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1981年のカラヤン [音楽]

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カラヤンのポルシェRS (porsche japanより)

この頃、ヘルベルト・フォン・カラヤンのメディア再発売が多いように感じていた。DGの廉価盤が何枚も出ているし、映像化されたブルーレイの発売予告もある。区切りの年でもないと思うのだが、やはり根強いファンがいるからだろうと思う。
私はもともとオーケストラの作品はあまり聴かないので指揮者のことは詳しくないし、ましてカラヤンについては何となくだがあまり近寄らなかった。後年の、帝王などと呼ばれた時期の演奏が鼻につくような気がしたからである。ザビーネ・マイヤーの騒ぎなどもよく知らないが好印象に結びつかなかった (もっとも当時のベルリン・フィルの旧弊さの象徴とも考えられるが)。

でも最近の数多いリリースのなかで、まだ若い頃のルツェルンのライヴが発売されて、少し興味を持った。ルツェルンはモノラルだが1952年から1957年の録音なので、彼がフルトヴェングラーの後釜になる少し前の時代が含まれているからである (カラヤンがベルリン・フィルの首席指揮者となったのは1955年)。
それでYouTubeを探してみると日本での人気絶頂だった時期の映像などもあるのでそれを聴いてみた。ターゲットにしたのは1981年のブラームスの交響曲第1番、東京文化会館大ホールにおけるライヴである。オーケストラはベルリン・フィル。時期としてはかなり後期であり、身体の具合もあまりよくなくなっていた頃である。
この来日公演はTBSTVによって収録・放映されたとのことだが、ブラ1が演奏されたのは10月30日、ネットの某リストによるとその日はブラームスの3番と1番と記載されているが、2曲連続ってホントなのか……とちょっと驚く。しかも翌日はブラームスの4番、2番なのだ。

ともかく聴いてみたのだが、音楽以前に映像についての印象を語らなければならない。古い映像なので鮮明でないのは仕方が無いのだがそのカメラワークに、はっきり言ってしまえば辟易した。ほとんどがアップばかりで、演奏者をごく近くから、あるいは楽器のみのアップが続く。カラヤンも楽器越しに顔が見え隠れするようなショットが多く、オーケストラ全体を見渡せるような引きの部分がほとんど無い。舞台下手からカラヤンをうつしている場合、望遠レンズのため、オケのごちゃごちゃしたせせこましい中にカラヤンが立っているという印象が残る。
こういう画面の捉え方は当時のオーケストラを撮影するときの流行だったのだろうか。それともカラヤン・サイドがこのように撮影するようにと指示したのだろうか。いずれにせよ、現代の目から見ると古い感じがしてしまう。もっとも古いポピュラー音楽の場合の動画を観ると、やたらに歌手の顔が大写しになって全体像がほとんどないようなことがよくあるので、昔であればあるほど、アップが重要だったのかもしれない。この日のカラヤンの指揮を見ているとかなり的確な指示を出してはいるが、やや曖昧な部分も見られる。目をつぶり音楽に陶酔しているような表情は彼なりのスタイルというか美学なのだと思う。

鬱陶しいので画面を観ないで音楽だけを聴いてみるとそんなに悪くはない。こうした有名曲の場合、私の中には理想とする進行があって、それはテンポだったりデュナーミクだったりといったような、心にしっくりと来る一種の息づかいに他ならなくて、それにどのくらい近接するかが好き嫌いの判断基準となるのだが、カラヤンの演奏は私が理想とする流れにかなり近い。ところが音色は全体的にねっとりとしていて濃厚な印象があり、私がカラヤンというブランドに対して想像していた音とはやや違うなとも思ったのだが、これはあくまで私の感覚である。

だが私のフェイヴァリットであるカルロス・クライバーだって、全盛期に較べると後期は身体が動かなくなっていて、たとえばニューイヤー・コンサートの2回目なんかは大丈夫? ってくらいに衰えていたように見えたから、カラヤンも同様だったのだろう。とするとカラヤンを聴くのにも、もう少し前の若い頃のほうがよいのかもしれない。
大丈夫? っていうことでは晩年のカール・ベームの今にも止まりそうな指揮もそうだったし、でもヘルベルト・ブロムシュテットはかなり高齢になっても矍鑠としていて、どの曲だったか忘れてしまったが非常に緻密な指揮に感嘆したDVDがあったことを覚えている。

と、こういうふうに聴いているとオーケストラも悪くないなぁといまさらながら思うのであるけれど。なぜオーケストラをあまり聴かないかというと、自分でもよくわからないのだが、たぶん音が多過ぎて全部を把握できないからなのだと思う。
リンクしたのは上記に書いたカラヤンの振る1981年の東京ライヴであるが、ついでにクライバーのベートーヴェン第4番もリンクしておくことにする。コンセルトヘボウにおけるライヴだが、クライバーの指揮はまだいきいきとしていて、それにこのホールが私は好きだ。カラヤンもクライバーも実際にナマで聴いたことは一度しかないが、その記憶が色褪せることはない。


Herbert von Karajan, Berliner Philharmoniker/
Brahms: Symphony No.1 op.68
live1981.10.30, Tokyo
https://www.youtube.com/watch?v=rCsBPIEhcHg&t=3s

Carlos Kleiber, Concertgebouw Orchester
Beethoven: Symphony No.4
https://www.youtube.com/watch?v=-pmpyUOcTgQ
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ユジャ・ワン《ラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集》 [音楽]

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Yuja Wang (asia pacific arts 2023.02.26より)

ラフマニノフのピアノ・コンチェルトの録音といえば、4曲の中で第2番と第3番が選ばれることが多いように思う。ユジャ・ワンの場合も過去に第2番と第3番はすでにリリースされているが、今回、グスターボ・ドゥダメルの指揮の下に出されたピアノ協奏曲全集とうたわれた録音は全4曲にプラスして〈パガニーニの主題によるラプソディ〉という構成のCD2枚組である。
このプロジェクトは今年2月に、ロサンジェルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールでラフマニノフ生誕150周年として全4曲を演奏するコンサートが開かれたのだというが、その成果をリリースしたものである。

過去の録音は第2番がクラウディオ・アバド/マーラー・チェンバー・オーケストラ、第3番がドゥダメル/シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラによるものであった。今回の4曲はドゥダメル/ロサンジェルス・フィルハーモニックとの協演である。

YouTubeにはDGGによって演奏の一部が上がっている。今のところ第2番の II.Adagio、第4番の II. Largo、そして第1番の終楽章 III. Allegro vivaceであるが、前2者は緩徐楽章でありこれらの緻密さにも惹かれるが、第1番のAllegro vivaceが躍動的で、かつ丁寧に弾かれていて素晴らしい。4曲はごく短い期間でレコーディングされたようだが、慣れ親しんでいると思われる曲とはいえ、全4曲を連続して弾ききってしまうというのは驚くべきことである。

第1番の全曲演奏をYouTubeで探すと、ルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホールにおけるセミヨン・ビシュコフ指揮/チェコ・フィルハーモニーのライヴ動画が存在する。ルドルフィヌムはチェコ・フィルの本拠地であり歴史のあるホールであるが、ビシュコフの音はそのホールに似つかわしい端正な音で聴かせる。しかし、今回のドゥダメルとの演奏を聴いてしまうと、その音のダイナミクスとシャープネスが圧倒的だし、口元を見るとメロディを歌うようにして弾いているのが楽しげで余裕も感じられ、何よりラフマニノフという名前の印象から醸し出される、ときとして耽美で退廃的なイメージとは無縁のピアニズムに感心する。それでいてメカニックで心の無い演奏だという感触とも違う、まさに成熟した音である。
逆にいえばラフマニノフに対して、つい持ってしまいがちな常套的イメージとしてのメランコリックでデカダンな音はユジャ・ワンの音には無い。それは他の、たとえば前に記事にしたヴェルビエ・フェスティヴァルにおけるシューマン〈クライスレリアーナ〉の解釈などにも同様に感じ取られる彼女の感性である。
個人的にいうのなら、ラフマニノフのピアノ・コンチェルトは比較的不人気な第1番が昔から好きで、さらにいえば交響曲も何かとりちらかっているような第1番が好きなので、今回のユジャ・ワンの第1番の演奏には、思わず没入してしまう下地があったのである。

タワーレコードのクラシックCD売場では売れているCDの第1位であった。当然だろうと思うばかりである。


Yuja Wang/Rachmaninoff: The Piano Concertos & Paganini Rhapsody
(Universal Music)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集 他 (UHQCD/MQA)(2枚組)




Yuja Wang, Gustavo Dudamel, LA Philharmonic/
Rachmaninoff: Piano Concerto No. 1: III. Allegro vivace
https://www.youtube.com/watch?v=3tlep2vruYA

Yuja Wang, Gustavo Dudamel, LA Philharmonic/
Rachmaninoff: Piano Concerto No.2: II. Adagio sostenuto
https://www.youtube.com/watch?v=BxX1obB9GKk

Yuja Wang, Gustavo Dudamel, LA Philharmonic/
Rachmaninoff: Piano Concerto No.4, II. Largo
https://www.youtube.com/watch?v=XzyzCCvBFzU

Yuja Wang, Semyon Bychkov, Czech Philharmonic/
Rachmaninoff: Piano Concerto No.1
February 25, 2022, Rudolfinum, Dvořák Hall
https://www.youtube.com/watch?v=YfjB-HF4RVw

《参考》
Yuja Wang, Gustavo Dudamel,
The Simon Bolivar Symphony Orchestra of Venezuela/
Rachmaninoff: Piano Concerto No.3
February 2013
https://www.youtube.com/watch?v=NxmZeVMsf_c

Yuja Wang, Valery Gergiev, Mariinsky Theatre Orchestra/
Rachmaninoff: Piano Concerto No.2
September 20, 2021
https://www.youtube.com/watch?v=NsqXCO0ADwM&t=289s

Yuja Wang, Andrés Orozco-Estrada, Wiener Philharmoniker/
Rachmaninoff: Piano Concerto No.3
October 21, 2019
https://www.youtube.com/watch?v=Sd9zkD3t_ME

Yuja Wang, Myung-Whun Chung, Staatskapelle Dresden/
Rachmaninoff: Piano Concerto No.3
September 8, 2019
https://www.youtube.com/watch?v=VHre-G8wlb4
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JUDY AND MARY〈BLUE TEARS〉 [音楽]

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YUKI (JUDY AND MARY)

JUDY AND MARY (以下、ジュディマリと表記) の結成までの経緯を私はよく知らないが、レベッカとよく似たものを感じてしまう。もっともアマ、プロを問わずバンドとはそうしたものなのかもしれないが。
楽曲〈BLUE TEARS〉は2ndシングルなのだが、YouTubeにはギタリストが藤本泰司の動画が存在していて、まだ未完成なヴォーカルではあるけれどYUKIのパワーは振り切れていて、パンクで、同時にロリータでもあって、何度でも聴いてしまう。つまりパンクというテイストは私にとって重要なのだ。→1) 2)

ギタリストがTAKUYAになってからの、つまりジュディマリとしてメジャーデビューしてからも、TAKUYAのギターは時にめちゃくちゃパンクにハマッて行くときがあって、ヴォーカルに構わず自己主張する。その拮抗するスリルがたまらない。〈そばかす〉はいくつもの動画があるが、もっともすぐれているパンキッシュな演奏はこれである。イントロのアヴァンギャルドさを聴いて欲しい。→3)
ついでにもう1曲〈Over Drive〉をリンクしておく。これもノイジーでハイテンションである。こうやってギターを弾いてもいいんだ、という悪い見本である (これは褒め言葉である。念のため)。→4)

ジュディマリ解散後、YUKIはちわきまゆみが主宰するMean Machineに参加したが、バンドのコンセプトが冒険過ぎて消化不良だったと思う。ちわきまゆみはPINKの岡野ハジメとグラムっぽい演奏をしていたのがカッコよくて、アルバムもほとんど持っているが、Mean Machineに関してはちょっと空振りだった。お遊びと考えればその通りだが (岡野ハジメは1996年からL’Arc〜en〜Cielのプロデューサー)。

その後のソロになってからのYUKIもすでに20年を越えて、ジュディマリの歴史よりも長くなってしまった。今年、ソロアルバムのアナログ盤が一気にリリースされたが、とても買いきれないのが残念である。一挙に出さないで欲しい (実はこの記事を書いた真意はこのこと)。3rdアルバムの《joy》がすでに品切れになっているのはなぜ? ソロのライヴから一曲だけ選んでおく。→5)
以前に書いたジュディマリの記事とダブッていることが多いがお許しを。


1) Judy and Mary/Blue Tears
https://www.youtube.com/watch?v=qM7MgyqEuKQ

2) Judy and Mary/Judy Is a Punk Rocker
https://www.youtube.com/watch?v=FB7IFtpVf0s

3) Judy And Mary/そばかす
https://www.youtube.com/watch?v=1rejKI1XFRw

4) Judy And Mary/Over Drive
Live 2000
https://www.youtube.com/watch?v=_MsuM0ccaEU

5) YUKI/Prism
live 2010.08.08
https://www.youtube.com/watch?v=LXJ-yVardRU
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ヒラリー・ハーンのサラバンド [音楽]

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Hilary Hahn (HMV onlineより)

「サラバンド」 というワードを検索していた。何となく、ということではなくて、メディアが入手しにくかったイングマール・ベルィマンの作品の中から、7月に《野いちご》と《第七の封印》が突然のように (突然ではなかったのかもしれないが私にとっては突然に) ブルーレイで発売されて、でもこれは高価過ぎると逡巡しながらあれこれとベルィマン・ワードを検索していたのである (《サラバンド》Saraband, 2003 はベルィマン最後の作品タイトルである)。
ベルィマンは以前、DVDが投げ売りされているときに数枚買ってはいたのだが、すでに品切れが多くて全部は買い切れなかった。確か《秋のソナタ》(Höstsonaten, 1978) と《冬の光》(Nattvardsgästerna, 1962) は買ったと思うが、今、どこにあるのかは不明だ。

そして 「サラバンド」 の検索でヒットしたのがヒラリー・ハーンの弾くバッハのサラバンドだった。もっともハーンの弾くサラバンドはバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータのサラバンドであり、ベルィマンの《サラバンド》に使われたのは無伴奏チェロだから直接的な関係性は無い)。

ハーンのアルバムは昨年の《Eclipse》というタイトルの下に弾かれたドヴォルザーク、ヒナステラ、サラサーテに続いて、今年7月にリリースされたのがウジェーヌ・イザイの無伴奏ソナタである。ハーンはイザイの孫弟子にあたるわけであり、そして私の偏愛するセザール・フランクのソナタはイザイに献呈された作品であるが、そのイザイがバッハの無伴奏へのリスペクトとして書いたのがこの作品27の無伴奏である。イザイと、そしてバルトークの無伴奏はいずれもバッハへの敬愛であり挑戦であるが、バッハの強大な構築性の前では無力なのかもしれない。
ヒラリー・ハーンのYouTubeチャンネルでイザイの全曲を聴くことができる。

YouTubeで見つけたハーンのサラバンドは、おそらく2023年2月24日のフランクフルト・ラジオ・シンフォニーのコンサートでプロコフィエフのコンチェルト1番を弾いたあとのアンコールとして弾かれたものだと思われる。ハーンは拍手に応えてさりげなく弾き出すがステージとオーディエンスの距離が近くて親密で良いホールである。一瞬にしてバッハの世界に引き込まれる魔のときが記録されている。
尚、その日のメインであるプロコフィエフのコンチェルトの動画もYouTubeにある。指揮は2021年からの首席であるアラン・アルティノグリュ。プロコフィエフ1番には駒近くを弾くスル・ポンティチェロという破壊的奏法があるが、ハーン自身が1番と奏法について解説している動画もある。
そしてフランクフルト・ラジオのYouTubeチャンネルには優れた演奏動画が多いのでお勧めである。

プロコフィエフといえば今年、ワーナー系の音源を集めたCD36枚組のボックスが発売されたがちょっと欲しい。でも、これ全部聴かないよなぁとも思ってしまう。それよりも今年の超弩級ボックスは La Divina/Maria Callas in all her roles というマリア・カラスの135枚組で、単純に場所とりだけど、でも今までに出たなかでは一番完璧なセット。ファンのかたは是非お買い求めください。


Hilary Hahn/Ysaÿe: Six Sonatas for Violin Solo op.27
(Universal Music)
イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 作品27 (通常盤)(UHQCD(MQA))




Hilary Hahn/Eclipse (Universal Music)
エクリプス (UHQCD/MQA)(特典:なし)




Hilary Hahn/Bach: Sarabande (Partita No.1 for Solo Violin)
https://www.youtube.com/watch?v=5XzZudf5LJ0

Hilary Hahn, Alain Altinoglu, Frankfurt Radio Symphony/
Prokofiev: Violin Concerto No.1 in D major, op.19
https://www.youtube.com/watch?v=x3OFoMvqjtc

Hilary Hahn/Prokofiev’s Violin Concerto No.1 in a nutshell
https://www.youtube.com/watch?v=015QVOO-5Ek

Hilary Hahn/Ysaÿe: 6 Sonatas for Violin Solo, Op. 27
https://www.youtube.com/watch?v=Mz71f4cCNSA&list=OLAK5uy_m5gUptkeUI5_l_a8LdS7lXux9xzDktUN0

Hilary Hahn YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCI9pm8WplvpIN8uKpoxcXaQ

hr-Sinfonieorchester – Frankfurt Radio Symphony YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/user/hrsinfonieorchester

Hilary Hahn/Bach: Allegro Assai (Sonata No.3 C Major)
https://www.youtube.com/watch?v=UXDVB-glRKw
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渡辺貞夫を聴く [音楽]

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YouTubeで日野皓正の演奏を検索して聴いていた。日野皓正は今年80歳だがそのブロウは相変わらずスリリングである。しかしそうして探していると、サイドの検索候補に渡辺貞夫が上がって来る。渡辺貞夫は1933年生まれだから今年90歳。聴いていると昔のマイ・ディア・ライフの放送録音なども含め、ハードなのからソフトなものまでヴァリエーション豊富だ。

最近の演奏だとブルーノート東京の2021年のライヴ〈BOP NIGHT 2021〉がここちよい。4管の厚みのある流麗なバックに乗るアルトのリラックスしたスウィング感が出色である。ピアノの小野塚晃のソロも品があって美しい。→1)
あるいは同じブルーノート東京における2022年のブラジル・テイストのライヴ〈SAUDADE TO BRAZIL〉。ナベサダのブラジル風味には定評があるが、まさにジャズというよりイージー・リスニングなサンバの響きの気持ち良さで身体が揺れる。この演奏における楽しさはマルセロ木村のギターとユニゾンする口笛のソロで、ギターのシングルトーンの美しさとそれに絡むピアノ、ドラム。最後にメンバー全員がメロディを歌うところなど、この曲のテーマから醸し出されるメロディの懐かしさのようなものはなんだろうか。→2)

もう少し前の演奏だと2005年のチャーリー・マリアーノとの〈Tokyo Dating〉を聴くことができる。チャーリー・マリアーノは2009年に亡くなっているのでかなり晩年の演奏と言ってよいだろう。→3)
チャーリー・マリアーノはもちろん穐吉敏子の以前の夫であり、つまりMonday満ちるの実父である。そして当時のバークリーでメソッドを学び、ここでジャズを学べと渡辺貞夫を呼び寄せたのが穐吉である。
かつてのキャンディッド盤〈Toshiko Mariano Quartet〉はフレッシュ・サウンドで再発されていたが、昨年、Solidレーベルで国内盤として再発になった。若き日のチャーリー・マリアーノと穐吉を知るには好適なアルバムである。

だが、ビ・バップの演奏バリバリを聴くのならもう少し時代を遡るしかないように思える。1999年の〈Kirin The Club〉における演奏。メンバーがすべて日本人ではないこともあいまって (pf: Cyrus Chestnut, b: Roland Guelin, ds: Rodney Green, tp: Terell Staford)、バップ・テイスト全開のソロを聴くことができる。→4)
もっとも、バップ・テイストということでいうのならば、もっとずっと遡った1969年のアルバム《Dedicated to Charlie Parker》の〈Au Privave〉が最も有名だろう。1969年3月15日の銀座ヤマハホールにおけるライヴであるが、渡辺貞夫はリズム隊も無しで延々とソロで吹きまくってしまい、その後に日野皓正のソロが続くが、最後はナベサダが簡単にテーマをワンコーラス吹いて終わりという、曲構成としては破綻している演奏である。ただ、この神がかった演奏は最もすぐれたインプロヴィゼーションのひとつといってよい。→5)


1) 渡辺貞夫 BOP NIGHT 2021
Blue Note TOKYO live 2021
https://www.youtube.com/watch?v=QbpNYr-v7J4

2) 渡辺貞夫 SAUDADE TO BRAZIL
Samba Da Volta, Blue Note TOKYO live 2022
https://www.youtube.com/watch?v=3SI6dskFI40

3) 渡辺貞夫&チャーリー・マリアーノ/Memorias
Tokyo Dating 2005
https://www.youtube.com/watch?v=ID2QU3GwD1E

4) 渡辺貞夫/Ko Ko
from 1999 Kirin The Club
https://www.youtube.com/watch?v=-J5x5SsxfdU

5) 渡辺貞夫/Au Privave
live at Ginza Yamaha Hall 1969.03.15
https://www.nicovideo.jp/watch/sm17892545

《参考》
渡辺貞夫/I’m Old Fashioned
from 1991 Kirin The Club
https://www.youtube.com/watch?v=RImZlu9Xfk8
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