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ペイズリーパーク1987のプリンス [音楽]

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9月25日発売のプリンスが配送されてきた。お、重い……、今回の《Sign ‘O’ the Times》は12インチボックスに入ったCD8枚組+DVD1枚という大部なエディションで、でも実はこの前の《Up All Nite with Prince》を、まだよく聴いていません。

今回のDVDは1987年12月31日のペイズリーパーク・ライヴとのことだが、YouTubeのオフィシャルからその映像が9月24日付けでupされている。う〜ん。
いつもながらの延々と続くメドレーというパターンは同じで、ウリは《THE FLESH sessions》といったブートでも知られていたマイルス・デイヴィスとの共演であるが、この動画のリストで見ると1:38:30から30分以上にわたって続く〈It’s Gonna Be a Beautiful Night / Chain of Fools〉にマイルスは登場して来る。マイルスはさすがにマイルスで、一瞬にしてそのシーンをマイルス色に変化させる。
全体的に見ると〈Little Red Corvette〉がすぐに終わってしまうのが残念だが、〈If I Was Your Girlfriend〉から〈Let’s Go Crazy〉への流れがシブくて、しかもこういうレッツ・ゴー・クレイジーってあるんだという意外性もある。プリンスの演奏はほとんどがギターで終始するが、ライヴの最後のほうで生ピアノで弾く一瞬のインプロヴィゼーションにきらめきがある。

この前の『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』という本の記事を書いていたときに、1980年代という時代の音楽の変遷について考えるヒントをもらったような気がする。
YMO散開後、細野晴臣はアンビエントな音楽に傾斜してゆく。もちろんすべてがアンビエントではなく、振れ幅があるが、それは《コインシデンタル・ミュージック》(1985)、《エンドレス・トーキング》(1985)、そして《銀河鉄道の夜》(1985) といった作品に感じられる内向的な方向性だ。それはたとえばブライアン・イーノの《Thursday Afternoon》(1985) などと時期を同じくしている。

私の好んでいた音楽の範囲でいうのなら、デヴィッド・シルヴィアンの《Secrets of the Beehive》が1987年、そしてその後は1999年の《Dead Bees on a Cake》まで彼のソロアルバムは存在しない。コクトー・ツインズは《Treasure》が1984年、《Victorialand》の1986年を経て《Blue Bell Knoll》(1988) へと収斂してゆく。むしろ衰退といってもよい。エンヤが1988年の〈Orinoco Flow〉をヒットさせて翌1989年の《Watermark》をリリースしたあたりでそうした傾向、つまり外から内への移行が顕著となる。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの1stである《Isn’t Anything》が1988年でありシューゲイザーというジャンルを打ち出した頃でもある。ビッグネームを見てみるとU2の《The Joshua Tree》が1987年、ケイト・ブッシュは《The Sensual World》を1989年に出しているが、ケルトを取り入れたのはエンヤに感じられるようなその時期の流行だったともいえるが、wikiにも書かれているようにジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』のモリー・ブルームにインスピレーションの元があるという (私のリアルタイムでのケイト・ブッシュはこのセンシュアル・ワールドからであるが、それまでの作品と較べてやや違和感があった。それはそれまでの伝統的西欧主義で維持されてきた音楽シーンへの懐疑なのだろう)。
こうした変化の区切り、あるいは転換点の象徴として、1985年のライヴエイドという巨大イヴェントがあるが、ライヴエイドにはプリンスもマイケル・ジャクソンもスティーヴィー・ワンダーも出演していない。そして私はこのライヴエイドを全く知らないし映像などの記録も観たことがないので、なんとも言いようがない。考えられるのはウッドストックやライヴエイドのような巨大イヴェントによって生じる幻想は色褪せ始め、時代はインティメイトでインディヴィデュアルなほうにシフトしていったのではないかと思えることだ。

そうした流れの中でのプリンスは、1986年の《Parade》から1987年の《Sign ‘O’ the Times》、そして《Lovesexy》(1988)、《Batman》(1989) と続くが、ヒットチャート的なトレンドからすると異質であり、売れてはいたのだけれど自分の本質からは遠いことしかできない不満が、その後の名前が消失する時代へとつながっているように思える。


Prince/Sign ‘O’ the Times (ワーナーミュージック・ジャパン)
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Prince/Live at Paisley Park 1987.12.31
https://www.youtube.com/watch?v=v_aAug_PpUM
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末尾ルコ(アルベール)

80年代後半から90年代前半くらいにかけて、わたしには大きなブランクがあるんです。
その期間、重度の精神的不調に落ちてしまい、ほとんど何もできませんでした。
その10年間の中でも状態に軽重はありましたが、ほとんどの期間、できちたのは本を読むことくらい。それさえもできない期間もありました。
だから「シューゲイザー」なんていう言葉自体、ずいぶん後から耳にしたのです。
どうにか精神的不調を脱してからは、浴びるように芸術鑑賞を始めましたが。
ただ、その不調期間があったからこそ現在に繋がっていると、無駄ではなかったどころか、結果的には大きな意味を持つ機関だったと今となっては思えています。

だからプリンスはデビュー当時のインパクトはよく記憶していますが、その後はリアルタイムでは追うことができてませんでした。
しかしこうして今回のお記事を拝読させていただきながら、案外断片的にリアルタイムで知っていたアルバムや出来事もあり、おそらくどうにかラジオで聴いていたものもあったのだと発見することができました。
ケイト・ブッシュの『センシュアル・ワールド』はリリースよりもずっと後に聴いたもので、この辺りに「何もできなかった」時期の自分が見えてきます。
『ドリーミング』は大好きなアルバムで、ジャケットをしばらく部屋に飾ってました。
ライヴエイドについてもどのようなルートだったか、いろいろと情報は知っていましたが、ウッドストック(←もちろんリアルタイムではないですよ 笑)などとはまったく異なる雰囲気を感じましたです。これもその時の印象に過ぎないのですが、う~ん、ちょっと偽善的な雰囲気を感じていたかな。でもこれも今しっかり振り返ってみると異なる印象になるかもしれません。
過去の探索・・・おもしろいですね。今後の大きなテーマの一つとしていきたいです。

・・・

この前テレビで池田エライザが森田童子の「ぼくたちの失敗」を歌ってましたが、これまたなかなかによかったです。
「ぼくたちの失敗」の歌詞には「チャーリー・パーカー」という固有名詞が出てきますね。
このところお記事でパーカーのお話を読ませていただいてましたので、とても嬉しい気分になりました。
こういうの、(ただの偶然)とは思いたくないです。過度な神秘主義に陥るつもりはないにしても(笑)。

ショスタコーヴィッチとソ連との切っても切れない関係性は、今となってはこの作曲家の存在に大いなる陰翳や深みを与えているような気もします。
ソ連そのものについても強い興味を持っておりまして(興味が多過ぎて時間が足りないのですが 笑)、今後もいろいろ調べてみたいと思ってます。

> 戦時中の反米感情を避けるために日本語名に改名しました。

このところの日本の雰囲気、たとえばこの前全米オープンで人種差別反対のマスクを着用して優勝した大坂なおみに対する愚劣極まりない一部ネットの反応などを見ると、戦時中の雰囲気にいつ舞い戻ってもおかしくないなという感があります。今のところメディアのほとんどは大坂側に立っていましたが。
しかし現在の大坂なおみの、他のすべての日本人スポーツ選手が束になっても太刀打ちできないほどの世界的巨大さを理解できている日本人がどれだけいるか。このガラパゴスぶりを醸成したのは主にメディアであるとも言えると思います。

細野晴臣は『ナウシカ』も作っているんですね~。安田成美が歌ってましたよね。あのたどたどしい歌うっぷりは常に記憶に新しいです。
そう言えば、母がお世話になっているケアマネさん、この間の家庭訪問では原田知世が表紙の『映画秘宝』を「知世ちゃんだ!」と盛り上がってました。人気ありますね。

それにつけてもIOCなる団体のこのところの発言、「コロナの状況と関係なく五輪開催」とか言いますからね。「鬼畜」という言葉さえ念頭に上ります(笑)。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2020-09-28 09:37) 

coco030705

こんばんは。
プリンス、かっこいいな~と思います。
それより、この間のカバーズで、池田エライザが、「僕たちの失敗」を歌っていてすごくよかったです。池田エライザは司会に登場した時から好きです。独特の雰囲気を持った人ですね。この歌は森田童子にしか歌えないと思っていたのに、なんなく、軽々と自分の持ち歌のようにうたうエライザが、魅力的でした。「カナリア」もいいですね。
コンサートに行ってみたいです。
by coco030705 (2020-09-30 00:09) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

あぁ、そういうブランクっていうのありますね。
ある一定の期間、そこだけ何も残っていないというか、
つまり記憶として残る歴史が無いわけです。
私は精神的な落ち込みというのはなかったですが、
仕事が忙しくて音楽も読書も何もできない時期がありました。
でも、とりあえずCDでも本でも買い込んでおいたので、
それは後になって役にたちました。
シューゲも、実はマイブラを知ったのは解散後です。
こういうふうにギターを弾いてもいいんだ、
という点で目からウロコでした。

プリンスもまともに聴き出したのはずいぶん後で、
最初はよくわからなかったですしキワモノだとも思ってました。
気づいたのは実際にライヴを観たときです。
これはすごい! と。
それから遡って聴いていったのですが、
でもそのときも、今から考えるとよくわかっていませんでした。
プリンスはやはりわかりにくい面があります。
最近、ビートルズ、ストーンズといったビッグネームでは
昔のアルバムの別テイクなど全部集めた
超デラックス盤が次々と出されていますが、
私の場合、どちらかというとプリンスを選択してしまいます。
ビートルズの《ホワイトアルバム》ならともかく、
《山羊の頭のスープ》のスーパーデラックス盤とか言われても、
レギュラー盤でいいや、という感じですね。
でもプリンスは最近出ているものは全部買っています。
といってもLPまではさすがに買えません。CDのみです。

ケイト・ブッシュは《ドリーミング》が最高傑作だと
私も思います。ジャケットも印象的なデザインです。
でも《レッド・シューズ》にはプリンスの参加曲がありますね。
クラプトンの参加曲の影に隠れてしまっていますが。

ウッドストックもライヴエイドも、複数の出演者というのは
基本的にはお祭りなんだと思います。面白いとは思うのですが、
でも私はあまりお祭り好きではないので。(^^)

森田童子の歌は知りませんでした。
YouTubeで聴いてみましたが過去に聴いたような記憶はあります。
歌詞をみましたが、確かにチャーリー・パーカーが出てきますね。
椎名林檎だとシド・ヴィシャスとか、
そういう具体的な名前って歌詞としてのインパクトはありますが
全体的な融合性を考えるとむずかしいです。
最近の歌でドルチェ&ガッバーナというのが出て来る曲があって、
ああいうのはちょっとねぇ……と私は思います。
でもそれをカッコいいと思うリスナーも多いのでしょう。

メディアのガラパゴス化というのは、
やはりドメスティックに特化したほうがわかりやすいからです。
音楽でいうならば洋楽やクラシックはわかりにくい。
だから昔なら演歌、今ならJ-popです。
実はそんなに変わっていないのです。
クリエイティヴな志向がなければ当然そうなります。

安田成美は以前のブログ記事にも書いたのですが、
大貫妙子プロデュースによる《ginger》がいいです。
いいというより超・名盤です。
https://lequiche.blog.ss-blog.jp/2012-09-29

YouTubeには〈思い出のロックンロール〉がないので
《ginger》の〈パパを愛したように〉をリンクします。
かしぶち哲郎が書いた曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=H_U_A8iGgj4

原田知世は鈴木慶一プロデュースの《ガーデン》がいいです。
原田知世の中で一番エキセントリックなアルバムです。
https://www.youtube.com/watch?v=52VJNtq7DkA
〈アパルトマン〉なんて加藤和彦っぽいです。

IOCはオリンピックで成り立っている団体ですから。
by lequiche (2020-09-30 02:21) 

lequiche

>> coco030705 様

プリンスは総合的な音楽力が高いです。
これだけ歌も楽器もできる人は滅多にいません。
歌詞はときとして下品ですが確信犯なので。(^^;)

上の末尾ルコさんのコメントでも
池田イライザについて触れているので
YouTubeで探して聴きました。
私が聴いたのはこれです。
https://www.youtube.com/watch?v=9MwrV0E4_4g

これはいいですね。さらっと歌ってしまっていながら、
でもこの曲のエスプリが出ています。
カヴァーの女王、柴田淳はときとして原曲を凌駕しますが、
それに似た感じがしました。
by lequiche (2020-09-30 02:21) 

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