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The Water Rises — ローリー・アンダーソン [音楽]

Lou&Laurie_210219_impLife.jpg
Laurie Anderson, Lou Reed
(improvised lifeより)

〈The Water Rises〉はクロノス・クァルテットの2018年のアルバム《LANDFALL》に収録されているローリー・アンダーソンとのコラボ作品である (→a)。陰鬱な響きは彼女の作品としてはやや珍しい。このアルバムの曲想は2012年のハリケーン・サンディへの被害に対する哀悼の意味をこめたものなのだというが、YouTubeのごくシンプルな動画でスクロールされる言葉は、日本においてはなにか異なった意味を連想させてしまうように思う。

 the water rises

 and overflows

 the city drowns

ルー・リード (Lou Reed, 1942−2013) は2015年のRock and Roll Hall of Fameのひとりに選ばれた。その受賞式でのローリー・アンダーソンのスピーチの様子をYouTiubeで見た (→b)。彼女はルー・リードの妻である。また同じ場所でのパティ・スミスのスピーチもある (→c)。明晰なローリーのスピーチに対して、感極まって言葉に詰まるパティ・スミスの表情が素晴らしい。2人のスピーチのどちらにも、客席にいるオノ・ヨーコの姿がチラッと映る。
そしてHall of Fameを遡って2009年の25周年コンサートにおける〈Because the Night〉の歌唱も泣ける。歌っているのはパティ・スミスとブルース・スプリングスティーン、そしてU2である (→d)。パティ・スミスのルーツはパンクであり、私が最も共感できるその精神性に胸をうたれる。

そこで、ローリー・アンダーソンの昔のパフォーマンスを探してみた。1984年の《Letterman》では少女のような声質に (→e)、そして同年のドイツのTV《bei Bio》では男性的な声に変調されているが (→f)、まさにヴォコーダーの効果を熟知した彼女の特徴をあらわしている動画である。ドイツのTVの動画にはイーヴンタイドのH949がしっかりと映っている。
60年代の彼女のスタジオを紹介している動画もその時代が現れていて見入ってしまう。まだアナログのテープレコーダーが全盛の頃だが、おそらく当時の最新機器の集積のはずだ (→g)。

ルー・リードで検索すると古いina.frのモノクロの動画に行き当たった (→h)。近年のベルリン復元ライヴもそれはそれで面白いが、同時代の香気には及ばないような気がする。ただ、同時に思ったのだが、ルー・リードは意外にむずかしい。わかる人にはわかるのだが、わからない人って結構いるのかもしれない。デカダンの闇は深い。

でもそういうことで見るのならば、オノ・ヨーコはもっとわかりにくいのかもしれない。わかりやすそうに見えて、人は彼女の周辺のことばかり見てしまう。六本木のジョン&ヨーコ展にも一応行ったのだけれど、不完全燃焼のような思いだけが残った。きついことを言えばキュレーションがよくない。というか素材そのものが不足なのだろう。ともかく、Yesの脚立に登れなければ意味がない。そして、グッズが致命的に高過ぎる。
それとジョンとヨーコはその資質が全く異なるのだ。一緒に暮らしていたがお互いの個性を尊重していて、不要に踏み込むことはしなかった。それを理解していないと焦点はぼやけてしまう。
《warzone》をどう聴くか。お手軽なシロートの作品に過ぎないと思うか否か、である (→i)。プラスティック・オノ・バンドから進歩していないともいえるし、音楽の進歩とはまた違うものだともいえる。それは全く別の局面のように思えて、実はルー・リードを、あるいはパティ・スミスをどう聴くかということに通じる。


Laurie Anderson/Landfall (Nonesuch)
Landfall




a) Laurie Anderson & Kronos Quartet/
The Water Rises 〜 Our Street Is a Black River
https://www.youtube.com/watch?v=MlVXBxAuDGw

b) Laurie Anderson Acceptance Speech
On Behalf Of Lou Reed at the 2015 Hall of Fame Ceremony
https://www.youtube.com/watch?v=2VaeEmBPmGk

c) Patti Smith Inducts Lou Reed
at the 2015 Rock & Roll Hall of Fame Induction Ceremony
https://www.youtube.com/watch?v=51I1vUfcFdI

d) U2 with Bruce Springsteen and Patti Smith/
Because the Night
Live from the 25th Anniversary Rock and roll Hall of Fame concert!
October 29 and 30, 2009 at Madison Square Garden
https://www.youtube.com/watch?v=yazLuGlQ0bg

e) Laurie Anderson on Letterman, May 8, 1984
https://www.youtube.com/watch?v=p46nOuCVnYc

f) Laurie Anderson on German TV bei Bio 1984
https://www.youtube.com/watch?v=RTxqg8g_jXM&t

g) Laurie Anderson Home studio (late 80's)
https://www.youtube.com/watch?v=YajQNIAY78k&t=51s

h) The Velvet Underground/Berlin
(Bataclan 1972 - Paris) | Archive INA
https://www.youtube.com/watch?v=X_83BliFcFg

i) Yoko Ono/Now Or Never
https://www.youtube.com/watch?v=svxKQ4l8SC4
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kome

ローリー・アンダーソンのbig scienceというレコード、超好きでした。
なんか片言の日本語で歌っていたのがあったような?どのレコードか忘れましたけど。

by kome (2021-02-19 22:43) 

末尾ルコ(アルベール)

ローリー・アンダーソンはルー・リードの妻でしたねえ。今思い出しました。凄い夫婦ですよね。
ルー・リードは概ね聴いてますが、ローリー・アンダーソンは、ずっと知ってはいましたが、あまり聴いてないんです。この機会に積極的に聴くようにしてみます。

アンダーソン、パティ・スミス、オノ・ヨーコが一堂に会する場というのも凄いですね。パティ・スミスは大好きなのですが、実はもの凄く没頭したことないんです。スミスも今後積極的に聴いていきます。
それにしても、ローリー・アンダーソンという存在が確固たるポジションに居続けるているのも米国の凄みの一端ですね。ちょっとその表現活動のキャパシティ、他に比較する人が思いつかないくらいです。かつて坂本龍一がローリー・アンダーソンと会った後、やや興奮気味で「ものすごい刺激になりましたよ」と語っていたのが印象に残っています。
ローリー・アンダーソンとパティ・スミスのスピーチの違いもおもしろいですね。やはりスミスはよりエモーショナルなのでしょうね。そしてアンダーソンの明晰性は、日本人にはなかなか真似できない芯の通ったメンタリティだという気がします。

「Because the Night」はいいですね。スミスの文学性も感じさせられる楽曲だという気がします。
わたしにとってパンクとは、かつてはブリティッシュのみで、10代の頃は今考えるとおもしろいほど米国系を聴いてませんでした。だからスミスも後になって聴き始めたくらいですし、ラモーンズとかはほとんど聴いてないんです。
で、後から聴き始めてのパティ・スミスなのですあ、わたしにとっては「パンク」という括りを超えて、「ロックそのもの」というイメージもあります。

> デカダンの闇は深い。

いいですね~。あらためてルー・リード、そしてデカダンというものを見つめていきたいです。以前はわたし、しょっちゅう「デカダン、デカダン」と言ってたのですが(笑)、そう言えば最近は言ってませんでした。デカダンって、日本語では「頽廃」などの言葉を当てられますが、でもちょっとまた違う気がします。もっと奥深く、怖さも深い感じ。

オノ・ヨーコについては、わたしは表面的なことしか知らないです。でも彼女も凄い表現者なんですよね。新たな気持ちでいろいろチェックしてみます。
・・・

リンクしてくださっている、スペイン音楽に関するお記事、拝読させていただきました。
グラナドスの重要性、肝に銘じて、今後スペイン音楽を聴いていきます。

> スティーヴィーのスペイン

ホント、(わあ、何これ?凄いなあ・・・)と、演奏技術には明るくないわたしでも度肝を抜かれました。
スティーヴィー・ワンダーくらいになると、最高のミュージシャンが最高のプレイをしてしまうと、そういうことなのでしょうね。

今秋放送された、坂崎幸之助と玉井詩織(ももクロ)の『フォーク村』に、ガロの一人が出てました。声はいまだになかなかいいです。この方、ビートルズの日本公演を観たと言ってました。

YOASOBIなのですが、若手アイドルが楽曲を歌ってるのをみまして、すごく苦しそうに歌うんです。それを見て、あらためて(これは難しい歌なんだ)と実感しました。一見とても自然に歌っているikuraの技量がいかに凄いということですよね。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2021-02-20 05:48) 

lequiche

>> kome 様

《Bic Science》は〈O Superman〉の収録されているアルバムですね。
たぶん一番売れたアルバムではないでしょうか。
日本語の歌詞の作品は《Mister Heartbreak》の中の
〈Kokoku〉だと思います。
これです。
https://www.youtube.com/watch?v=Stz49JxKGGY

ローリー・アンダーソンはアヴァンギャルドなんだけれど
難解ではなくて聴いていて気持ちよい、というのが
その特質のように感じます。
by lequiche (2021-02-21 02:58) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ローリー・アンダーソンは知ってはいましたが、
本気でCDを買って聴いたのは21世紀になってからなのです。
それは衝撃的でした。
そのことをずっと以前にブログに書きました。
それがこれです。
https://lequiche.blog.ss-blog.jp/2012-04-18

彼女の使う楽器や機材はガジェットのようで、
でもそれはあくまでツールなのです。
最も重要なのは言葉です。
「アンダーソンの明晰性」 というのはまさにその通りで、
アメリカの信頼すべき知性を感じさせます。
それに対してルー・リードやパティ・スミスは情動的です。
ですから同類的なシンパシーがあってそれが涙となったのでしょう。

〈Because the Night〉はスプリングスティーンの曲で、
それにパティ・スミスが詞をつけたものです。
売れたということだけでいうのなら
この曲が彼女の唯一の大ヒットで、
ですから一発屋なのかもしれませんが、
そんなことはどうでもよいのです。
彼女の存在感はずっと持続していましたから。

 Because the night belongs to lovers

このbecaouseとbelongという韻がここちよいです。
パンクというよりもプリミティヴなロックですね。

ルー・リードはつまりヴェルヴェット・アンダーグラウンドで
そこにニコとかウォーホルがからんでくるわけで、
悪魔みたいなウォーホルとかまぁいろいろあるんですけれど、
そしてルー・リードには《Metal Machine Music》みたいな
当時ではとんでもないアルバムもあります。
ただ今の耳で聴くとメタルでもメカニックでもなくて、
その根底にあるのはデカダンでありメランコリーです。
ある意味、音楽的ではなくて状況的なのかもしれないのですが
それを捉えられないとルー・リードはわかりにくい
というような気がします。
そう。頽廃というと大正ロマンみたいな響きがあって
デカダンとはやや違いますね。

オノ・ヨーコについてもずっと以前に書きました。
これです。
https://lequiche.blog.ss-blog.jp/2012-09-08
この記事にリンクしている《Yes》という本は
非常にすぐれた画集です。
銀座のイエナに平積みになっていたのを見て
買ったのを覚えています。
ただ、オノ・ヨーコをビートルズ解散の元凶だとする
昔ながらのビートルズ・マニアの脊髄反射みたいな反発があって、
最近はさすがに衰えてきたような気もしますが、
ずばり言ってしまえば幼稚だなあと思うのです。
現実はそんなに簡単に割り切れるものではないはずなのに。

坂崎幸之助/玉井詩織の番組に出演していたのは大野真澄ですね。
ガロのことはよく知らないのですが、
いわゆるグループサウンズ後のフォーク・ブームの中で
それに迎合した歌謡曲を出していた経緯があるのですが、
メインで歌っていたのはほとんど堀内護と大野真澄です。
でも前記事でリンクしたCSNのメインを歌っているのは日高富明です。
このへんが、ふ〜ん、と思える部分です。
私のこの解釈は間違っているかもしれませんが。
ちなみに日高富明は早世しました。

YOASOBIのブーミーなベースではじまる最新曲〈怪物〉は
なんていうのか、つまりやりたい放題で、
それに加えて 「シロートはカラオケで歌えないだろ」、
というような挑戦的な楽曲ですね。(笑)
でもikuraちゃんのソロの曲はこんなのとはほとんど無縁で、
それなににどうしてこういう歌唱が可能になったのか、
もちろんテクニックがあることは確かですけれど、
いまだにこのプロジェクトの真相がよくわかりません。
by lequiche (2021-02-21 02:58) 

coco030705

こんにちは。
a)The Water Rises / Our Street Is a Black River
は、かなり面白いですね。最初のpoemだけが出てくる2曲はいいと思いました。次の声を加工して歌うのは、抽象画をみせられているようで、それが視聴者を気持ちよくさせるのとは違って、自分の思うがままのパフォーマンスなんですね。好き嫌いは別として、興味深いです。

d) U2 with Bruce Springsteen and Patti Smith/
Because the Night
耳なじみのあるメロディーラインで、聴いていて心地よいですね。コーラスがすばらしいなと思います。

h)The Velvet Underground "Berlin" (Bataclan 1972 - Paris) | Archive INA
静かでいつまでも聴いていて邪魔にならないと思いました。これを流しながら何かできそうですね。ちょっとボブ・ディラン的なところがあるのでしょうか。でもアクは強くないのでいいですね。
今、友達が送ってくれた「ボブ・ディラン ロックの精霊」湯浅学著、岩波新書を読んでいます。かなり面白い本ですね。ボブ・ディランは「風に吹かれて」ぐらいしか知らないので、これからYou Tubeできいてみるつもりです。
by coco030705 (2021-02-22 13:40) 

lequiche

>> coco030705 様

リンクをお聴きいただきありがとうございます。
ローリー・アンダーソンはその歌詞が重要ですが、
でも単に音として聴いていても
イメージが拡がるという点が素晴らしいです。
今のようにPCが発達していない頃から
彼女はこのようなパフォーマンスをしていました。
21世紀から見れば、ある意味アナログなんですが、
むしろそこに骨太な精神性を感じます。

〈Because the Night〉はU2をベースとして
パティ・スミスとスプリングスティーンが並んでいる
というだけで胸に迫るものがあります。
パティ・スミスの1stアルバム《Horses》をプロデュースしたのは
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのもうひとり、
ジョン・ケイルです。

そのヴェルヴェッツを経てソロになったルー・リードですが、
彼のアルバム《Berlin》は一種のコンセプトアルバムですが、
私にとってはシンパシィを強く抱く1枚です。
でもこのYouTubeはかなりオリジナルと異なっていて、
その当時のロックシーンを強く感じ取ることができますね。

ボブ・ディランを私はよく知らないのですが、
フォークを語るときはその基本ともいえる人のようです。
以前のジョニ・ミッチェルの記事にリンクした
Gordon Lightfoot’s Homeでの演奏風景という
有名な動画があるんですが、
ジョニの歌唱はボブ・ディランを従えているようで
彼女のこの頃の勢いはすごかったんだと思います。
これです。
https://www.youtube.com/watch?v=zeaO5UZ5OcI

〈Coyote〉という曲は最初聴いたときは
よくわからなかったんですが、
そのへんがジョニ・ミッチェルのハイブロウなところで、
名曲ですね。
by lequiche (2021-02-24 01:34) 

にゃごにゃご

c)を観ていましたら、右のとこの あなたにお勧め?みたいなのに
デビッドボウイとルーリードが一緒に歌ってるWaiting for the man
が出てきて、たのしく観ました。
by にゃごにゃご (2021-02-25 17:09) 

lequiche

>> にゃごにゃご様

2人が一緒に演奏している動画、いいですね。
この時期のボウイは12弦ギターを使っていることが多いです。
ルー・リードの2枚目のアルバム《Transformer》で
2人は共演していますが、
その後の3枚目が《Berlin》(1973) です。
そしてボウイの《Low》のリリースが1977年。
どちらもベルリンの魅力と頽廃を感じさせます。
by lequiche (2021-02-28 14:47)