《マイルス・イン・フランス 1963&1964》 [音楽]

マイルス・デイヴィスの《マイルス・イン・フランス 1963&1964》が発売された。ブートレグ・シリーズのvol.8である。今回の内容は1963年7月26日〜28日のアンティーブ・ジャズ・フェスティヴァル (Festival mondial du jazz, Antibes/Juan-les pins) と1964年10月1日のサル・プレイエルにおけるパリ・ジャズ・フェスティヴァル (Paris jazz festival, salle pleyel) で収録されたライヴ演奏である。
ブートレグのvol.7《That’s What Happened 1982−1985》は私見では 「まぁね……」 とつい呟いてしまう内容だったが (私はギターの入ったマイルス・バンドが嫌いなので)、今回のvol.8はアコースティク・マイルスであり、この時期こそマイルスの最盛期と捉えるのが当然だと考える。
録音はモノラルであるが、音質はオフィシャルで出されたものであるから問題ない。
アンティーブのパーソネルはハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスのリズム・セクションでサックスがジョージ・コールマンであるが、翌年のサル・プレイエルではウェイン・ショーターに代わっている。
アンティーブの7月27日はアルバム《Miles Davis in Europe》の音源なのであるが、26日と28日はオフィシャルとしては初発売とのことである (JAZZDISCOのセッショングラフィによればJazz Music Yesterdayというレーベルでブートが出ていたらしい)。
サル・プレイエルのライヴは完全に初発売であるが、前出のJAZZDISCOで確認するとHeart Noteというレーベルでブートが出されていたことがわかる。
テナーがジョージ・コールマンからサム・リヴァースを経て、ショーターに代わってからの最初のライヴが1964年9月25日のベルリン・フィルハーモニーにおけるライヴ・アルバム《Miles in Berlin》であり、サル・プレイエルはその6日後の録音なのである。
マイルスのYouTubeチャンネルでは7月26日のアンティーブにおける〈So What〉と、サル・プレイエルの〈Autumn Leaves〉が公開されている。
〈Autumn Leaves〉はマイルス、ショーター共に尖っていて音数も多く緻密、おそろしいほどの緊張感で、数多い〈Autumn Leaves〉のなかでも出色の出来である。ベースソロの終わる頃にマイルスがテーマの片鱗を一瞬被せて来る数音が美しい (マイルスがライヴで 「枯葉」 のテーマをストレートに吹くことはほとんどない)。
〈So What〉はこの曲のライヴでの常としてオリジナルより圧倒的に速いが、ハンコックのソロが特に光る。ジョージ・コールマンもクォリティが高い。
本当はこれ、レコードで聴きたいんですが、う〜ん、値段が。
Miles Davis/Miles in France 1963&1964
(ソニーミュージックエンタテインメント)
Miles Davis/Autumn Leaves
(Live at Salle pleyel, Paris Oct 1, 1964)
https://www.youtube.com/watch?v=VceamQwj8bo
Miles Davis/So What
(Live at Festival mondial du jazz Antibes, July 26, 1963)
https://www.youtube.com/watch?v=lzJ4ZTi7yoY
柴田淳〈それでも来た道〉 [音楽]

最初に気にとまったタイトルは《ブライニクル》だった。それは柴田淳の12枚目のアルバムタイトルなのだが、タイトルとしては特異なのかもしれない。wikipediaを引用すると 「ブライニクル (brinicle) は拡大中の海氷の下部で形成される、塩水の降下流を内包した空洞の氷である。下向きに成長する。brine (塩水) とicicle (氷柱) のかばん語で、英語圏ではice stalactite (氷の鍾乳石) としても知られる。別名死の氷柱と呼ばれる」 とのこと。自然科学系の言葉であるが、その現象を借りて何を象徴しようとしているのかはあきらかである。
柴田淳には《ブライニクル》以外にも《オールトの雲》《バビルサの牙》といったアルバムタイトルがある。《オールトの雲》は2002年にリリースされた1stアルバムであるが、ダブルトーン風の上半身写真を配したジャケット表面にはタイトル文字が無く、タイトルの象徴性に同期している。オールトの雲とはヤン・オールトが提唱した 「太陽系の外側を球殻状に取り巻いていると考えられている理論上の天体群」 のことである。
このアルバムの最終トラックに入っているのが〈それでも来た道〉であり、この時点で柴田淳の音楽の方向性は確立されているといってよい。
アルバムは2ndが《ため息》(2003)、3rdが《ひとり》(2004) と続くが、荒井由実のような派手さは無いけれどこのクォリティはすごい。リアルタイムでは知らないので飛び飛びに聴きながらこの初期アルバムに辿り着いたのである。
〈それでも来た道〉はオリジナルのMVも初々しいが、最初のライヴ映像である《Live at Gloria Chapel》(2004) は秀逸であり、そのなかの歌唱をリンクしておく。
柴田淳/オールトの雲 (Dreamusic)

柴田淳/それでも来た道 (Live at Gloria Chapel)
https://www.youtube.com/watch?v=EJCsPXFGW7E
柴田淳/それでも来た道 (MV)
https://www.youtube.com/watch?v=jT8u5hm92EI
TOMOO〈エンドレス〉など [音楽]

TOMOOの〈エンドレス〉のMVが公開されている。最初は音声だけだったのだが、今回のはちゃんとしたMVだ。私はあまりドラマを観ないので知らないのだが、この曲もドラマのエンディングに使われているようだ。フジテレビ系水10ドラマ《全領域異常解決室》エンディングテーマとのこと。
でも最近のTOMOOの楽曲で、私のなかでのヒットは2023年のスタジオ・ライヴと表記されている〈夜明けの君へ〉である。ピアノの弾き語りで、ピアノをゴンゴン弾いてしまう少しハードなタッチが好きだ。歌詞の主語は例によって 「僕」 である。
すでにスタンダードな彼女のチューンから選ぶなら〈Super Ball〉は最近のライヴでは2024年の “TWO MOON” の歌唱が比較的好き。でも〈Ginger〉は2021年の “SPIRAL” ライヴが良いかもしれない。
単なる備忘録としてのリンクみたいですみません (手抜きとも言う)。


TOMOO/エンドレス (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=NW9IGlAsK7A&t=5s
TOMOO/夜明けの君へ
(Live from “Amazon Music Studio Presents TOMOO STUDIO LIVE,” 2023)
https://www.youtube.com/watch?v=1aBY_B8YE5o
TOMOO/Super Ball
(Live from “TWO MOON,” 2024)
https://www.youtube.com/watch?v=OvGndFzAOzQ
TOMOO/Ginger
(Live from “SPIRAL,” 2021 for J-LODlive2)
https://www.youtube.com/watch?v=LAT7HD4Rw-I
モントルー1975のアンソニー・ブラクストン [音楽]

Anthony Braxton /Town Hall 1972
チック・コリアとアンソニー・ブラクストンによるグループであるサークルの最も有名なアルバム、ECM盤の《Paris-Concert》が録音されたのは1971年2月、リリースされたのが1972年5月であるが、以後、2人は全く別の道を歩むことになる。
チック・コリアはソロによる2枚の《Piano Improvisations》を経て1972年9月にリターン・トゥ・フォーエヴァーのデビュー作《Return to Forever》をリリースしてクロスオーヴァー (=フュージョン) の寵児となるが、ブラクストンはアヴァンギャルドな方向性を深化させ、マジョリティなシーンから遠ざかることになった。判官贔屓である私はブラクストンにシンパシィを持ち、カモメのアルバムは買わなかった (厳密にいうとカモメのアルバムはコリア名義のアルバムであり、リターン・トゥ・フォーエヴァーとしての1stは《Light as a Feather》である)。
ブラクストンのその後の足跡を辿ると、1972年に《Town Hall 1972》というライヴ・アルバムがある。このタイトルはあきらかにオーネット・コールマンの《Town Hall, 1962》を意識したものである。オーネットのジャケットもモノクロだったが、ブラクストンのほとんど真っ黒なジャケットにその気負いが感じられる。パーソネルはサークルから継続していたデイヴ・ホランドとバリー・アルトシェルにプラスアルファした2種類のセットになっていた。
そして1974年にはテテ・モントリューとニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセンを擁したスティープルチェイス盤の《In the Tradition》をリリースするが、これはすでにスタンダードとなっているトラディショナルな曲をとりあげているけれど最も意識しているのはチャーリー・パーカーである。なぜなら1972年に《Donna Lee》というパリ録音が存在するからである。
このアルバムのタイトル曲〈Donna Lee〉はパーカーのテーマをなぞっていながらアタックやリズムがやや異様であって、それはインプロヴィゼーションに入ってからの次第に壊れて行く前兆としてのアヴァンギャルド指向に他ならない。それはサークルの《Paris-Concert》冒頭でウェイン・ショーターがマイルス・バンドのために書いたスローで官能的な〈Nefertiti〉をフリー・フォームに変容させていく手法に似ている (但し《Paris-Concert》の〈Nefertiti〉にはスウィングのテイストがまだ内在するが〈Donna Lee〉にはそれが稀薄であることは、アヴァンギャルド的アプローチとして、より濃厚になったといえよう)。
そして同じ1974年にはデレク・ベイリーとの全く噛み合っていないようなエマナム盤の《Duo》がある。後に2人は再度共演しているがこのときの緊張感には及ばない。この噛み合わなさ具合がアヴァンギャルドなのである。
そのブラクストンが1975年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに出演したときの動画がある。1975年7月20日、Casino Montreuxにおけるライヴで、そのなかの1曲が下記のリンクである (フルセットの動画もあるが聴き通すのは辛いと思えるので)。アリスタ盤の《The Montreux/Berlin Concerts》の内容であると思われる。トランペットとの2管でピアノレスというパーソネルにオーネットの《The Shape of Jazz to Come》を連想してしまうのも確かだ。
同日にはビル・エヴァンスとエディ・ゴメスがデュオで出演していて、これはファンタジー盤の《Montreux III》としてリリースされている。
ブラクストンがストレートなジャズ・リスナーに比較的評判が悪いのは、いわゆるフリーなジャズといわれるインプロヴィゼーションと少し違い、そのフレーヴァーが多分に現代音楽的であるからなのではないかと思う。それは後のオーケストレーション作品などでより顕著になる。
コントラバス・クラリネットなどという奇矯な楽器まで使ってしまうところに根っからのアヴァンギャルディストである彼のコンセプトを感じてしまうのだが、お勧めするには躊躇する音楽であるとも言える。
Anthony Braxton/Town Hall 1972
(Deep Jazz Reality/Trio Records/Octave-Lab)

Anthony Braxton/In The Tradition vol.1
(Steeplechase)

Circle/Paris-Concert (ECM Records)

Chick Corea/Return to Forever (ECM Reccords)

Anthony Braxton Quartet, Montreux 1975
https://www.youtube.com/watch?v=_0F3Uqmgt-k
Anthony Braxton/Donna Lee
https://www.youtube.com/watch?v=2jdbX-8sSbo
Anthony Braxton Quartet - Montreux 1975 (full)
https://www.youtube.com/watch?v=0-cVBSy5Y0Y
1984年の音楽アルバム [音楽]

Prince
ブルース・スプリングスティーンの《Born in the U.S.A.》が発売から40周年で、そのことにかこつけてなのか、タワーレコードの宣伝誌『bounce 490号』では1984年の音楽アルバムという記事がリストになって掲載されていた。52から1までナンバリングされて逆順に並べてある。どういう基準で順位が付けられたのかは明記されていないが、おそらくこれが総合的な順位ということだろう。
1984年という年から、もう40年も経ってしまっているのだ、ということと、この年にこんなにも多くのアルバムがリリースされていたのだということに驚くし、深い感慨もある。
簡単に見てみると、第1位から6位までは、
1) プリンス・アンド・ザ・レヴォリューション《Purple Rain》
2) ワム!《Make It Big》
3) ブルース・スプリングスティーン《Born in the U.S.A.》
4) マドンナ《Like a Virgin》
5) ヴァン・ヘイレン《1984》
6) U2《The Unforgettable Fire》
これが全部1984年のアルバムというのがすごい。すご過ぎる。《Purple Rain》の欄のコメントには 「彼の最高傑作が本作なのかどうかは人によるとしても、このミネアポリスの奇才が時代にもっとも愛された瞬間の記録がここに刻まれていることに異論はないだろう」 とある。「ミネアポリスの奇才」 という形容が泣かせる。
マドンナの《Like a Virgin》は彼女の2nd、そしてヴァン・ヘイレン《1984》は6thアルバムで、当時はちょっとおバカなアルバムと思っていたのだが、今聴くとその音の明るさやキレに心が躍るのは単なる郷愁ではないのだと思う。かつて音楽はこういうものだったが、40年経つことによってその何かが失われてしまって、それはずっと失われたままのような気がする。
52位までのアルバムを順不同で私の嗜好だけでピックアップすると、
シャーデー《Diamond LIfe》
フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド《Welcome to the Pleasuredome》
トーキング・ヘッズ《Stop Making Sence》
ボン・ジョヴィ《Bon Jovi》
デヴィッド・ボウイ《Tonight》
ハワード・ジョーンズ《Human’s Lib》
ジュリアン・レノン《Valotte》
など。
シャーデーの《Diamond LIfe》、そしてボン・ジョヴィの《Bon Jovi》はどちらも1stアルバム。デヴィッド・ボウイの《Tonight》は《Let’s Dance》の次のアルバムで〈Blue Jean〉が収録曲。フランキーとかハワード・ジョーンズは、うわ、懐かしいと思ってしまうが、トーキング・ヘッズの記念盤はジャケットがダメよね。
ドメスティックなアルバムは、
竹内まりや《Variety》
大瀧詠一《Each Time》
矢野顕子《オーエス オーエス》
など。
竹内まりやの《Variety》は全ての作詞作曲が竹内まりやである最初のアルバムで、〈プラスティック・ラヴ〉が収録曲であることでも知られるが〈マージービートで唄わせて〉がベストソングだと私は思う。大瀧詠一の《Each Time》はスタジオ・オリジナル作品としては最後のアルバム。矢野顕子の《オーエス オーエス》は〈おもちゃのチャチャチャ〉〈ラーメンたべたい〉を収録。ジャケ写が美しい。レコードはオリジナルで3枚とも持っていたと記憶してるがさだかではない。
といいながら、さっきNHKTVで〈Creepy Nuts THE LIVE〉を観た。冒頭の〈ビリケン〉が圧倒的でCreepy Nutsの世界に没入。まだCreepy Nuts結成以前の、見た目が胡乱でキタナい頃の (失礼な!) R-指定を最初に観たときからこれはスゴイと思ったのだけれど、あっという間にここまで来たのが驚きですが、でも当然かなとも思います。
Prince and the Revolution/Purple Rain
(ワーナーミュージック・ジャパン)

Wham!/Make It Big (SMJ)

Bruce Springsteen/Born in the U.S.A. (SMJ)

Madonna/Like a Virgin (ワーナーミュージック・ジャパン)

Van Halen/1984 (ワーナーミュージック・ジャパン)

U2/Unforgettable Fire (Island)

Prince/Purple Rain (Official Video)
https://www.youtube.com/watch?v=TvnYmWpD_T8
Julian Lennon/Valotte
Toppop 1985.02.11
https://www.youtube.com/watch?v=W9JRtVCA1Mc
Van Halen/Jump (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=SwYN7mTi6HM
*
Creepy Nuts/ビリケン、Bling Bang Bang Born、二度寝
JAPANJAM 2024
https://www.youtube.com/watch?v=t5nAPdgpI_g
渡辺貞夫〈I’m Old Fashioned〉 [音楽]

常に日本のジャズシーンをリードしてきた渡辺貞夫は1933年生まれだから91歳だが、現役のサックス・プレイヤーである。メインストリームなジャズを得意とするが、ボサノヴァやフュージョン、アフリカ系の音楽にも理解があり、そのテリトリーは広い。
かつてFM東京 (現・Tokyofm) に《渡辺貞夫 マイ・ディア・ライフ》という番組があり、自己のグループでの演奏だけでなく、幾多のゲストを迎えてセッションを行うという今考えれば贅沢な放送であった (1972年から1989年までオンエアされていたとのこと)。気に入った回をエアチェックしていた記憶があるが、そのテープがどこにいってしまったのかわからないのが悲しい。
彼のメインストリームな演奏を取り上げるのならば、そのエポックとなるのは《Swing Journal Jazz Workshop 2: Dedicated to Charlie Parker》(1969) というチャーリー・パーカーをリスペクトしたアルバムであると思うが、1976年に《I’m Old Fashioned》というアルバムがあり、このほうがリラックスしていて、かつ、最盛期の演奏が聴けるという点で重要な録音のひとつである。サイドメンはハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス、いわゆる The Great Jazz Trio である。
そして最初に手にいれたナベサダのレコードが、友人から譲ってもらったこの《I’m Old Fashioned》だった。青で統一されたジャケットがちょっとカッコイイ。中古盤だったり譲ってもらった盤のほうがかえって愛着があったりするのはよくあることなのかもしれないけれど、よく考えると不思議だ。
The Great Jazz Trio は実質的にはハンク・ジョーンズをリーダーとするバンドであり、何度もメンバーが変わっていて、YouTubeにはたとえばジョン・パティトゥッチとオマー・ハキムによる渡辺貞夫との〈I’m Old Fashioned〉があるが、おそらく2006年から2007年頃なので、さすがにハンク・ジョーンズが衰えていて、やや精彩を欠いている。
アルバム《I’m Old Fashioned》のタイトル曲である〈I’m Old Fashioned〉についていえば、クォリティの高いトラックはアルバムに収録されているオリジナルの演奏だと思うが、1991年にキリン・ザ・クラブというライヴ演奏があり、この日の〈I’m Old Fashioned〉がなかなか聴かせる。
メンバーはペリー・ヒューズのギター、ロニー・フォスターのオルガン、ハーヴィー・メイソンのドラムスという、ピアノレスでベースレスなグループなのだが、流れるように湧き出すナベサダのソロはオリジナルよりもより尖鋭で、ヒューズのギターソロも非常に構築的ですぐれている。
同日の録音として〈All The Things You Are〉もあるが、その当時のナベサダの記録として貴重である。
渡辺貞夫/アイム・オールド・ファッション
(ユニバーサルミュージック)
https://tower.jp/item/3764380
Sadao Watanabe/I’m Old Fashioned
Kirin the Club in 1991
,Perry Hughes(g), Ronny Foster(b), Harvey Mason(ds)
https://www.youtube.com/watch?v=RImZlu9Xfk8
Sadao Watanabe/All The Things You Are
https://www.youtube.com/watch?v=BddlgFut9p8
Sadao Watanabe/I’m Old Fashioned
Hank Jones(p), Ron Carter(b), Tony Williams(ds)
album《I’m Old Fashioned》original, 1976
https://www.youtube.com/watch?v=imnaqlxHttE
モントリオール・ジャズ・フェスティヴァルのミシェル・ルグラン [音楽]

欲しいと思いながらも手に入れられなかったレコードやCDはかえって記憶に残っていたりするもので、シェリーズ・マン・ホールのミシェル・ルグランもその1枚だ。銀色のジャケットが印象的だったが、今となっては状態の良いものは滅多にない。
ミシェル・ルグランといえば数々の映画音楽を作曲したことで識られるが、最も有名なのはもちろん《シェルブールの雨傘》(Jacques Demy/Les Parapluies de Cherbourg, sorti en 1964) である。いまさら書くことでもないがセリフがすべてメロディになっているという手法によるミュージカル映画の最高傑作であり、音楽を主体とした映画でこの作品を超えるものは存在しない (作品そのものについては過去に書いた→2016年01月03日ブログ)。
ルグランはジャズ・ピアニストとしても一流であるが、2001年のモントリオール国際ジャズ・フェスティヴァルにおけるライヴ映像をYouTubeで観ることができる。フィル・ウッズとの双頭コンボであるが、メインはあきらかにルグランである。
フィル・ウッズでよく聴いていたのは《Worm Woods》(1958) というやや地味目な初期のアルバムで、同時期に録音されたジョージ・ウォーリントンの《The New York Scene》(1957) におけるドナルド・バードとの2管の爽快感も好きだった。つまりウッズの初期が私の嗜好に合っていたのかもしれない。
このモントリオール・フェスにおける演奏は、かなり体格が立派になったウッズのサックスもなかなか味があるが、ルグランのピアノを弾きながらの歌もあり、どれもが楽しい。メイン楽曲である〈シェルブールの雨傘〉はピアノトリオでの演奏だが、ピアノとアルコのベースでごくゆっくりと始まるのにもかかわらず、突如ハイテンションな急速調に変わり、ワルツになったりタンゴになったり、そのヴァリエーションはもはや曲芸ピアノ的で大ウケだが、それでいながらそこからほとばしる哀愁のような感触がたまらない。それは原曲がいかにすぐれているかの証左なのだと思う。
Michel Legrand & Phil Woods Quartet
July 1, 2001
22. Festival International de Jazz de Montreal,
Spectrum of Montreal, Montreal, Canada
Michel Legrand: piano, vocals
Phil Woods: alto sax
Éric Lagacé: bass
Ray Brinker: drums
Les Parapluies de Cherbourg
https://www.youtube.com/watch?v=_X4AYu5m2ko
What Are You Doing the Rest of Your Life?
https://www.youtube.com/watch?v=vMg_Jiu2iF8
Once Upon a Summertime
https://www.youtube.com/watch?v=mOPVoJYaCZI
Watch What Happens
https://www.youtube.com/watch?v=GnuJThWZuxM
You Must Believe in Spring
https://www.youtube.com/watch?v=E2T8fRxix2s
The Summer Knows
https://www.youtube.com/watch?v=LuV1o7ttPKY
The Windmills of Your Mind
https://www.youtube.com/watch?v=J3CwAx9wEoc
コンセルトヘボウのアンナ・フェドロヴァ [音楽]

Anna Fedorova (interartists.nlより)
アンナ・フェドロヴァ (Anna Fedorova, 1990−) のラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集がChannel Classicsから昨年リリースされていて 「欲しい物リスト」 にずっと載ったままだったのだが、先日、ウルトラ・ヴァイヴの廉価盤シリーズと併せて購入してみた。レザー・ジャケットを着た彼女がやや異質で目を惹く (ちなみにウルトラ・ヴァイブ盤でとりあえず欲しかったのはあがた森魚の《バンドネオンの豹と青猫》である)。
ラフマニノフのPコンは昨年の同時期にユジャ・ワンのコンプリート盤がリリースされて、そのときはすぐにそのことを書いたのだが (→2023年09月19日ブログ)、フェドロヴァ盤については食指がなかなか動かなかった。なぜなら一時期、ラフマニノフといえば耽美と形容してしまうような不倫ドラマの見過ぎみたいな風潮があって、その嗜好に対する拒否感が私のなかにあったからに違いない。
そこで思いついたのがフェドロヴァとユジャ・ワンの聴き較べだった。
今回のフェドロヴァ盤は2019年から2022年の録音で、オケはモデスタス・ピトレナス/ザンクト・ガレン響であるが、YouTubeにはもう少し前のライヴ映像しかない。2番は2014年のコンセルトヘボウにおけるライヴで、これはかなりの再生回数がある評判の動画である。同時期に録音されているBrilliant Classics盤があるが未聴だし、おそらく内容的には違うと思われる。
だがこの2番のフェドロヴァは私には少し重苦しく感じられたので、これはパスして、第3番を選択してみた。
3番のオケはヘラルド・オスカンプ/北西ドイツ・フィルでホールは2番と同じコンセルトヘボウである。一方のユジャ・ワンのライヴは複数に存在するが、チョイスしたのは2019年のエネスク・フェスティヴァルにおける演奏で、オケはチョン・ミョンフン/シュターツカペレ・ドレスデンで、会場はルーマニアのサラ・パラトゥルイという近代的なデザインのホールである。
DG盤のユジャ・ワンのオケはドゥダメル/ロサンジェルス・フィルであり、録音もロスのウォルト・ディズニー・コンサートホールだからまさにアメリカ的であるし、それはチョン・ミョンフンの場合も、ドゥダメルほどではないが明快な解釈ということでは似たものがあるように感じられる。
ユジャ・ワンの演奏もクリアで、速いパッセージも楽々と通り過ぎるし、その音の粒立ちの美しさは比類がない。なにより彼女の演奏から聞こえるのは耽美とか憂鬱さとは別種の感触である。
一方、フェドロヴァの場合は、ある意味、ラフマ弾きといってもよいほどにラフマニノフに関してはオーソリティであり、決して重くはないのだが芯の通ったような意気込みがあり、それはラフマニノフに対するシンパシィといってもよいのだろう。フェドロヴァはウクライナのキーウ出身であり、現在のロシアとウクライナの関係性から見て、ロシアの音楽は演奏しないとする演奏家も存在する。しかしフェドロヴァには国の対立と音楽とは違うものだという確信があるのだ。ラフマニノフに対する尊敬があり、自分にとってラフマニノフは重要だから演奏する、それは国籍とか政治とは関係がないと主張するのだ。
私の個人的感想を述べれば、ロシアという国が文化的に最もすぐれていたのは帝政ロシアのときであり、ソヴィエトになり、再びロシアになったけれど、国の組織が変わるたびにその文化程度は劣化するばかりだとしか思えないのが悲しい。
そしてこの演奏において重要なのがアムステルダムのコンセルトヘボウという歴史あるホールである。単純に美しい建築物というだけでなく、ホール自体がそこで演奏される音楽にプラスアルファを付加する——それがコンセルトヘボウというホールの魔術である。
Anna Fedorova/Rachmaninoff: Piano Concertos
& Other Works (CHANNEL CLASSICS)

Yuja Wang/Rachmaninoff: Piano Concertos
& Paganini Rhapsody (Universal Music)

Anna Fedorova,
Gerard Oskamp, Nordwestdeutsche Philharmonie/
Royal Concertgebouw
Rachmaninoff: Piano Concerto No.3
https://www.youtube.com/watch?v=1TJvJXyWDYw
Yuja Wang,
Myung-Whun Chung, Staatskapelle Dresden/
Sala Palatului, Bucharest, Romania
September 8, 2019, George Enescu Festival
Rachmaninoff: Piano Concerto No.3
https://www.youtube.com/watch?v=VHre-G8wlb4
スザンヌ・ヴェガ〈Small Blue Thing〉 [音楽]

Suzanne Vega
Ebisu The Garden Hallでのiriの2019年のライヴ動画がYouTubeにあって、これはアルバム《Sparkle》に附属したDVDに収録されている映像だが〈会いたいわ〉の連綿と続く歌詞の畳みかけてくるムードが鬱陶しくもあるのだけれどその濃厚さにハマッてしまう。
いわばsongとrapのあわいのような、たとえば〈Swanp〉のような、こころが疲れていると意味を摑みかねるような呪文のような言葉の連なりが好きだ。
ソニーミュージックにはiriがいて、そしてUruもいるのだけれど、実際に使える音は 「イ」 と 「ウ」 だけで、他の音だとaraでもereでもoroでも、皆、使えないネーミングだよなぁと、くだらないことを考えてしまう (でもCharaだと成立するのだ)。
まぁそれはいいとして、ずっと以前にスザンヌ・ヴェガのことを書いたとき、私の偏愛する曲〈Small Blue Thing〉のことを書きながら、その当時の適切な動画を探し出せなかった (→2012年01月31日ブログ参照)。それを見つけたのでリンクしておくことにする。1985年のBBCでオンエアされたものらしい。縦横比がややおかしい気がするが1stアルバムの《Suzanne Vega》(邦題:街角の詩) をリリースした時点での映像である。
彼女のライヴにおけるベストは、以前にも書いた1986年のロイヤル・アルバート・ホールにおけるアカペラの〈Tom’s Diner〉であり、この緊張感にまさるものは存在しない (→2022年06月11日ブログ参照)。だが、年代によってその表情を変えながらも一定のクォリティを持続させている真摯な姿勢に惹かれる。それは精神性の維持といってもよい。
Suzanne Vega/Small Blue Thing
BBC, 1985
https://www.youtube.com/watch?v=oclv-EqJbvY
Suzanne Vega/Tom’s Diner
Live at Royal Albert Hall, 1986
https://www.youtube.com/watch?v=DCCWVk1fgpY
Suzanne Vega/Luka
live NRK Wiese, 1996
https://www.youtube.com/watch?v=Bjz04mCMyzo
Suzanne Vega/Luka
live at Montreux, 2004
https://www.youtube.com/watch?v=vHC4BAAWs2o
Suzanne Vega
Live at Jazzopen, Stuttgart 2022
https://www.youtube.com/watch?v=MzGhSS348hA
iri/会いたいわ
from iri Presents “Wonderland” at Ebisu The Garden Hall
https://www.youtube.com/watch?v=WQJS6-LszOM
iri/Swamp (Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=k-5drkaQVoU
《近藤譲:ブルームフィールド氏の間化》 [音楽]

古いレコードがある。円形に切りとられた幾何学的連続模様が黒いバックから浮き出ているように見える印象的なジャケット。ALM RECORDSの《近藤譲:ブルームフィールド氏の間化》。「間化」 という単語にやや違和感があるが、英語タイトルは 「Mr.Bloomfield, His Spacing」 と記されている。
近藤譲には《近藤譲:線の音楽》というアルバムもあって、彼の音楽理論の書かれた同名の書籍も存在する。初刊も再刊も持っているが、内容はわかったような気になるけれど結局全然わからない。
《ブルームフィールド氏……》はずっと廃盤だったが、ALM RECORDS=コジマ録音50周年とのことでCDとなって7月に再発された。
まだレコードをそんなに持っていない頃、日本の現代音楽で繰り返し聴いていたのが、この近藤譲のアルバムと、東芝音楽工業から出されていた高橋アキの《高橋アキの世界》3枚組、それに友人から譲って貰った黛敏郎の《涅槃交響曲》というさらに古いレコードだった。
コジマ録音の小島幸雄のレコード/CD観には首肯けるものがある。
気持ちとしては、全部、アナログからつくりたいと思いますよ。おなじ
音楽をべつに聴くと、レコードはもちろんぱちぱちしたりします。喧し
いんですけど、なぜか、ほっとするんです。古いレコードをきくとほっ
とする。いい音とは違うかもしれないけれど……。(intoxicate #171)
だがそう言いながらも現代曲においては 「間が多い」 ので、ノイズの入るアナログ盤よりもCDのほうがアドヴァンテージがあると語る。現代曲に限らずクラシカルな音楽はダイナミクスの差が大きいので、弱音時の再生にはCDのほうが有利だ。
インタヴューに応えて、小島幸雄はコジマ録音の初期の頃について回想する。
ジャズをやるつもりだったんですよ。フリーの。阿部薫をね。阿部さん
が亡くなって、しぼんじゃったんだ、こっちもね。70年代は、いまやっ
ているクラシック、特にロマン派は射程にはいっていなかった。(同前)
さらに、
そのころからフリージャズのシーンが解体していった。自由になりすぎ
てね。社会に抵抗するようなかたちがなくなったようでね (同前)
小島はパンクに対してもシンパシーを感じていてPhewのアルバムも作ったとのことだが、時代が変質して行くにつれて、録音してリリースする際の方向性も次第に変わっていったのだと思わせる。
そして小島の言う阿部薫とはコジマ録音からリリースされた《なしくずしの死》というソロ・インプロヴィゼーションを収録した2枚組アルバムのことであろう。阿部の最盛期の録音である。「なしくずしの死」 というタイトルはルイ=フェルディナン・セリーヌの同名の小説 (Mort à crédit/1936) から採られたものであり、冒頭にセリーヌが自作を朗読する録音が使われている。これはプロデュースした間章 [あいだ・あきら] によってなされたアイデアである。
その頃に刊行された邦訳のセリーヌの全集は、不可解な、あるいは不幸な事情で中断されたりしたが、通俗的な表現を用いるならば呪われた作家という表現もあてはまるのかもしれない (もっとも私の読んだセリーヌは滝田文彦訳だったと思う)。
阿部薫の死後、生前に録音された幾つもの演奏がリリースされたが、このコジマ録音の《なしくずしの死》を凌駕するものはない。
そしてアルバム《ブルームフィールド氏……》の中で私が好んで聴いていたのは、近藤の厳粛な理論に基づいた作品ではなく、フィールドワークした自然音をコラージュしたような、いわゆるミュジーク・コンクレート的な〈夏の日々〉であった。デヴィッド・シルヴィアンの《NAOSHIMA》を聴いた時、よみがえったのはこのイメージであった。緊張と弛緩は交互に訪れるべきもので、弛緩には怠惰さとともに懐かしさが附随するのである。
(〈夏の日々〉と《NAOSHIMA》、そしてそれに関連したリュク・フェラーリのことは、ずっと以前にこのブログに書いた。その時点では《ブルームフィールド氏……》は廃盤状態だったので、今回の再発には深い感慨がある。→2012年02月03日ブログ)
近藤譲:ブルームフィールド氏の間化 (コジマ録音)

近藤譲:線の音楽 (コジマ録音)

近藤譲:時の形 (コジマ録音)

佐藤紀雄、篠崎功子、高橋アキ、多戸幾久三、山口恭範/
近藤譲:視覚リズム法
https://www.youtube.com/watch?v=TPw2L89JGEQ
井上郷子/近藤譲:視覚リズム法 (ピアノ・ヴァージョン)
https://www.youtube.com/watch?v=DbQbcjA29XI
小泉浩、山口恭範、高橋アキ /近藤譲:STANDING
https://www.youtube.com/watch?v=w9g49XiNDEw
阿部薫/なしくずしの死 (Full Album)
https://www.youtube.com/watch?v=F5xJQL7xO64