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ありふれた夜がやって来る —〈駅〉を聴く [音楽]

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星屑スキャットの歌う〈駅〉はその歌唱も美しいが、MVの美しさに心うたれる。
そこで描かれる駅は、うらさびれたあまり人のいないような駅でなく、都会におけるよく見慣れた風景としての、雑踏の中に存在している駅である。まさに 「ラッシュの人波にのまれて」 しまうような駅である。
人々は残像のようにして行き交い、星屑スキャットの3人だけがその風景の中に佇んでいる。人々が多ければ多いほど孤独は深まる。

〈駅〉という曲については、そのオリジナルである中森明菜の歌唱についていろいろ言われてきた。正確にいえばいろいろと言ったのはひとりだけであって、それが震源となって喧しくなっただけで、歌唱そのものの価値はそんなことで動くはずがない。
曲は作曲者の手から離れたら単なる素材でしかなくて、それをどのように解釈しようが自由であるはずだ。スローな曲をアップテンポにしようが、急速調の曲をバラードにしようが自由であるし、レゲエにしたりワルツにしたり、リズムを変えたりしても構わない。その結果をリスナーが受け入れるかどうかがその表現への評価に過ぎない。

中森明菜の〈駅〉は《CRIMSON》(1986) というアルバムに収められているが、私が〈駅〉という曲を知ったのはもっとずっと後で、しかもその歌唱は巷に流布されているイメージとは著しく異なっていることを知って、その喧しさの理由を理解した。
そもそもクリムゾンというアルバム・タイトルについても、私は相川七瀬のしか知らなくて、だが彼女のアルバム・タイトルを反芻すると《Red》《crimson》《FOXTROT》という連鎖があり (レッドはキング・クリムゾン、フォックス・トロットはジェネシスのアルバム・タイトル)、これは単に織田哲郎の趣味だと悟ることになった。

そして中森明菜の〈駅〉のベストな歌唱はおそらく1997年のライヴで歌われたものであって、「夜のヒットスタジオ」 で歌われた頃の表現よりさらに深化しているように思える。その解釈は一貫していて揺るぎない。中森明菜の歌唱は〈難破船〉もそうだが、〈駅〉の悲哀はその極北に存在している。
星屑スキャットの歌唱も中森明菜の歌唱もどちらも正当であるし、正当でない歌唱というものは存在しない。歌とはそういうものだ。


星屑スキャット/駅
https://www.youtube.com/watch?v=GoWBQ27Shto

中森明菜/駅 (1997年ライヴ)
https://www.youtube.com/watch?v=MUO7inz827o

中森明菜/駅 (夜のヒットスタジオ)
https://www.youtube.com/watch?v=cOYIlBt-L3Q
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We Want Jazz 第2期 [音楽]

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ソニー・ミュージックの 「We Want Jazz」 の再発盤リリースの第2期はモダン・ジャズ名盤というタイトルの下に発売された49点である。
第1期のマイルス・デイヴィスと同様、「好きなのを買ってね」 というコンセプトなのだろうが、ジャズ名盤といってもあくまでCBS系の音源に限ったことなので、偏りがあるのは否めない。それに 「お求めやすい価格」 とうたっているほど廉価ではないので、これだけは押さえておこうと思うか、どうせまた出るからどうでもいいや、と思うか、でしかないので、以下は勝手なヨタ話である。

カタログ品番はミュージシャン毎にまとめられているが、そのトップに選ばれているのはデイヴ・ブルーベック《タイム・アウト》(1959) である。超有名な〈テイク・ファイヴ〉が収録されているアルバムであるが、聴いたことのないリスナーには必須、知っているのなら除外であるのは、マイルスの《カインド・オブ・ブルー》と同じだ。

メインストリームでオーソドクスなジャズに必ず存在しているのはスウィングであり、まさに 「スウィングしなけりゃ意味がない」 (It Don’t Mean a Thing (If It Ain’t Got That Swing)) のである。スウィングはジャズに特有の、いわゆるノリであるが、これは基本的に4拍子であり、さらにロックなどの影響を受けて、8ビート、16ビートという細分化されたリズムも出現したが、それらを含めても偶数拍子である。奇数拍子の代表的なリズムはワルツであるが、3拍子でスウィングする曲もあるけれど、一般的ではない。したがってサウンド・オブ・ミュージックの〈マイ・フェイヴァリット・シングス〉をおハコとして繰り返しインプロヴァイズしていたジョン・コルトレーンは傑出した存在なのである。
まして5拍子とか7拍子といった奇数拍子になると、それらは変拍子といって、ジャズに限らずトリッキーなリズムである。そのトリッキーなリズムをわざと使ったブルーベックは、おそらく目立ちたがり屋の変態なのであって (これは褒め言葉である)、5拍子で書かれた〈テイク・ファイヴ〉以降、変拍子の曲はあまた出現したが、〈テイク・ファイヴ〉ほどに成功した曲は存在しない。そういう意味でこのアルバム《タイム・アウト》は歴史的な作品といえる。
クリームの〈ホワイト・ルーム〉や少年隊の〈仮面舞踏会〉はイントロが5拍子だが、5拍子なのはイントロの間だけである。
それと変拍子ばかりがフィーチャーされるが、ブルーベックのサウンドを支えているのは官能的ともいえるポール・デスモンドのサックスの音色であり、これも変態の一部を形成している (これは褒め言葉である)。

1959年は特異な年であって、ブルーベックの《タイム・アウト》もマイルスの《カインド・オブ・ブルー》も1959年の録音なのである。
ついでに触れておけば、《カインド・オブ・ブルー》においてマイルスが提案したモードという手法が、以後のジャズに強い影響を与えたことは確かだ。モードとは簡単にいってしまえば和声 (コード進行) に拠らず、スケールを主とした考え方であり、通常の長音階、短音階ではなく、古い教会調のスケールを援用したことにあった。つまりルネッサンスの頃の古い構造をメカニカルに再定義することによって理論化したのだが、詳細は理論書等を参照されたい。

次にビル・エヴァンスである。彼のCBS移籍最初のアルバム《ビル・エヴァンス・アルバム》ははっきりいってあまり良くない。無理してローズを弾かせたりしている曲があったりで、もう1枚は《ライヴ・イン・トーキョー》であるが、このライヴは未聴なのでなんともいえない。さらにもう1枚はコンピなので除外。
ということで推薦できるのはデイヴ・パイクの《パイクス・ピーク》である。ヴァイブラフォン奏者のパイク名義のアルバムで、ビル・エヴァンスは客演なのであるが、この演奏はなかなか聴かせる。
エヴァンスの異種格闘技的アルバムで一番成功したのはジム・ホールとの《アンダーカレント》であるが、ヴァルヴ・トロンボーン奏者であるボブ・ブルックマイヤーがエヴァンスと対抗してピアノを弾いている《アイヴォリー・ハンターズ》が結構好きだ。フルートのジェレミー・スタイグとの《ホワッツ・ニュー》はスリリングだけれどやや荒けずりな感じがする。

息切れしてきたので後は簡単に。
バド・パウエルの《ポートレイト・オブ・セロニアス》は繰り返し書いてきたような気がするが、私の偏愛するアルバムの1枚である。セロニアス・モンクは実はあまり好きではないのだが、バド・パウエルが弾いたモンクには文句のつけようがない。指が多少もつれているが、そんなことはどうでもいいのであって、パウエルの魂はこのアルバムに記録されている。このアルバムを酷評していた評論家もいたがそれは無視である。

レイ・ブライアントは《コン・アルマ》、フィル・ウッズは《ウォーム・ウッズ》が好き。販促カタログの《コン・アルマ》のパーソネル表記は間違っているように思う。
ジェリー・マリガンの《ジェル》がリストされていて、これも良いけれど、マリガンこれ1枚といったらやはり《ナイト・ライツ》のはず。

オーネット・コールマンは《チャパカ組曲》と《サイエンス・フィクション》の2点がリストアップされているので《チャパカ組曲》しかない。そもそもオーネットにCBSレーベルでのアルバムはあまりないはず。《サイエンス・フィクション》を選ぶのだったら、そのちょっと前のブルーノート盤《ニューヨーク・イズ・ナウ》だと思う。オリジナルのLPはレコードの出し入れがしにくかったが。
でもオーネット・コールマンといえばタウンホール、ゴールデン・サークル、クロイドンが必須なはずで、3つともライヴというのがちょっといい。とはいえこれ1枚ならもちろん《The Shape of Jazz to Come》です。倉橋由美子の『暗い旅』にも出てくるし。

と簡単にだらだら書いてみました。


Dave Brubeck/Time Out
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
タイム・アウト (特典なし)




Dave Pike with Bill Evans/Pike's Peak
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
パイクス・ピーク (特典なし)




Bud Powell/A Portrait of Thelonious
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ポートレイト・オブ・セロニアス +1 (特典なし)




Ray Bryant/Con Alma
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
【Amazon.co.jp限定】コン・アルマ (メガジャケ(ビル・エヴァンス絵柄)付)




Phil Woods/Warm Woods
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ウォーム・ウッズ (特典なし)




Orbette Coleman/Chappaqua Suite
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
チャパカ組曲 (特典なし)




Dave Brubeck/Take Five
https://www.youtube.com/watch?v=ryA6eHZNnXY

Dave Pike with Bill Evans/Pike's Peak [full album]
https://www.youtube.com/watch?v=Tqul0b4OP1A

Bud Powell/There Will Never Be Another You
1956年。まだ溌剌とした感じが残っていた頃のパウエル
https://www.youtube.com/watch?v=JcoJt-BZJj4

Bud Powell/There Will Never Be Another You
1961年の、ややヨレているパウエル
だが、このアドリブのほうが涙を誘う
https://www.youtube.com/watch?v=9fQ-BIuh-BA

Ray Bryant/Cubano Chant
https://www.youtube.com/watch?v=13MAJ5jSec4

Phil Woods/In Your Own Sweet Way
https://www.youtube.com/watch?v=4yp4EybwaI4

Ornette Coleman/Lonely Woman
アルバム The Shape of Jazz to Come のA1
https://www.youtube.com/watch?v=YMasmoE-_vY
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THE UNCROWNED〈LAST RAIN〉 [音楽]

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グリム・スパンキーが表紙のmusic UP’sという販促誌でジ・アンクラウンド (The Uncrowned) のことを知った。ジ・アンクラウンドはSHALのヴォーカルとTakeshiのギターによるハードロックのバンドである。wikipediaなどではメロディアス・ハードロックというジャンル分けがなされている。女性ヴォーカルと男性ギターという組み合わせはグリム・スパンキーと同じである。

3rdアルバム《STOPOVER》が今年の11月にリリースされたが、昨年の9月に2ndアルバム《WITNESS》がリリースされたとき、すでにSHALはこの世界にいなかった。今回の3rdアルバムは残されたヴォーカル・トラックを元にしてTakeshiが構成し、完成させた作品である。

私はハードロックやメタル系のバンドはほとんど聴かない。といいながら浜田麻里のアルバムくらいなら持っているけれど。でもダイアー・ストレイツは好きだし、ザ・クラッシュやジャパンも好きだし、といったメチャクチャさで、要するにジャンルではなくて、ロックは好きか嫌いかで分類しているのだと思う。
そうした嗜好傾向からするとジ・アンクラウンドの幾つかのチューンは心に響いた。

〈WITNESS〉は2ndアルバムのアルバム・タイトル曲である。このときの歌詞にすでにその影は色濃く感じられる。

 絶え間ない悲しみに
 涙残さないように
 僕は歌う
 心を震わせて

疾走する歌と疾走するギター。それがジ・アンクラウンドのすべてだ。リンクした〈WITNESS〉のMVの2’58”〜あたりからのギターソロは駆け抜けるアニュス・デイだ。
そして3rdアルバムの《STOPOVER》の終曲ひとつ前に置かれた〈LAST RAIN〉はまさに止むことのない 「RAIN」 であり、4曲目に収録されている〈TEARS〉の暗喩でもある。
降り注ぐ雨とそこに立つSHALを俯瞰で映すショット。それは《シェルブールの雨傘》のオープリングを連想させるが、雨は延々と降りそそぎ、楽しげなパラソルの色などなく、そしてSHALの動画はほとんど無く、ひとりギターを弾くTakeshiだけがフィーチャーされる。

坂本美雨はあのとき、父親のことを 「他界しました」 と表現した。その言葉のニュアンスは、命が消滅するのではなく、どこか別の世界にいるのだというふうに聞こえる。SHALもきっとそうなのだ、と思うことにしよう。
とはいえ、「降る雨は必ず止む」 とか 「暗い夜は必ず明ける」 という気休めを聞くこともあるけれど、止まない雨や明けない夜だってきっとある、と思うのだ。


THE UNCROWNED/STOPOVER —Dedicated to SHAL—
(Walküre Records)
STOPOVER -Dedicated to SHAL-




THE UNCROWNED/WITNESS
(Walküre Records)
WITNESS




THE UNCROWNED/WITNESS (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=XtKjoFiEGCs

THE UNCROWNED/LAST RAIN (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=f2xAtF5qYNI
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CBS盤のマイルス・デイヴィス再発 [音楽]

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Miles Davis/’Round About Midnight

ソニー・ミュージックの 「We Want Jazz」 という再発盤シリーズの第1弾として、マイルス・デイヴィスのCBS盤55点が再発売された。名盤復活とかブルースペックCD2とか音匠レーベル仕様とか、これでもかの惹句だけれど、要するに何度も繰り返される再発売の一環である。

今回の再発の特徴として、ステレオとモノラルの両方の音源収録という仕様が何点かのアルバムで用いられている。同じ内容なのに2種類もいらない、という考え方もあるが、この時代の録音はまだステレオ録音技術が確立されていなかったこともあり、往々にしてモノラル盤のほうが音がよい。それはビートルズの最近のボックスセットがステレオ、モノラル両方で出されていることからも自明である。

CBS盤のマイルスは過去にもいわゆる全集盤として発売されたことがあるが、そのときは買わなかった。こうしたボックスセットはだいたい全部聴かないことが多いからで、それよりも気に入った盤をセレクトして買うほうが賢いような気がする。ただ、今回のバラ売り価格は諸物価の値上がりに連動しているのか、お買い得かどうかは微妙である。
それにそもそも全集といってもそれはCBS盤における全集だというだけであって、レーベルの異なる録音 (たとえばプレスティッジ盤) は当然収録されていないので、複数のレコード会社における録音が存在するミュージシャンの場合、正確な意味での全集を出すことは不可能に近い。

「We Want Jazz」 各ディスクの解説が載せられているパンフレットをCDショップで入手してきた。第1弾はマイルス55点、第2弾はモダン・ジャズ名盤49点だそうである。
パンフレットを見ているうちに思ったのは《ジャック・ジョンソン》がオリジナルのイラスト・デザインでないことで、たぶん裏側とか中に入っている可能性はあるが、差し替えられた後の現行のマイルスのモノクロ写真ジャケットを踏襲しているのがやや残念である。

そしてマイルスのアルバムに関しては、持っていそうで意外になかったりするので、この際、好きな盤を揃えてみたいと思うようになった。さらに思いついたのは、この中でベストを選ぶとしたらどれか、ということで、ベスト10だと多過ぎるので、ベスト5だとしたらどれにするか、という提起である。したがって以下は、単なるお遊びなので真面目にとらないでいただきたい。

55点の中から選んだ5点は次の通りである。カッコ内は録音年である。

 ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4 (1955〜56)
 スケッチ・オブ・スペイン+3 (1959〜60)
 E.S.P. (1965)
 キリマンジャロの娘+1 (1968)
 アット・フィルモア (1970)

ちなみに実際にはこれらのアルバムを持っていたり持っていなかったりしてバラバラなので、これを買うのだということでもないし、推薦盤ということでもない。あくまで私がとりあえず重要と思う5点であるということに過ぎない。
《ラウンド・アバウト・ミッドナイト》はCBSレーベルでの第1弾アルバムであり、この時期のマイルスを知るのには必須の盤である。〈ディア・オールド・ストックホルム〉で、まずミュート・トランペットによるテーマ、そしてベースソロの後に出てくるジョン・コルトレーンの演奏が好きである。このアルバムを最初に聴いたのはもちろんレコードによってだったが、ややくぐもったモノラルのその音だけでなく、その音を聴いていたときの過去の情景やそのときの心象風景までが蘇る。
《スケッチ・オブ・スペイン》はギル・エヴァンスとのコラボ4枚のなかでどれを選ぶかといえばこれ、という選択である。〈アランフェス〉ばかりが有名だが後半の〈サエタ〉〈ソレア〉におけるマイルスの孤独感をたたえた演奏が突出していることはいうまでもない。ボレロのように繰り返されるスネアのリズムも魅力だ。
《E.S.P.》も同様に、ウェイン・ショーターを含むいわゆる黄金クインテットでのセッション録音4枚のうちどれを選ぶかということで、どれでもよいのだが、ジャケット写真が好きなのでこれ、である。
電化後のマイルスで、かつ《イン・ア・サイレント・ウェイ》と《ビッチェズ・ブリュー》前夜のアルバムは、後出し (その時期に録音されたがリリースされなくて、時間が経ってから発売されたアルバムのこと) やコンピを別にすれば《イン・ザ・スカイ》と《キリマンジャロの娘》の2枚しかない。どちらを選ぶかといえばチック・コリアの加入している《キリマンジャロの娘》である。以前にも書いたことだが、トニー・ウィリアムスのドラミングの繊細さと正確さが聴きどころでもある。
《アット・フィルモア》はフィルモア・イーストでのライヴであるが、この《アット・フィルモア》と同時期のフィルモア・ウエストでの《ブラック・ビューティー》を較べると、イーストでのライヴ《アット・フィルモア》はキース・ジャレットが参加しているのでこちらを選ぶ。内容的にもイーストのほうが充実しているように思う。

《カインド・オブ・ブルー》と《ビッチェズ・ブリュー》は有名過ぎるし、複数のメディアで出ているので除外 (したがってこの2点を聴いていない場合は、第一順位となる)。《アガルタ》と《パンゲア》はピート・コージーのプレイがあまり好きではないので除外。後出しやコンピ盤は除外。《プラグド・ニッケル》は完全盤があるので除外。《ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン以降は、まぁいいか、ということで除外した。

プレスティッジ盤には、いわゆるマラソン・セッションと呼ばれる4枚があるが、ギル・エヴァンスとの4枚、ウェイン・ショーターを含むクインテットでのセッション録音4枚など、4という数字にポイントがあるのも印象的だ。


マイルス・デイヴィス/ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4 (特典なし)




マイルス・デイヴィス/スケッチ・オブ・スペイン+3
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
スケッチ・オブ・スペイン+3 (ステレオ&モノラルW収録) (特典なし)




マイルス・デイヴィス/E.S.P.
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
E.S.P. (特典なし)




マイルス・デイヴィス/キリマンジャロの娘+1
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
キリマンジャロの娘+1 (特典なし)




マイルス・デイヴィス/マイルス・デイビス・アット・フィルモア
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
マイルス・デイビス・アット・フィルモア (特典なし)




Miles Davis/Dear Old Stockholm
https://www.youtube.com/watch?v=1C7DyWdky_Y

Miles Davis/Filles de Kilimanjaro (Full Album)
https://www.youtube.com/watch?v=z4qdsdtFUMs
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THEE MICHELLE GUN ELEPHANT〈ミッドナイト・クラクション・ベイビー〉 [音楽]

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ロックは佇まいだと思う。
それ以外にはない。
ギターが上手いとか、ルックスが良いとか、そういうのも評価の対象にはなる。なるけれどでも、ギターは上手いことよりも、いかにしてカッコよくギターを持っているか、そして弾いているかが問題なのだ。
それが結局、ルックスの良さだというのならそうかもしれない。

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTは日本のバンドのなかで、確実にロックの佇まいをしているバンドだった。
そしてミッシェルといえばあのt.A.T.u.事件のことがいつまでも話のたねとなっている。t.A.T.u.というロシアの女性デュオが日本の音楽番組 「ミュージックステーション」 に出演しながら、歌うことを拒否したという事件だ。後になって、あれはヤラセだったとか演出の一環で話題作りだったとかいう種明かしがされたが、結果として完全に失敗だった。
そして番組の中で空いてしまった時間を埋めるために急遽、もう1曲歌うことになったのがミッシェルだった。

そのとき、番組に出演していた他の出演者はおそらく、いきなりもう1曲と頼まれても歌えないという状況だったように思う。つまり、その当時の音楽番組の歌曲はすべてのパフォーマンスまで含めてパッケージングされていて、いきなりアドリブで歌うことなどできなかったのだ。
だが、そんなことなど何でもない、とオーダーに乗ったのがミッシェルだった。時間があるというのなら何曲でも歌ってやるぜ。それがミッシェルだったし、それがロックなのだ。

私はその放送をリアルタイムで観ていたのだが、ドタキャンはその時点ではリアルで、嫌な空気だったように覚えている。その騒動でt.A.T.u.人気は下落したが、それからある程度の時間が経ってから、偶然にt.A.T.u.のCDを1枚買って聴いてみたらかなり良い印象だった。それなのに、あのような話題づくりをしたことは失敗だったと思うし、日本の音楽シーンをなめていたのだと思う。

ミッシェルはチバユウスケのヴォーカルも、アベフトシのギターも、佇まいが良い。ギターがすごく上手くても、そのギターを持った佇まいがカッコ悪いギタリストって結構多かったりする。もちろん、ウエノコウジもクハラカズユキもカッコイイ。なぜならそれがロックだからだ。

12月7日のTokyofmの 「THE TRAD」 はハマ・オカモトがお休みで、THE BAWDIESのROYが代理DJをつとめていた。リスナーからのロックについての質問で、ロックとかハードロックとかメタルとか、それらはどう違うのかという疑問に対してROYが力説していたのは、ロックンロールとロックはちょっと違うということだった。
そう、確かにそう言われればちょっと違う。もちろんロックンロールという言葉を略したのがロックではあるのだけれど、そのニュアンスの違いがわかる。

でも、それはどっちでも良いのだ。さらにいえばロックであってもロックでなくても、パンクでもオルタナでも別にかまわない。ジャズでもかまわないし、ポップスでもワールドミュージックでも、何でも良い。ただ、強い音、ぶれない音。それがロックなのだと私は思う。


THEE MICHELLE GUN ELEPHANT/
ミュージックステーション 2023年06月27日
t.A.T.u.事件の回
https://www.youtube.com/watch?v=KG3KcNPq0YE

THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
https://www.youtube.com/watch?v=CUKex3Qjquk

Tokyofm・THE TRAD 12月7日
https://radiko.jp/#!/ts/FMT/20231207150000
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ヒラリー・ハーンのバッハ《ヴァイオリン協奏曲第2番》 [音楽]

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Hilary Hahn

ここのところ、ずっとバッハなのだ。
思い出してみれば高校生の頃から20歳前後までもそうだった。音楽は究極としてはバッハだけで良い、と思っていたのだが、やがて、世界には数限りない音楽があり、だんだんと視野を広くして聴くようになってその気持ちは消失した。
それなのになぜ、そのような気持ちがよみがえってきたのだろうか。それはきっと世界に対する不信なのだ、と自己診断してみる。世界に対して、もっと卑俗にいえば世間に対して不信を持ってしまったとき、信じられるものはすべて消失し、バッハだけが残るのだと思う。

以下は私の勝手なひとりごとであり思い込みに過ぎない。私にとっての至高のバッハは《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》である。これは終生変わることはない。
ヴァイオリンは基本的に単音の楽器である。弦は4本あるがひとつの旋律線で弾かれることがほとんどである。バッハの無伴奏には重音の部分が多く存在するが、基本的にはヴァイオリンは単音である。
バッハの作品の基本的な構造は対位法によって作成されていて、対位法とは2声以上の音のからみあいによって成立するべきであり、したがって伴奏楽器の存在しないヴァイオリン1本の音楽では対位法を構成できないはずである。だがバッハの無伴奏には対位法が存在する。それはひとつの旋律線によって奏でられる音の中に聞こえないはずの音を、あるいは和音をリスナーが聞いているからだ。それは幻想なのだろうか。

だから無伴奏ヴァイオリンを聴くのは疲れる。緊張を強いられているような気がする。だがどうしても聴きたい気持ちになってしまうときがある。まるで強迫観念のように突然それはやってくる。でもYouTubeに、ヒラリー・ハーンがパルティータ3番を弾いている動画があって、これは自室なのかそれともそれに類した場所なのか、ともかく比較的プライヴェートな場所のようで、そこで弾かれるパルティータはそんなに重くない。
私の最も好きなアリーナ・イブラギモヴァの演奏と聴き較べなどしていたのだが、イブラギモヴァのはコンサート・ホールにおける動画で、それと聴き較べるのはフェアではない。セッション録音とライヴ録音は違うし、スクエアな場所での演奏とプライヴェートな場所での演奏とではニュアンスが違う。そもそも聴き較べたところでどうにもならない。好きか嫌いかだけで、上手いか下手かの比較にはならない。

ああ疲れたと思ってしまって、もっと親しみやすいバッハがいいと思い始めた。そこでヴァイオリン・コンチェルトである。バッハのヴァイオリン協奏曲を弾くハーンの動画で、ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団との演奏をたまたま聴いたのだが、演奏会場の雰囲気も良くて、きつきつのバッハから少し遠ざかることができたように思う。指揮はオメール・メイア・ヴェルバーの弾き振りである。

バッハのヴァイオリン協奏曲で一番有名なのは第2番である。第1番の調性はa-mollであり、楽章毎にいうのならば a-moll → C-dur → a-moll なので響きとしては悲しく哀愁があって素朴なのだが、音楽的には第2番のほうがよくできているように感じる。第2番は G-dur → cis-moll → G-dur という調性である。
リンクした2つの協奏曲はおそらく同じ日に連続して演奏された動画だと思う。第2番の第3楽章でハーンのやや現代的なアプローチが垣間見えてしまうが、全体的にはリラックスしていて、ハーンが伴奏の弦楽器を引っぱっていく様子がとても心地よい。ヴェルバーのチェンバロも的確である。
昔、憧れていたバッハにまた逢えたのだと、そしてバッハの精神性は廃れることなく健在だとあらためて思うのだ。

追記として、私はどんな音楽に関しても、あまり感心しなかった演奏については書かないようにしているのだが、このヴァイオリン協奏曲の動画を探しているとき、2台のヴァイオリンのための協奏曲を弾いている某演奏に行き当たった。あえて名前は記さないしリンクもしないが、有名なヴァイオリニストとその教え子たちのように見える演奏である。非常に現代的な躍動感に満ちた演奏で、全体的に速く、まさに爽快感のある演奏なのだが私は買わない。冒頭から22小節めの、有名な跳躍進行の部分がこれでは台無しだ、と思ってしまったからである。だがこうした演奏こそが、現代の人々には好まれるのかもしれない。

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Hilary Hahn/J.S.Bach: Violin Concerto No.2, E-dur, BWV 1042
Omer Meir Wellber, Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
https://www.youtube.com/watch?v=DgfyryZJES4

Hilary Hahn/J.S.Bach: Violin Concerto No.1, a-moll, BWV1041
Omer Meir Wellber, Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
https://www.youtube.com/watch?v=Q3-5144TaYg

Hilary Hahn/J.S.Bach: Partita No.3, E-dur, BWV 1006
https://www.youtube.com/watch?v=Pr_gK9fzwSo
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