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ハイドンへの長い道 ― エカテリーナ・デルジャヴィナ《Haydn The Piano Sonatas》 [音楽]

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Ekaterina Derzhavina

メトネルからハイドンへとデルジャヴィナを聴き始めたのだが、いきなりひっかかってしまった。それはProfil盤のハイドンのソナタ集 (一般的にはソナタ全集と呼ばれている) でのことである。それでなかなか前に進めないのだが、前に進めないということをとりあえず書いてしまうと、前に進めるかもしれないと思ってこれを書くのである。だからたぶん間違ったことも含めて書いてしまうかもしれない。(デルジャヴィナの先行記事は→2018年01月22日ブログ)

というのは冒頭の1曲目、Es-Dur Hob.XVI:16のことである。このCDのタイトルはNEUN FRÜHE SONATEN (NINE EARLY SONATAS) となっていて、つまり初期のソナタを集めたものという意味なのだろうが、ランドンでもホーボーケンでもない独自の曲順なのである。でも別に全集だからといって番号順でなければならないきまりはない (ハイドンのピアノソナタにはホーボーケン番号とランドン番号がある。さらに作品番号が付いているものもあって複雑である。ホーボーケンとランドンは基本的には年代順なのだがその後の研究でその法則性も崩れている。ホーボーケン番号 [記号: Hob.] はディレクトリ構造になっていてピアノソナタはXVIに分類される。XVIの中の16という指定により1曲が特定される)。
ただHob.16というのはja.wikiによれば 「真偽が問われる作品」 とされている。en.wikiのリストはホーボーケンでなくランドンの番号順となっているが、ランドンではこのEs-durには番号は振られていない (Doubtfulとある)。そしてHob.15~17は、ランドン27 (Hob.2h) とランドン28 (XIV/5と表記されているが5a) の間に置かれている。
ja.wikiではHob.15は偽作、Hob.17はJ. G. シュヴァンベルガーの作品であるとされていて、この2曲はデルジャヴィナのCDでも最後にANHANGとしてまとめられている中にある (尚、シュヴァンベルガーはen.のリストではJ. G. Schwanenbergerと表記されているが、SchwanbergerとSchwanenberger、さらにSchwanbergなどの表記があるようだ)。

ということから翻ってみればデルジャヴィナはHob.16をハイドンの作品として認知しているというふうにも考えられる。アムランのハイドンのリストを見ると (もちろんアムランは全集というわけではなく選集に近いが)、3枚のCDのなかで、このHob.16は当然弾いていない。アムランの場合、Hob.1から19まではほとんど弾いていなくて、録音があるのはわずかに1、2、6のみ。このうちDoubtfulとされているのに弾いているのはHob.1のみである。IMSLP (Imternational Music Score Library Project: 国際楽譜ライブラリープロジェクト) にもHob.15と、そしてHob.17まであるのにHob.16のデータは存在しない。
つまりすごく簡単にいえば、アムランは確立されているものしか弾かない、でもデルジャヴィナはとりあえず何でも弾いてしまおう、というスタンスの差である。

なぜこのHob.16にこだわるのかといえば、これが結構すごいからなのである。そのすごいというのが原曲そのものがすごいのか、それともデルジャヴィナがすごいのかがよくわからない。そもそもの彼女のハイドンに対するアプローチが私には少し異様に感じる。異様というと表現がよくないが、いままでのハイドンに対する解釈とはまるで異なっているという意味で言う 「異様さ」 なのである。
第1楽章はAndanteで、ごくゆっくりと始まる。優雅であるが、妙に流れていないような感じもする。ところがPrestoになると、突然のようなめくるめく速度。音のつながりかたはハイドンないしはハイドンの時代のものなのだが、音の出し方がもっとずっと現代風なのだ。これがハイドンなのだろうか、という気もちょっとする。でもそれもまた否定的な印象ではない。これもあり、なのだと思う。
第2楽章のMenuetではもっとそれが如実に現れる。グールドのように 「おちょくって」 聞こえるような箇所もあるが、グールドのようなアクがない。
第3楽章はごく短いPresto. 比較的普通っぽいアプローチに聞こえるが、ときどき 「えっ?」 というような弾き方に聞こえるときがある。

2曲目がA-Dur Hob.XVI:5. この曲もランドンでは第8番とされているがDoubtfulと言う表示がある。ものすごく軽やかな右手と、重く短めの長さで刻む左手との対比が絶妙である。右手と左手のキャラクターが異なるように聞こえてくる。速いパッセージでの右手の回りかたがすごいが、それでいてメカニカルな無味乾燥さではなく、よくコントロールされた柔らかなタッチである。

というような印象なのだが、でもとりあえずデルジャヴィナのパターンは、というか彼女の手法はわかってきたので、すごろくのように、次に進めるかもしれないと思う。


Ekaterina Derzhavina/Haydn: The Piano Sonatas (Profil)
ハイドン : ピアノソナタ全集 (Joseph Haydn : The piano sonatas (Die Klaviersonaten) / Ekaterina Derzhavina) (9CD Box) [輸入盤]




Ekaterina Derzhavina/Haydn: Sonata h-moll Hob.XVI:32
Gnessin School Organ Hall, 2016.11.07 live
https://www.youtube.com/watch?v=JL89GuSZ-xk

Privatkonzert der Pianistin Ekaterina Derzhavina
https://www.youtube.com/watch?v=UPT7kfByL1E
https://www.youtube.com/watch?v=WUs29MAMK8c
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