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坂本美雨《birds fly》 [音楽]

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週末の街は何かにとりつかれてはしゃいでいるような様相を呈していて、まるでお祭りのような賑わいと私の目には映り、甚だしく疲労してしまった。
そんな日の夜、坂本美雨のアルバム《birds fly》はドリーミュージックとKSRの共同レーベル 「FOLKY HOUSE」 の第一弾としてリリース、と告知されているが、その音の緻密さと求心性には今日の不快な疲労をやわらげてくれる効果があったようである。

レコーディングの行われたのは池袋の自由学園明日館 [みょうにちかん] で、映像で見る建物のなかのたたずまいも、そのルームアコースティクも全てが快い。坂本美雨サイトのインタヴューで 「クローズドで神聖な空気のある場所です」 と語られているように、ここで録音したという意味がとても大切なことだったように思える。
1回のテイクですべてを同時収録し、音を重ねたり編集することはしていないが、といって連続して演奏したわけではないので、通常のライヴ録音のようでもない。そして何より無観客であるので、いわゆる無観客の配信ライヴとスタジオ録音の中間くらいに位置する方法論のように感じられる。
ピアノとチェロと歌という、ごく最小限のユニットでありながら伝えられてくる音は深く幅広くて豊かである。一日で収録してしまったという昔のジャズメンのような方法が、独特の緊張感を醸し出している。

明日館はフランク・ロイド・ライトおよび遠藤新の設計による木造建築物だが、池袋の駅から少しごちゃごちゃした斜め斜めに続く道のむこうに存在しているしんとした建物である。現在は結婚式場やコンサートなどにも使われているのだが、重要文化財の指定を受けている。
以前、知人の結婚式がここで行われたとき初めて明日館を識ったのだが、その設計の美しさに心を奪われてしまった。結婚式はその建物の禁欲的ともいえる質感に似て簡素なものだったが、式後、出席した仲間たちと別の飲食店に行くと、彼らは終わったばかりの式で出された食事の質素さを非難してメニューから大量の飲食物を注文し飽食にふけるのだった。今日の街の賑わいには狂熱的なパワーのようなものがあって、それはその飽食感に似ていて、その結婚式の顛末を突然思い出してしまったわけなのである。

幾つか前のTokyofmの記事でこのアルバムのYouTubeのオフィシャル映像をリンクしたが、再びリンクしておく。坂本美雨はピアニストである平井真美子と一緒にアルバムを作りたいという動機があったというが、YouTubeには芦屋市立美術博物館での二人のライヴの様子もあり、こうした経験が今回のアルバムにつながったのだろう。

坂本美雨の武器はその声にあって、それはピアノやオルガン、そしてチェロと拮抗しうる無二の声である。ソフトヴォイスでありながらその声は人の心に深く沁み入る。
だが歌うことになったきっかけは、坂本龍一が〈The Other Side of Love〉という曲を誰に歌わせようかと思っていて、たまたま娘に歌わせてみたらイメージに合っていたということなのだそうで、坂本龍一 featuring Sister Mとしてクレジットされていたが当初は謎の歌手だったのである。
CDメディアは白い小箱にパッケージングされていて、シンプルで美しい。


坂本美雨/birds fly (dreamusic)
birds fly〔初回限定盤〕




坂本美雨/story
https://www.youtube.com/watch?v=egevyA9S65A

平井真美子+坂本美雨/星めぐりの歌 shining girl
https://www.youtube.com/watch?v=UQFHGbec3Mo

坂本龍一 featuring Sister M/The Other Side of Love
https://www.youtube.com/watch?v=CeebBKLkENM
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