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Keepnews Collection について [音楽]

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(L to R) Orrin Keepnews, Scott LaFaro, Bill Evans, Paul Motian,
at the Village Vanguard, 1961

リヴァーサイド盤の《Portrait in Jazz》はビル・エヴァンスとスコット・ラファロの最初の邂逅を記録したアルバムとして有名である。何度も再発されている人気アルバムであるが、最近リリースされているCDでは別テイクが増えているので、Keepnews Collectionというシリーズで出ている1枚を聴いてみた。
24bitリマスタリングとあり、〈Come Rain or Come Shine〉(降っても晴れても) は本テイクの5と別テイクの6、〈Autumn Leaves〉(枯葉) は本テイク (テイク数不明) とモノラルの別テイク9、そして〈Blue in Green〉は本テイク3と別テイク1と2が収録されている。別テイク4曲が後ろにまとめられているのは好感が持てる。

オリン・キープニュース (Orrin Keepnews, 1923-2015) はリヴァーサイド・レコードの共同創立者であり、当時のジャズ・レコーディングに貢献した敏腕プロデューサーであるが、このアルバムの録音は1959年12月28日、プロデューサーはキープニュース、Recorded by Jack HIggins at Reeves Sound Studios, New York Cityとある。そしてリイシューのプロデュースもキープニュースである。

最初の曲は〈Come Rain or Come Shine〉だが、音を聴いた瞬間に違いのあるのがわかる。それは24bitリマスターだからなのか、キープニュースがあらためてプロデュースしたリマスターだからなのか、それともそういう先入観があるので、これはきっと良い音に違いないと思い込まされてしまっている私のカンチガイなのかわからないが、私のプアなオーディオセットで何気なく聴いたのでさえも 「えっ?」 と思わず振り返ってしまうようなニュアンスがある。
音に奥行きがあるのだ。ただ左右に拡がっているだけのステレオ感ではなく、ピアノ、ベース、ドラムのあるスタジオの空間が見えるようで、私の感覚でいうと、それは弓形に拡がっていて、やや上から見下ろす位置に楽器が存在している。今から約60年前の12月も押し詰まった日のニューヨーク。その空気が伝わってくる。ピアノの鍵盤が見えるようだ。

このアルバムで最も有名なのは2曲目の〈Autumn Leaves〉だが、エヴァンスのタッチがキツ過ぎるように感じられるし、左手のコードの瞬間的なおさえ方のパワーが強いので、昔の安物のレコードプレーヤーだと音が割れてしまったりすることがあって、そういう演奏・録音なのだと思っていた。それで《Portrait in Jazz》は、どちらかといえばあまり聴かないアルバムだったのである。
でもそれは間違っていた。このKeepnews Collection盤では音はもちろん割れないし、エヴァンスの和音は太くてしかも柔らかくてそれでいて芯がある。テーマに入るまでの4小節がいままでエキセントリックな印象だったのに、それもない。

それでこのリマスタリングと表示されているシリーズはよいのかもしれないと思って、アート・ペッパーを聴いてみた。コンテンポラリー盤の《Art Pepper Meets the Rhythm Section》(1957)、当時のマイルスのリズム・セクションをバックにしたアート・ペッパーの中で最も有名なアルバムである。レーベルは違うけれど、プレスティッジやリヴァーサイドの、一連の黒地に白抜き文字の、OJCという品番の付いているジャケットである。
24bitリマスタリングで、マスタリングは《Portrait in Jazz》と同じジョー・タランティーノ。もしかして目の覚めるようなペッパーが聴けるかもしれない、と思ったのだが……。
少しクリアな感じはするし、アルトの音も澄んでいてとてもよいのだが、でも画期的といえるほどではない。まぁ普通。それにこのアルバムのオリジナルのプロデューサーは当然、コンテンポラリー・レコードのレスター・ケーニッヒである。

しかし冒頭の〈You’d Be So Nice to Come Home to〉はやはり名演である。ものすごく速いフレーズのところがパーカーとは (もちろんスティットとも) 全然違っていて、たとえば前奏8小節に続いてテーマ、テーマが0’54”頃に終わってアドリブの1コーラス目、1’21”あたりからの一瞬のめくるめくフレーズ、この空気感は何なのだ、と思わせる。
もっと急速調な〈Straight Life〉のフレージングも爽快感があり気持ちがよいが、音の連なりそのものはややありきたりだ。しかしこの頃、ペッパーは薬漬けだったはずなのだ。

では、オリジナルでキープニュースがプロディーサーだったアルバムの24bitリマスタリングだとどうなのか。それに適合するサンプルが、ビル・エヴァンスの1962年のアルバム《Moon Beams》である。ジャケット体裁はペッパーの《…Meets the Rhythm Section》と同じで、CDケースオモテ面左のワク部分が透明になっていて、オレンジ帯でOriginal Jazz Classics REMASTERSと表記されている。
1曲目の〈Re: Person I Knew〉は私がひそかに愛着を感じている佳曲で、ピアノの内省的なイントロからブラッシングのドラムとベースとが忍び入って来るところが暗い情熱を秘めているようで美しい。チャック・イスラエルはラファロと較べると人気が無いが、こうした翳りのある曲におけるピアノへの寄り添いかたは素晴らしい。このアルバム全体の淡い官能のような色合いがそのジャケットデザインに見事に反映されているともいえる。

でも録音に関しては、結論から言ってしまうと、このアルバムもクリアな感じはするけれど、まぁ普通。でもペッパー盤よりはやや奥行きがある。4曲目の〈Stairway to the Stars〉にはたぶんマスターテープに起因するピアノの音にふるえが来る箇所 (3’07”あたりから) があって惜しい。
リイシューのプロデューサーはニック・フィリップスである。

つまり、まだ結論を出すのには早過ぎるのだけれど、24bitが良いのではなくて、キープニュース・コレクションが良いのではないか、ということに思い至る。たぶん、オリジナルもリイシューも両方キープニュースが手がけているからキープニュース・コレクションなのだ。
キープニュース・コレクションはCDケースオモテ面左のワク部分が白地に黒字でKEEPNEWS COLLECTIONとなっていて、オレンジ帯の 「単なる24bit」 とは違うのではないか、と推理するわけであるが、でもまだ検証してみないと何ともいえない。
なぜなら《Portrait in Jazz》の音源だけが、ものすごく良い状態だったという理由だってあるのかもしれない。ということで、いつ続きが書けるのか未定という状態でこの追求は続くのである。

それで全然関係ない話に変わるのだが、アート・ペッパーのようにというのは無理としても、最近サックスなど管楽器を習おうとする人は多くて、音楽教室でもいままでのようにピアノやギターだけでなく、サックス教室を設けるところが多くなってきている。特にアルト・サックスは楽器が小さめだし、人気があるのだが、その教室の講師は圧倒的に女性なのだ (というような印象がある)。サックスにもクラシック系とジャズ系があって、それぞれに適合する楽器もやや異なるが (たとえばヤマハのサイトには82Zはジャズ向き、875EXはクラシック向きという解説がある)、特にクラシック系のサックスだと、まず先生は女性だと思ってよい。ヴァイオリンだってほとんど女性の講師ばかりだし、もちろん女性講師が悪いといっているのではないが、男性はいったいどうしてしまったのだろうか。やはり手取り足取りの初心者には女性の先生のほうが向いているという音楽教室の勝手な思い込みがあるのだろうか。その勝手な思い込みは結構あたっているような気もするが、それにしても謎である。


Bill Evans/Portrait in Jazz (Riverside/Keepnews Collection)
http://tower.jp/item/2377928/
billevans_portrait_180214.jpg

Bill Evans Trio/Re: Person I Knew
https://www.youtube.com/watch?v=xiRRfKoNl50
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