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ジョニ・ミッチェル〈Blue〉 [音楽]

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Joni Mitchell

ジョニ・ミッチェルの《Blue》は1971年にリリースされた4thアルバムだが、最初の3枚のアルバム《Song to a Seagull》(邦題:ジョニ・ミッチェル/1968)、《Clouds》(青春の光と影/1969)、《Ladies of the Canyon》(レディズ・オブ・ザ・キャニオン/1970) とはやや一線を画すアルバムであり、Repriseレーベルにおける最後のアルバムでもある。そして〈Blue〉はLPのA面5曲目に収められたアルバム・タイトル曲である。
彼女の作品の中で評価の高いアルバムの1枚といってよい。

〈Blue〉はその歌詞に特徴があり、作られた当時の時代性を如実にあらわしている。
冒頭の歌詞、

 Blue songs are like tattoos

が、いきなり衝撃的である。
歌詞全体はBlueという名前 (愛称?) の男に宛てて語られている体裁をとっているが 「ブルーの歌はタトゥーのようだ」 というタトゥーとは刺青のことであり、他にも歌詞の中に酒やドラッグなどに関連する言葉が頻出する。ジミ・ヘンドリックスもジャニス・ジョプリンも1970年に早世した。《Blue》はその翌年のアルバムであり、時代は頽廃のアイテムに満ちていた。

 Hey Blue,
 There is a song for you
 Ink on a pin
 Under neath the skin
 An empty space to fill in

「インク」 「ピン」 「肌の下」 「空いているスペース」 といった言葉から連想されるのは刺青を入れる前の準備過程だ。

 Well there’s so many sinking now
 You’ve got to keep thinking
 You can make it through these waves
 Acid, booze, and ass
 Needles, guns, and grass

「sinking」 と 「thinking」、「Acid」 と 「ass」 で韻を踏んでいるが、そんなことはどうでもよくて、「booze」 「needles」 「grass」 といった単語が羅列されるのに注目する。「booze」 は酒のことであるが、「needles」 は針といっても注射針、つまりドラッグを打つための針であり、同時にレコードプレイヤーの針をも連想させる。そして 「grass」 は単なる草ではなく、マリファナの隠語である。だから日本語訳するなら 「葉っぱ」 である (ガラスと訳していたサイトがあった。ええと……)。

最後のほうに出てくる 「A foggy lullaby」 という言葉の唐突さが、やや謎だ。
ジョニの周囲にいた酒浸りやドラッグ漬けになった人々を憂う歌であり、それが lullaby なのだろうと読むこともできる。

シンディ・ローパーがジョニ・ミッチェルへのトリビュートとして歌ったヴァージョンも心に沁みる。チェロとミュート・トランペット。このトランペットの音色はどこかで聞いた曲を連想するのだが、何だったのか思い出せない。
このシンディ・ローパーの歌唱は Gershwin Prize 2023 でのものだが、ジョニ・ミッチェルの登壇の様子もリンクしておく。


Joni Mitchell/Blue
Live, 1974
https://www.youtube.com/watch?v=CaZFfjpCPfw

Cyndi Lauper/Blue
Live at the Gershwin Prize, Tribute to Joni Mitchell
https://www.youtube.com/watch?v=c_VrzLuy2WY

Joni Mitchell Accepts the Gershwin Prize | PBS
https://www.youtube.com/watch?v=kf6SQA909IU

Joni Mitchell/Blue
Full Album [Official Video]
https://www.youtube.com/watch?v=MvR7Dkg4NQU
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tomoo〈スーパースター〉 [音楽]

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tomoo

日曜夜のテレビ朝日《関ジャム 完全燃SHOW》は例によって 「2023年の年間マイベスト10曲」 という2週にわたる特集で、いしわたり淳治、蔦谷好位置、川谷絵音の3人がどんなランキングをしてくるのかが楽しみである。
多分にトリッキーというか青田買いというのか、ややマニアック過ぎる感じがしてしまうのもいつものことなのだが、でも昨今はこうした傾向なのかもしれないと思えてしまう選曲なので、紅白歌合戦とは違う意味で面白い。簡単にいえば関ジャムは 「最先端」、紅白は 「安定多数」 である。

お互いにかぶらないようにしているのか否かがよくわからないが、そんななかでいしわたり淳治と蔦谷好位置がともにTOMOO [ともお] を選出していたのが印象的だった。いしわたりは〈Super Ball〉を1位に、蔦谷は〈Grapefruit Moon〉を2位にしていて、どちらが言ったのか忘れてしまったが 「松任谷由実と中島みゆきを足したような」 という形容は褒めているのだろうけれどちょっと違うと思う。あくまでわかりやすい比喩なのだといわれればそうなんだけれど。

最近の曲は、ともすると技巧的な編曲がなされていたりもするが、作品のネイキッドな部分は、奇を衒わない、ある意味伝統的なシンガーソングライター的なニュアンスを持っているように思える。これはなぜなのかと考えたのだが、歌詞が直裁であり、ともするとむき出しで直裁過ぎる言葉によって滲み出てくる自然な風合い、たとえば綿や麻のような天然素材の服の肌ざわりような、あまり加工されていない心情が感じられるからではないだろうか。
松任谷由実の楽曲は手の込んだ料理のような加工されつくされた構造であり、中島みゆきはときとして確定的な強い意志がその信条であるので、どちらもTOMOOとは対極にあるように思えてしまう。

何曲か聴いているうちに、少し以前の曲のほうが、よりシンプルでナチュラルな感じがした。そうした曲を好んでしまう傾向があるのは、きっと疲れているからなのかもしれない。


TOMOO/スーパースター
https://www.youtube.com/watch?v=pI3537YYGys

TOMOO/Cinderella
Studio Live from “Blinking,” 2023
https://www.youtube.com/watch?v=1g1w2jq6g08

TOMOO/Ginger
LIVE TOUR 2023 “Walk on the Keys”
https://www.youtube.com/watch?v=_UVLQnofI9M

TTOMOO/Grapefruit Moon
https://www.youtube.com/watch?v=OJiip74IWf8

TOMOO/夢はさめても
Studio Live
https://www.youtube.com/watch?v=2TQDcB0aPek
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bedtime songs — cero, iri, Awesome City Clubなど [音楽]

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iri

昔からの言い回しに 「波長が合う」 という表現があるが、今だったら何と言えばより適切なのだろうか。これいいよ、と言われてもなんとなくあまり心に響かなくてずっと放っておいた曲が突然光を持って輝くことがある。それはその音楽に変化があったのではなく、自分自身に何かがあったからなのだ。つまり、古いかたちのダイヤルを回すラジオで 「波長が合った」 とき、いままでの雑音が消え去り、くっきりと聞こえるあのときに似ている。

最近だとたとえばceroなのだ。アルバム《 e o》はジャケットも美しいし、内容も美しい。でも、これがなかなかわからなかった。単純に理解力がないから、と言われてしまえばそれまでなのだが。
Zep Shinjukuで行われた2023年7月のライヴ動画をYouTubeで観ることができるが、アルバムのきっちりとした音ももちろん良いのだけれど、このライヴの空気感はもっとすごい。「リンクの切れた言葉たち」 という言葉にやられてしまう。
そう感じてから以前の〈Orphans〉などのMVをあらためて観てみると、一気にceroが何なのかがわかってしまって納得するのだ。

iriについても同様で、アルバム《PRIVATE》のLPがレコードショップに飾ってあって、カッコいいジャケットだなと思ったのだけれど結局買わないでいた。でもその1曲目の〈Season〉をYouTubeで聴いていたら突然覚醒してしまったのかもしれない。軽いタッチのイントロから、すっと入っていける気楽さが、心になじむ。その耳で以前の〈Wonderland〉などを聴くと、いままで聞こえなかった音が聞こえてくる。これが音楽の面白さなのだと思うし、そうしたセンシティヴィティがわかる人にはわかると思う。

Awesome City Clubの2021年・東京ガーデンシアターのライヴは、まだアクセス数が少ないが、オーサムのテイストがよくあらわれたライヴだと思う。私はモリシーのギターが結構好きだ。

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cero

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Awesome City Club


cero/ e o (カクバリズム)
e o




iri/PRIVATE (ビクターエンタテインメント)
【Amazon.co.jp限定】PRIVATE [初回限定盤] [CD + CD] (W特典/メーカー特典 : 非売品音源CD および Amazon.co.jp限定特典 : メガジャケ 付)




Awesome City Club/Get Set (cutting edge)
【Amazon.co.jp限定】Get Set(CD+Blu-ray)(メガジャケ(2形態共通絵柄絵柄)付き)




cero/Tableaux
live at Zepp Shinjuku 2023.7.12
https://www.youtube.com/watch?v=cu1Ui-3k-7M

cero/Orphans
https://www.youtube.com/watch?v=c_SLGBJgDNE

iri/Season
https://www.youtube.com/watch?v=eQtvqaM1i58

iri/Wonderland
https://www.youtube.com/watch?v=3WlOZTy072k

iri/Wonderland (THE FIRST TAKE)
https://www.youtube.com/watch?v=cSIcPZMotOo

Awesome City Club/またたき
Awesome Talks 2021 東京ガーデンシアター
https://www.youtube.com/watch?v=RObgKYl-Yj4

Awesome City Club/Color
Awesome Talks 2021 東京ガーデンシアター
https://www.youtube.com/watch?v=MuCgWIEj3iI
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