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wish I could climb a ladder ― BONNIE PINK《evil and flowers》を聴きながら [音楽]

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BONNIE PINK について私は、そんなに真面目なファンでもないのだけれどちょっと気にかかる存在で (ということは過去に書いた→2012年11月10日ブログ)、でもオリジナル・アルバムは2012年の《Chasing Hope》以来、リリースされていない。
そのとき、《Thinking Out Loud》について少し否定的なニュアンスを持ったのは、〈A Perfect Sky〉という売れ線な曲が収録されていたことの影響があったのだろうと思うのだが、今聴くとそれなりなポジションに収まってしまっているように思える。時の経つことはおそろしくも、また懐かしくもある。

それで、昨年にはベスト盤が出ているのだけれどまだ聴いていないし、とりあえず私にとっての1枚は《evil and flowers》(1998) なのかもしれないと思う。ファンの人のブログによれば、この3枚目のアルバム《evil and flowers》は、煮詰まってアメリカに行ってしまう直前の時期だということなのだが、そのへんの事情はよく知らない。このアルバムを含む初期のリマスターが2016年に出されている。

《evil and flowers》というタイトルはボードレールの『悪の華』(Les Fleurs du mal) の英語タイトル《The Flowers of Evil》から触発されたものなのではないかと思う。といってもボードレールを連想させるものは見当たらないが。

アルバム・タイトル曲の〈evil and flowers〉の歌詞はよくわからないが、then you must go とか go somewhere to find yourself といった部分が、今いる場所からの脱出を暗示しているといわれればその通りな気がする。
ただ、私が気になるのはこの部分だ。

 We’re always petrified and tied
 wish I could climb a ladder

ladder という言葉から私が連想してしまったのはオノ・ヨーコのYESにおける梯子だった。梯子は暗喩であるが、でも梯子そのものが何らかの希望、ないしは何か異なる場所への転機を象徴していることも確かである (オノ・ヨーコのYESについては→2012年09月08日ブログを参照)。
どこで読んだのか覚えていないのだが、借りている部屋が家屋の2階にあって、階段が付いていないので部屋に入るためには梯子で昇らなければならないという話を思い出す。それが実際にあった話なのかそれとも虚構なのかはわからないが、でも昔だったら、そういう奇妙な家も存在していたような気がする。
私が子どもの頃、住んでいた家には玄関がなかった。勝手口が玄関だったのである。それだけでなく、いろいろと謎の構造をした家だった。隠れる場所が幾つもあったが、そうしたことに興味を示す友だちもいとこたちもいなかった。子どもの頃の私には、玄関のないことが漠然と恥ずかしかったのだが、今になると妙に懐かしい。もちろんその家はもう存在しない。それ以後、何回か引っ越しをしたけれど、夢に出てくる私の家はいつもその最初の家である。

屋根裏部屋というのも一種の子どもっぽい夢を満たす幻想のひとつであって、私が夢みたのは変形の、直方体でない屋根裏部屋だった。部屋のかたちは五角形で天井も斜めになっていて、眩暈を覚えるような構造の部屋。そしてさらに天窓があり、階下から上がっていくときと天窓から降りてくるときとでは部屋の構造が異なっているのだけれどそれは同時に存在しているのだ、という短い小説を高校生のときに書いた。といってもその認識はシュレディンガーの猫の影響に過ぎない。あるいはまた、ブリジット・フォンテーヌのレコードの解説の、間章の文章のなかにあったパリの屋根裏部屋からのイメージなのかもしれなかった。イルフェフロア。それは寒さの記憶でしかない。

《evil and flowers》には〈Quiet Life〉という曲もある。Quiet Life というタイトルから私が思い出すのは、デヴィッド・シルヴィアンのJAPANの Quiet Life だが、BONNIE PINKのそれはもっと屈折している。

 Quiet life I longed for is my enemy now
 “What’s wrong with you, babe?”
 ask an old goat
 I forget everthing even a bitter smile

なぜgoatが出てくるのかよくわからなくて、私が連想するのは 「やぎさん郵便」 だったりするが、それではコメディでしかない。a bitter smileから連想するのはブライアン・フェリーの Bitter-Sweet であるが、これもかなり見当外れな連想だ (Bitter-Sweetについては→2013年01月11日ブログに書いた。でもBONNIE PINKの拠り所とするのはアメリカやスウェーデンであり、ベルリンではない)。
歌詞の2番ではこの部分は、

 I forgot everything even your way of waving

に変化する。静かな生活とは、苦い別れを思い出すような記憶でしかない。「あなた」 とは作詞者本人のなかでは具体的な像を結んでいるのだろうが、それを置き換えするべき人が私には存在しない。


bonnie pink/evil and flowers (ポニーキャニオン)
evil and flowers[UHQCD]




BONNIE PINK/Look Me in the Eyes
https://www.youtube.com/watch?v=6uDhYNiUGC8

bonnie pink/evil and flowers (full album)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm11719426
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