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みなみらんぼう〈途上にて〉 [音楽]

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まだ野坂昭如が全盛期でシビアなことをどんどん口にしていた頃、みなみらんぼうと対談していたTV番組があって、そこで野坂は 「何がらんぼうだ。そんな芸名、付けるんじゃないよ」 みたいなことを言って、みなみらんぼうが必死に対抗していたのを覚えている。
でも野坂の言い方は一種の愛情であって、ああいうふうにコミュニケーションが成立していたのはよい時代だったなと思う。今は妙な縛りばかりが多くてコミュニケーションのレヴェルが低い。野坂昭如の最高傑作は『骨餓身峠死人葛』だと私は思っていて、こんなふうに書ける作家はそんなにいない。

みなみらんぼうの声はやさしくてヴィブラートが無くストレートで、シンプルな音像のなかにその心の機微が浮かび上がる。素朴で今のメカニックな音楽状況には合わないのかもしれないが、とても心が安まる。
昔、中央線の某駅の駅前通りで、まだ幼い子どもを自転車に乗せてなにか喋りながら走っていたみなみらんぼうとすれ違って、それだけなのにそれだけで彼の我が子への愛情を感じた。

なぜ急にみなみらんぼうを思い出したかというと、前記事の山川恵津子のことを書いているとき、谷山浩子の歌を何曲も聴いたからだと思う。
みなみらんぼうの4枚目のアルバム《途上にて》(1977) のタイトル曲、〈途上にて〉ではみなみらんぼうとデュエットしている谷山浩子の声を聴くことができるからだ。
みなみらんぼうの大ヒット曲は、たぶん〈山口さんちのツトム君〉だろうが、それは作詞・作曲家としての彼であって、みなみらんぼうの音楽の本質は少し違うところにある。

メカニックで複雑な音楽と、素朴で虚飾のない音楽。音楽の嗜好とはそうした相反する傾向の作品の間を揺れ動くものなのであり、だからホッとするひとときは、人生のなかで貴重な時間なのかもしれない。
そうしたとき聴く音楽はたとえばブルース・スプリングスティーンの《The River》(1980) であったり、もっと内省的な中山ラビの《もうすぐ》(1976) であったりするものだ。


みなみらんぼう/武蔵野詩人 (Universal Music)
武蔵野詩人~みなみらんぼうの世界~ (SHM-CD)




みなみらんぼう ゴールデン☆ベスト
(Universal Music)
みなみらんぼう ゴールデン☆ベスト




みなみらんぼう/途上にて
https://www.youtube.com/watch?v=EfwyAbOICH0

みなみらんぼう/空飛ぶ鯨の話
https://www.youtube.com/watch?v=nkzXzRFaM_U

みなみらんぼう/コートにスミレを
https://www.youtube.com/watch?v=o3_DLMQhhHQ

みなみらんぼう/アルバム《途上にて》A面
https://www.youtube.com/watch?v=2Fd1uSpnJH4
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末尾ルコ(アルベール)

野坂昭如的スケールの作家はもう出ないかもしれないですね。いかにも昭和的スケールの大きさがありました。もちろん昭和的スケールとなれば、三島由紀夫という怪物がおりますが。現在コミュニケーションのレヴェルが低いことに関しては同感です。閉塞感溢れる社会状況、加速する言葉の貧困化、そして自他の精神性に対しての想像力の致命的欠如など、その理由は根深いです。
みなみらんぼうの歌はほとんど聞いたことありません。リンクしてくださってる歌、聴かせていただきました。確かに素朴、木訥にも聴こえる声、歌い方ですね。しかし懐かしい温かみがある。このような歌い手を知っていると、緩やかでとてもいい時間が過ごせそうです。

〉そうしたとき聴く音楽

わたしはスプリングスティーンなら「ハングリー・ハート」。レナード・コーエンやビル・エヴァンスなんかも入るかな。

〉そういうものは何もいらない、というメッセージでもあります。
 
そういうのはニューテクノロジーにひれ伏す人が大勢の現在にこそ必要な気がします。ニューテクノロジーは確かに日常生活に様々な恩恵をもたらすけれど、代わりに失なわれる人間の根源的なものはあるのかないのか。また例えば最近では芸術鑑賞が人間の精神に与える影響を数値化しようという研究がされているという報道がありましたが、ここでも「数値化」かと溜め息が出ます。

《UTAU》、しょっちゅう視聴してます。これが2010年なのですね。決して力むことなく、軽快でしかし底なしに深い。繰り返し繰り返し聴くしかないですね。RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2024-07-22 02:51) 

Rchoose19

骨餓身峠死人葛って、何となく覚えていますが
最後、折り重なった白骨が開通した水路の水で
「コトリ」と動き始めるってのでしたっけ?
音楽に関係のない話で申し訳ないです^^;
みなみらんぼうさんって、そういう名前の方がいたなぁと
いま急に思い出しました♪
by Rchoose19 (2024-07-22 07:50) 

kiyotan

みなみらんぼうさんの声 独特でした
思い出します。
飄々とした風貌がホッとしましたよね
野坂昭如の小説は高校の頃騒動師たちエロ事師たち
色々読みました。面白かったです。

by kiyotan (2024-07-22 09:21) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

野坂昭如はレコードを出したことがあるのですが、
そのなかに〈花ざかりの森〉というタイトルの曲があります。
演奏としてはチープですが、
野坂が三島由紀夫を意識していたことは確かです。

野坂昭如/花ざかりの森
https://www.youtube.com/watch?v=4_ituz8nJso

作詞家としての野坂の最高傑作は〈おもちゃのチャチャチャ〉です。
いろいろなヴァージョンがありますが、
矢野顕子の歌唱が秀逸です。

矢野顕子/おもちゃのチャチャチャ
https://www.youtube.com/watch?v=zg1clFyVJ2M

みなみらんぼうの素朴・木訥さ、確かにそうですね。
それでいて一度聴いたら忘れられない声です。
この記事のタイトルにした〈途上にて〉は
なんと美しく悲しい歌詞なのだろうと思うのです。
あまりにストレート過ぎて虚飾が無く、
今の時代からするとすでに古風なのかもしれません。
尚、上記YouTubeの〈途上にて〉をクリックすると
大写しのみなみらんぼうの顔が見られますが、
これがアルバム《途上にて》のジャケットです。
撮影したのは荒木経惟です。

電車のなかでは誰もがスマートフォンの画面に見入っています。
八木詠美は最近の小説のなかで、そうしてスマホに見入る人を
「小さな画面の奴隷」 と書いていました。
by lequiche (2024-07-27 02:47) 

lequiche

>> Rchoose19 様

そうなんですか。
強い印象は残っているのですが、
どんな内容だったのかは忘れてしまいました。(^^;)

みなみらんぼう自身の歌唱で一番有名なのは
たぶん、〈ウイスキーの小瓶〉です。
これです。

みなみらんぼう/ウイスキーの小瓶
https://www.youtube.com/watch?v=h3MuLJF8Tx0
by lequiche (2024-07-27 02:47) 

lequiche

>> kiyotan 様

野坂昭如は、たとえば五木寛之などと並んで
当時の流行作家といわれる部類だったのだと思います。
でもその頃の流行作家は、今の流行作家とは
少し意味合いが違うように思います。
それは当時のほうがその作品や言葉に
今よりもずっと影響力がったからに違いないからです。
by lequiche (2024-07-27 02:48)