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2006年・国際フォーラムのハンク・ジョーンズ [音楽]

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Hank Jones

渡辺貞夫は大変有名なプレイヤーなのにもかかわらず私はメディアを持っていなくて、でも確か、以前に知人から500円くらいで譲ってもらったレコードが1枚あったような気がする。それは《I’m Old Fashioned》(1976) というアルバムなのだが、今はどこにあるのか行方不明だ。
このアルバムは渡辺貞夫が当時結成されたばかりのThe Great Jazz Trioと演奏したアルバムで、最初のグレート・ジャズ・トリオはハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスというメンバーである。そしてタイトル曲はジェローム・カーンのスタンダードなのでこれ以外にも幾多のレコーディングがあるが、ジョン・コルトレーンの《Blue Train》(1958) などが有名な録音のひとつではないだろうか。最近発売されたその復刻盤はブルーのカラーレコードだった。
YouTubeを渉猟していたらたまたま渡辺貞夫の演奏に行き当たったので (本当は違うことを書こうと思ってYouTubeを見ていたのだが)、このスタンダードなジャズについて書いてみたい。

グレート・ジャズ・トリオに関して私はほとんど知らないのだが、トリオが結成された頃、日本では比較的ジャズというジャンルが興隆期にあり、対してアメリカのシーンは低迷していて、多分にイーストウインドがこのトリオの結成に影響を与えたような気がする。たとえばアート・ファーマーの《Yesterday’s Thoughts》も同じ1976年にイーストウインドによって録音されたレコーディングである。

実は今、もっと昔のジャズについて書かれている本を読んでいて、それは野川香文『ジャズ音楽の鑑賞』という1948年に出版された本の復刻版なのである。この本のごく最初の章に 「ニグロ・スピリチュアルスと労働歌」 という項目があって、本文を読んでいくとニグロという名詞が繰り返し出てくるので驚くのだが、調べてみるとnegroという称呼は当時は一般的に用いられていて、むしろ良い意味に使われていたのだという。しかしniggerはその頃から侮蔑語であったのだそうである。言葉の変遷というのは面白いがむずかしい。

さて、話があちこちにそれてしまうので元に戻すと、YouTubeで見つけた渡辺貞夫の演奏は2006年の東京国際フォーラムでのライヴである。バックは同じグレート・ジャズ・トリオだが、メンバーはハンク・ジョーンズ、ジョン・パティトゥッチ、オマー・ハキムである。
この動画を観ていて思ったのは、渡辺貞夫の流麗なソロももちろんだが、ハンク・ジョーンズのしなやかなピアニズムに驚かされた。やわらかで無駄のない腕の動き、そしてときどき、はっとするようなファンキーなアクセントが入れられる。ハンク・ジョーンズってこんなにすごいのか、と思ってしまった (今更何を言ってるの、だけど}。この時、ハンクは88歳だった。
チャーリー・パーカーの《Now’s The Time》でも彼はピアノを弾いているし、キャノンボール・アダレイ名義の《Somethin’ Else》(実質的なリーダーはマイルス・デイヴィス) にもクレジットされている。ジャズの歴史をずっと辿ってきたピアニストである。

動画2曲目の〈Moose the Mooche〉はいかにもパーカーらしいテーマの佳曲。渡辺貞夫がパーカーを取り上げた演奏ではおそらく《Dedicated to Charlie Parker》(1969) というアルバムが白眉だろうが、この国際フォーラムのソロは、リラックスしていてしかもパーカーの精神性を伝えていて心地よい。
でもハンク・ジョーンズは単純にビ・バップの人ではない。相手に合わせて柔軟にアプローチを変化させてゆく。この2020年春のトゲトゲとした現実からの逃避としても渡辺貞夫とのコラボレーションに浸ることは有効なのだ。


Hank Jones/In Copenhagen, live at Jazzhus Slukefter 1983
(Storiyville/Octave)
IN COPENHAGEN~LIVE AT JAZZHUS SLUKEFTER 1983




The Great Jazz Trio by Hank Jones
Live at Tokyo Jazz Festival, Tokyo International Forum,
2006-09-03 Evening Stage
1) I’m Old Fashioned
2) Moose the Mooche
3) Parker’s Mood
https://www.youtube.com/watch?v=8frODlYyNno

Sadao Watanabe/Au Private (from《Dedicated to Charlie Parker》)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm17892545

Kim/Charlie Parker (from《Now’s The Time》)
https://www.youtube.com/watch?v=m-nVTvIfuPo
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末尾ルコ(アルベール)

渡辺貞夫は「ナベサダ」というニックネームとともに、極めて人口に膾炙したジャズプレイヤーですね。
かつてわたしは当然ながら、今よりも遥かにジャズには疎かったのですが、渡辺貞夫はずっと、ほとんど聴いたことなかったにもかかわらず身近な存在でした。
他にはそうですね、日本では日野皓正、そして高中正義とかスペクトラムとか聴いている同級生もおりました。
わたしは10代はまったくジャズを聴いておらず、ハードロックやプログレから入ってパンク・ニューウェーブ小僧でしたから、(高中正義、へッ!)とか思ってました。
今はロックに対する愛情やリスペクトを口にするジャズプレイヤーも多いですが、かつては少なからぬジャズファンはロックをずっと下に見ていた印象です。
わたしの同級生にも、「え、ロック?ぶへへへへ」とあからさまに馬鹿にするジャズファンがいました。
対してロック評論家、例えば森脇三喜夫なんか一部フュージョン系の音楽についてボロカスに書いてましたし、渋谷陽一は「わたしがジャズでなくロックを選んだのは、ジャズはどうしても音質を要求するからだ」的なことを言ってました。
今思えば不毛な争い(?)ではありましたね。

でもわたしの周りのロックファンの間でも、「マイルスは特別」という認識は強かったです。
まあ当然と言えば、当然なのですが。
それと、かつてロン・カーターが日本のCMに出ていて、(カッコいいなあ)と感じてましたね。
だからカーターのアルバムはかなり聴いてます。
眠い時に聴くと安らかに眠れるというささやかな個人史もなくはないですが(笑)。
でもハンク・ジョーンズはあまり聴いてなかったです。
佇まいからしてカッコいいですね。
88歳ですか。
身体のどこにも力を入れなくても力量を発揮できる大名人の佇まいも感じます。
そしてわたしもこうした演奏を愉しめる「大人」になったんだなあという、ささやかな(笑)個人史的感想も湧いてきます。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2020-04-12 03:10) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

渡辺貞夫の先輩格は守安祥太郎、穐吉敏子などですが、
穐吉にアメリカで学ぶように誘われて留学、
最新のジャズ・メソッドを日本に持ち帰り
そこから日本の近代的ジャズが始まった
というように言われています。
日野皓正は白木秀雄クインテットが経歴の始めですが、
この2人の日本ジャズ界への影響力は大きいです。

渡辺貞夫のルーツはチャーリー・パーカーですが、
さらにブラジルやアフリカ系のテイストを取り入れたり、
アルバム《パストラル》はイージー・リスニング的なジャズとして
ヒットもしたようですが、いわゆるフュージョンとは
やや違うように感じます。

スペクトラムというのはよく知らないのですが、
管のバンドですからフュージョンの範疇なのでしょうけれど、
高中正義はサディスティック・ミカ・バンドが彼のルーツですから、
どちらかといえばロックですよね。
ジャズとロックのお互いの対抗意識というか
一種のマウンティングなんでしょうか。確かに不毛ですね。

マイルスの一時期はロックっぽいテイストを感じさせますが、
今聞くとやはりジャズでしかないというように思います。
リズム的にはロックな雰囲気もありますが、
コンセプトそのものがジャズですから。

私はピアニストを中心としてジャズを聴くことが多いので、
その時代その時代のスタイルの変遷に興味があります。
ビ・バップのピアニストでは
ソニー・クラークやホレス・シルヴァーといった
比較的オーソドクスなピアノが好きですが、
ハンク・ジョーンズも区分けとしてはビ・バップです。
ただ彼の場合は非常に現役時代が長いので、
時代の変化への適応性・柔軟性に感心してしまいます。
by lequiche (2020-04-13 02:28) 

向日葵

↑ 上の記事とはあまり関係ないんだけど。。

「本」って本当に本当に、処分に困るのよねぇぇぇ!!!
by 向日葵 (2020-04-13 04:15) 

lequiche

>> 向日葵様

JUNKOさんの書棚の記事ですね?(^-^)
向日葵さん、まだまだアマいです。
ウチの書棚の収容率は250%くらいです。
前と奥と必ず2列に。さらに上の隙間に横置きに入れるので、
縦に並べている本の高さを揃える必要があります。
処分は考えていませんが、もう置くところがありません。(笑)
by lequiche (2020-04-14 00:07) 

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