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ホレス・シルヴァー《Silver’s Blue》 [音楽]

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ジェリー・ブレイニンの書いた〈The Night Has a Thousand Eyes〉というジャズのスタンダードがある。ところがボビー・ヴィーにも〈The Night Has a Thousand Eyes〉という同名のポップソングがあって、このメロディがジャズになるとどうしてこんなに変わってしまうのだろうとずっと疑問に思っていた。大いなる勘違いなのだが、まぎらわしいことこのうえない。
ジャズのスタンダードは邦題が〈夜は千の目を持つ〉であり、ボビー・ヴィーの曲は〈燃ゆる瞳〉なのですぐに分かるはずなのに、と後から振り返ってみればその通りなのだが。

ボビー・ヴィーの〈The Night Has a Thousand Eyes〉にはたくさんのカヴァーがあるが、ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズのカヴァーは1stアルバム《This Diamond Ring》(1965) に収録されており、オリジナルよりずっとソフィスティケイトされていて聴きやすい。このアルバムは収録曲もすぐれているし (Needles and Pins, Love Potion Number 9 など) アルバム・デザインも懐かしさを誘うのだけれど決して古くならない秀逸なデザインだ。ちなみにゲーリー・ルイスはジェリー・ルイスの息子、と言ってもジェリー・ルイスなんて知らない人がほとんどだろう。

という〈燃ゆる瞳〉のことはともかくとして、ジャズの〈夜は千の目を持つ〉の演奏で好きなのはホレス・シルヴァー・クインテットによる演奏である。Epic盤のアルバム《Silver’s Blue》(1957) の最終トラックに入っているが、全然気張らないラグジュアリーさはきらきらとした夜のイメージだ。
私の聴いているレコードはリイッシュー盤だが、銀と青と黒でデザインされたジャケットが洒落ている。もっともブルーはブルースのブルーというより憂鬱のブルーであって、なぜならアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズから独立したシルヴァーに、他のサイドメンが皆ついてきてしまって、ブレイキーに対する申し訳なさという意味あいの憂鬱なのだ、とどこかで読んだ。
このアルバムは名盤だと思うのだが、ずっと廃盤のままなのであまり人気がないのかもしれない。

ホレス・シルヴァーを聴くきっかけはブレイキーの《A Night at Birdland》(10inch/1954, 12inch/1956) だが、クリフォード・ブラウンのトランペットよりもシルヴァーのピアノにいたく惹かれた。そこでシルヴァーのその時代の廉価盤を何枚か買って聴いてみたがどれもクォリティが高くて、演奏だけでなくその曲づくりのヴァリエーションが素晴らしい。だがホレス・シルヴァーというと馬鹿にされそうな雰囲気がジャズマニアの中には漂っていて、それが鬱陶しかったのでこっそりと聴くようにしていた。

YouTubeを探してみると1958年のシルヴァー・クインテットによる〈Cool Eyes〉のライヴ動画があるが、管はブルー・ミッチェル、ジュニア・クックであり、典型的なバップ・イディオムで、完璧なインプロヴィゼーションである。
ところが1964年のアンティーブ・ジャズフェスのライヴで〈Pretty Eyes〉を観ると、2管はカーメル・ジョーンズとジョー・ヘンダーソンだが、ジョー・ヘンダーソンが圧倒的に尖っていて、6年の歳月でソロの質がこれだけ変化しているのだということを思い知らされる。1964年のシルヴァーのアルバムといえば超有名盤《Song for My Father》である。

ここでジャズ史の里程標としてマイルス・デイヴィスを援用すれば、1957年は《Miles Ahead》であり、1964年にはリリースがなく、1963年が《Seven Steps to Heaven》である。ところが1965年にサックスをジョージ・コールマンからウェイン・ショーターに変えて出されたのが《E.S.P.》であり、この1963年から1965年への変換は大きい。

尚、ついでにいえば、今、ソニーミュージックでは再発のアナログ盤に力を入れているが、《Sorcerer》と《Nefertiti》はもうすぐ出るというのに《E.S.P.》と《Miles Smiles》はまだリストに入っていない。出し惜しみしているように思えてしまう。


Horace Silver Quintet/The Night Has a Thousand Eyes
https://www.youtube.com/watch?v=7m1BEiNt2YU

Horace Silver Quintet/Cool Eyes (1958)
https://www.youtube.com/watch?v=73pex5SGd0Y

Horace Silver Quintet/Pretty Eyes (1964)
https://www.youtube.com/watch?v=SJYZIFolD3U

Gary Lewis & The Playboys/The Night Has A Thousand Eyes
https://www.youtube.com/watch?v=5XNbAjFFT00
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舌津智之『どうにもとまらない歌謡曲』 [本]

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舌津智之の『どうにもとまらない歌謡曲』はタイトルのイメージに少し惑わされるが、70年代の日本の歌謡曲の歌詞論であり、ジェンダー論である。2002年に刊行された本であるが、20年経って今回、文庫で復刊された。
「4 うぶな聴き手がいけないの」 は歌謡曲におけるクロス・ジェンダーの考察であり、「攪乱」 という言葉が認識の基本として使用される。

 一般に、ある言語が、基本的には一つのカテゴリーでくくられる何かに
 ついて、いくつもの違った呼び名を持っているとき、その 「何か」 は文
 化的に重要な意味を持っている場合が多い。わかりやすい例でいうと、
 エスキモーは雪を表わすのに二〇以上の異なる名詞を使い分けるという。
 (p.108)

一般的にはひとつの名詞でしか分類されないものが、ある特定の民族においては幾つもの名詞に細分化されることは、クロード・レヴィ=ストロースが『野生の思考』で指摘していた通りである。
このことから敷衍して舌津は、「日本語が、実に多くの一人称 (と二人称) の代名詞を持っていること」 に言及する (一人称が 「わたくし」 「わたし」 「あたし」 「あたい」 「あっし」 「わし」 など)。これは階級の違いによる使い分けであると同時に、性差の指標ともなっているという。

もうひとつの特徴として 「日本語の歌はしばしば、人称代名詞や文末の助詞によって話者の性別が特定される」 (p.109) という。英語などのヨーロッパ言語と異なり、男言葉、女言葉が存在するのだ。

ところがここで、日本語の歌詞は性別の特定できる歌詞であるために、歌手の性別と歌詞の性別が必ずしも一致しない歌が、特に演歌において存在することがわかる。ぴんからトリオの〈女のみち〉などがその好例で、これを舌津は中河伸俊の考察を引用して、ジェンダー交差歌唱 (cross-gendered performance) であると解く。
そして 「七〇年代、大流行をみたものの、しばしば性差別的とみなされる女歌を、ジェンダーの観点から前向きに評価することはできないのか?」 (p.110) と書く。

ここで舌津の提起するのがデイヴィッド・バーグマンが示した 「キャンプ」 という概念である。

1. キャンプはスタイルであり、誇張、人工、極論を好む。
2. 大衆文化、商業文化、消費文化との緊張関係において存在する。
3. キャンプを認知し、対象を理解し、キャンプする人は文化のメインストリームの外部者。
4. 同性愛の文化に深くかかわる。

ここからの展開が面白い。
例として近田春夫が 「ほめてるつもり」 と念を押しながら 「朝丘雪路はオカマにしか見えない」 というコメントをあげていることについて。オカマとは女以上に女っぽくしようとする意志があるのだから、つまり朝丘雪路は 「女以上に女っぽく見える女」 という結論に達するのである。
ここで重要なのは 「っぽさ」 と 「らしさ」 の区別である、と舌津はいう。

 形式・約束としての 「っぽさ」 は 「実はそうではない」 ことを暗に示し、
 「らしさ」 は 「いかにもそうである」 ことを訴える。つまり、ある種の男
 性を形容する場合、「女っぽい」 とは言えても、「女らしい」 とは言わな
 い。(p.112)

そもそもキャンプとはスーザン・ソンタグによって知られるようになった概念とのことだが、彼女がキャンプの特質としてあげるのは 「美ではなく、人工ないし様式化の度合」 だという (p.113)。そしてまたキャンプとはコミカルな印象が生じてしまうが、大変真面目なものであるともいう。(p.115)

ここで近田春夫が例にあげた朝丘雪路の 「女っぽ過ぎる女」 は、つまり 「『女っぽい男』っぽい女」 なのだという。対して水前寺清子は 「男っぽい女」 なのである。

水前寺清子の男っぽさというのは 「ラ行を巻き舌で発音する」 形式にあるという。

 実際問題として、日常そのようなしゃべり方をするのは、ヤクザか江戸
 っ子か、いずれにせよ大変限られた種類の人々であり、そのスタイルは
 リアリズムというよりも、ひとつのフィクションないしはリプリゼンテ
 ーション (表象) である。つまり、「男性的」 な記号として、作られた男
 っぽさを演じるために使用されるのが巻き舌ラ行なのだ。(p.113)

では椎名林檎はどうなの? というと話が広がり過ぎるので棚上げにして、この水前寺清子によって確立された男っぽさを下地として出現してきたのが、七〇年代演歌における 「巻き舌の女言葉で歌う男性歌手」 だったと舌津はいうのだ。森進一、前川清、ぴんからトリオ、殿さまキングス、そしてその系譜は桑田佳祐につながるのだという。
「っぽさ」 と 「らしさ」 の差異はここでも示されていて、北島三郎や山本譲二は 「男らしい」、三善英史は 「女っぽい」、そして森進一をはじめとする 「巻き舌の女言葉で歌う男性歌手」 たちを 「男っぽい」 と定義する。それはつまり 「人工的にデッチあげた男性性」 であり、まさにキャンプなのである。さらに 「モノマネをすると笑えるのがキャンプである」 (p.115) とか 「北島三郎も、顔面だけは立派なキャンプである」 (p.115) とか、メチャメチャひどいことを言っている (言っているのは舌津先生です。念のため)。
つまり、

 ソンタグの言葉をそのまま引くならば、「キャンプとは、真面目に提示
 されはするが、『ひどすぎる』ために、完全に真面目に受け取れない芸
 術のこと」 なのだ。森進一などは、とりわけデビュー当初、ふざけて歌
 っているのかと思われ、真面目にやれ、と言われたというが、本人にし
 てみれば真剣なスタイルを追求していたことは言うまでもない。(p.116)

一方で、この時期のぴんからトリオ、殿さまキングスといったグループのド演歌は、そのインパクトの強烈さが気色悪過ぎて (これも褒め言葉だとのこと)、むしろパロディ演歌あるいはメタ演歌ではないかという。
〈女のみち〉の歌詞に見られる二重性——つまり女のみちを肯定しているのか否定しているのかよくわからない部分を、

 ソンタグによると、「キャンプ的感覚とは、ある種のものが二重の意味
 に解釈できるとき、その二重の意味に対して敏感な感覚のことである」
 という。(p.121)

「キャンプとは、両性具有的スタイルの極地である」 とソンタグが語ったにもかかわらず、両性具有の概念はその後、むしろ批判的に語られることが多くなったのだという。このへんの経緯がやや不明だが、マージョリー・ガーバーによれば 「良い両性具有」 と 「悪い両性具有」 があり、ダイナミックな可能性として、「身体的でセクシーで攪乱的」 な 「悪い両性具有こそが標榜すべきもの」 だとのことである。それはつまりマイケル・ジャクソンが歌った〈bad〉に籠められた意味であり、badとはもちろん悪いという意味ではない。

この 「悪い両性具有」 として舌津が例にあげているのが桑田佳祐である。
まず桑田佳祐の特徴としてあげられるのが過去のテキストからの引用あるいはパクリであり、〈チャコの海岸物語〉は平尾昌晃の〈星はなんでも知っている〉、〈BLUE HEAVEN〉は中村あゆみの〈翼の折れたエンジェル〉を取り込んでいるという。

こうした作詞法は、ソンタグにしたがえば 「キャンプ趣味は、複製に対する嫌悪感を超越する」 のであり、そしてあらゆる言葉はいつもすでに使用済みの言葉なのだと舌津はいう。
そもそもサザンオールスターズの〈勝手にシンドバッド〉というタイトルは沢田研二の〈勝手にしやがれ〉とピンク・レディーの〈渚のシンドバッド〉を合体させたものであるが、その〈勝手にしやがれ〉だってジャン=リュック・ゴダールの映画《À bout de souffle》(1960) の邦題そのままでしかない。言葉がすべて使用済みの言葉なのだとするならば、「問題はその組み合わせ/組み立ての新しさなのだ」 と舌津は書く。(p.130)

そして男言葉・女言葉の攪乱ということにおいて、前川清→桑田佳祐の両性具有的連続性を見い出している。たとえば〈そして、神戸〉は、その歌詞を語っているのが男性なのか女性なのか、1番の歌詞の最終行まで行かないとわからない。
対して〈勝手にシンドバッド〉は一人称が俺でありながら女性語尾 「不思議なものね」 「波の音がしたわ」 が出てきて、性別が不安定であるとのこと。男女2人の対話と考えるのには少し無理があるようだ。

ただこの人称の問題はそれだけで簡単に性別を特定できない、と私は思う。最果タヒはぼくを普通に使うし、浜崎あゆみの歌詞に頻出するぼくは、決して男性が語っている言葉ではない。
これは次の章にあるあいざき進也、原田真二、(若い頃の) 郷ひろみの問題ともかかわってくるのだが長くなり過ぎるので、興味のあるかたは是非ご一読を。

舌津は山口百恵よりも桜田淳子、キャンディーズでなくピンク・レディーに比重をかけていることを巻末の解説で齋藤美奈子は 「あまのじゃく趣味」 と指摘していたが、それぞれの後者のほうがキャンプ度はずっと高いし、ジェンダーの攪乱という点においても同様である。その作詞法について阿久悠は山本リンダ→ピンク・レディーへと続く中で、ジェンダーについて意識的であった。そしてボーイッシュという視点における桜田淳子→松浦亜弥という連続性への舌津の言及は慧眼である。


舌津智之/どうにもとまらない歌謡曲 (筑摩書房)
どうにもとまらない歌謡曲: 七〇年代のジェンダー (ちくま文庫 せ 14-1)




宮史郎とぴんからトリオ/女のみち
https://www.youtube.com/watch?v=LgXuIQFzU68

前川清/そして、神戸
https://www.youtube.com/watch?v=zoVP2q68dis

サザンオールスターズ/勝手にシンドバッド&チャコの海岸物語
https://www.youtube.com/watch?v=jrG-rl1uCPE
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〈六本木心中〉の北島健二 [音楽]

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北島健二

〈六本木心中〉は1984年のアン・ルイスによるヒット曲である。作詞・湯川れい子、作曲・NOBODYで、歌謡曲であるがロック・テイスト満載の作品。
この曲ではイントロのキーボードにかぶせて入って来るギターなど、印象的なギターを聴くことができるが、それを弾いているのが北島健二である。

西山毅 Official ChannelというYouTubeのサイトに〈昭和の名ギターソロ探訪!「六本木心中」 講師:北島健二〉という動画がupされたのを見つけた。これが超絶面白くて何度も観てしまった (念のため注記しておくと西山毅は元HOUND DOGのギタリストである)。

正確にいうと〈六本木心中〉でバッキングのギターを弾いているのは鳥山雄司で、ソロの部分のみが北島健二なのだそうである。
動画の前半部分は2人のトークによる解説になっていて、後半の14’32”から実際に北島健二がソロ部分を再現して弾いている。1st (14’32”〜) はイントロ、2nd (15’02”〜) は中間部の音数の少ないいわゆる 「泣きのギター」 (クリックのかわりとしてハイハットが鳴っているが原曲ではドラムはブレイク)、そして3rd (15’45”〜) は長尺ソロの部分でやや難易度が高い。
YouTubeで〈六本木心中〉のライヴ演奏など、ざっと観てみたがそれらは皆、他のギタリストが演奏していて、当然だが北島健二が弾いている動画は無い。だが誰もが北島のソロを元にしたコピーないしはそのヴァリエーションで弾いている。

北島の演奏はオリジナルらしくクリアで美しいが、ソロを弾くにあたって吟味されたメロディラインが形成されているのがよくわかる。あたりまえだがアドリブで適当に弾いているわけではないのだ。だから何十年経っても再現可能なのである。
西山がこだわっているのは、北島が、ある部分をどのポジションで弾いているかということである。ギターは同じ音の出る箇所が複数にあるが、どのポジションを使うかによって音は微妙に異なる。そのこだわりがさすがだと思わせる。
そして2人のセッションになると、西山は北島のプレイ傾向に絶妙に合わせていて、エレキギター版の坂崎幸之助か、と思ってしまうほどだ。

〈虚ろなリアル〉は以前の田村直美/PEARLの記事にも繰り返しリンクした演奏だが (→Depend on you — 田村直美、2021年04月15日ブログ)、この曲の北島のソロ部分 (2’05”〜) はオリジナルの《PEARL》(1997) のスタジオ・レコーディングに近くて、この曲のライヴ映像の中では最もタイトですぐれているように聞こえる。テイストとしては〈六本木心中〉の2ndソロに近い雰囲気がある。渋谷公会堂のライヴは全体がやや重たく感じてしまう。

最近の若いリスナーはギターソロの部分だけを飛ばして聴くとのことなので、逆に歌の部分は飛ばしてギターソロだけに話題を絞ってみました。


西山毅 Official Channel
昭和の名ギターソロ探訪!「六本木心中」 講師:北島健二
https://www.youtube.com/watch?v=hc88Mvn8OkA

アン・ルイス/六本木心中
https://www.youtube.com/watch?v=C3PNWPEOnm8

PEARL/虚ろなリアル ~Lay your hands on me, baby~
https://www.youtube.com/watch?v=GQHKpxpg2kg
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LOVE〈We Only Live Once〉 [音楽]

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LOVE

TokyofmのAll-Time BestでLOVEのDJを聴いているときの印象と歌を歌っているときの印象はちょっと違う。でもそういうのってよくあることで、そんなに変わらない人もいるけれど、え、そうなの? っていう落差のあるほうが私は好き。
この前のTokyofmの山下達郎dayのとき、彼女は山下達郎に、録音のことでかなり技術的なことを訊いていたのを思い出す。

今年のフジロックは、誰もが皆、ヴァンパイア・ウィークエンドのステージでPAトラブルがあったことを話題にしていて 「きいてよLOVEちゃん」 でもそのことに触れていたけれど、とりあえずコンサートができたのはこのコロナ禍のなかで少しだけ明るい話題なんだと思う。
LOVEはジョニ・ミッチェルのことも話していて、オープン・チューニングのこととか、〈Both Sides Now〉をちょっとだけやったのだそう。

そのLOVEのオフィシャルで今、〈We Only Live Once〉という曲の動画が公開されていて、シリアスな内容の歌詞なのだが、だからLOVEなんだという気もして何度もリピートしてしまった。

 私たちは一度しか生きられない
 私たちは一度きりを生きている

バティアシュヴィリやブニアティシヴィリがゲルギエフとの共演を拒否したことに対して音楽と政治は別だという意見もあるが、でも今の世界では音楽もスポーツも見事に政治的な駆け引きの中に取り込まれている。音楽や文学には何の力もないともいわれる。そうかもしれないが、そうでないのかもしれない。
デルジャヴィナのモンレアル・コンサートのCDはカナダ盤なのに手に入らないままだ。そうしたところにも何らかの闇の力が働いているような気がする。

LOVEの〈One More Day〉が収録されているアルバムは《Pearl》だがそれもすでに5年前。モノクロの映像でハミングバードを弾く。「Pearl」 っていうタイトルは、禁断の言葉のような気もするが、田村直美もそうだったけれど使ってみたい言葉なんだろうと思う。

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LOVE (FM大阪・2017)


LOVE/Pearl (IVY Records)
Pearl




LOVE/We Only Live Once
https://www.youtube.com/watch?v=ZZpbCkB6Kzw

きいてよLOVEちゃん #146 フジロックの思い出
2022/8/5 (金)
https://audee.jp/voice/show/47992

LOVE/One More Day
https://www.youtube.com/watch?v=EsUPLHNC80M

Joni Mitchell/Both Sides Now (Live, 1970)
https://www.youtube.com/watch?v=bcrEqIpi6sg

Janis Joplin/Move Over
ジャニスの遺作アルバム《Pearl》A面1曲目。
動画は1970.06.25にThe Dick Cavett Showに出演したジャニス。
このTV放送の約3ヵ月後に亡くなった。
https://www.youtube.com/watch?v=YYWdiG1Bf0c
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『Hanako』9月号を読む [本]

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音楽について前記事のコメントのリプライに書いた内容なのですが、再録してしまいます。

 「何聴いても皆同じに聞こえる」
 という表現をするかたがいらっしゃいますが、
 それはまさにその通りです。
 深く聴かなければバッハだってベートーヴェンだって
 ビーチボーイズだってPerfumeだって
 同じような曲に聞こえるものです。
 でもそれは逆に、自分の耳がプアである
 と公言しているのに等しいので、どうなのかなぁ、
 とは思いますが。(笑)
 自分が好きで興味のある人の音楽は区別できる、
 自分が嫌いで興味がない音楽は皆同じに聞こえる、
 というだけのことです。
 これは簡単な心理であり、真理なのですが
 意外にわかっていない人が多いです。

これは自戒をこめて書いたことでもあるのです。すべての音楽が好きで聴いているという人はいませんし、音楽に限らず好き嫌いはあって当然なのですが、かといって簡単に 「嫌い」 と言って切り捨てられないのが私の性格なのかもしれません。
それと私はコンテンポラリー・ミュージックというのか、いわゆる現代音楽系の作品にとても興味があるのですが、そういうことを話題にしても好き嫌い以前に 「わからない」 「知らない」 という反応が多いのであまり書かなくなってしまいました。そのあたりは迎合主義です。ただ、そうした内容の記事の場合、ナイスやコメントは少ないのにアクセス数だけは多かったりします。これが不思議ですね (いや、不思議ではないんですけどそういうことにしておきます)。

さて、というわけで『Hanako』9月号の話題です。特集タイトルは 「J SONGBOOK 日本の音楽を学ぼう!」 で、Kinki Kidsと山下達郎がとりあげられています。J-popといわずJ SONGBOOKとしているのにこだわりを感じます。ちなみに表紙が2種類あって、Kinki Kidsの表紙と山下達郎の表紙。表紙だけ異なりますが中身は同じです。好きなほう買ってね、ということでしょう。Kinki Kidsの写真を撮っているのは篠山紀信、山下達郎を撮っているのは『サンレコ』もこの『Hanako』も高橋ヨーコです。

それでこの前のさらにつづきのように山下達郎の話題を求めて読み始めたのですが、Kinki Kidsや山下達郎に辿り着く前に、他の記事が面白いのです。

「私を創った音楽の歴史。」 という記事では、各ミュージシャンが影響を与えられたミュージシャンについて語っているのですが、上白石萌音はミスチル、絢香、吉岡聖恵 (いきものがかり) をあげています。
Awesome City Clubのatagiは小学生のとき、宇多田ヒカルの〈Automatic〉が刺さったというので早熟だなあと思いますが、最初に買ったCDは宇多田ではなくポケビだったというのが微笑ましい。モリシーは小2でミスチルの曲が弾きたくてエレクトーンを始めたが、B’zを聴いて衝撃を受け 「これからはギターだ」 と思ったというのがちょっとアナクロで素晴らしいです。高校生になった頃、はっぴいえんどなどの70年代日本のロックを知ったとのこと。モリシーの音、私は好きです。POLINは親の影響で松任谷由実を聴いていたが、その頃流行っていたモームスでなくLUNA SEAにハマり、そしてチャットモンチーという展開。
長屋晴子 (緑黄色社会) は大塚愛、吉岡聖恵、そしてセカオワをあげていますが、上白石も長屋も吉岡聖恵を選んでいるのが目を引きます。
こういうのって世代がはっきりあらわれるので、なるほど〜と感心します。ときとして、その世代では知らないはずの曲やミュージシャンを知ってたりする人というのも意外な感じがしてそれはそれでまた良いし。

そして面白かったのは平野紗希子とゆっきゅんによる浜崎あゆみフリークのトーク。ふたりともとても詳しいのですが、あゆ全盛期のファンよりも一世代後ですよね。そうすると微妙に視点が違うような感じもして、でも共通の心理も感じられたりして、つまり浜崎あゆみも、もう音楽の歴史の中に組み込まれようとしていることがわかります。

それに対して野宮真貴は憧れていた女性シンガーとして、佐藤チカ (プラスチックス)、シーナ (シーナ&ロケッツ)、イリア (ジューシィ・フルーツ)、松任谷由実をあげていて、これはストレートにわかるのでホッとします。でもデビュー盤は鈴木慶一プロデュースだったっていうのは初めて知りました。

鈴木涼美が椎名林檎と宇多田ヒカルをテーマに各1ページで書いている小説。椎名林檎ヴァージョンは町田のキャバクラ嬢というのがリアリティがあるのですが、その中で椎名がともさかりえに書いた曲では〈少女ロボット〉も良いけれど〈カプチーノ〉だって言うんです。マニアック過ぎてカッコイイ。
《少女ロボット》のCDはリサイクル書店で偶然見つけて購入したのを覚えています。


Hanako 2022年9月号 (マガジンハウス)
Hanako(ハナコ) 2022年 9月号増刊 [J SONGBOOK 日本の音楽を学ぼう! 表紙:山下達郎]




緑黄色社会/時のいたずら
https://www.youtube.com/watch?v=wIPB3jRsnB0

Awesome City Club/you
Awesome Acoustic Session at SHIBUYA SCRAMBLE SQUARE
https://www.youtube.com/watch?v=D0ytvJym0es
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最近の音楽書など [本]

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最近買った音楽関係の本の話題を少しだけ。まだ読んでいたり読んでもいなかったりなのですが。

長谷川友『プリンス:ゴールド・エクスペリエンスの時代』
先行書として『プリンス:サイン・オブ・ザ・タイムズのすべて』があるのですが、まだ購入していません。《The Gold Experience》(1995) はいわゆる 「かつてプリンスと呼ばれた……」 などとも表記された 「読めない記号」 だった頃のアルバム。
実はこの時期のプリンスは何となく買いにくかったので買っていませんでした。本来のプリンスに戻った頃になって、また聴いてみようかなと思ったのが《Musicology》(2004) あたりからなのでその間サボっていたのです。殿下、申し訳ございません。で、《The Gold Experience》今年になってソニーミュージック (輸入盤はLegacy Recordings) から再発されましたが、いわゆる通常盤で、例の大部のセットが出るのかどうかはよくわかりません。
本の内容はすごいといってよいと思います。プリンスの類書は数多く出ていますがその中ではダントツではないでしょうか。

小柳カヲル『クラウトロック大全 増補改訂版』
クラウトロックとはドイツのロックのことですが、ザワークラウト (酢漬けキャベツ) から発生した言葉で、もともとは蔑んだ表現だったらしいのですがそれを自虐的に使うようになったのだそうです。それらのアルバムの紹介本といってよいです。こうしたリストは意外に便利なときがあるので出たらば一応買っておくというのが習慣になっていますが、う〜ん……という場合もときどきあります。
ロックと銘打っていますが単純なロック・ミュージックだけでなく、もう少し幅広いジャンルを扱っていて、そうした全体像がクラウトロックなのだという定義らしいです。都市ごとの分類というポリシーがちょっと面白いのですが、きっちりと別れているわけでなく、目次がやや不明確でよくわかりません。全体は大きく2つに別れていて、Kapital 1: KrautrockとKapital 2: Neue Deutsche Welleとなっていますが、Kapital 1はカン、クラフトワーク、ファウストというふうに展開していて、まぁ順当。しかしKapital 2はつまり比較的新しい系のアルバムらしくて、全然知らないものばかりです。
幅広い例のひとつとしてホルガー・シューカイの項にデヴィッド・シルヴィアンとの《Plight & Premonition》(1988) もありますが、後述の『AMBIENT definitive』にもシューカイのリストがあって《La Luna》(2000) が選択されています。
著者は序文でクラウトロックは物理的メディアで聴いて欲しい、つまりジャケットデザインや装幀まで含めてが作品の全体像であるからとのことですが全く同意です。

三田格・監修『AMBIENT definitive 増補改訂版』
この本も上記と同じPヴァインからの出版。そして増補改訂版なのも同様です。2冊ともリストとしてのデータがやや弱い感じはしますが、ジャケットであたりをつけるのにはとても便利。やはり視覚の印象は重要です。
こちらも幾つかの章に別れて、各章ごとにクロニクルに並べられていますが、分類としてはややわかりにくいかと思える部分もあるのですけれど、でも仕方がないでしょう。たとえばクロノス・クァルテットと高橋アキによるモートン・フェルドマン《Piano & String Quartet》(1993) が入っているのは良いとして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの《Loveless》(1991) もあって、マイブラってアンビエントだったのかぁという感慨もあり。
それと比較的多くの日本人ミュージシャンが扱われています。細野晴臣のアンビエントに対して 「YMOで疲れ切ったんでしょう」 と書いてあって笑います。

原塁『武満徹のピアノ音楽』
武満のピアノ作品に特化した内容ですが、図版として楽譜がかなり掲載されていて、ちょっと専門的過ぎてまだ読んでいないといっていいです。ただ、ところどころ拾い読みした段階で面白い箇所がたくさんあります。
武満はかなりの量の文章も書いていますが、音楽作品とそれに対応する文章というのがクセモノで、必ずしもそれをそのまま鵜呑みにできないというか、言葉は悪いですがだまされないようにしないといけません。

稲岡邦彌『ECM catalog 増補改訂版/50th Anniversary』
リスト本を掲げたついでに、少し古い本ですがECMのリスト本を。ECMを聴くのがお好きなリスナーには必携のリストです。でもどんどん増えていくので、そのうちまた増補増補改訂版が出るんだろうな、とは思いますが。


長谷川友/プリンス:ゴールド・エクスペリエンスの時代
(シンコーミュージック)
プリンス:ゴールド・エクスペリエンスの時代




小柳カヲル/クラウトロック大全 増補改訂版
(Pヴァイン)
クラウトロック大全 増補改訂版 (ele-king books)




三田格・監修/AMBIENT definitive 増補改訂版
(Pヴァイン)
AMBIENT definitive 増補改訂版 (ele-king books)




原塁/武満徹のピアノ音楽 (叢書ビブリオムジカ)
(アルテスパブリッシング)
武満徹のピアノ音楽 (叢書ビブリオムジカ)




稲岡邦彌/ECM catalog 増補改訂版/50th Anniversary
(東京キララ社)
ECM catalog 増補改訂版/50th Anniversary




Prince/Gold (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=7IQE62Vn4_U
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