SSブログ

Love in Vain を聴く ― Robert Johnson [音楽]

robertjohnson_191112.jpg
Robert Johnson (left), (The Guardianより)

夕方の雨が突然上がって空には輝く月。昨夜の月はほとんど満月のように見えたが14夜だった。つまりユーミンのいう14番目の月なのだが、この前、ふと 「森川久美ってどうしたんだろうね」 という話をした。森川久美といえば思い出すのはたとえば『十二夜』である。といってその元はシェイクスピアなのだが、あの全てにただようイタリア的なけだるさと反・日本的な絵が好きだった。だが私の好きなものは必ずいなくなってしまう、ということを少しだけ嘆きたい。

前記事でブラインド・レモン・ジェファーソンのことを少しだけ書いたが、だからといって私はブルースに詳しいわけではない。というかむしろ逆で、これは奥が深いぞと思うからあまり近寄らないようにしてきた。
それでまず王道から攻めてみるのだが、ロバート・ジョンソンの曲に〈Love in Vain〉という曲がある。歌詞の中にくりかえしstationという言葉が出てくるが、別にデヴィッド・ボウイなわけではない。
女を駅に送って行って、ああもうこの女とは終わっちまったんだ、という、単純に悲しい1937年の歌である。「むなしい恋」 という邦題がつけられている。元ネタはレロイ・カーの〈When the Sun Goes Down〉とのことだが、そんなに元ネタ曲という感じがしない。

〈Love in Vain〉は有名曲なのでカヴァーがあるが、エリック・クラプトンとローリング・ストーンズのカヴァーがよく知られている。クラプトンのカヴァーは正統的で、ロバジョンの演奏が素朴な原石だとすれば、それを磨き上げた輝き光る宝石のような仕上がりである。だがそれゆえにデルタ・ブルースという湿度のある音、水のにおいからは遠い。
ストーンズの、スタジオで録られた動画はギターのみの伴奏から始まるが、このキースのギターがなかなかイケているのはいいとして、バンドとしての音になると、これはもう違う曲のようなオシャレな雰囲気が充満して、特にベースラインの入り方はもはや卑怯であって、このように曲をカヴァーすることもできるのだという見本のような演奏である。

ロバート・ジョンソン (Robert Leroy Johnson, 1911-1938) は伝説の人、伝説のブルース・マンである。録音された曲は、時代が時代ということもあるが極端に少ない。そして27歳で死んでしまったが、その死因もよくわかっていない。病気だったという説もあるが殺されたという説もある。さらに殺したのは悪魔だったという説さえある。悪魔に魂を売ったからギターが上手かったというのは、ステロタイプな対悪魔秘話に過ぎない。年齢的には夭折という言葉で分類されるべきものだが、若くして亡くなったというはかなさとは違った、もっと忌まわしい印象がつきまとう。
でも27歳というところで変なことに気がつく。ブライアン・ジョーンズもジミ・ヘンドリックスもジャニス・ジョプリンも享年27歳。こういうのってあるのかと思ってwikiを見たらすでにそれが項目として確立されていた。27クラブというのだそうである。ジム・モリソンもカート・コバーンも27歳。でもそれは比較的ポピュラーミュージックというかロック畑に限られるようでもある。たとえばジャズのビックス・バイダーベックは25歳、クリフォード・ブラウンは28歳であり、27という呪縛から外れている。

〈Love in Vain〉という曲をどのように見ているか、ということを知りたいがために歌詞をどう訳すのかを探してみた。そしたら非常に納得のできる訳を見つけたのだけれど、同時にストーンズに対する否定的意見も読んでしまった。それは〈Brown Sugar〉に関する歌詞の差別的な意味、そしてそうした曲をリリースしてしまうことに対する苦言である。細かく説明されるとひとつひとつが理にかなっているのだが、でもストーンズってそんなのだけじゃなく、ヘルズ・エンジェルスをはじめとして、もっと幾つものしょーもないスキャンダルを生み出し続けてきたし、今ふうに言うのならば炎上商法みたいな傾向もある。露悪的なことが彼らのずっと継続してきたスタイルであり、そこに突っ込んでもなぁという甚だ消極的な異論も考えられるように思う。だがこうしたことは今後の課題だ。
前記事のコメント欄で、憂歌団の歌詞のなかに 「めくらのレモンも死んじまったし」 という言葉が出て来て、これはブラインド・レモン・ジェファーソンを指しているということを知ったのだが、歌っている動画を見ると 「めくら」 という歌詞が歌いにくいので (というよりもメディアの規制により) 省いてしまっているのを見つけた。でもそれを省いて 「レモンが死んじまったし」 と歌ったら 「ブラインド・レモン」 という言葉をささなくなるので、なんだかわからなくなってしまうというジレンマ。ジャック・レモンか? とここでツッコんでおかなければならない。それでいて、めくら縞という言葉は普通に使うのである。

話がずれてしまったが、たとえばストーンズの《Aftermath》というアルバムにはイギリス盤とアメリカ盤があって、アメリカ盤は大ヒット曲〈Paint It, Black〉から始まるが、イギリス盤は地味な〈Mother’s Little Helper〉から始まるという差異。でも〈Mother’s Little Helper〉から始まるほうが自然で、大ヒット曲を冒頭に持ってくるのは、アイドル歌謡のLPみたいで嫌だなぁと思わなかったのだろうか。あ、でも当時はストーンズだってアイドル歌謡だったのかもしれない。
最初のレコードというのはSP盤であり、それがシングル盤になったのだから、ポピュラー・ミュージックにおけるレコードの曲数はもともと片面1曲だったというふうに考えれば、LPというのは複数曲のテンコモリというお得なメディアなのだ。アルバム全体の流れみたいなのは後年思いついたものであって、そもそものポピュラー・ミュージックは3分間くらいの長さでどう表現するのかが勝負だったといえる。


Robert Johnson/The Complete Recordings (SMJ)
コンプリート・レコーディングス~センテニアル・コレクション




Robert Johnson/Love In Vain Blues
https://www.youtube.com/watch?v=-BkPm8JIJJQ

Eric Clapton/Love In Vain
https://www.youtube.com/watch?v=1l0UfAQIKm0

The Rolling Stones/Love In Vain
https://www.youtube.com/watch?v=nCvBUjJrmC4

オマケ
David Bowie/Station to Station (live 1978)
https://www.youtube.com/watch?v=bnEc91KRKrc
nice!(86)  コメント(6) 
共通テーマ:音楽

nice! 86

コメント 6

末尾ルコ(アルベール)

森川久美という漫画家はよく知りませんが、プロフィールを見ると元宝塚トップスター紫苑ゆうのファンとありました。
実はわたし宝塚をよく見ている時期、既に退団しておりましたが、紫苑ゆうのステージに魅了されておりまして、その朗々とした清涼たっぷりの歌声、クリーンな所作、その割にはあくどいまでに(笑)変化する表情のメリハリと、ツボが満載の素晴らしいパフォーマーでした。

https://www.youtube.com/watch?v=n7QsbDZhUPE


さて、「Love in Vain」、こうして視聴させていただくと、ローリング・ストーンズの洗練度が凄いですね。
確かに自分が10代の頃からストーンズの洗練ぶりはある程度分かっていたと思うんですが、いろいろな音楽を聴いてきて分かることも多いですね(と、わたしが言うのもおこがましいですが 笑)。

「27クラブ」についてはわたしも知った時に少々背筋にスッと走るものがありました。
偶然だろうとは思いますが、ロック史の超大物がここまでズラリ並ぶと何らかの符号を感じてしまいます。
まるで大人になり切るのを拒否しての死であるかのような・・・なんて書き方は死んでいった人たちに失礼にあたるのでしょうが、27歳というのがとても出来過ぎであるムードも漂います。
欧米と日本、そして当時と現在でも各年齢のイメージは違いますけれど、27歳と28歳ではかなりの隔たりがあるような印象があります。
28歳になればもう大人としても成熟の段階に入ってしまった感じ、27歳はぎりぎりまだその前日である感じ・・・とまあ、これらはわたしの、そしてとうの昔に27歳を通り越した人間の戯言ではありますが。

> ストーンズに対する否定的意見

こういうことってストーンズだけでなく、確かに「今後の課題」ですよね。
映画などでも過去作品の「この表現がどうのこうの」と非難されることが多くなりました。
差別は当然いけないけれど、時代ごとに差別的表現や過酷な描写など、「現在の尺度」で何でも測られては困るなあと思うこと多々あります。

・・・

女性1人に男性2人というバンドですが、これは自然発生的に生まれることが多いのでしょうか。
素朴な疑問なので、あれなのですが(笑)。
もちろん一つのバンドが成功すれば、次々と後へ続くというのはありますが、逆に男性1人と女性2人というバンドもあってもいいなと、思い付きのように想像してしまいまして。
ヴォーカルが男性で、ギターとベースが女性とか。
なんかおもしろいですよね。

> 私は日本の歌謡史の中では最もすぐれた時代であったというふうに考えています。
> 洋楽に関しても、産業ロックとかいろいろな言い方をされますが、

なるほどです。
日本のポピュラー音楽についてもわたしには空白期間がかなりありますので、それだけ今後も愉しみが多いとも言えますね。(←かなり無理矢理 笑)

「産業ロック」という言葉もひょっとしたら渋谷陽一が言い始めたのかもしれません。
当時しきりにこの言葉を口にし、文章にも書いていました。
あの頃の渋谷陽一はどのような対象に対しても断言口調で褒め上げるか、切って捨てるかどちらかだった印象があります。
ただわたしはまだ少年(笑)でしたので、今のわたしが当時の渋谷陽一を聴いたら別な印象を受ける可能性もあります。
『ロッキング・オン』以外のロック誌で、「渋谷教祖がロックを語れば、なぜか後光がさしてくる」といった揶揄もされていた記憶があります。
わたしは彼を教祖的に仰いていたつもりはなかったですが、かなり感化されていたのは間違いありません。
渋谷は『音楽専科』や『ミュージック・ライフ』(だったかな?やや記憶曖昧 笑)を「ミーハー的」、『MUSIC MAGAGIN』を「文化人臭い」と批判していました。
でも今考えると、自分とこ以外は一切認めない怖さがありますね。
彼の攻撃的、挑発的言葉はおそらく日本のシーンに対する大きな苛立ちから来るものと、もう一つはやはり戦略的な意味合いもあるでしょうが、現在はかなり丸くなっています(笑)。
「人は変わる」という可能性も含め、その時々の言説に左右されない「自分」でありたいものです。

「鎖国政策」はおっしゃる通り末期的症状を呈していますね。
しかしこのままでは末期的をさらに突き抜けて堕ちていきそうで怖いです。
あらゆる分野の隅々にまで、鎖国政策と文化や人間性に対する愚弄が行き渡っていると感じます。

> ダメな演奏だったら立ち上がらず拍手もしなくていいのです。

ですよね。
結局周囲に合わせる以外の選択肢がない人たちが多い、つまり自分で判断できる人が少ないですね。
スポーツの世界では日本人のテニス観戦ぶりがなかなかのもので、ほとんどクラシック音楽のコンサートです(笑)。
そう言えば、昨今のスポーツの「日本!日本!」っていうのはものの見事に鎖国政策を推進しているような。
わたしはスポーツ観戦(テレビですが 笑)自体は好きだったのですが、日本のテレビ中継があまりに酷いので、ほとんど観なくなりました。
テニスや格闘技は別ですけれど(笑)。

> 昔は 「バカのひとつおぼえ」 と言って嫌われたはずです。

(少し前ならこうじゃなかった)というのは多々ありますよね。
それだけ感覚が麻痺してしまっているのでしょうね。
そして誰か、あるいは何かを「終わった」とか「オワコン」とか言う人たちは一般のネット書き込みだけでなく、炎上商法の得意なネット有名人の間でも普通となっています。
本気で言っているのか、それともあくまで炎上ネタとしてわざと言っているのか、いずれにしても罪深い言動です。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-11-13 15:13) 

ぼんぼちぼちぼち

ロバートジョンソンは、仰るとおり、戦前ブルースの第一人者でやすよね。
あっしは個人的には、戦前のブルースミュージシャンでは、ブラインドブレイクが好きなんでやすが、
以前、「戦前のブルースを聴いたことがないから是非聴いてみたい」という人に、
それなら個人的趣味のブラインドブレイクではなく王道ロバートジョンソンを聴いてもらうべきだろうと判断し、ロバートジョンソンのCDを貸したところ、感想が
「古き良きアメリカって感じでほのぼのほっこりしちゃいました〜」でやした。
、、、、、、人の感想って、いろいろなんだなあ、と驚きやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2019-11-13 16:51) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

普通は知りません。(^^)
12夜と14夜のシャレで名前をあげたのに過ぎませんが、
独特の美学があったので宝塚もご存知だったのだと思います。
宝塚の、外部からの影響を安易に受け入れないという
毅然とした姿勢は大切だと感じました。

ストーンズのこうしたアプローチはさすがだと思います。
ただ初期のブルースというのは訥々と聞こえるような
ごく素朴な音のようでありながら、
意外な芯を持っているのがその常ですから、
そのソリッドな音を崩すことはできないのがわかります。
ストーンズはそれがわかっているので
このように変化させることができるのでしょう。

27歳というのはたまたまその年齢で亡くなった人が多い
ということで、それ以上の意味は私は無いと思います。
でもそういいながらも、一種の暗合みたいな感じはします。
3人しかいませんが 「ジャズの25歳」 というのがあって、
クリフォード・ブラウン、スコット・ラファロ、
チャーリー・クリスチャン!(私が思いつきました ^^; 笑)
ともかくこれからという若い年齢で亡くなってしまうのは
残念ですがでもそういう運命なのかもしれません。

差別という概念は普遍的に見えて普遍的ではないですし、
不変でもありません。時代によって変わってしまうものです。
差別用語と呼ばれるものがそのまま使われていた時代と、
そうでない今の時代を比べると今のほうが差別がないかというと
それは必ずしもそうではないような気がします。
言葉を言い換えただけで、相変わらず差別は存在する
というのが現状です。

女性1・男性2というユニットは紅一点という雰囲気もありますし、
男女の三角関係の原点という感じもあります。(^^0
男性1・女性2というのはあまり無いですね。
dosとか、GO! Go! 7188くらいしか思い浮かびません。
それに女性2人の場合、上記のバンドもそうですが
女性2人がメインになってしまいます。

渋谷陽一に関してはその著作をあまり読んではいないので
何とも言えません。
もちろん挑発するのも戦略のひとつだと思います。
ただ、その対象によって整合性があったりなかったりで、
レッド・ツェペリンに関しては極端に感情的で感傷的ですが、
それだと他のエモーショナルな意見に関しても
あまりきびしいことが言えなくなるはずです。
彼は音楽評論家としては著名ですが、
でも彼だけが音楽評論家ではないですし、
あまり影響され過ぎるとかえって全体像がわかりにくくなる
という場合もあるように思います。

音楽でもスポーツでもそうですが、
付和雷同で楽しめるのならそれも方法論のひとつです。
ただ、簡単にその時節の流行に乗り、やがて離れていく、
という繰り返しは面白いのかもしれませんが何も残りません。
「メディアの意見=自分の意見」 として取り込んでしまうのでなく、
常に自分はどう考えているのかということを
メディアの影響から離れた場所で考えることが必要です。
そのためにはインターネットにあまり依存しないことです。
by lequiche (2019-11-14 03:11) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

ブラインド・ブレイクはギターが特徴の人ですね。
YouTubeにジム・ブルースという人の
ブラインド・ブレイク的ギター奏法の解説があります。
とても詳しい解説なのですが、
最初の模範演奏の部分だけでも聴いてみてください。
Blind Blake’s Techniques/Jim Bruce Blues Guitar Lessons
https://www.youtube.com/watch?v=cgZk3CogISE

ブラインド・ブレイクがホントにこういうふうに
弾いていたのだとしたら相当にすご腕です。
小指のチョーキングもあるし、う~ん、ホントかなぁ。(^^)

ロバート・ジョンソンのCDを貸した人の感想ですが、
ずばり言いますけど、聴いていないんじゃないかと思います。(笑)
聴いていたら 「ほのぼの」 とか 「ほっこり」 とかいう形容は
出てこないはずです。
by lequiche (2019-11-14 03:11) 

sana

27クラブ!遠い昔に聞いたことがあるような‥
ちょっと寒気がしたりしますが、夭折が多いから、なんでしょうか。
激しい人生で燃え尽きたのか。
そこまで強烈な人生ではないけれど、アート系の知人はやや寿命短い傾向ある気がします。

差別‥は確かに問題ではあるのですが、個別的に意味の違いというものがありますよね。
レモンが死んじまった、じゃ意味が通らないですね~^^;
盲縞、と書くとまずいのかしら。伝統だから?知ってる人も少ないからほっとかれるのかも。「めくら縞」だと地名?みたいな^^;

森川久美さん、数年前まで描かれていましたよ。『LaLa』の初期を知っている人なら印象強いでしょう。漫画雑誌が増えすぎて好みも細分化したので、もうほとんどわかりませんけど^^;
by sana (2019-11-17 14:48) 

lequiche

>> sana 様

あぁ、アート系は寿命が短いんですか。
そうなのかもしれませんね〜。
長さよりもその人生の密度って言い方もありますが、
やはり残念という気持ちのほうが大きいです。

めくら縞だと地名ですか? 目蔵島とかありそうですね。
めくら縞はどういうのかわからない人が多いでしょうが
とりあえず使ってもOKなようですけれど、
ブラインドタッチというのはマズいらしいです。
むずかしいです。

ええっ、森川久美さん、そうなんですか。
もっとも雑誌はチェックしていません。
つまり単行本にならないとわかりにくいですね。
by lequiche (2019-11-19 00:48) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。