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ストックホルム・セッション1961のエリック・ドルフィー [音楽]

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Eric Dolphy (selmer.frサイトより)

YouTubeにストックホルム・セッションと表示されたエリック・ドルフィーの動画がある。
recorded for a TV Special titled “Eric i sta’n” (Eric in town) とあり、TV用に録画されたセッションだと思われる。画質は非常に悪いのだが、そして最後はフェイドアウトになっているが音楽を聴くには支障がない。

録音日は1961年11月19日とのことで、パーソネルはドルフィーと Idrees Sulieman (trumpet), Rune Öfwerman (piano), Jimmy Woode (bass), Sture Kallin (drums) というクインテットであり、この演奏はドルフィーの没後、1981年に《Stockholm Sessions》としてenjaからリリースされたアルバムに収録されている (wikiに拠れば Inner City Records と enja とのこと)。
トランペットのイドリース・スリーマンとベースのジミー・ウッドはケニー・クラークのアルバムでのサイドメンとしてある程度の知名度があるが、ピアノのルネ・オフェルマンとドラムスのステュール・カリンはいわゆる現地のミュージシャンであり、この《Stockholm Sessions》のパーソネルとして名前が確認できる程度である。

しかしこの日の演奏は素晴らしい。特にスリーマンのブローは自信に満ちていてドルフィーに拮抗するインプロヴィゼーションを展開しているし、その他の3人もクォリティの高い演奏でドルフィーに応えている。

正確に言えばアルバム《Stockholm Sessions》に収録されているなかの3曲は、(wikiの記述では) おそらく9月初めにアメリカで録音された演奏であり、それらのトラックはピアニストが違うが (Knud Jorgensen)、このYouTubeで視聴できる演奏はストックホルムでの演奏風景であると考えられる。
1曲目の〈Left Alone〉はドルフィーのフルート・ソロがメイン (有名曲である〈Left Alone〉から始めているのはいかにもTV用という感じではあるが)、そして4曲目の〈God Bless the Child〉はバス・クラリネットのソロである。このバスクラ・ソロはドルフィーの数ある演奏のなかでも珠玉のひとつだと断言できる。

ただ気になったのはNovember 19, 1961というレコーディング・デイトである。以下はごくマニアックな話題であるが、JAZZDISCO.orgのディスコグラフィで1961.11.19の前後を見ると、

 1961.11.05 Village Vanguard, NYC, John Coltrane Octet
 1961.11.18 L’Olympia, Paris, France, John Coltrane Quintet, 1st
 1961.11.18 L’Olympia, Paris, France, John Coltrane Quintet, 2nd
 1961.11.19 Concertgebouw, Amsterdam, Holland,
         John Coltrane Quintet
 1961.11.19 Kurhaus, Scheveningen, The Hague, Holland,
         John Coltrane Quintet
 1961.11.19 Swedish Broadcast Station, Stockholm, Sweden,
         Eric Dolphy Quintet
 1961.11.20 Falkoner Centret, Copenhagen, Denmark,
         John Coltrane Quintet
 1961.11.21 Konserthuset, Goteborg, Sweden,
         John Coltrane Quintet

とあり、以後も12月2日までコルトレーン・クインテットでのツアーが続くのだが、11月19日はオランダのConcertgebouwとKurhausでのコルトレーン・クインテットのライヴがありながら、さらにその日にスウェーデンのストックホルムでこの《Stockholm Sessions》のTV用映像を収録していることになる。こんなことが可能なのだろうか。
ところが動画の始めでは5 September 1961と表示されている。そこで1961.09.05の前後にあたってみると、

 1961.08.30 Club Jazz Salon, Berlin, West Germany,
         Eric Dolphy Quintet
 1961.08.30 Funkturm Exhibition Hal, Berlin, West Germany,
         Eric Dolphy Quintet
 1961.09.04 Vastmanland-Dala Nation, Uppsala, Sweden,
         Eric Dolphy Quartet
 1961.09.06 Berlingske Has, Copenhagen, Denmark,
         Eric Dolphy In Europe
 1961.09.08 Berlingske Has, Studenterforeningen, Copenhagen,
         Denmark, Eric Dolphy In Europe

となっていて9月5日は抜けている。だからといって実はこの日がTV映像の録音日だったとするのは、その前後のパーソネルの状況からみて違うような気がする。この8月末から9月にかけてのヨーロッパ・ツアーは《Eric Dolphy in Europe》として残されている3枚のアルバムの音源であって、9月4日は《The Uppsala Concert》として後年リリースされたコンサートである。

もっとも、こうやって見ると連日、非常にハードなスケジュールでツアーを続けていたようであり、その頃はそうしたハードさがあたりまえだったのかもしれない。だとすれば、11月19日のライヴもやり、スタジオ・セッションもやるという状態も可能だったのだろう。
ただ、そうしたなかでの演奏の高度なクォリティは驚異であり、ドルフィーの足跡を追い続ける意欲のもとになっているのかもしれない。


Eric Dolphy/Stockholm Sessions (SOLID/enja)
ストックホルム・セッションズ




Eric Dolphy Quintet, Stockholm Sessions,
SBC studio, November 19, 1961
https://www.youtube.com/watch?v=Wui2CUV0PRM
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末尾ルコ(アルベール)

Eric Dolphy Quintet, Stockholm Sessions,視聴させていただきました。ドルフィ、スリーマンはじめ、メンバーの奏でる音を、日曜の朝から堪能させていただきました。超一流プレイヤーたちの演奏は楽器の持つポテンシャルを最大限に発揮させてくれるので、それら楽器の成り立ちさえ想像させてくれますね。
それにしてもドルフィー、36歳で亡くなってるんですね。かつてのジャズ界、早く亡くなる人が多かったですね。ブッカー・リトルなんて23歳で亡くなっている。それとジャズ界の特徴として、一流プレイヤーは一流プレイヤーとの共演が多いので、ひとりのプレイヤーを調べていると、次々といろんなプレイヤーについて知ることができるたのしみもあります。

ヴィスコンティの「イノセント」、観ました。U-NEXTで配信してました。配信サービスに疑義はありますが、(観たい!)という欲望には勝てませんでした。ヴィスコンティの遺作、自らの死を意識しつつの創作だったのでしょうが、凄い映画です。生と死、さらに腐敗の間を行きつ戻りつしている感覚。しかし奇をてらったりこれみよがしな要素はまったくない安定感に貫かれた完璧な時間でした。RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2024-06-02 11:25) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ドルフィーは早世してしまいましたし、
生前にはあまり評価されていなかったので、
死後になってからのレコードやCDのほうが多いです。
当時のジャズプレイヤーは麻薬漬けだし楽譜など読めないし
みたいなイメージがありますが、
ドルフィーはクスリとは一切無縁でしたし、
楽譜にも強いプレーヤーでした。
オリヴァー・ネルソンからの信頼が厚かったのもそのためです。
ドルフィーはアヴァンギャルド・ジャズとして分類されていますが、
いつも地道な練習を欠かさなかったそうで、
正統派ジャズでありチャーリー・パーカーの後裔だと私は思います。

《イノセント》ご覧になりましたか。
確かに遺作らしさがありますね。死のイメージが強いです。
ただ、ヴィスコンティの作品で何が好きかというと
私は《The Damned (地獄に堕ちた勇者ども)》が最も頽廃的で
暗くて好きです。キャストもすごいですし。
(もっとも今さらですがこの邦題は何とかならないのでしょうか?)
by lequiche (2024-06-08 00:53)