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書店で [雑記]

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書店で、岸本佐知子の本を買おうとしていたら、左隣で、同じ本を手にとった人がいました。かなり年配の男性です。しばらくして本を棚に戻したのですが、今度は右側のほうに行って、スティーヴン・キングとか翻訳書を見ています。うっとうしいなぁ、と思っていたところ、本棚の向こう側に行ってしまったのですが、そのうちぐるっと回ってきて、またそのへんの本を眺めながら、私に突然聞いてきたのです。
「中学生の女の子なんだけど、どんな本がいいかな? 中学生くらいってむずかしいんだよ」
いきなりそんなこと言われてもねぇ。おそらく孫娘に何か本を買ってやるつもりらしいのです。クリスマスですし。そして、
「これなんかどう?」
って棚から抜き出したのが特装版の『オズの魔法使い』。う〜ん、名作ですけど、でもその子の好みがありますから、それに今の子にはちょっとぬるくてピンと来ないかも、と言ってしまいました。それにしてもスティーヴン・キングとライマン・フランク・ボームって、もうメチャクチャ。

じゃあ、何か良い本ないかね? と言われてもあまりに漠然としてるし、そもそもその子がどんな子でどんな好みなのかもわからないし。すっごく本が好きなのか、それともあんまり読んだことがないのか。文化系か体育会系かによっても違いますよね。それで日本の作家はどうなんですか、と聞いたところ、日本の作家はいいと思えるのがないんだよね、と言うのです。
突然ひらめいたので、アーシュラ・ル・グィンってどうですか? と言ったら案の定知らない。『ゲド戦記』って有名なシリーズがあって、これは名作です。翻訳も素晴らしい、と勧めてみます。それ、むずかしくない? と言うので、小学校高学年以上だったら全然大丈夫、というと、それが見たいというので、でも今見ている一般書の棚ではなくて児童文学なので、岸本佐知子の本を持ったまま、かなり遠くの棚まで探しに行ったのですが、岩波少年文庫の棚はごっそり抜け落ちてスカスカになっていて『ゲド戦記』がない。

ダメじゃん、この本屋。と思ったけれど仕方がないので、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』の上巻があったので、表紙もなんとなくオシャレだし、とりあえずこれとか、とお見せしたら、上巻だけ? というので、読んで面白かったら下巻も買うのはどうですか、と言うと、どうもありがとう、と籠に入れました。実際に買ったのかどうかはわからないですけれど、でも岩波少年文庫ならそんなに高価な本ではないし、失敗してもダメ元だと考えたのです。

でも、あとから考えるとそこは某有名書店の支店なんだし、ブック・コンシェルジュなるスタッフがいたっておかしくないし、せめて店員さんに聞けばいいのに、と思ったのですが、逆にそういうのがきまりわるかったのかもしれないです。それにもしかすると、スティーヴン・キングを見てたくらいだから、その子はミステリーとかホラーが好きな子なのかもしれない、と突然思い当たる。エンデは失敗だったかも。
または意外に読書家で、エンデなんか当然読んでいて、「これ、もう読んで知ってるよ、おじいちゃん!」 と言われてしまうかもしれないです。

だったらそんなエンデとか推薦図書みたいな無難なのでなくて、ジャン・ジュネとかガルシア=マルケスとかホセ・ドノソなんかを 「これ、名作ですよ」 って言って勧める手もあったなぁ、と、よこしまな妄想をしてみる。ま、妄想だけでさすがにそれはしませんけど。いっそ、岸本佐知子でもよかったかなと思い当たる。でも中学生でこんなの読んだら、ひねちゃうかもね。

岸本佐知子、面白いです。最近、ブレイディみかこも面白いですけど彼女は体育会系、でも岸本佐知子は学生時代にアーチェリーやってたとかいうんだけど、バリバリな文化系です。とゆーか、脱力っぽい、あるいは脱力っぽく見せかけてるエセ脱力系エッセイがだんだんと幻想小説っぽく変化していくところとか、おぬしできるな状態で、うん、岸本佐知子って天才かもしれないと思う今日この頃です。装幀もいいなぁ。これ、おすすめです。表紙写真も筆者の撮影です。ネコの置物みたいなのは上海で買った陶器の枕だって。笑うよね。


岸本佐知子/死ぬまでに行きたい海
(スイッチパブリッシング)
死ぬまでに行きたい海




<ミヒャエル・エンデ/はてしない物語 (岩波書店)
はてしない物語 上 (岩波少年文庫)




海芝浦駅/男女7人秋物語 第1話『再会』より
https://www.youtube.com/watch?v=vP5BnGgHcCE

     *

三枝夕夏 IN db/誰もがきっと誰かのサンタクロース
https://www.youtube.com/watch?v=Tr-QHhlfkUY&t=32s
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きよたん

中学生くらいになると難しいですね
大人の読む本でもおかしくないですけどね
ミヒャエル・エンデ/はてしない物語
いいかも
by きよたん (2020-12-24 17:13) 

末尾ルコ(アルベール)

おもしろいですね。中学生の女の子・・・わたしだったらどんな本を選ぶか想像を巡らせてみました。
本のプレゼントって素敵だと思いますが、今までに渡してから、(こりゃ絶対一生読まないだろうな)と、(しまったあ!)と感じたことも何度かあります。多少なりとも本に興味を持ったら普通は頁をペラペラ捲ったり目次をチェックしたりとかするものですが、ある人は「ほおっ!」と言ったきり、本を持つ手がまるで「石」を持っているような雰囲気だったのです。きっと「本の存在しない世界」に住んでいた人だったのでしょうね。大人になってから読書の習慣を始められる人もいなくはないけれど、稀なのではないでしょうか。
中学生女子が相手となると、「分かりやすく、美しい本」を見つけたいところです。よほどの読書好き中学生であればまだしも、そうでなければいきなり三島由紀夫とかジャン・ジュネ(笑)とかは贈らないと思います。自分が中高時代に呼んでいたからといって、夢野久作とかも相応しくないでしょうね(笑)。「分かりやすく、美しい」と言えば、知性や美意識がある程度育っている中学生であれば、澁澤龍彦の『フローラ逍遙』なんかいいかもしれません。普通の中学生ならまだ早いかもしれませんが。
そう言えば、友人のフランス人の娘さんたちが中学生くらいの頃は、『トワイライト』だとか『ハンガーゲーム』だとか、米国のティーン向け小説を熱心に読んでいました。姉妹でしたが、彼女らはその時点でフランスの小説にあまり興味を持ってませんでした。『トワイライト』も『ハンガーゲーム』も、冒険と恋愛がストーリーの中心でしたね。わたし、ジェニファー・ローレンスのファンなので映画を観てから小説も読んでみましたが、少々気恥ずかしい気分になりました(笑)。

本にしても映画にしても音楽にしても、「誰かにお薦めする」という行為はわたしの大きなテーマでして、しかし当然ながら高度にデリケートかつ知的な作業でもあり、難しいです。
当然ながら、「自分の好きなもの」を薦めるなんてことを軽々にするわけにはいかず、もちろん「好きな作品は?」と問われれば、思うさまに「好きな作品」を答えればいいのですが、「誰かにお薦めする」となるともしその「誰か」の好みや鑑賞力がある程度分かっておればその情報を基にしてのお薦めとなりますし、分かってなければ「誰か」の雰囲気などで類推したり、あるいは「より広い層が愉しめるもの」のチョイスを試みることになります。
理想論ではありますが、そして理想論というもの常に語り続けるべきだと思っておりますが、やはり人間同士、「いいもの」を薦めたり、薦められたりと、そんな社会に少しでも近づけたいという思いは強いのです。
岸本佐知子は読んだことありません。ぜひチェックして、読んでみたいです。現在わたしは、ジャン・アヌイの『ひばり』とアルベール・カミュの『カリギュラ』を中心に読んでます。

・・・

「ハルカ」のご説明、有難うございます。
平易な言葉で重層的な構造に作られていることがよく分かりました。
言葉を駆使するって、おもしろいですね。
そう言えば、YOASOBIが『紅白』出場ですね。わたしは『紅白』観てないのですが、その変遷を辿ると日本人のメンタリティの一環が浮き彫りになりそうですね。
「ハルカ」について言えば、「死」をそのままでなく、そして陰鬱でもなく表現するって凄いですね。
また聴き込んでみます。

「無償の愛」という概念は、キリスト教の影響を受けているわたしにとっては正しく人生の大きなテーマです。もちろんわたしの中には人一倍邪な要素もあるんですが(「もちろん」というのはどうかと我ながら思いますが 笑)、同時に常に「無償の愛」への志向も存在しているのです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2020-12-24 19:14) 

sakamono

読んでいる方としては、ドラマのようでおもしろかったです。
書店員と間違われたワケではないのでしょうけれど。
読書家の雰囲気が出ていたのかもしれませんね^^;。
by sakamono (2020-12-24 22:20) 

英ちゃん

゚*::;;;;::*゚o<(*・∀・)b 【Merry Xmas】 d(・∀・*)>o゚*::;;;;::*゚
by 英ちゃん (2020-12-25 00:37) 

kome

岸本佐知子、来年読んでみます。
中学生といえば、くだらん部活が多いから
今自分が中学生だったら、1人部活してその手のハウツー本を読書します。
自分で新しい部を創るのもいいし。
そうなると図書券ですね。


by kome (2020-12-25 15:00) 

kick_drive

こんばんは。突然聞かれても困ってしまいますが
その方からすればlequicheさんが信頼できる方に
見えたのでしょうね。
本屋さん全然行かないです。買っても読まないし。
全く向いてないです。

by kick_drive (2020-12-26 18:19) 

lequiche

>> きよたん様

私は中学生の時、漱石全集をほとんど読んでしまいましたが、
表面的に理解しているつもりでいても、
今考えると全然わかってなかったんじゃないかと思います。
エンデっていいですけど、あまりに優等生っぽい選択なので、
もっとこうなんか、とんでもないものを読ませたい
という衝動があるんですけれど、
でもそれはやぱ、やめといてよかったかもしれないです。(^^;)
by lequiche (2020-12-26 22:27) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

プレゼントというのはやさしいのとむずかしいのがあって、
本って意外にむずかしいです。
あけすけに言ってしまうと、送るほうにとっては
相手の理解力を値踏みしているみたいなところがありますし、
逆にもらう立場からするとくれた人のセンスがわかってしまう。
それは本に限りませんけど、
一番難しいのは服飾品で、服なんてやたらに贈ったらダメです。
その人のセンスそのものがまるわかりですから。

ティーン向け小説ってあるんですか。
やはりある程度の年齢に特化した書き方って
あるのかもしれませんね。
ジャン・ジュネというのは冗談ですけれど、
でも三島由紀夫の若い頃の作品はそれなりに良いはず
と思います。
最近は三島がちょっとしたブームですが、
有名作ばかりが定番になっているみたいなのが残念です。
それと必ずしも小説である必要性はないので、
シートンとかファラデーみたいなのは名前は知っていても
意外に読んでいる人は少ないんですよね。
また、年齢が上がってから、わざと子ども向けの本を読む
というのも子ども時代にはわからない部分が発見できて
面白いです。
そして優秀な児童文学は大人の読書にも耐えうるものです。

児童文学はどんなに奇矯な内容であっても
サドとかジュネみたいな範疇までには行きません。
常識的に考えて行けるわけがないと思います。
それはある意味、縛りですが、その縛りのなかで
どのように表現をするのかということが問われます。
ティーン向けよりも縛りはもっとキツいと思います。
ですから、ありきたりといえばそうなのかもしれませんが、
正統性、あるいは正当性ということでは
一番王道なのではないかと思います。

自分が好きなものとお薦めするものは当然異なります。
それが一致すれば幸せですが、現実はそうではありません。
相手の嗜好を考えて相手に合わせること、
それは成功することも失敗することもありますが、
このへんでいけるかな、と決めるのは一種の賭けです。
そのさじ加減が面白いこともあります。

岸本佐知子のエッセイはいわゆる余技で、
本来の仕事は翻訳です。
でもその余技が面白いというのがすごいのですが、
翻訳の骨休めに勝手なことを書いてみた、
というのが動機なのではないかとも思います。

アヌイは寡聞にして読んでいません。
そのあたりも重要なのだと思うのですが、
マイブームがそのへんになったら読むかもしれません。

YOASOBIは全く異なりますが、
Perfumeが出てきた頃と似た感触があります。
ボカロのひとつの形態と考えることもできますが、
なにかひらめくものを持っている、
というのが私の第一印象でした。

ハルカはその原作が鈴木おさむですが、
それをどのように変奏していくかという点について
なるほどそうなのか、という面を持ち合わせています。
無償の愛という概念は古いSFなどにも散見されますが、
それはSFというジャンル自体がかなりオーソドクスな
いわゆるキリスト教的概念をバックボーンとしている
という面から見れば当然なのです。
筒井康隆の場合は、そうしたSF界全体の趨勢に
影響を受けているようにも思えます。
初期の作品『馬の首風雲録』はブレヒトの
肝っ玉おっ母 (Mutter Courage und ihre Kinder)
がベースになっていますが、これもその好例です。
by lequiche (2020-12-26 22:27) 

lequiche

>> sakamono 様

どうなんでしょうね。
書店員といっても本に通暁しているとは限らないですし、
まして公立図書館の職員なんて単なる公務員ですから、
基本的に頼りにならないという思い込みは
あるのかもしれませんね。
by lequiche (2020-12-26 22:27) 

lequiche

>> 英ちゃん様

クリスマス、もう終わってしまいましたけど、
ありがとうございます。(^^)
by lequiche (2020-12-26 22:28) 

lequiche

>> kome 様

あははは。なるほど、そういうのもありですね。
私はブラバンだったので、
その頃には本はあまり読んでいませんでしたし。
でも図書券だと、結局、鬼滅の刃を買うだけ
って感じもありますけど。
by lequiche (2020-12-26 22:28) 

lequiche

>> kick_drive 様

そのように見てもらえたのなら
よかったのかもしれませんが。
本を読むというのは習慣性ですね。
読まなくてもいられれば全然読まなくても
別に困りませんし。
一種の麻薬みたいなものなのかもしれません。(オイオイ ^^;)
by lequiche (2020-12-26 22:28) 

うりくま

lequiche 様にコンシェルジュを・・その高齢男性
うらやましいぞ!というか有料でどうでしょう?
知らない人にお薦め本を聞かれたら、とんでもない
のを選びたい気持ちを抑えて無難なものを選んでし
まいますね。理解してくれそうな人だとわかったら
徐々にマニアックな好みを解禁していきますが。
中学、高校時代は友人からの誕生祝いは漫画かお薦
め本をお願いして「李白詩集」やニーチェの「この
人を見よ」などを頂きました。その人の好みも判り、
自分の世界も広がって感想を語り合う事もできるの
で楽しかったです。が、自分ががその頃はまってい
たカポーティの「冷血」をプレゼントしてドン引き
されたこともあったので、内容がお祝い向きかどう
かも考えるべきだったと反省しました・・。
岸本佐知子さんの本、面白そうですね!読んだこと
がないので、近いうちに探してみます。
by うりくま (2020-12-27 21:44) 

lequiche

>> うりくま様

学校の課題図書というのが必ず無難なのは仕方がないですね。
こんなのを子どもに読ませたらいけない、とか
必ずクレームをつける親が出てきますから
どんなクレームにも対応できるようにと考えると、
最大公約数的な本に落ち着かざるを得ないのだと思います。

本やCDといった品は人それぞれの嗜好が強いですから、
なるべく他人にはあげたくないですし、もらいたくもないです。
本はモノというよりは思想を伝えるような感じもするので、
自分の思想を他人に押しつけたくはない、
という気持ちもあります。
よほど気心の知れている人とか、
あらかじめ好みがわかっている場合は除きますが。

ただ、本それ自体がかたちとして美しい場合があります。
うりくまさんが書かれていた
山尾悠子/中川多理の『小鳥たち』もそうですし、
この岸本佐知子の『死ぬまでに行きたい海』もそうです。
こうした本はたとえ中身がなくてもいいんです。
宝石みたいな、ものとしての魅力がありますので。

岸本佐知子は翻訳家で特にショーン・タンの訳で知られています。
エッセイは余技だったのですが、
こっちのほうが面白いかなというくらいに
ハマっていますね。

きよたんさんへのコメにも書きましたが、
文庫になっている脱力系エッセイもありますので、
お試しには手軽だと思います。

ねにもつタイプ
https://www.amazon.co.jp/dp/4480426736/
なんらかの事情
https://www.amazon.co.jp/dp/4480433341/
by lequiche (2020-12-29 23:47) 

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