松任谷由実&プロコル・ハルム〈青い影〉 [音楽]
松任谷由実の40周年記念のベスト盤《日本の恋と、ユーミンと。》(2012) にはその最後のトラックにプロコル・ハルムの〈青い影 (A Whiter Shade of Pale)〉のカヴァーが収録されていて、それに気がついたのでこの1曲だけのために通常盤を買っておいた。
このときの演奏はアビーロード・スタジオで録音されたもので、バックで演奏しているのはプロコル・ハルムそのものだからカヴァーというより共演としたほうが正しいのかもしれない。
プロコル・ハルムのこの曲はあまりにも有名なヒット曲で、2021年11月24日に発売されたRegal Zonophone Yearsの国内盤ボックスセットには7つのヴァージョン違いが入っている。
《日本の恋と、ユーミンと。》が発売された2012年11月20日の直後、12月10日には松任谷由実とプロコル・ハルムの共演コンサートが行われている。この動画の存在を最近まで知らなかったが、松任谷由実のプロコル・ハルムへの敬愛が如実にあらわれているライヴといえるだろう。彼女が音楽活動を始めるためのきっかけのひとつとして〈青い影〉が果たした役割が大きかったことがあらためて確認できる。
〈青い影〉の最も著しい特徴はあのオルガンの響きであり、それはバロックのオルガンを連想させる独特のメロディラインを持っているが、人気曲であるため幾つものカヴァー・ヴァージョンが存在するのにもかかわらず、プロコル・ハルムの演奏に拮抗できるようなカヴァーは私の聴いた範囲ではひとつもない。
下記にリンクした共演コンサートはWOWOWでオンエアされたフル・ヴァージョンであるが、同曲はコンサートの最後1:47:33に演奏されている (「もっと見る」 をクリックして解説を展開し、A Whiter shade Of Paleの時間 「1:47:33」 をクリック)。
パーソネルは
Yumi Matsutoya (vocal, piano)
Gary Brooker (vocal, piano)
Geoff Whitehorn (guitar)
Matt Pegg (bass)
Josh Phillips (organ, synth)
Geoff Dunn (drums)
である。
松任谷由実/日本の恋と、ユーミンと。(Universal Music)
Procol Harum/Procol Harum (SOLID/FLY MUSIC)
リーガル・ゾノフォン・イヤーズ:
プロコル・ハルム・コンプリート・コレクション 1967−1970
(SOLID/FLY MUSIC)
Yumi Matsutoya & Procol Harum
40th Anniversary Show Tokyo, 10 dec. 2012
https://www.youtube.com/watch?v=A7LKbPlpUhM
高橋幸宏をめぐる話 [音楽]
昨日のつづき、です。
『ミュージック・マガジン』の増刊号はかなり便利と書いたが、それは間違いで、ようするに過去記事の寄せ集めなので重複しているデータもあり、あまり便利ではなく大変読みにくい。拙速で出したのでこんなクォリティなのだろうけれど、それに過去記事をスキャンしているので古いフォントで画質の悪いページもあるのだが、それが面白いといえばそうなのかもしれない (最終的にはきちんとしたリストが欲しいものだ)。
ざっと読んだので気になった個所をピックアップしてみる。
幾つもの記事の中でやや異色なのがサエキけんぞう (2013年8月号から再録) で、それによるとサディスティック・ミカ・バンドの1stを制作する前、ロンドンで加藤和彦と高橋幸宏がスカやロック・ステディのかかるクラブに、マルコム・マクラーレンに連れられて行ったとのこと。マルコム・マクラーレンという名前がいきなり出てきたのにも驚くが、おそらくそうした人脈を加藤和彦は持っていたのだと思われる。
そして〈タイムマシンにおねがい〉のリズムパターンはストーンズの〈ブラウン・シュガー〉だということ。これは、う〜ん……そうなのかなぁ……よくわからないです。
それからアルバム《黒船》に先がけて新宿厚生年金会館で行われたDepartureというタイトルのライヴは高橋幸宏と林立夫のダブルドラムだったとのこと。こういうところにも林立夫なんて名前が出てくるのを見ると、その当時の音楽シーンがごく少ないミュージシャンたちの持ち回りでまかなわれていたように感じてしまう (このライヴ、正確には1975年9月14日である)。
でもいままで知らなくて驚いたのが、1976年の矢沢永吉の日比谷野音でのライヴ《THE STAR IN HIBIYA》(1976年7月24日) のバックバンドとしてサディスティックスが出演していたこと (サディスティックスはミカ・バンドからミカと加藤和彦を除いたメンバーによるグループ:高中正義、後藤次利、今井裕、高橋幸宏)。それに加えて相沢行夫、大森正治、ジェイク・コンセプションが参加していて、つまりこのライヴも大森正治と高橋幸宏のダブルドラムである。
ミカ・バンドは、矢沢永吉とはキャロル時代に一緒に全国ツアーをした仲だとのことだが、この異質さはすごい。というか、つまりこれもその当時の音楽シーンってそんなものだったのかと思ってしまう (「狭い」 という意味です)。
そしてその後、矢沢永吉のCMタイアップ曲としてヒットした〈時間よ止まれ〉(1978) のバックで演奏しているのは坂本龍一、後藤次利、高橋幸宏、斉藤ノブ、それに矢沢組の木原敏夫と相沢行夫である。もう何でもやっちゃうわけ。
加藤和彦のヨーロッパ三部作の最初のアルバム《パパ・ヘミングウェイ》(1979) はバハマのコンパス・ポイント・スタジオで録られているが、このスタジオはトーキング・ヘッズ《More Songs About Building and Food》(1978) やダイアー・ストレイツ《Communiqué》(1979/rec. Nov.〜Dec. 1978) がレコーディングされた有名なスタジオであり、そうした場所を早々にとらえている加藤和彦の慧眼に納得する。
田山三樹のインタヴュー (2006年9月号) では、1975年にミカ・バンドがロキシー・ミュージックの前座としてツアーをしたら、ロキシーよりウケてしまい、どの音楽雑誌を見ても表紙がミカ・バンドで、ロキシーのスタッフに 「ミカ・バンドをオープニング・アクトに選んだのは最大のミステイク」 だったと言われたのだとか。
坂本龍一のソロ1st《千のナイフ》(1978) のとき高橋幸宏は、まだヒッピー・テイストを引き摺っていた坂本龍一のスタイリングを担当してアルマーニのジャケットを着せたという話はwikiにも載っているが、坂本美雨はそのことを知らなかったとDearFriendsで語っていた。
だが、青野賢一の記事 (2013年8月号) によれば、ジョルジオ・アルマーニの名前が一般に知られるようになるのはポール・シュレイダーの映画《アメリカン・ジゴロ》(1980) の衣裳を担当してからで、それより前にアルマーニを選択している高橋幸宏の目利きを賞賛している。
Yukihiro Takahashi - My Bright Tomorrow (Live in '83)
https://www.youtube.com/watch?v=hndhoG65Fd0
Yukihiro Takahashi/Flashback (Live in '83)
https://www.youtube.com/watch?v=cRI5UKYPoOI
Tokyo Ska Paradise Orchestra ft Yukihiro Takahashi/
Watermelon
https://www.youtube.com/watch?v=75Unfom3Lwo
加藤和彦/San Salvador
https://www.youtube.com/watch?v=LQrt5Cn8FXE
坂本美雨のDearFriends 2023.03.16 [音楽]
坂本美雨+高野寛 (Tokyofm/DearFriendsサイトより)
Tokyofm/坂本美雨のDearFriends 3月16日のゲストは高野寛で、高橋幸宏を偲ぶ内容だった。高野寛はNathalie Wiseのギタリストでもあるが、高橋幸宏の主宰していたpupaのメンバーでもあり、坂本美雨が語るように幸宏チルドレンのひとりである。
高野寛にとって高橋幸宏は最初は雲の上の存在で、一緒に演奏することになってもなかなか緊張が解けなかったという。だが幸宏さんから自作曲を褒められて、さらに 「ボクは高野君のファンなんだよ」 と言ってもらえたことがとてもうれしかったとのこと。やがて同じフィールドで音楽することができるのだと思うようになったという。
坂本美雨はある日、幸宏さんから 「なんでボクにプロデュースさせないの?」 と言われたとのこと。幸宏さんにプロデュースしてもらうなんておこまがしい、と思っていたが、今となってはお願いすればよかったと話す。
トークの間にオンエアされたのは、pupaの〈Changing Skies〉、アルバム《A Day in the Next Life》から〈愛はつよい~stronger than iron~〉、幸宏さん+細野さんの2人で書いたYMO〈CUE〉、SKETCH SHOWの〈FLY ME TO THE RIVER〉など。
FLY ME TO THE RIVERというタイトルはFly Me to the Moonのパロディだが、フライが幸宏さんの好きな釣りとのダブル・ミーニングになっていて、フライ・ミー・トゥー・ザ・リヴァーなのだという。
SKETCH SHOWには結局、坂本龍一も参加してやがてHASYMOへと発展し 「それってYMOじゃん!」 というオチになったのだが、そうした話の中で坂本美雨が 「幸宏さん」 「細野さん」 と 「さん付け」 しているのに対し、坂本龍一に対しては 「坂本龍一」 と呼び捨てにしているのがあたりまえなんだけど、ちょっと良い。
また、坂本美雨は高橋幸宏のことを紹介するときも 「亡くなった」 とか 「逝去」 とかいう言葉を使わず、「他界された」 と表現していたところに言葉に対する感性の確かさを感じる。
『ミュージック・マガジン』2013年4月増刊号の 「高橋幸宏」 は同誌にいままで載せた記事をコンパイルした内容だが、かなり便利で今読んでいるところである。でも《A Day in the Next Life》は今、廃盤なのが残念だ。それにしてもアルバムだけでも枚数が多くてまだ持っていないのばかりだが、全部を手に入れるのは無理。
DearFriendsの放送は今ならまだradikoで聴けます。
高橋幸宏/Saravah ! (キングレコード)
高橋幸宏/Saravah Saravah ! (日本コロムビア)
ミュージック・マガジン 2013年4月増刊号/高橋幸宏
(ミュージック・マガジン)
pupa/Anywhere
live 渋谷C.C.Lemonホール (渋谷公会堂) 2008.11.30
https://www.youtube.com/watch?v=1Gz8vEan4JI
幾田りら《Sketch》 [音楽]
幾田りらのアルバム《Sketch》が発売された。それに合わせてオフィシャルで〈サークル〉〈Answer〉のMVが公開された。すでに公開されている〈蒲公英〉〈スパークル〉を含めるとこのアルバムのニュアンスがわかる。〈Answer〉と〈スパークル〉はfrom MTV Unplugged: Lilas Ikutaというライヴ映像になっている。
「ヒット曲多数の幾田りらとして初となるオリジナルアルバム」 と紹介文があるが、正確にいえばタワーレコードのレーベル After School で《Jukebox》というアルバムがあるので今回のアルバムを2ndと呼んでもよいのだが、圧倒的にクォリティが違うのでYOASOBIブレイク以後のソロ1stと考えたほうが自然なのかもしれない (wikiでは《Jukebox》は2ndミニ・アルバムとしてカウントされている)。
内容としてはあくまで幾田りらのアルバムなので、Ayaseの書くYOASOBIの曲とは違う。めくるめく転調みたいなのはない。タイアップ曲満載だがどれもクォリティが高く、いきなりこんなの出されるとなぁ、と思っている人もいるのかもしれないが、すべてはYOASOBIブレイク以後なのだから仕方がない。
NHKのドラマ『大奥』主題歌〈蒲公英〉のイントロの低音から始まる歌声の凄みがたまらない。〈サークル〉のMVは露光が間違っているかのようにすべてが暗く沈んでいてそのダークさが美しい。
こうした映像を観るためにもブルーレイ付きのCDがおすすめである。
幾田りら/Sketch (Sony Music Entertainment)
幾田りら/サークル
https://www.youtube.com/watch?v=X6A-TgDhFOg
幾田りら/Answer (from MTV Unplugged: Lilas Ikuta)
https://www.youtube.com/watch?v=gTlpo5HIIZE
幾田りら/蒲公英
https://www.youtube.com/watch?v=nYT9RPNPlLI
幾田りら/スパークル (from MTV Unplugged: Lilas Ikuta)
https://www.youtube.com/watch?v=eBA3AzSVxBg
ストックホルム1967年のマイルス [音楽]
Wayne Shorter (Stockholm, October 31st, 1967)
マイルス・デイヴィスの音楽的ピークは幾つもあるし、また人それぞれで感じかたも違うと思うが、アルバムタイトルでいえば《Miles Smiles》からの3枚、つまり《Miles Smiles》(1967)、《Sorcerer》(1967)、《Nefertiti》(1968) はその特異なコンセプトによって最も輝いている作品群のように思える。これらは1966〜1967年にレコーディングされている。正確にいえばそれらの少し前の《E.S.P.》(1965) がその始まりで、その後に2枚のジョージ・コールマンをテナーに据えた1964年レコーディングのライヴ・アルバムが存在するがそれを省くと、《E.S.P.》から1966〜1967年録音の3枚へと続くこれらの4枚が、マイルスのアコースティクにおける最高峰であって同時にアコースティクの終焉ともいえるのだが、そのコンセプトをリードしていたのがウェイン・ショーターである。
以前、これらのショーターとのマイルスのアルバムを 「軒を貸して云々」 と書いていた評論家がいたが、音楽がわかっていない。
しかしマイルスのセッショングラフィを見るとわかるように、この時期のマイルスのライヴは、このウェイン・ショーターが主導したコンセプトとはやや異なる。ライヴはセッション・レコーディングのようにかっちりとしたものでなく、もっとずっとフリーで、それでいながら厳密な構成を保っている。
もう少し細かく時系列的にレコーディング・デイトを見ていくと、
《Miles Smiles》October 24–October 25, 1966
《Sorcerer》May 16–24, 1967; August 21, 1962 (track 7)
《Nefertiti》June 7, 22-23 and July 19, 1967
であるが、《Nefertiti》のレコーディングの最後がColumbia 30th Street Studio, New York NYで7月19日となっていて、その後がしばらく空白である。そして10月28日から始まるヨーロッパ・ツアーは、つまり《Nefertiti》レコーディング後のライヴであるのだが、これらのライヴにおける緊張感と完成度はまさに完璧であり、それは結果として純粋なアコースティク・インストゥルメンツとの訣別でもあったのである。
10月28日:アントワープ (ベルギー)
10月29日:ロンドン (UK)
10月30日:ロッテルダム (オランダ)
10月31日:ストックホルム (スウェーデン)
11月01日:ヘルシンキ (フィンランド)
11月02日:コペンハーゲン (デンマーク)
11月04日:ベルリン (ドイツ)
11月06日:パリ (フランス)
11月07日:カールスルーエ (ドイツ)
と続くこの楽旅の中でストックホルムの映像は有名であり、完成度も非常に高い。この後にエレクトリック化が始まり、そして《In a Silent Way》(1969)、《Bitches Brew》(1970) へと変貌していくとはとても考えられない雰囲気なのだが、それに至るブリッジとしての《Miles in the Sky》(1968)、《Filles de Kilimanjaro》(1968〜1969) を聴くと、変貌して行くマイルスの必然性をしっかり読み取ることができる。
だがそれに至る直前の1967年10〜11月のヨーロッパ・ツアーこそが、あえて言ってしまえばマイルスの頂点であるように思うのだ (したがってBootleg seriesでいえば最も重要なのはvol.1である)。ただ、このツアーにおけるウェイン・ショーターのソロはやや暗い。もともとそうしたテイストのあるテナーではあるのだが、マイルスを下支えする異質な冥府の王という印象もある。そしてこの時期のトニー・ウィリアムスは最も高いテンションを維持しているように感じる (もっとも私が特に評価するのは《Filles de Kilimanjaro》におけるドラミングであるが)。
下記にリンクしたのは10月31日スウェーデンのストックホルムにおけるライヴである。〈Agitations〉から始まるマイルスの音はスリリングで一分の隙もない。
そしてウェイン・ショーターはマイルス・バンドにおける歴代のリード奏者の中で、ジョン・コルトレーンと並んで最高のテナーであった。
Miles Davis/Live in Europe
The Bootleg Series vol.1 (Sony Legacy)
Miles Davis Quintet
Konserthuset, Stockholm, Sweden,
October 31st, 1967 (in color)
https://www.youtube.com/watch?v=hp0Ec-N45t0
大比良瑞希《Little Woman》 [音楽]
大比良瑞希
七尾旅人の《Long Voyage》のPVを観ていたら〈ドンセイグッバイ〉という曲があって、デュエットしているこの人、どこかで見たことがある、と思った。タワーレコードのポスターでグレッチ持っていた人、とすぐに思い当たった。
グレッチといっても椎名林檎が〈丸の内サディスティック〉で歌っている、ベンジーにぶってもらいたいようなグレッチではなくて、ちょっと変わったデザインなのが印象に残っていた。妙に大きくてぶっきらぼうなヘッド。スラントしたマイク。音楽よりもまず楽器なのか、と自嘲してしまう。
大比良瑞希の《Little Woman》は1年ほど前にリリースされたアルバムだが、たとえばオフィシャルのPV〈遠回り〉でも、けだるいギターの音色が心に残る。宇多田ヒカル的テイストも、やや感じるけれど。今、オフィシャルサイトで《Little Woman》の全曲を聴くことができる。ジャケット写真のぬいぐるみはNUIGURUというぬいぐるみ作家の作品とのこと。
この〈遠回り〉には札幌のWORLD BOOK CAFEでの2021年12月のギター弾き語りのライヴ映像もあり、ややスローなテンポで展開されるこの曲のけだるさが、まとわりつくリフが、ソロで歌うことでより強調されていて、グレッチのギターの音色も堪能できる。ピックを使わないのはジェフ・ベックみたいで、でも出てくる音は全然違う。
《Little Woman》の収録曲〈ダージリン〉のオフィシャル映像と、1stアルバム《TRUE ROMANCE》の2016年のライヴ映像も下記にリンクしておく。
大比良瑞希/Little Woman (サンバフリー)
大比良瑞希/遠回り (Official Lyric Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=H6wheQiwU08
大比良瑞希/遠回り
2021.12.3 at World Book Cafe
https://www.youtube.com/watch?v=BZs7_ViYQ6E
大比良瑞希/ダージリン (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=T5g3L6rZZkU
大比良瑞希/Sunday Monday
2016.11.30 at Roppongi Varit
https://www.youtube.com/watch?v=dX_IE6LDA9g
七尾旅人/ドンセイグッバイ
https://www.youtube.com/watch?v=tBLvRvQHhm4