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THE FIRST TAKEのアイナ・ジ・エンド [音楽]

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アイナ・ジ・エンド

金曜日の昼のTokyofmをだらだらと聴く。ヒコロヒーがカヒミ・カリィの〈ハミングがきこえる〉を選曲していたのでちょっと驚く。この人工的ウィスパー・ヴォイスはすごいな。

まぁそれはいいとして、その後の《Jump Up Melodies》をよく聴くのだが (パーソナリティは鈴木おさむとTHE RAMPAGEの陣)、昨日 (2023年10月27日) の放送のゲストに、とたが出演していた。鈴木おさむはゲストからの話の引き出しかたがうまいので、いつも楽しみ。今回も辛いものが好きとか、パクチーの話で盛り上がるところが面白い。で、〈コワレモノ〉なのだがオフィシャルのMVが出たばかり。→a)

それをYouTubeで聴いていたのだが、次の選曲候補にTHE FIRST TAKEがちらつく。
THE FIRST TAKEは一発録りの緊張感がよくわかるからたぶん好評なのだろうが、単に音楽としてだけでなく、その歌手の人間性というか、ときとして意外な表情もわかったりすることがあるので良い企画だと思う。そして、とたのTHE FIRST TAKEは〈紡ぐ〉。歌いながら弾くギターの音がちょっと良い。→b)

それでTHE FIRST TAKEを次々に辿って行った。UruのことはまだアマチュアのYouTuberだった頃から聴いていて、このブログにも何回か書いているが (例えば→2022年05月22日ブログ)、その人気ドラマの主題歌〈それを愛と呼ぶなら〉のオリジナルでなくTHE FIRST TAKEでの歌唱もさすがである。世界の描き方が絶妙だと思う。なお、オリジナル版の編曲は小林武史。→c)
でもTHE FIRST TAKEでは〈振り子〉のほうが余裕もあるし、良いかもしれない。→d)

さて、以上は前フリだったのですが、今、最もシュンなのは9日前にupされたアイナ・ジ・エンドの〈キリエ・憐れみの讃歌〉だろう。最近よく見かけると思っていたら岩井俊二の映画のプロモーションのようで、これも原曲は小林武史の作詞作曲編曲で、このTHE FIRST TAKEでキーボードを弾いているのも小林武史。キリエというのは映画の中の彼女の役名だとのこと。かつての菅野美穂の蓮井朱夏とか、柴咲コウのRUIと同じ。
しかしキリエというネーミングはKyrie eleisonのキリエから来ているわけで、私はすぐにクラシックの宗教曲を連想してしまう。曲の終わりに近く、スネアがボレロのリズムになってしまうのはシャレなのだろうか。→e)
1stアルバムが出たときはあまり良いと思わなかったのだが、それは多分に1stのジャケットデザインがいまひとつ垢抜けなかったから。楽曲と写真のイメージが違う。ということでジャケットデザインは重要です。

このアイナ・ジ・エンドでこの記事を終わりにすればよいのだが (シャレで言っているのではない)、THE FIRST TAKEでこれが最高と思わせられてしまうのは、あの〈ちゅ、多様性〉です。オリジナルMVも良いけどこのTHE FIRST TAKEは衣裳がかつての篠原ともえのようで、多分それを超えてる。→f)
演奏の TAKU INOUE、真部脩一、西浦謙助のそれぞれのリズムの細かさがスリリング。
その後で中川翔子を聴くとあまりにオーソドクスな印象を持ってしまうのだが、でもこれはこれでいかにもなアニソン風味で良いのかも。→g)

オマケとしてTHE FIRST TAKEではないのだが、さいたまスーパーアリーナでのYOASOBIのライヴの〈アイドル〉。原曲は最近リリースされた黄色い表紙のBOOK 3に収録されている。BOOK 1も今、再々発売中。ちっとも限定じゃないじゃん!→h)
やまもとひかるの使っているATELIER Zのベースが目をひく。ピックガードは本来透明なのだが、そこに白い紙を挟んでいるので白いピックガードっぽく見えているのだとのこと。どうでもよい情報でした。


Kyrie/DEBUT (avex trax)
DEBUT(AL+Blu-ray)




あの/猫猫吐吐 (通常盤) (トイズファクトリー)
【Amazon.co.jp限定】猫猫吐吐 (通常盤) (メガジャケ付)




YOASOBI/THE BOOK 3 (ソニー・ミュージックレーベルズ)
【Amazon.co.jp限定】THE BOOK 3 (特製バインダー用オリジナルインデックス(「祝福」ver. MVコンセプトアート・アニメーター:米谷聡美 描き下ろし)付)




とた/Oidaki (RAINBOW ENTERTAINMENT)
https://tower.jp/item/5633063/Oidaki
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Uru/それを愛と呼ぶなら (SMAR)
それを愛と呼ぶなら (初回生産限定盤)




a) とた/コワレモノ (official music video)
https://www.youtube.com/watch?v=OfayMTYjTeY

b) とた/紡ぐ THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=QU-Vq9NTASc

c) Uru/それを愛と呼ぶなら THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=zVOqiEQJj0w

d) Uru/振り子 THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=ue4irL_g-UE

e) Kyrie (アイナ・ジ・エンド)/
キリエ・憐れみの讃歌 THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=qLHoHf_WTVk

f) あの/ちゅ、多様性 THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=r5nIHDZw9gI

g) 中川翔子/空色デイズ THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=o8Z2cDFVVBc

h) YOASOBI/アイドル
YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”
さいたまスーパーアリーナ 2023.6.4
https://www.youtube.com/watch?v=RzXTe-QfWTw
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マイルス・デイヴィス《the complete live at the plugged nickel 1965》 [音楽]

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マイルス・デイヴィスのプラグド・ニッケルは通常流通盤としてはvol.1とvol.2の2枚組だが、この2日間のライヴを完全収録したセットがあり、1992年に日本製造のセットが発売され、その後、少し収録時間を多くしたアメリカ盤がリリースされたのだというが、それは20世紀末のことであった。今回、そのコンプリート盤がハイブリッドSACDとなって再発されたのである。この完全盤には12月22日の3セットと23日の4セット、計7セットが収録されている。収録時間はアメリカ盤と同じなので、完璧な完全盤としての日本盤発売は初めてということになる。
だが、メディアとしてはずっと再発されなかったのだが、音声のみであるけれどYouTubeで聴くことが可能だ。

プラグド・ニッケルでのライヴが録音されたのは1965年12月22日と23日だが、この年のマイルスのレコーディングはセッショングラフィによれば1月20日〜22日のColumbia CL2350のアルバム《E.S.P.》のコロムビア・スタジオにおけるレコーディングと12月のプラグド・ニッケルしかない。
プラグド・ニッケル後のレコーディングは翌年の1966年5月21日のポートランド・ステート・カレッジ・ジャズ・フェスティヴァルのライヴであり、スタジオ・セッションは10月24日〜25日のアルバム《マイルス・スマイルズ》セッションとなる。つまりプラグド・ニッケルは《E.S.P.》と《マイルス・スマイルズ》の間のライヴということである。

タワーレコードの紹介文によれば、

 当時、周辺のジャズではフリー・ジャズが新しい潮流として台頭してい
 た頃ゆえ、マイルス以外のバンドの若手メンバーたちは、マイルスのソ
 ロが終わると、ステージ上でフリー・ジャズ寄りの演奏を展開し始め、
 再びマイルスが吹き始めるとまた元通りの演奏に戻るといった、緊張感
 の高いライヴ・パフォーマンスが聴ける全39曲の究極のドキュメントに
 なっている。

とあるが、これは他の批評記事でも読んだことがあるニュアンスである。果たしてそうなのだろうか。
ディスコグラフィを見ると1959年の《Kind of Blue》を挟むようにして《Miles Ahead》(1957),《Porgy and Bess》(1959),《Sketches of Spain》(1960),《Quiet Nights》(1963) というギル・エヴァンスとの4部作があるが、これらはほぼオーケストレーションを基盤としたアルバムであり、コルトレーン等と別れた後のスモール・グループとしての出発は、1963年の《Seven Steps to Heaven》あたりからと考えてよい。
wikiには次のように記述がある。

 Following auditions, he found his new band in tenor saxophonist
 George Coleman, bassist Ron Carter, pianist Victor Feldman,
 and drummer Frank Butler. By May 1963, Feldman and Butler
 were replaced by 23-year-old pianist Herbie Hancock and 17-
 year-old drummer Tony Williams who made Davis “excited all
 over again”.

つまりヴィクター・フェルドマンとフランク・バトラーがハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムスに変わったときがいわゆる黄金のクインテットへの布石である。マイルスはたぶんテナー奏者に不満を持っていた。そしてテナーがコールマンからサム・リヴァースにかわり、さらにウェイン・ショーターとなったときがこのクインテットの完成形となる。
そしてこのクインテットにおけるスタジオ・レコーディングのアルバムが《E.S.P.》(1965),《Miles Smiles》(1967),《Sorcerer[》(1967),《Nefertiti[》(1968) という4部作だが、このアルバム群のコンセプトは表面的にはウェイン・ショーターが握っている感じがある (もちろんあくまで表面的であって、それを 「庇を貸して母屋を取られる」 と書いていた評論家がいたような記憶がある)。

さて、先に述べたようにプラグド・ニッケルは《E.S.P.》後のライヴであるが、まだバンドとしての一貫性は固まっておらずやや流動的というふうに見ることができる。「フリー・ジャズ寄りの演奏」 といわれればそうなのかもしれないが、たとえばショーターのソロも、音を外してフリー風にというよりは、まだ試行錯誤の最中というように私には聞こえる。これはその後の電化マイルスのはじめの頃のキーボードの音がまだこなれていない、と以前書いたことに通じる初期のチャレンジのごこちなさといってよいのかもしれない。
もっとも山下洋輔が言っていたように、フリーの演奏は失敗したらもう一度やり直せばよい、という方法論に従うのならショーターのアプローチは確かにフリーっぽいのかもしれない。

したがって、以前のストックホルム1967年のライヴの記事に書いたように (→2023年03月05日ブログ)、このグループの最もすぐれたライヴ演奏は電化マイルスになる直前の1967年であり、つまりメディアとなって確立されているもので言うのならばThe Bootleg Series vol.1の《Live in Europe》であると思うのだ。

でも、それではこの《プラグド・ニッケル》の立場がないのかといえばそんなことはなくて、むしろ張り詰めた緊張感の中でのプレイの記録という点でこの全セットを聴くのには重要な意義がある。特に速度を変幻自在にコントロールしてゆくトニー・ウィリアムスのドラミングが素晴らしい。このとき、彼は20歳なのである。
ただ、マイルスがテーマとソロをごく少なめに吹いて、マイルスがいなくなると他の4人がフリーになって勝手なことをやり出すというようなインプレッションを読んだこともあるが、それはちょっと違うのではないかと思う。圧倒的にリーダーシップをとっているのはあきらかにマイルスであり、他の4人はまだ試行錯誤というのが1965年時点での状況というふうに考えたほうがよいと思う。
前述の1967年のストックホルムのセッションでは、このグループはもっとずっと完成していて次のエレクトリックの直前における爛熟の美を醸し出しているともいえるが、マイルスの圧倒的なリーダーシップさは終始変化していないように思える。


miles davis/the complete live at the plugged nickel 1965
(Sony Music Labels)
https://tower.jp/item/6160059
(タワーレコードのみの限定販売)


Miles Davis/December 22, 1965 Plugged Nickel Club, Chicago (3rd set)
https://www.youtube.com/watch?v=_EAwsUdB7KE

Miles Davis/December 23, 1965 Plugged Nickel Club, Chicago (3rd set)
https://www.youtube.com/watch?v=T3NxhgT3EqE
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関ジャム〈誰かの事を想って書いた曲特集〉 [音楽]

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さかいゆう

TV朝日・2023年10月15日の《関ジャム 完全燃SHOW》は〈誰かの事を想って書いた曲特集〉で、ゲストは本間昭光、はっとり (マカロニえんぴつ)、さかいゆうの3人。

槇原敬之の〈もう恋なんてしない〉は本間昭光が失恋したときのことを、槇原が聞き取ってアレンジした曲だったというのにもうびっくり。というか、それをあのような曲に仕上げる槇原の才能をあらためて確認する。
タイマーズがモンキーズの〈Daydream Believer〉をカヴァーしたときの歌詞は、清志郎が亡くなった母に宛てて書いたものだったという解説があったがそれは知らなかった。つまり彼女というのは母親だったのであって、それを知るとこの歌詞は余計にせつない。

そしてはっとりが姉の結婚式のために書いたという〈キスをしよう〉をギター弾き語りで披露。これはすごいよね。そんな結婚式があったのなら理想だ。お姉さんはぶっきらぼうに 「よかったよ」 と言っただけだったというがそれはテレでしかないはず。

さかいゆうは山崎まさよしの〈One more time, One more chance〉の歌詞には死生観が漂うみたいなことを語っていたが、まさにその通り。そうそう、この前の歌謡スクランブルの記事で私は 「日本のシンガーソングライターといえば、私の好みではダントツで草野マサムネと槇原敬之」 と書いたが、もうひとり、山崎まさよしを忘れていた。

そしてさかいは番組の最後に、若くして事故で亡くなってしまった友人に向けて書いたという〈君と僕の挽歌〉を歌ったが、そうした事情を知ってから聴くと歌詞の中の 「調子どうですか?」 というのは向こうにいる友人に問いかけている言葉、そして 「こちらはツライこともありますが」 という 「こちら」 はこの世にいる自分のことで、あまりのリアリティと切実さに心が痛む。というかこれはあくまで私事に過ぎないのだが、そのおそろしいまでの喪失感に同期する記憶がよみがえる。
さかいはグランドピアノの弾き語りでこの曲を歌ったが、途中のサビの部分で一個所、不思議なコードがあった。意図して弾いたのかミスタッチなのかがよくわからないが (いや、ミスタッチというのはありえないな)、その突き刺さるようなテンションが強く印象に残った。

さかいゆうのYouTubeチャンネルには数時間前にこの〈君と僕の挽歌〉がupされている。番組内での歌唱とは異なるが、あらかじめ用意してあったのだろう。YouTubeチャンネルのリストには、かまやつひろしの〈ゴロワーズを吸ったことがあるかい〉のカヴァーもupされていてちょっと楽しめる。


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左から 本間昭光、はっとり (マカロニえんぴつ)、さかいゆう
(はっとりinstagramより)


さかいゆう/君と僕の挽歌 (Studio Live version)
https://www.youtube.com/watch?v=gcCByMQ7Uyo

槇原敬之/もう恋なんてしない (MV)
https://www.youtube.com/watch?v=naz0-szzYXk

THE TIMERS/デイ・ドリーム・ビリーバー
https://www.youtube.com/watch?v=HSoKZOg3QEw

山崎まさよし/One more time, One more chance
https://www.youtube.com/watch?v=BqFftJDXii0
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小林司・東山あかね訳『シャーロック・ホームズ全集』のことなど [本]

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河出書房新社より小林司・東山あかね訳の『シャーロック・ホームズ全集』が復刊された。初版は1997年とのことで、そのときにも書店で見た覚えはあるのだが結局購入はしなかった。今回はカヴァー・デザインなどがリニューアルされていて、思わず手にとってしまった。

ホームズの翻訳は昔から延原謙の訳に定評があったが、小林司・東山あかねの訳書にも書かれているように、文章表現的にすでに古くなってしまっているという指摘は当たっていて、それはサリンジャーの野崎孝・訳『ライ麦畑でつかまえて』が名訳といわれながらも、すでに古くなってしまったのと同じ感覚である。私も野崎訳を名訳とずっと信じていたが、村上春樹訳が出たときに参照したら 「これはないよね」 と愕然としてしまったものである。その時代の風俗をあらわす言語表現についてはその傾向が特に顕著である。

さて、その第1巻『緋色の習作』(A Study in Scarlet) は、以前の翻訳タイトルでは『緋色の研究』として馴染んできたが、誤訳であるという観点から小林・東山訳では 「習作」 とされている。こういうところも、たとえば最近のランボーの翻訳が、昔の翻訳からすると革新的なまでに変更されてしまっているのと似ている。
ホームズに関する蘊蓄をいかにも現実にあったことのようにして深く探究する人たちをシャーロキアンと称するが、これは一種の高級な遊びであり、日本におけるその嚆矢は長沼弘毅であった。伊丹十三がそのカヴァー・デザインを担当した何冊かの著書は当時としては洒落た先進的なセンスだったのかもしれないが、今ではその内容も古くなってしまっている可能性があるかもしれないけれど、そこまでの詳しいことは知らない。

『緋色の習作』を見ると全364ページのうち本文は178ページまで。以下は注釈と解説であって、つまり本の半分くらいが注釈になっている。注釈部分はフォント・サイズも小さく2段組なので、量的には注釈のほうが多いように思う。底本はオックスフォード大学版なのだそうだが、その力の入れ方が面白い。
もっとも注釈本といえばすぐに思いつくのが2回目の『校本宮澤賢治全集』であって、各巻が本文と注釈本の2冊に分かれているが、本文より注釈本のほうがぶ厚かったりするのがもはやマニアックである。

他に注釈本を探すとルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』があって、これは本文そのものの翻訳も数多く存在するが、もっとも有名な注釈本はマーティン・ガードナーのものであって、その注釈本の訳書も存在するらしいが、私が読んでいたのはペンギンブックスの少し大きいサイズの黄色系の表紙のペーパーバックであった。同様のサイズと体裁の水色系の表紙の『スナーク狩り』もあるが、これ原文を参照するときに読んでいた。
原書の注釈本はさすがに滅多に買わないが、ミシェル・ビュトールの《La modification》のGerard Roubichou注釈のものをなぜか持っていて、縦長のやや大判のペーパーバックであるが、この本の翻訳タイトルは『心変わり』であり、倉橋由美子の二人称小説『暗い旅』の元ネタ本である (Bibliothèque Bordasという叢書の中の1冊で、他の作家の本も何冊か見たことがある)。

と、話が逸脱してしまったが、シャーロック・ホームズの『緋色の習作』を読み出すと面白い。ほとんど内容を忘れてしまっているのでとても新鮮である。
私はモリアーティ教授というとフルトヴェングラーを連想してしまうのだが、風貌が似ているし、それにフルトヴェングラーはスピード狂で、でも警察がスピード違反を検挙しようと張っていても逃げられてしまうところとか、何かワルっぽいよなぁと思うのである。もっともホームズの小説の中で最も好きなのはもちろん『恐怖の谷』である。

アーサー・コナン・ドイル/シャーロック・ホームズ全集 1 緋色の習作
小林司、東山あかね・訳 (河出書房新社)
緋色の習作 (シャーロック・ホームズ全集 1)

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歌謡スクランブル — 涙のラブソングと森高千里作品集 [音楽]

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西山毅 Official Channel (西山毅と奥野敦子)

10月6日のNHKFMで《歌謡スクランブル》を聴く。
この日のテーマは 「涙のラブソング(5)▽森高千里作品集」 とのこと。FMはいつもTokyofmに固定なのだが、この時間はchatGPT云々とかいう番組がつまらないのでNHKFMに切り替えることにしている。全部を聴いていたわけでなく切れ切れなのだけれど。
この番組、アナウンサー・深沢彩子の落ち着いた声が素敵だ。アナウンスだけでなく番組の構成もしているとのこと。

前半の 「涙のラブソング」 は涙にまつわる曲を集めている。「艶姿ナミダ娘」(小泉今日子) 「なみだ涙のカフェテラス」(ジューシィ・フルーツ) 「悲しくてやりきれない」(松本伊代) 「涙がキラリ☆」(スピッツ) 「祈り~涙の軌道」(Mr.Children) 「涙のイエスタデー」(GARNET CROW) 「この涙 星になれ」(ZARD) 「ハッピーエンド」(back number) 「初恋が泣いている」(あいみょん) 「half of me」(平井堅) 「Farewell」(Superfly) といった選曲。このなかで 「悲しくてやりきれない」 が松本伊代というのがナイスな選択。
KYON2もガネクロも懐かしいけど、たまにスピッツを聴くと良いなぁといつも思う。日本のシンガーソングライターといえば、私の好みではダントツで草野マサムネと槇原敬之です。

でもこの中で異彩を放っていたのがジューシィの 「なみだ涙のカフェテラス」 (近田春夫・作詞、柴矢俊彦・作曲) でした。ジューシィといえば 「ジェニーはご機嫌ななめ」 ばかりが有名だけれど、この 「なみだ涙……」 はコーラスやバックの音など、あちこちにワザがあるし、何よりもサビの部分で涙ということばが8回もヴァリエーションをつけて繰り返されるのが秀逸。この音作りはGSのパロディでもあり、いわゆるテクノ歌謡といってもよいけれど近田春夫はそんなストレートな解釈だけではとらえきれない。

後半の森高千里は 「17才」 「雨」 「私がオバさんになっても」 「渡良瀬橋」 「ハエ男」 「風に吹かれて」 「二人は恋人」 「気分爽快」 という選曲だったらしいのだが、このあたりはラジオから離れていたので聴いて無くて 「二人は恋人」 と 「気分爽快」 だけ聴きました (知ってる曲ばっかりだし、まあいいか)。
森高は 「17才」 とか 「私がオバさんになっても」 などが出世作だと思うんだけれど、もっとずっと後期の作品のほうが私としてはしっくりと来るので、アルバムでいうと《TAIYO》《DO THE BEST》あたり。《TAIYO》に収録されている 「SO BLUE」 が私の好みのベストトラックです。この《TAIYO》では森高が全曲ドラムを叩いているのにも惹かれる。ポンタさんが森高のドラミングを褒めていたのを思い出す。
「二人は恋人」 も 「気分爽快」 も好きな曲なのだけれど、もともとシングル曲で、アルバムではベスト盤の《DO THE BEST》にしか収録されていない。《DO THE BEST》をフェイヴァリットにあげたのはそれが理由です。
そして森高のPVなら上記の 「SO BLUE」 と、以前にもリンクしたけれどカーネーションとの 「夜の煙突」、これっきゃない。

それで西山毅 Official Channel に奥野敦子の回があった。ごく最近の奥野敦子ですが、ピンクのブギーで西山と合奏しています。トリッキーなイリアのソロをすぐに弾いてしまえる西山毅はやっぱりすごいです。ギターを弾き始めの頃の奥野が、ELPをガットギターでコピーしていたという話題が面白い (YouTubeの7’00”あたりから。2人での演奏は19’12”から)。
そういえば半年くらい前、某楽器店にイリア・ヴァージョンのピンクのブギーがぶら下がっていた。もちろん新品。デッドストックなのだろうか。でもすぐに売れてしまったのです。残念!(調べたら2017年にも再生産があったとのこと。それなら在庫がある可能性もあるよね)


西山毅 Official Channel
昭和の名ギターソロ探訪『ジェニーはご機嫌ななめ』
https://www.youtube.com/watch?v=xr53eit0ycI

ジューシィ・フルーツ/なみだ涙のカフェテラス
https://www.youtube.com/watch?v=D21i148ZoLQ

森高千里/SO BLUE (PV)
https://www.youtube.com/watch?v=yQyyWIf58kI

森高千里/二人は恋人 (PV/Color)
https://www.youtube.com/watch?v=S3Lpi9Ev9FI

森高千里 with CARNATION/夜の煙突 (PV)
https://www.youtube.com/watch?v=b9ZMzQ3-ERk

《参考》
Chisato Moritaka DVD Collection No.1〜15
(LD or VHSで発売されていた映像の再発盤)
以降にリリースされたライヴ映像作品 (〜1999年まで):

◆森高ランド・ツアー
  1990.03.03 森高ランド・ツアー NHKホール
◆1990年の森高千里
  1990.08.28 森高ランド・ツアー 浜松市民会館
  1990.11.29 森高ランド・ツアー 宇都宮市文化会館
◆古今東西~鬼が出るか蛇がでるかツアー’91完全版
  1991.03.03 古今東西~鬼が出るか蛇がでるかツアー 中野サンプラザ
◆ザ・森高
  1991.08.22 ザ・森高ツアー 渋谷公会堂
◆CHISATO MORITAKA CONCERT TOURʻ92 LIVE ROCK ALIVE
  1992.09.30 LIVE ROCK ALIVE 中野サンプラザ
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2013年のaiko, Live at NHK vol.2 [音楽]

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aiko 15thアルバム:今の二人をお互いが見てる

aikoの歌唱はスタジオで録音されたオリジナルも良いのだが、ライヴでハイになったときのほうが絶対にすごいと思う。その最も絶妙なヴァージョンは年末の〈CDTV年越しライブ2017−2018〉だったと覚えているのだが、残念ながらその動画はガードされてしまっている。

で、そのときと同じ〈花火〉のライヴを探していたら〈Live at NHK vol.2〉という動画を発見。おそらく2013年8月31日の深夜 (つまり9月1日) にオンエアされたものだと思う。〈ボーイフレンド〉〈beat〉〈ジェット〉など何曲かあるのだが、大半は音圧レヴェルが少し低い。その中で唯一、前者と別な人がupしていて音・映像共にクリアなのが〈花火〉である。→a)

このライヴではイントロでウーとかララ〜というようないわゆるスキャットをかませてから歌に入って行くし、途中も通常のメロディと異なる個所が幾つもある。これはフェイクといって一種のアドリブなのだが、その時点で瞬間的に変更されるけれどある程度のパターンが決まっているともいえる (フェイクについては、以前、リー・コニッツがチャーリー・パーカーのインプロヴァイズはストック・フレージングであって純粋のアドリブではないと言っていたのに通じる。フェイクな唱法についてはその歌手各々にやりやすいパターンが存在するはずだ。リー・コニッツの指摘については→2014年07月21日記事を参照)。
やや音圧が低いけれどコンサートの終盤で大盛り上がりしている〈ボーイフレンド〉もリンクしておくことにする。→b)

さらにYouTubeで発見したのはオールナイトニッポンにおけるKing Gnuの井口理とaikoがデュエットしてしまう〈カブトムシ〉で、もちろん半分おふざけで始まったのだろうが素晴らしい。→c)
ただ、こうして2人がデュエットしているときに気がついたのだが、〈カブトムシ〉の最後の部分で突然旋律が変なふうに感じられるのは、実は変なのではなくて、コーラスで何声か重ねるときに主旋律でない旋律、たとえば3度上に重ねるコーラス部分を主旋律にしてしまったと考えれば辻褄が合う。
もっともaikoは自分の感覚でのメロディラインこそが自然であり、気持ち悪いと言っているスタッフに対しては何度も聴かせているうちに気持ち悪くなくなるのだ、みたいなことを言っていて、その自信の強さがすごい。

そしてaikoの歌唱法を決定づけているのがブルーノートの使用で、音楽ジャンルとしてはポップスだがブルーノートの煩瑣な使用からいうとジャズに近い。ブルーノートとは簡単に言ってしまえばスケールの第3音、5音、7音をフラットさせることにより独特のニュアンスを生成することを指すが、ブルージーなどという形容があったりブルーノートというジャズレーベルがあることでもわかるように、ジャズの典型的な手法である (ブルーノートに関しては山下洋輔の『風雲ジャズ帖』という本の中に 「ブルー・ノート研究」 という解説文があってとても面白い)。
そして必ずしも完全に半音下げる必要はなくて、半音までいかなかったり、逆に半音を少し越えていたりという、微妙な曖昧さを醸し出すことも可能である (こうした半音以下の音高を微分音という。近代・現代音楽には微分音の指定のある曲も存在する)。その根底には典型的な近代西欧音楽の固定的なスケール感とは異なる、民俗音楽などにおけるスケールの不安定さが源泉となっているのだと思う (非・近代西欧音楽についての著作では、古い本ではあるが小泉文夫の『日本伝統音楽の研究』が、日本の伝統的音楽主体の内容ではあるけれど、最も多くの示唆を与えてくれるように思う)。

aikoはライヴにおいてこの微分音的な歌唱をすることがあるように思う。それがたまたま音が定まらないままに歌った結果として不安定なのか、あらかじめそうした意図で歌っているのかよくわからないのだが、aikoのあの正確な歌唱法からすれば、おそらくわざと音を外しているのだろうというのが私の推理である。
その例として〈クローゼット〉のライヴをあげておく。歌い出しとその繰り返しの部分である。後になって同じフレーズが出てくるが、そこでは普通に歌っている。そもそものオリジナルの歌唱を聴いてみても、このように微妙な音は使っていない。→d)

YOASOBIの2人がaikoを絶賛していたとき、正直言ってそこまで言うのか? という思いはあった。だが菊地成孔の書いた2012年の記事のなかにaikoについて書いたものを読むと、なるほどそうなのか、とも思ってしまう。→e)
その菊地成孔の記事の中にリンクされていたユーミンのカヴァーであるaikoの〈セシルの週末〉もリンクしておく。→f) カヴァーの女王・柴田淳とは違った意味でaikoのカヴァーは聴かせる。

話がそれるが、今話題の映画、菅田将暉主演の《ミステリと言う勿れ》の主題歌、King Gnuの〈硝子窓〉はすごい。まだメディアは発売されていないが。


a) aiko/花火
Live at NHK vol.2., on air: 2013.09.01
https://www.youtube.com/watch?v=J15khdjRXoA

b) aiko/ボーイフレンド
Live at NHK vol.2., on air: 2013.09.01
https://www.youtube.com/watch?v=hqB_-pKv8Vs

c) King Gnu 井口&aiko/カブトムシ
オールナイトニッポン
https://www.youtube.com/watch?v=DgTVVKbYwHk

d) aiko/クローゼット live
https://www.youtube.com/watch?v=4CCe3U_1jyo

e) 菊地成孔 本物のブルースシンガー・aikoを語る
https://miyearnzzlabo.com/archives/12133

f) aiko/セシルの週末
https://www.nicovideo.jp/watch/sm21419347
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