渡辺貞夫を聴く [音楽]

YouTubeで日野皓正の演奏を検索して聴いていた。日野皓正は今年80歳だがそのブロウは相変わらずスリリングである。しかしそうして探していると、サイドの検索候補に渡辺貞夫が上がって来る。渡辺貞夫は1933年生まれだから今年90歳。聴いていると昔のマイ・ディア・ライフの放送録音なども含め、ハードなのからソフトなものまでヴァリエーション豊富だ。
最近の演奏だとブルーノート東京の2021年のライヴ〈BOP NIGHT 2021〉がここちよい。4管の厚みのある流麗なバックに乗るアルトのリラックスしたスウィング感が出色である。ピアノの小野塚晃のソロも品があって美しい。→1)
あるいは同じブルーノート東京における2022年のブラジル・テイストのライヴ〈SAUDADE TO BRAZIL〉。ナベサダのブラジル風味には定評があるが、まさにジャズというよりイージー・リスニングなサンバの響きの気持ち良さで身体が揺れる。この演奏における楽しさはマルセロ木村のギターとユニゾンする口笛のソロで、ギターのシングルトーンの美しさとそれに絡むピアノ、ドラム。最後にメンバー全員がメロディを歌うところなど、この曲のテーマから醸し出されるメロディの懐かしさのようなものはなんだろうか。→2)
もう少し前の演奏だと2005年のチャーリー・マリアーノとの〈Tokyo Dating〉を聴くことができる。チャーリー・マリアーノは2009年に亡くなっているのでかなり晩年の演奏と言ってよいだろう。→3)
チャーリー・マリアーノはもちろん穐吉敏子の以前の夫であり、つまりMonday満ちるの実父である。そして当時のバークリーでメソッドを学び、ここでジャズを学べと渡辺貞夫を呼び寄せたのが穐吉である。
かつてのキャンディッド盤〈Toshiko Mariano Quartet〉はフレッシュ・サウンドで再発されていたが、昨年、Solidレーベルで国内盤として再発になった。若き日のチャーリー・マリアーノと穐吉を知るには好適なアルバムである。
だが、ビ・バップの演奏バリバリを聴くのならもう少し時代を遡るしかないように思える。1999年の〈Kirin The Club〉における演奏。メンバーがすべて日本人ではないこともあいまって (pf: Cyrus Chestnut, b: Roland Guelin, ds: Rodney Green, tp: Terell Staford)、バップ・テイスト全開のソロを聴くことができる。→4)
もっとも、バップ・テイストということでいうのならば、もっとずっと遡った1969年のアルバム《Dedicated to Charlie Parker》の〈Au Privave〉が最も有名だろう。1969年3月15日の銀座ヤマハホールにおけるライヴであるが、渡辺貞夫はリズム隊も無しで延々とソロで吹きまくってしまい、その後に日野皓正のソロが続くが、最後はナベサダが簡単にテーマをワンコーラス吹いて終わりという、曲構成としては破綻している演奏である。ただ、この神がかった演奏は最もすぐれたインプロヴィゼーションのひとつといってよい。→5)
1) 渡辺貞夫 BOP NIGHT 2021
Blue Note TOKYO live 2021
https://www.youtube.com/watch?v=QbpNYr-v7J4
2) 渡辺貞夫 SAUDADE TO BRAZIL
Samba Da Volta, Blue Note TOKYO live 2022
https://www.youtube.com/watch?v=3SI6dskFI40
3) 渡辺貞夫&チャーリー・マリアーノ/Memorias
Tokyo Dating 2005
https://www.youtube.com/watch?v=ID2QU3GwD1E
4) 渡辺貞夫/Ko Ko
from 1999 Kirin The Club
https://www.youtube.com/watch?v=-J5x5SsxfdU
5) 渡辺貞夫/Au Privave
live at Ginza Yamaha Hall 1969.03.15
https://www.nicovideo.jp/watch/sm17892545
《参考》
渡辺貞夫/I’m Old Fashioned
from 1991 Kirin The Club
https://www.youtube.com/watch?v=RImZlu9Xfk8