりエピフォンのほうが楽器のクラスとしては上で、だからエピフォンに変えたのだろうが、リッケンの持つ不良性のような雰囲気とこの時期のジョンがシンクロしていて、彼に最も似合うのがリッケンバッカーのような気がするからだ。

そしてその後、1964年のエド・サリヴァン・ショーへの出演があり、ここでも2月の2回の出演と9月の出演とでは演奏曲目が異なるだけでなく、音楽的な成長があきらかに感じ取れる。エド・サリヴァンはジョンが嫌いだったというのもよくわかる場面があるし、しかしそれでも最後にエドが 「君たちは才能があるね」 と言ったのは皮肉なのかそれともこいつらにはかなわないな、と思ったのか、そのへんの微妙さもよくわかって面白い。同じエド・サリヴァン・ショーに出演したローリング・ストーンズが 「良い子」 であったのとは対照的なところにビートルズの原点を見る。

The NME Poll Winners’ All Star Concert は1964年4月26日に行われたコンサートであるが、他の出演者の演奏を観るとこの時代の音楽はこのようなものだったということがよくわかる。ビートルズの直前に演奏しているのはピーターとゴードンで、そんなに悪くないと思う。ただ、ビートルズのパワーに優る歌手やグループは存在しない。

それから2年後の1966年、ビートルズの成長は著しいが、私の好きな彼らのライヴのひとつとしてミュンヘンのサーカス・クローネにおけるライヴがあげられる。6月24日のライヴで、ステージはものものしい警備の状態になっているが、そんなことに頓着する彼らではない。チューニングの後、始まる〈Rock’n’roll Music〉のカッコよさがロックであり、だがすでに〈Yesterday〉を経て〈Nowhere Man〉に達するアーティスティックな様相も見せ始めていた時期なのである。〈Nowhere Man〉の冒頭のコーラスは痺れるし、こんなことを言ったらバカだと思われるかもしれないが、そもそもビートルズって最初から歌も楽器もすごく上手いのである。

ミュンヘンでのコンサートの翌日はエッセン、そしてその次の日はハンブルグでコンサートがあったが、今観ることのできる映像は非常に劣悪なものしかなく、そういう意味でもこのミュンヘンのライヴは貴重である。そしてこのドイツでのコンサートの後、6月30日から7月2日まで日本武道館でのコンサートがあったのである。
武道館でのコンサート映像は以前観たことがあるのかもしれないが、ほとんど忘れていて、すごくローカルな印象を改めて感じてしまった。E・H・エリックのMCはほとんど学芸会のようで、この当時はこんなものだったのかもしれないが今だったら噴飯ものである。ビートルズも衣裳がちょっとよそ行きな感じで、日本という市場をよく考えていたのか、それとも日本側でそのように依頼したのかはわからないが、その音楽もやや抑えた印象がある。ミュンヘンのワルな感じに較べればずっとおとなしい。だが、コンサートは思っていたより悪くない。
ビートルズはサージェント以降の優れたアルバムがあるけれど、でもロックということでいうのならば、この時期の66年までのコンサートに最も美学を感じるのだ。スタジオワークによる閉じた環境の音楽より、私はステージでの一期一会を選ぶ。ジョン・レノンの黒いリッケン。それが私にとってのビートルズの美学のひとつである。


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キャヴァーン時代を含む1962~64年のドキュメント
https://www.youtube.com/watch?v=OWHN-Tg27i4

1962年 Liverpool
https://www.youtube.com/watch?v=fYvfLGYDpRQ

1963年 British Pathé video
 She Loves You, Twist and Shout
https://www.youtube.com/watch?v=INNHd1wGPJo

She Loves You (remastered)
https://www.youtube.com/watch?v=S302kF8MJ-I

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エド・サリヴァン・ショー1 1964.02.09.
 All My Loving
 Till There Was You
 She Loves You
 I Saw Her Standing There
 I Want to Hold Your Hand
https://www.nicovideo.jp/watch/sm9046641

エド・サリヴァン・ショー2 1964.02.16.
 She Loves You
 This Boy
 All My Loving
 I Saw Her Standing There
 From Me to You
 I Want to Hold Your Hand
https://www.nicovideo.jp/watch/sm9132022

エド・サリヴァン・ショー3 1964.09.12.
 I Feel Fine
 I’m Down
 Act Naturally
 Ticket to Ride
 Yesterday
 Help!
https://www.nicovideo.jp/watch/sm9752337

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The Beatles Live at The NME Poll Winners’ All Star Concert
(Sunday 26th April 1964)
 00:36 The Beatles
 00:47 She Loves You
 03:02 You Can’t Do That
 05:57 Twist And Shout
 08:55 Long Tall Sally
 11:20 Can’t Buy Me Love
https://www.youtube.com/watch?v=v6y4A8U7Hmo

Beatles以外の演奏を含む
28’33”あたりからBeatles (上記動画と同じ)
https://www.youtube.com/watch?v=-_Ku1Q7pplg

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The Beatles Live at Circus Krone 1966.06.24.
 Rock’n’roll Music
 Baby’s In Black
 I Feel Fine
 Yesterday
 Nowhere Man
 I’m Down
https://www.youtube.com/watch?v=bunl7xsculE

The Beatles Live at The Essen Grugahalle 1966.06.25.
https://www.youtube.com/watch?v=EnhniEVPTL0

The Beatles at Ernst Merck Halle, Hamburg 1966.06.26.
 Rock And Roll Music
 She’s A Woman
 If I Needed Someone
 Day Tripper
 I Feel Fine
 I Wanna Be Your Man
 Nowhere Man
 Paperback Writer
 I’m Down
https://www.youtube.com/watch?v=bk7eIPYOC6U

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日本武道館 1966.06.30~07.02
https://www.dailymotion.com/video/x4ue9ye
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末尾ルコ(アルベール)

わたしがLPを買い始めた最初期のアルバムの一つが『レット・イット・ビー』でして、既にビートルズ解散後でした。
同時期に買っていたのがオリヴィア・ニュートン・ジョンあたりでしたね。
ただその後ビートルズに関しては深まらなかったです。
クイーンは深まりましたけど(笑)。
あと、ピンク・フロイドとか。

そこでリンクしてくださっている「The Beatles Live at The Essen Grugahalle 1966.06.25.」を視聴させていただきましたが、これは確かにカッコいい!
他の動画もまた順次視聴させていただきますが、「The Beatles Live at The Essen Grugahalle 1966.06.25.」のラフな感じはインパクト十分だし、纏まりのない観客のノリもいいですね。

ビートルズのディスコグラフィをあらためて確認すると、さすがにわたしでもほとんど聴いてます。
ただ主体的に深めようとしなかったのは、あまりにメジャーなビートルズを今更自分が聴いても・・・という感覚、そして当時のわたしはビートルズに優等生的なイメージを持っていたということもあります。
もちろん本当は全然優等生じゃなかったんですけどね。

そして日本でのビートルズのイメージはいまだに「イエスタデイ」であり、ジョン・レノンの「イマジン」であるというのもわたしとしては敬遠したくなる一要素でした。
まあ外国文化に対する日本メディアの誤解・曲解、そして無知は宿痾でありまして、そうしたことはある程度無視し、実質を求めるのであればもっとビートルズを聴いておくべきだったと思います。
でも今からでも全然遅くありませんね。

それにつけても「The Beatles Live at The Essen Grugahalle 1966.06.25.」などを視聴させていただくとまた、(ロックとは・・・)というテーマに行き当たり、心地よい秋の夜です。



・・・

ミック・ジャガーの古い動画を見てみると、ちょっとお坊ちゃん風にも見えますね。
彼の家柄にも関係しているのかもしれませんが、70歳を超える現在までコンディションを保ち「ロック・ステージ」を行っているのは尋常ではなく、それはひょっとしたら「いい家柄」が彼の根っこになり、強烈に「ワルぶって」も崩れ切らない芯があったのかなとも思います。
わたしは10代の頃からストーンズ、好きは好きだったんですが、その真価は分かってなかったです。
「単純なロック」なんて認識の頃もありまして、若気の至りとは言えお恥ずかしい限り。
ストーンズの中でも派手目のナンバーばかり好きだった反省もありまして、初期からまたじっくり聴き直してみたいとも考えています。

> ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスを超える人がその後、出現しているでしょうか?

これはもう、おりませんよね。
そこがロックのおもしろさと不思議さだとも思います。
あるいは、「個人の才能」がシステムを遥かに凌駕していた時代だった気もします。
現在は、アングラ的あるいはマイナーなシーンでは個人の才能も光りますが、メジャーシーンとなると、どうにもシステムの中の出来事という感があるのです。
ロックに限らず大方の分野でそう感じるのですが、昨今取り沙汰される「人間のスケール」の問題もこうした文脈の中にあるのかもしれません。

> そしてやはりロックは若い世代のものであり、ある程度の年齢になると保守的になり攻撃性が無くなります。

年を重ねてまだ攻撃的であり、しかもクオリティの高いロック・ミュージシャンはどれだけいるでしょうか。
例えばデヴィッド・ボウイはずっと攻め続けていたと思いますが、ストーンズだと80年代後半からは過去の模倣ばかりだと、言っていたのはわたしの友人のフランス人ですが(笑)。

> ブラームスの曲は皆、変なんです。

ますますワクワクしてきました。
その「変」さが理解できるように、鋭意努力をいたします(笑)。

                     RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-10-30 01:46) 

NO14Ruggerman

ビートルズ、いいですね!
初めて自分の小遣いで購入した洋楽のEPが「レットイットビー」でした。
リンクのライブの「シーラブズユー」ですが、私が聴き慣れている「赤盤」のバージョンと比較するとメロディが半音程度低いのが気になりました。
by NO14Ruggerman (2019-10-30 15:15) 

Speakeasy

ジョン・レノンは「俺たちのライヴはハンブルグ時代が最高だった」と言っています。もちろんメジャーデビュー以前なので映像はありませんが、ジョンが便器を被って演奏しただの、ハイル・ヒトラーのポーズをとって笑いを取っただのといった逸話が残っています。

1962年のキャヴァーン・クラブの映像は、ブライアン・エプスタインによって去勢(洗練?)された後(革ジャンからスーツへ、リーゼントからモップトップ【マッシュルーム・カット】へ)のものなので、大人し目になっているかもしれませんね。

1966年には、日本武道館にて3日間で5回の公演をしていますが、lequicheさんの貼ってくれた動画は7月1日のものですね。6月30日の映像も残っているのですが、こちらはポールのマイクが左右に動いてしまって歌い辛そうです。演奏もあまり良くなくて、本人たちがショックを受けてその後の演奏を改善したと言われています。だから、7月1日の方がより良く聴こえます。7月2日の演奏が一番良かったと噂されていますが、おそらく録音録画はされていないので非常に残念です。

by Speakeasy (2019-10-30 19:54) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

グループが解散した後だと追いかける対象ではなくなるので、
これからという頃のクイーンなどと較べると
ルコさんにとって、ビートルズはやはり深まらないのでしょうね。

6月25日のエッセンのライヴはまともな動画が無いのです。
また6月26日のハンブルグもニュース映像のような雰囲気で、
観るのに耐えるのは6月24日のミュンヘン・ライヴのみなのです。
日本公演の直前のライヴですので曲目も共通していますが、
ドイツと日本ではかなりパフォーマンスに違いがあるようです。
当時、彼らにとって日本はまだ未知の国だったのかもしれません。

ビートルズは私にとっても基礎知識というか一般常識であって、
誰でも知っているメジャーな音楽だから何をいまさら
というようなメンタリティはあるのですが、
でも最近はそうでもなくなってきたような気もします。
50年も前の音楽だから古い面もあるのですが、
では最近の音楽が良いかというとどうもそうではないようで、
やはり音楽がもっと元気だった時代のほうが
音楽自体にインパクトがあります。
ブログ本文にも書きました通り、これも何をいまさらなんですが、
テクニックとしてもビートルズは上手いです。
特にリンゴ・スターは、よく下手なドラムとか言われていましたが
とんでもない! ということが最近は少しわかってきたようです。

イエスタデイやイマジンはあまりに人口に膾炙し過ぎましたが、
でもそれはそれだけの訴求力があったからだと思います。
誰もが知っているから通俗というのは今の時代での見方であって、
これから先にどのような評価になるのかはわかりません。
ベートーヴェンの第5番交響曲《運命》を
誰でも知っている曲だから通俗だ、という人はいないと思います。
でも逆に100年経ったら埋もれてしまうかもしれませんが。

ローリング・ストーンズはミック・ジャガーに関して見れば
ビートルズなどよりずっと優等生です。
ストーンズのほうがビートルズより私は好きなのですが、
私の嗜好はごく初期の段階で止まってしまっているので、
今のリアルなストーンズについてはよく知りません。

初期の頃はアメリカ盤とイギリス盤の内容が違っていたようで、
ヒット曲が入っているか否かとか、全12曲という制限とか、
いろいろな事情があったようですが、
今聴いてみるとまた違った感覚になるように思います。
私が好きだった曲は、たとえば Mother’s Little Helper ですが、
こうしたダウナーな感じの曲はビートルズには存在しません。
それがストーンズの魅力ですね。

ジャニスやジミヘンは今のセンスからいえばダサいんです。
でもそのダサいのがカッコイイというか、
そういうものまで含めて、その音楽はその時代でしか出て来ない
ということは言えるのです。
デヴィッド・ボウイは長い経歴があるので
その曲も多様な変遷を経ていますが、
一時、金儲けの音楽のように言われたときでも
彼はくじけませんでした。
信念があれば崩れることはないのです。
by lequiche (2019-10-31 02:37) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

おお、レット・イットビー!
EPというのがいいですね。
半音低いということについてですが、
日本公演でも初日はキーが半音低いと言われています。
このへんの事情はSpeakeasyさんのような詳しい方でないと
わからないと思うのですが、
単純に考えればキーを低くすれば歌いやすいとはいえます。
ツアー初日とかで疲労が残っていたりする場合、
半音低くしよう、ということなのではないでしょうか。
楽器がギターとベースしかないので半音下げることは容易です。
キーボードや管楽器があると面倒ですが。
またそれとは全く別の事情ですが、ジミー・ヘンドリックスは
ギターを半音低くチューニングしていました。
by lequiche (2019-10-31 02:37) 

lequiche

>> Speakeasy 様

そうなんですか。キャヴァーン以前の話は知りませんでした。
あれで去勢されたのなら、
その前の彼らはもっとすごかったんでしょうね。(^^)
日本公演の6月30日の映像というのは黒っぽい服装のですね?
マイクが動くから本来はボツになったはずの映像だということですし
それはニコ動のコメにも出て来ます。
やはり初日はよくなかったのではないかというのはわかります。
それと上記の NO14Ruggerman さんへのレスで書きましたが、
6月30日は半音低かったということですが、
ビートルズはよくこれをやっていたようです。
テンションは低くなりますが、声としては安全ですから。
7月2日は映像は無理としても音だけなら可能性があるのでは?
当時だとナグラとかが一番小さい録音機・・・無理だなぁ。(^^;)
by lequiche (2019-10-31 02:38) 

Flatfield

つい先ほど教えてgooのベストアンサーを覗いて知ったのですが、
・リッケンはピート・タウゼント(フー)に薦められた。
・エピフォン・カジノはジョージに勧められた。
とか。ほかに、
・ジミヘンが右利き用ストラトを使用していたのは、まだフェンダーは品質が安定していなく、右利き用は結構量産されていたため、あたり品に当たる確立が高かったから。
なんてのがありました。
しかしあらためてリッケンを聴くと、これはこれで野性味のあるコードが弾けるのだなぁなんて思いました。
by Flatfield (2019-11-03 22:37) 

lequiche

>> Flatfield 様

ピート・タウンゼントですか?
どこかに接点があったのでしょうか。う〜ん、すごいな。
エピフォンはそんなに問題ないですね。
ギタリストとしてはジョージのほうがうまいはずですし。

フェンダーは1965年にCBSに売られたので、
それ以降の製品というのは評判が悪いですが、
まだ純正フェンダーの時でもあの時代ですから
品質的には当たり外れがあったんでしょうね。
それとストラトはセットネックですが、
1980年前後にネックが3点ロックになって、
この時期のは評判悪いです。
力を入れるとネックが’動いてしまうので。(マジかよ)
私はゴミだと思います。

でもリッケンも出来はよくないんですが、
カッコイイので許す! という心情はありますね。(^^;)
by lequiche (2019-11-05 03:16) 

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