モントルー1975のアンソニー・ブラクストン [音楽]
Anthony Braxton /Town Hall 1972
チック・コリアとアンソニー・ブラクストンによるグループであるサークルの最も有名なアルバム、ECM盤の《Paris-Concert》が録音されたのは1971年2月、リリースされたのが1972年5月であるが、以後、2人は全く別の道を歩むことになる。
チック・コリアはソロによる2枚の《Piano Improvisations》を経て1972年9月にリターン・トゥ・フォーエヴァーのデビュー作《Return to Forever》をリリースしてクロスオーヴァー (=フュージョン) の寵児となるが、ブラクストンはアヴァンギャルドな方向性を深化させ、マジョリティなシーンから遠ざかることになった。判官贔屓である私はブラクストンにシンパシィを持ち、カモメのアルバムは買わなかった (厳密にいうとカモメのアルバムはコリア名義のアルバムであり、リターン・トゥ・フォーエヴァーとしての1stは《Light as a Feather》である)。
ブラクストンのその後の足跡を辿ると、1972年に《Town Hall 1972》というライヴ・アルバムがある。このタイトルはあきらかにオーネット・コールマンの《Town Hall, 1962》を意識したものである。オーネットのジャケットもモノクロだったが、ブラクストンのほとんど真っ黒なジャケットにその気負いが感じられる。パーソネルはサークルから継続していたデイヴ・ホランドとバリー・アルトシェルにプラスアルファした2種類のセットになっていた。
そして1974年にはテテ・モントリューとニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセンを擁したスティープルチェイス盤の《In the Tradition》をリリースするが、これはすでにスタンダードとなっているトラディショナルな曲をとりあげているけれど最も意識しているのはチャーリー・パーカーである。なぜなら1972年に《Donna Lee》というパリ録音が存在するからである。
このアルバムのタイトル曲〈Donna Lee〉はパーカーのテーマをなぞっていながらアタックやリズムがやや異様であって、それはインプロヴィゼーションに入ってからの次第に壊れて行く前兆としてのアヴァンギャルド指向に他ならない。それはサークルの《Paris-Concert》冒頭でウェイン・ショーターがマイルス・バンドのために書いたスローで官能的な〈Nefertiti〉をフリー・フォームに変容させていく手法に似ている (但し《Paris-Concert》の〈Nefertiti〉にはスウィングのテイストがまだ内在するが〈Donna Lee〉にはそれが稀薄であることは、アヴァンギャルド的アプローチとして、より濃厚になったといえよう)。
そして同じ1974年にはデレク・ベイリーとの全く噛み合っていないようなエマナム盤の《Duo》がある。後に2人は再度共演しているがこのときの緊張感には及ばない。この噛み合わなさ具合がアヴァンギャルドなのである。
そのブラクストンが1975年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに出演したときの動画がある。1975年7月20日、Casino Montreuxにおけるライヴで、そのなかの1曲が下記のリンクである (フルセットの動画もあるが聴き通すのは辛いと思えるので)。アリスタ盤の《The Montreux/Berlin Concerts》の内容であると思われる。トランペットとの2管でピアノレスというパーソネルにオーネットの《The Shape of Jazz to Come》を連想してしまうのも確かだ。
同日にはビル・エヴァンスとエディ・ゴメスがデュオで出演していて、これはファンタジー盤の《Montreux III》としてリリースされている。
ブラクストンがストレートなジャズ・リスナーに比較的評判が悪いのは、いわゆるフリーなジャズといわれるインプロヴィゼーションと少し違い、そのフレーヴァーが多分に現代音楽的であるからなのではないかと思う。それは後のオーケストレーション作品などでより顕著になる。
コントラバス・クラリネットなどという奇矯な楽器まで使ってしまうところに根っからのアヴァンギャルディストである彼のコンセプトを感じてしまうのだが、お勧めするには躊躇する音楽であるとも言える。
Anthony Braxton/Town Hall 1972
(Deep Jazz Reality/Trio Records/Octave-Lab)
Anthony Braxton/In The Tradition vol.1
(Steeplechase)
Circle/Paris-Concert (ECM Records)
Chick Corea/Return to Forever (ECM Reccords)
Anthony Braxton Quartet, Montreux 1975
https://www.youtube.com/watch?v=_0F3Uqmgt-k
Anthony Braxton/Donna Lee
https://www.youtube.com/watch?v=2jdbX-8sSbo
Anthony Braxton Quartet - Montreux 1975 (full)
https://www.youtube.com/watch?v=0-cVBSy5Y0Y
Anthony Braxton Quartet, Montreux 1975、視聴させていただきもました。とても心地よく聴けたし、カッコいいですね、Anthony Braxton。妥協を許さない人間の雰囲気が出ています。もちろんわたしが彼らの音楽をしっかり理解できているかというと、かなり怪しいですが(笑)。彼ら、楽譜を置いてるんですね。ところで、いわゆる難解とされる現代音楽などを「理解する」とはどのような段階なのだとお考えですか。あるいはこうした音楽を誰かにお薦めする場合、その魅力をどのように伝えたらいいでしょうか。
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NHKのCreepy Nuts、たのしみました。これは凄い迫力。映像になっている彼らのライブでは今のところベストパフォーマンスではないでしょうか。なにせ初っぱなの「ビリケン」が凄い。この荒々しさ。歌詞もとてもいい。RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2024-10-13 14:05)
>> 末尾ルコ(アルベール)様
ご覧いただきありがとうございます。
ブラクストンの曲は全くのフリーフォームではなく
かなり厳密な譜割りがありますので
特に人数が多い場合など楽譜は必須だと思います。
そういう点でもジャズというよりは現代音楽に近い印象があります。
ただ、サックスの場合、特にアルトサックスでは
エリック・ドルフィーでもブラクストンでも
その基本はチャーリー・パーカーにあるのです。
パーカーの呪縛から抜け出すことは難しいのではないでしょうか。(笑)
やや抜け出たのがオーネット・コールマンですね。
フリージャズでも現代音楽でも裾野は広いですし、
いろいろな方法論が存在しますので一概には決められません。
闇雲にどれでもいいかというとそうではなくて、
最終的には自分の感覚ですね。
感覚に合うものと合わないものに切り分けるしかないです。
簡単に言ってしまえば、生理的に合うか合わないか、ということです。
ですから 「これがいいよ」 ではなくて 「こういうのがあるけど」 に
過ぎません。。
良いと判断する位置に行き着くのは自分自身の回路ですから
他人に伝えることは不可能なのではないかと思います。
NHKのCreepy Nutsはその通りで、
ベスト・パフォーマンスだと感じました。
Creepy NutsのR-指定とYOASOBIのAyaseは
最近のドメスティックな音楽のなかで別格のポジションにいます。
by lequiche (2024-10-13 15:03)