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We Want Jazz 第2期 [音楽]

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ソニー・ミュージックの 「We Want Jazz」 の再発盤リリースの第2期はモダン・ジャズ名盤というタイトルの下に発売された49点である。
第1期のマイルス・デイヴィスと同様、「好きなのを買ってね」 というコンセプトなのだろうが、ジャズ名盤といってもあくまでCBS系の音源に限ったことなので、偏りがあるのは否めない。それに 「お求めやすい価格」 とうたっているほど廉価ではないので、これだけは押さえておこうと思うか、どうせまた出るからどうでもいいや、と思うか、でしかないので、以下は勝手なヨタ話である。

カタログ品番はミュージシャン毎にまとめられているが、そのトップに選ばれているのはデイヴ・ブルーベック《タイム・アウト》(1959) である。超有名な〈テイク・ファイヴ〉が収録されているアルバムであるが、聴いたことのないリスナーには必須、知っているのなら除外であるのは、マイルスの《カインド・オブ・ブルー》と同じだ。

メインストリームでオーソドクスなジャズに必ず存在しているのはスウィングであり、まさに 「スウィングしなけりゃ意味がない」 (It Don’t Mean a Thing (If It Ain’t Got That Swing)) のである。スウィングはジャズに特有の、いわゆるノリであるが、これは基本的に4拍子であり、さらにロックなどの影響を受けて、8ビート、16ビートという細分化されたリズムも出現したが、それらを含めても偶数拍子である。奇数拍子の代表的なリズムはワルツであるが、3拍子でスウィングする曲もあるけれど、一般的ではない。したがってサウンド・オブ・ミュージックの〈マイ・フェイヴァリット・シングス〉をおハコとして繰り返しインプロヴァイズしていたジョン・コルトレーンは傑出した存在なのである。
まして5拍子とか7拍子といった奇数拍子になると、それらは変拍子といって、ジャズに限らずトリッキーなリズムである。そのトリッキーなリズムをわざと使ったブルーベックは、おそらく目立ちたがり屋の変態なのであって (これは褒め言葉である)、5拍子で書かれた〈テイク・ファイヴ〉以降、変拍子の曲はあまた出現したが、〈テイク・ファイヴ〉ほどに成功した曲は存在しない。そういう意味でこのアルバム《タイム・アウト》は歴史的な作品といえる。
クリームの〈ホワイト・ルーム〉や少年隊の〈仮面舞踏会〉はイントロが5拍子だが、5拍子なのはイントロの間だけである。
それと変拍子ばかりがフィーチャーされるが、ブルーベックのサウンドを支えているのは官能的ともいえるポール・デスモンドのサックスの音色であり、これも変態の一部を形成している (これは褒め言葉である)。

1959年は特異な年であって、ブルーベックの《タイム・アウト》もマイルスの《カインド・オブ・ブルー》も1959年の録音なのである。
ついでに触れておけば、《カインド・オブ・ブルー》においてマイルスが提案したモードという手法が、以後のジャズに強い影響を与えたことは確かだ。モードとは簡単にいってしまえば和声 (コード進行) に拠らず、スケールを主とした考え方であり、通常の長音階、短音階ではなく、古い教会調のスケールを援用したことにあった。つまりルネッサンスの頃の古い構造をメカニカルに再定義することによって理論化したのだが、詳細は理論書等を参照されたい。

次にビル・エヴァンスである。彼のCBS移籍最初のアルバム《ビル・エヴァンス・アルバム》ははっきりいってあまり良くない。無理してローズを弾かせたりしている曲があったりで、もう1枚は《ライヴ・イン・トーキョー》であるが、このライヴは未聴なのでなんともいえない。さらにもう1枚はコンピなので除外。
ということで推薦できるのはデイヴ・パイクの《パイクス・ピーク》である。ヴァイブラフォン奏者のパイク名義のアルバムで、ビル・エヴァンスは客演なのであるが、この演奏はなかなか聴かせる。
エヴァンスの異種格闘技的アルバムで一番成功したのはジム・ホールとの《アンダーカレント》であるが、ヴァルヴ・トロンボーン奏者であるボブ・ブルックマイヤーがエヴァンスと対抗してピアノを弾いている《アイヴォリー・ハンターズ》が結構好きだ。フルートのジェレミー・スタイグとの《ホワッツ・ニュー》はスリリングだけれどやや荒けずりな感じがする。

息切れしてきたので後は簡単に。
バド・パウエルの《ポートレイト・オブ・セロニアス》は繰り返し書いてきたような気がするが、私の偏愛するアルバムの1枚である。セロニアス・モンクは実はあまり好きではないのだが、バド・パウエルが弾いたモンクには文句のつけようがない。指が多少もつれているが、そんなことはどうでもいいのであって、パウエルの魂はこのアルバムに記録されている。このアルバムを酷評していた評論家もいたがそれは無視である。

レイ・ブライアントは《コン・アルマ》、フィル・ウッズは《ウォーム・ウッズ》が好き。販促カタログの《コン・アルマ》のパーソネル表記は間違っているように思う。
ジェリー・マリガンの《ジェル》がリストされていて、これも良いけれど、マリガンこれ1枚といったらやはり《ナイト・ライツ》のはず。

オーネット・コールマンは《チャパカ組曲》と《サイエンス・フィクション》の2点がリストアップされているので《チャパカ組曲》しかない。そもそもオーネットにCBSレーベルでのアルバムはあまりないはず。《サイエンス・フィクション》を選ぶのだったら、そのちょっと前のブルーノート盤《ニューヨーク・イズ・ナウ》だと思う。オリジナルのLPはレコードの出し入れがしにくかったが。
でもオーネット・コールマンといえばタウンホール、ゴールデン・サークル、クロイドンが必須なはずで、3つともライヴというのがちょっといい。とはいえこれ1枚ならもちろん《The Shape of Jazz to Come》です。倉橋由美子の『暗い旅』にも出てくるし。

と簡単にだらだら書いてみました。


Dave Brubeck/Time Out
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
タイム・アウト (特典なし)




Dave Pike with Bill Evans/Pike's Peak
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
パイクス・ピーク (特典なし)




Bud Powell/A Portrait of Thelonious
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ポートレイト・オブ・セロニアス +1 (特典なし)




Ray Bryant/Con Alma
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
【Amazon.co.jp限定】コン・アルマ (メガジャケ(ビル・エヴァンス絵柄)付)




Phil Woods/Warm Woods
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ウォーム・ウッズ (特典なし)




Orbette Coleman/Chappaqua Suite
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
チャパカ組曲 (特典なし)




Dave Brubeck/Take Five
https://www.youtube.com/watch?v=ryA6eHZNnXY

Dave Pike with Bill Evans/Pike's Peak [full album]
https://www.youtube.com/watch?v=Tqul0b4OP1A

Bud Powell/There Will Never Be Another You
1956年。まだ溌剌とした感じが残っていた頃のパウエル
https://www.youtube.com/watch?v=JcoJt-BZJj4

Bud Powell/There Will Never Be Another You
1961年の、ややヨレているパウエル
だが、このアドリブのほうが涙を誘う
https://www.youtube.com/watch?v=9fQ-BIuh-BA

Ray Bryant/Cubano Chant
https://www.youtube.com/watch?v=13MAJ5jSec4

Phil Woods/In Your Own Sweet Way
https://www.youtube.com/watch?v=4yp4EybwaI4

Ornette Coleman/Lonely Woman
アルバム The Shape of Jazz to Come のA1
https://www.youtube.com/watch?v=YMasmoE-_vY
nice!(76)  コメント(8) 
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コメント 8

英ちゃん

*<(*^-')ノ★Merry Christmas★ヽ(^-゚*)>*
素敵なクリスマスをお過ごし下さい。
by 英ちゃん (2023-12-25 02:00) 

hana2023

洋楽には全く疎いものですから・・・倉橋由美子の著作も学生時代に読んだくらいですので。。
゚・:,。★мёггу снгisтмдs★,。・:・゚ 充実の一時を♪

by hana2023 (2023-12-25 09:38) 

TBM

オーネット・コールマンは、Skies of America、Broken Shadowsが
見送られたのですね。どちらも好きなアルバムなのですが、
リストアップされた2作品のほうが、一般向けなのでしょうか...
ちょっと残念な感じです。
by TBM (2023-12-25 22:47) 

lequiche

>> 英ちゃん様

クリスマスのご挨拶ありがとうございました。
by lequiche (2023-12-27 01:18) 

lequiche

>> hana2023 様

クリスマスのご挨拶ありがとうございました。
ここに選択したのはごく初歩的なジャズ・アルバムですが、
ジャズは洋楽の中でも、やや特殊かもしれません。
本文の一番下にリンクしてあるYouTubeは
『暗い旅』の主人公の女性がジャズ喫茶でリクエストする曲です。
「私はロンリー・ウーマンなのよ」 という意味ですね。(^^)
by lequiche (2023-12-27 01:18) 

lequiche

>> TBM 様

Science Fiction, Skies of America, Broken Shadowsは
同時期の録音ですからその中でScience Fictionが選ばれたのでしょう。
Science Fictionはコンプリート盤が出たこともありますから
この3枚の中では一番有名です。
ということだと思いますが、
すべてはソニーミュージックのお考えですので。
あくまで名盤選ですから、ずばり言えば入門用です。
by lequiche (2023-12-27 01:19) 

英ちゃん

今年も訪問並びにコメントをありがとうございました。
来年も宜しくお願い致します。
良いお年をお迎えください。
by 英ちゃん (2023-12-29 15:58) 

okina-03

訪問頂き有難う御座います。
本年は、我が拙いブログにお付き合い頂き有り難う御座いました・・・
来る年も相変わり無く・お付き合いの程、お願い致します。
良いお年をお迎えください!!。
by okina-03 (2023-12-30 09:03)