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ザ・ビートルズ《Revolver》 [音楽]

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The Beatles 1966 (Los Angeles Times, 2022.10.25より)

発売前からあちこちで情報があふれていて今さらとも思うのだが、極私的な思いをこめてとりあえず書いておくことにする。

ビートルズの《Revolver》は1966年にリリースされたオリジナル・アルバムで、前年の《Rubber Soul》に続いて、彼らのアーティスティックな面が強調され始めた作品である (ちなみにwikipediaで各アルバムの解説記事右肩にある前後のアルバムのリンクをクリックしたら、次のオリジナル・アルバムではなく、その間にリリースされている各年の編集アルバム——つまりベスト盤が出てきてしまい 「こんなに出していたんだ」 と驚いた。売れるとなればコンピレーションをやたらに出すのは世の常なのだろう)。
今回の《Revolver》発売も例によってリマスターと別テイクを拾い集めたスペシャル・エディションとのことで、究極の寄せ集めのようなものなのだから、まともな人はオリジナルの完成品リマスター盤だけ買えばよいはずなのである。だがそうさせまいとするのがレコード会社の商売熱心なところで、多くの者が騙されてしまうのだ。

人口に膾炙している曲では〈Nowhere Man〉〈Michelle〉〈Girl〉の収録されている《Rubber Soul》のほうが上なのかもしれないが、私が一番聴いたのは多分《Revolver》だったように思う。

というより、最初に私が買ったビートルズは確か〈A Hard Day’s Night〉のシングル盤で、《Revolver》もその中からピックアップされた4曲盤だったと思う。なぜならまだ子どもだからLPを買えるだけのお小遣いがなかったわけで、だから後年になって各LPを大人買いしたとはいえ、その頃の飢えた気持ちが完全に治まったわけではなかった。

『レコード・コレクターズ』の11月号の特集は 「ザ・ビートルズ『リヴォルヴァー』」 であり、なかなか面白かった。ある程度のビートルズ・マニアならたぶんご存知なのだと思うが、《Revolver》の中で最初にレコーディングされたのは、B面最後の曲である〈Tomorrow Never Knows〉だとのこと。雑誌表紙のキャッチにもあるようにこのアルバムの特徴としてあげられるのはサイケデリックなムードである。
カウントする声から始まる冒頭の〈Taxman〉の重心の低いリズムは妙にリアルだし、それに続く〈Eleanor Rigby〉のストリングスによるクラシカルな対比が、このアルバムがただものではないことを教えてくれる。もう50年も経っているというのに全然古びていない。
同誌ではこのアルバムからメインのエンジニアになったジェフ・エメリックに対する賞賛が多い。それまでの録りかたと異なる数々の方法を編み出したエメリックは、このアルバムを作ったとき19歳だった。

萩原健太の『レコード・コレクターズ』における解説・全曲ガイドがちょっとマニアックだ。〈Eleanor Rigby〉の項では、

 キーはEマイナーだが、まず曲アタマ、イントロなしで6度メジャーのC
 コードから歌い出されるスリリングなオープニングがいきなりやばい。
 さらにいわゆるBメロ、歌詞で言うと“All the lonely people...”の個所。
 ここで使われているEm7→Em6→Em+5→Emというコード進行におけ
 る“レ→ド♯→ド♮→シ”という半音下降クリシェにも個人的には思い切
 りやられた。

そうそう。こうしたクロマティックに下がる進行はポール・マッカートニーの専売特許みたいで、今でこそ普通だけれどこういうふうにあらためて書かれると、確かにそう、と思えてしまう。
もっとも私の原体験としての《Revolver》のフェイヴァリットは〈And Your Bird Can Sing〉と〈Here, There and Everywhere〉で、これは単に前述の4曲盤に入っていたからに過ぎないのだが、どちらも技巧的で特に〈Here, There...〉のサビ部分のギターのあれ (1’02”〜) は何よ、とまだよく音楽が解っていなかった頃の私は思ったものだった。そして〈And Your Bird Can Sing〉のギターソロはメチャカッコイイ。

で、これらの2022年mixは昨日 (10月28日) に公式サイトで公開されている。〈Taxman〉のみ、2週間前からの公開でアニメーションが付いている。あぁ、この曲のギターもサイケデリックだなとあらためて思った。
〈Paperback Writer〉は同時期のシングルで本来の《Revolver》には収録されていなかった曲だが、このシングル両面が入っているのもうれしい。尚、公式サイトでは〈Tomorrow Never Knows〉はとんでもないTake 1が公開されている。


The Beatles/Revolver (Universal Music)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BD98QZZP/

The Beatles/Revolver
Supecial Edition, Super Deluxe (Universal Music)
【メーカー特典あり】リボルバー (スペシャル・エディション(スーパー・デラックス))(SHM-CD)(5枚組)(ブックレット付)(特典:B2ポスター付)




レコード・コレクターズ 2022年11月号
(ミュージック・マガジン)
レコード・コレクターズ 2022年 11月号




The Beatles/Taxman
https://www.youtube.com/watch?v=gMdcE8jdz70

The Beatles/Eleanor Rigby (2022 Mix)
https://www.youtube.com/watch?v=ZqYK9Qfh6kE

The Beatles/And Your Bird Can Sing (2022 Mix)
https://www.youtube.com/watch?v=sOUlbredoUM

The Beatles/Here, There and Everywhere (2022 Mix)
https://www.youtube.com/watch?v=vs7U4xfkAfI

The Beatles/Paperback Writer (2022 Stereo Mix)
https://www.youtube.com/watch?v=gBcdOFehNCg

The Beatles/Tomorrow Never Knows (Take 1/Audio)
https://www.youtube.com/watch?v=qXUm4lAA4ac
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末尾ルコ(アルベール)

ビートルズは『Let It Be』を買っただけで、結局それ以降は買わずじまいです。まずわたしもこづかいの中で選択せねばなりませんでしたし、そうなると世界中であまりに知られているビートルズを(今更自分が買っても…)という感覚になっていたというのもありました。あと、子どもの頃の浅はかなイメージですが、ビートルズと言えば「優等生」、そして「教科書にも載るような」的な感覚があり、ぶっちゃけロックにアウトロー的要素を求めていた若き日のわたしにはしっくり来なかったというのもありました。
だからローリング・ストーンズやけっこうアルバム揃えてましたが、ビートルズに関してはラジオで取り上げられて時とかロック誌での評論とかでじょじょにそのとてつもない音楽性を知ってきた、という個人史的経緯があります。
なので今回のお記事についての的確なコメントは不可能なわたしですが、リンクしてくださっている動画を新たな足掛かりにさせていただき、わたしにとっての新たなビートルズを少しずつ体験していこうと思います。



坂本美雨の『ディアフレンズ』、ご紹介いただいて以来しょっちゅう聴いてます。これは本当に素敵な時間となりますね。坂本美雨の詩はもちろんのこと、その「話しぶり」さえも作品のようなクオリティで、一日の中にこれがあるとないとじゃずいぶんと違う。郷ひろみがゲストの日、彼が本当に嬉しそうに心地よさそうに語るのが印象的でした。
坂本龍一の状態はよくないようですね。娘さんとしても大変辛い時期。難しいですが、よりよき日々を過ごしていただきたいと思うばかりです。
そしてまた高橋幸宏も体調が思わしくないようで、9月に催された自らの50周年記念ライブにも出席できず。これは坂本美雨も参加していたようですが。本当にどのような人も人生、難しいことが多いです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-10-29 10:03) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ビートルズのライヴ映像の中で私が一番好きなのは
1966年6月24日のミュンヘンでの演奏です。

The Beatles/CIRCUS KRONE-BAU MUNICH
live 1966.06.24.
https://www.youtube.com/watch?v=wMAGno07_-8

ステージは警備の警官が鈴なりでものものしいですが、
そして画質も録音のバランスも悪いですが
この悪環境の中でのこの演奏はすごいと感じます。
この1週間後には東京の武道館でライヴを行っています。
演奏曲は彼らのスタンダードなノリの良いロックンロールですが
(東京でのライヴも同じような選曲です)、
その中で〈Nowhere Man〉のコーラスワークが光っています。
そしてこの時点で《Revolver》の録音はすでに終了しています。
つまりコンサートで演奏している曲の傾向と
レコーディングしている曲の傾向は全然違うんです。
このへんにビートルズのおそろしさがあるように思います。
うがった見方をすれば、この頃のコンサートは
「このあたりの曲をやっとけばウケるのさ」 状態であって、
レコーディングでやっていたことは
もうその次のステップに入っていたといえるでしょう
ラバー・ソウル、リヴォルヴァー、サージェント・ペーパズ、
そしてホワイト・アルバム。
1965年から1968年のこの4枚が重要作だと私は思います。

ストーンズはストーンズで良いと思いますし好きですが、
ビートルズはLPもCDも全部持っているのに対して
(CDはモノ盤とステレオ盤両方あります)、
ストーンズはブライアン・ジョーンズ在籍期の
CDアルバムしか持っていません。
というのが私の評価です。

坂本美雨を気に入っていただけて幸いです。
彼女は声に特徴がありますが
持って生まれたものとはいえ素晴らしいですね。
坂本龍一も高橋幸宏もずっと気がかりな状態です。
先日、坂本龍一の《BEAUTY》のLPを買いました。
特にレコードはすぐに無くなってしまうので、
買えるものは買っておこうという気持ちです。
by lequiche (2022-10-30 03:22) 

coco030705

こんばんは。
「Revolver」のジャケイラスト、今みてもカッコいいですね。
「Tomorrow Never Knows」ってこんな曲でしたっけ。面白いです。
「And Your Bird Can Sing」はサウンドがすごく懐かしい感じでした。
やっぱりビートルズってすごいですね。彼らの出現自体がとっても不思議な気がしてきました。
また色々聴いて、懐かしがろうと思います。
by coco030705 (2022-11-07 21:06) 

lequiche

>> coco030705 様

この《Revolver》のジャケットのコラージュが面白かったので
それが《Sgt. Pepper’s》のジャケットを作るとき、
より発展させたような感じがあります。

上記にリンクした〈Tomorrow Never Knows〉はTake 1で、
テストとして最初に録音してみた音源です。
今回、初めて発表されました。
完成形の演奏はこれです。
Tomorrow Never Knows (Remastered 2009)
https://www.youtube.com/watch?v=pHNbHn3i9S4

〈And Your Bird Can Sing〉のギターソロは
ジョージとポールによるツイン・リードで
2本のギターの重なっている音の厚さが気持ち良いですね。

ビートルズは、やはりビートルズですから、とも言えますが
こうしたバンドが出現してきたのは一種の奇蹟です。
by lequiche (2022-11-12 13:52)