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西加奈子『おまじない』 [本]

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西加奈子の『おまじない』が文庫になったので買う。
巻末に長濱ねるとの対談が掲載されているのだが、その中で西は、自分に正直であろうとするのが指針であると言っている。

 小説は基本作り話、嘘なわけやけど、でも、嘘をついている感覚で書く
 ことはしない。例えば「この表現もっと賢そうに見せたい」とか「作家
 として正しい態度であると思われたい」っていう自分の思いを小説にこ
 めるのは、私の中で嘘やん、と思う。

8つの短編が収録されているのだが、まず女の子のことを書きたい。そして誠実なおじさんのことを書きたい、とのことである。そのように幾つかの縛りを設けて書き始めたら結構大変だったと下記リンクでも語っているのだが、どれもが読み応えがあって心がしんとなる。
西加奈子の文章は常に明晰だ。「これ、どういうシチュエーション?」 とか、「これ誰の言ってる言葉?」 みたいな曖昧なことがない。昨年出たユリイカの特集を読んでいたら、あまりに大阪のおばちゃんみたいなイメージが強調されていたようにも思えるのだけれど、実はおそろしい作家です、と私は思ってしまう。

文庫で買っても税込682円。単行本は3年ほど前に刊行されているので、図書館にはたぶんあるはずです。オススメ。どれもすごいけど、私が好きなのは 「燃やす」 と、あと、「あねご」。


西加奈子/おまじない (筑摩書房)
おまじない (ちくま文庫)




ユリイカ 2020年11月号 (青土社)
ユリイカ 2020年11月号 特集=西加奈子




『おまじない』西加奈子メッセージムービー
https://www.youtube.com/watch?v=4yzAQcxQQMg
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末尾ルコ(アルベール)

西加奈子は何冊か読んでます。概ねおもしろい印象なのですが、一作品、男性の描き方が(う~ん…)というのがありました。その作品はたまたまだったと思うのですが、そしてわたし自身、男性の割には比較的女性作家の作品を読むことが多いと思うのですが、逆に男性作家の女性描写で、(これは違うだろう)と感じる場合もあります。一部男性作家の作品は、女性が読んだらきっとかなり違和感がある描写、少なくないのだろうなと想像します。
それにしても西加奈子、lequiche様もこれだけ高い評価をしておられる…俄然またばりばり読み気がしてきました(笑)。今度また買ってみます。

わたしは宇多田ヒカルとナボコフについて、確かNHKの特集番組で観たのですが、(へえ、歌詞を作るときナボコフを紐解いているんだ!)と驚きました。高いクオリティの作品ができるはずです。
そうそう、番組でも『Pale Fire』を読んでいました。
わたしは同作品、未読なのですが、ぜひ読んでみたいです。

>ひとつにはプロのかたがた、宇多田のやっていることがよくわかっていないんじゃないかと思います。

なるほどです。
違う番組で以前、「プロが選ぶ歌が上手い歌姫」的な特集があって、1位がダントツでMISIAというのはいかにもですが、ちょっとよくわからない人も入っていたような。その番組で「プロ」というのは確かヴォイストレーナーらだったです。
「歌姫」で演歌歌手とかは一切スルーされてました(笑)。

>「気軽にたのしみたい、深く考えたくない」

この集合無意識(笑)はずっと前から日本に蔓延してますよね。音楽や映画、あるいは文学などのランキングを作るにしても、少なくとも米英仏ではそれが高度に知的文化的に行われていて、必ずしも個人的に納得できるランキングでなくてもその選出には(なるほど)と思わせてくれる中身があります。
日本の場合、テレビはもちろん、ネットとなるととんでもないことになりますね。削除大作戦(笑)を決行したくなるような、もう「愚劣」とさえ言いたくなるランキングで溢れてます。
映画で凄い作品へも多く出演している俳優の「人気出演作ランキング」がテレビドラマばかりだったりとか…日本はいわば、「文化芸術愚弄国」として、多くの外国とは比較できないほど悪い状況になっているのではないかと。

>エヴァンゲリオンは私もよく知りません。

そうですか。ちょと安心しました(笑)。
右を向いても左を向いてもアニメばかりですからね、昨今の日本は…。
『鬼滅の刃』とか、アカデミー賞ノミネート狙いで米国で短期間だけ劇場公開して、当然かすりもしなかったのですが、ああいうアニメがノミネートされるかもと本気で考えてたとしたら、ガラパゴスの極みだと思いました。

>そのへんを聞き分ける耳は必要

ですよね。
「パンク」というカテゴライズで、(どこが?)っていうのもありますし。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2021-03-28 07:27) 

うりくま

西加奈子の小説が面白くて読みやすく、響くものが
あるのはそういう事だったのかと納得しました。
もう文庫版が出ているのですね。読みたいです!

by うりくま (2021-03-28 13:24) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

小説は西加奈子も言っているように作り話ですから、
それが面白いと思うかつまらないかと思うかは
人それぞれで、意外な好みというのもよくありますね。
私の場合、作品の評価基準としては
鬱陶しくなく、ストレートに読めるもの、
つまりいろいろ気を回さなくても
状況が読み取れる文章を書ける作家が
一番すぐれていると思います。
すごくトリッキーな人物が出てきたり、
こんな人いないよな、とか感情移入できない、
という場合もあるかもしれませんが、
でもまさに事実は小説より奇なりで、
考えられないような人って現実にもいますので、
どんな人物描写があってもそれはそれ、
と私は思うことにしています。
ただ、読者に気をつかわせるような作家、
つまり情景描写や人物の相関関係がわかりにくいのは
その作家の筆力が足りないのだと思います。
名前はあげませんが、そういうプロ作家もいます。
西加奈子は状況の提示の仕方とか、
登場人物のあらわれかたがとても自然で、
ああこの人すごいな、と思わせる
数少ない作家のうちのひとりだと私は思います。

ナボコフのペールファイアもそうですし、
ジョイスのフィネガンもそうなのですが、
その基本は笑いらしいのです。
決して高尚で難解な文学ではないのだというのですが、
そのへんのニュアンスはネイティヴでないと
わからないのかもしれません。
もっともナボコフは英語ネイティヴではないのですが、
ずばり言ってしまえば、彼は天才ですからね。

宇多田がどのように曲を作っているのかというのは
よくわからないんですね。
いろいろ話は聞きますが究極のところはよくわからない。
それはたとえばケイト・ブッシュなどもそうで、
その製造工程がどうなっているのか、
どちらかといえば謎です。
宇多田も同様で日本人っぽくない部分があると思います。
ただ、私は製造工程はどうでもいいと思うのです。
できあがっているものでしか評価できないので、
それは作品と呼べるものなら何でもそうです。

それでベスト何とかというようなランキングは、
つまり人気投票でしかないので、
最大公約数でこの曲がウケているというのが真相ですが、
それはファッションの流行色とか流行のスタイルと同じで、
むしろ私は最大公約数は避けて通りたいです。
もちろんすぐれた楽曲に人気が集まるのは良いのですが、
人気のある楽曲が必ずしもすぐれているかというと
私は疑問だと思います。

鬼滅の刃も私はよくわかりません。
あまりにも流行っているものに対しては
興味がわかないのです。
大ヒット作品は皆が支持しているのですから、
それはそういう人たちにまかせておいて、
私は違うものを探す、ということです。
アニメも良いアニメもあるし、そうではないのもあるし、
ということで音楽でも映画でも何でも全て同じです。
by lequiche (2021-03-29 04:52) 

lequiche

>> うりくま様

西加奈子はまだよく知らないのですが、
とりあえずこの短編集は何ていうのか、
忘れていたものを呼び覚ますような力がありますね。
私は金原ひとみのようなエキセントリックさも好きですが
西加奈子はもっとずっと肯定的で、
世の中ってそんなに楽しいことなんて滅多にないけど
でもだからってこの世をはかなんで死んでしまうには
まだもったいないよ、というような、
そういうメッセージを感じます。
それは、ん〜……たとえば
ブレイディみかこなんかにも感じる強さです。
by lequiche (2021-03-29 04:53) 

coco030705

こんにちは。
西加奈子さんは、関西の方なんですね。2、3冊読みました。この頃読んでないので、この「おまじない」も読んでみようかな。
最近、感染者数増で自宅にいることがまた増えて、以前は自分で面白い本を本屋で探すのが好きだったのですが、この頃はソネブロのブログ友の推薦本をけっこう読んでます。やはり通じるところのある人の読む本は、なかなか面白いですね。
by coco030705 (2021-04-20 15:50) 

lequiche

>> coco030705 様

短編集なのですが、主人公が女性であること、
満たされない心を持っていること、という設定で
共通の芯が一本、通っています。
語られる各話の中に、自分の経験とは違うけれど
共感する部分があってその描き方がすごいです。
あぁこういうことって、あるある、みたいな。
どうしてこういうふうに書けるのだろう、と思います。
気持ちがしんとしてしまいますね。おすすめです。
by lequiche (2021-04-21 01:55)