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パレ・デ・コングレ・ドゥ・リエージュのエリック・ドルフィー [音楽]

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Eric Dolphy

1964年のチャールズ・ミンガスとの過酷なツアーにおけるエリック・ドルフィーの動画を観ていた。ベルギーのパレ・デ・コングレ・ドゥ・リエージュにおけるミンガス・クインテットの演奏で Recorded for belgian TV show “Jazz pour tous” と注記されている。カメラのポジションが固定されていて、メンバー全員の映るショットがないのが残念だが、演奏はステージにおける狂躁的なミンガスとはやや異なっていて、しかしまだ若いミンガスの精悍なリーダーシップがうかがわれる記録である。

1964年はドルフィーの最後の年であるが、まず煩雑だがセッショングラフィを見てみよう (フランス語のアクサンなど付いていないがそのままコピペする)。

John Lewis 6 NYC, Jan. 10, 1964
New York Philharmonic Young People's Concert Philharmonic Hall, Lincoln Center, NYC, Feb. 8, 1964
Eric Dolphy 5 VGS, Englewood Cliffs, NJ, Feb. 25, 1964
Eric Dolphy 4 University Of Michigan, Ann Arbor, MI, Mar. 1 or 2, 1964
Eric Dolphy 4 WUOM Studios, Ann Arbor, MI, Mar. 2, 1964
Charles Mingus 6 Cornell University, Ithaca, NY, Mar. 18, 1964*
Andrew Hill 6 VGS, Englewood Cliffs, NJ, Mar. 21, 1964
Charles Mingus 6 Town Hall, NYC, Apr. 4, 1964**
Gil Evans Orch. Webster Hall, NYC, Apr. 6, 1964
Charles Mingus 6 Concertgebouw, Amsterdam, Holland, Apr. 10, 1964
Charles Mingus 6 University Aula, Oslo, Norway, Apr. 12, 1964
Charles Mingus 6 Konserthuset, Stockholm, Sweden, Apr. 13, 1964
Charles Mingus 6 Stockholm, Sweden, Apr. 13, 1964
Charles Mingus 6 Odd Fellow Palaeet, Stor Sal, Copenhagen, Denmark, Apr. 14, 1964
Charles Mingus 6 Bremen, W. Germany, Apr. 16, 1964
Charles Mingus 6 Salle Wagram, Paris, France, Apr. 17, 1964***
Charles Mingus 5 Theatre Des Champs-Elysees, Paris, France, Apr. 18, 1964****
Charles Mingus 5 Palais Des Congres, Liege, Belgium, Apr. 19, 1964
Charles Mingus 5 Bologna, Italy, Apr. 24, 1964
Charles Mingus 5 Wuppertal Townhall, Wuppertal, W. Germany, Apr. 26, 1964*****
Charles Mingus 5 Mozart-Saal/Liederhalle, Stuttgart, W. Germany, Apr. 28, 1964
Daniel Humair 4 Paris, France, May 28, 1964
Eric Dolphy 4 Cafe De Kroon, Eindhoven, Holland, June 1, 1964
Eric Dolphy 4 Hilversum, Holland, June 2, 1964
Eric Dolphy 7 Paris, France, June 11, 1964

このリストに拠ればヨーロッパでのミンガス・グループのツアーは4月10日の Concertgebouw から4月28日の Mozart-Saal までである。しかしその前に4月4日のニューヨークのタウン・ホールにおけるライヴもある。ベルギーの Palais Des Congres, Liege は4月19日となっているが、アルバムとして残されているライヴ録音に Théâtre des Champs-Élysées, Paris における《The Great Concert of Charles Mingus》があり、en.wikiには Recorded April 19, 1964 と表記されている。しかしセッショングラフィには18日とある。
これはなぜなのか、と思ったのだがde.wikiにその理由が書かれていた。

Am nächsten Tag folgte ein weiterer Auftritt in Paris, wo die Gruppe als Quintett auftrat. Das zweite Konzert fand am 18. April (genauer sehr früh am 19. April, nämlich von 0.10 bis 2.45), diesmal im “Theatre des Champs Elysées”, statt. Es wurde live vom ORTF- übertragen.

つまりシャンゼリゼでのライヴは18日の深夜、0時10分から始まっているので、カレンダー的には19日なのだ。深夜のライヴが終わって、その日のうちにベルギーに行き、パレ・デ・コングレで録音されたのが今回のターゲットとしている演奏である。このスケジュールは過酷過ぎて、音楽がやや沈潜しているような印象を受けた原因はそこにあるのかもしれない。セッショングラフィを見ると、この日からセプテットがクインテットに変わっているが、それはジョニー・コールズがダウンして抜けてしまったからである。
曲目は〈So long, Eric〉〈Peggy’s Blue Skylight〉〈Meditations〉の3曲だが、特に3曲目の〈Meditations〉は後半が現代音楽的になっていて、疲れているのかなとも思ってしまう。ドルフィーはフルートとバスクラを持ち替えていて、どちらもすごいが、クリフォード・ジョーダンのテナーもよく拮抗しているように聞こえる。

ドルフィーのリーダー・アルバムでいうのならニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオにおける《Out to Lunch!》のレコーディングが2月25日、そしてその後はオランダのヒルヴェルサムで録られた《Last Date》の6月2日なのである。この2枚のアルバムの間のミンガスとのツアーは音楽的には高度に充実していたのかもしれないが、同時にストレスも大きかったのだろうと思われる。

《Last Date》に残されているドルフィーの最後の言葉:

 When you hear music after it’s over, it’s gone in the air, you can
 never capture it again.
 音楽は終わってしまえば消えてしまい、二度ととらえることはできない

は諦念なのか、それとも単に物理的な現象を語ったことに過ぎないのか、私はたぶん後者だと思っているのだが、でも消えてしまわずに残っている〈You Don’t Know What Love Is〉は彼岸からの声のように聞こえて、今、あらためて再生することはあまりない。

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Charles Mingus & Eric Dolphy,
Palais des Congrès de Liège, Belgium, April 19th, 1964
Recorded for belgian TV show “Jazz pour tous”.
https://www.youtube.com/watch?v=03NX_EjGijM

[参考]
1964年のミンガス・グループのツアーのライヴ演奏がアルバム化されているのは下記の通りである。*印は上記のセッショングラフィに対応している。
* March 18, 1964: Cornell 1964 (Blue Note)
** April 4, 1964: Town Hall Concert (Jazz Workshop JWS 005)
*** April 17, 1964: Charles Mingus/Revenge! (Revenge 32002)
**** April 18 (19), 1964: The Great Concert of Charles Mingus (America)
***** April 26, 1964: Mingus in Europe Volume I (Enja 3049)
***** April 26, 1964: Mingus in Europe Volume II (Enja 3077)
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末尾ルコ(アルベール)

急にssブログ、スマホでも閲覧できるようになりました。これが続くのかどうかはわかりませんが、今後ともよろしくお願いいたします。

今夜の「ジャズトゥナイト」でドルフィー特集があるので、じっくり聴いてみます。RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2024-02-24 16:00) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ブログ閲覧回復、良かったです。
が、ここのブログはしばらく経つと不具合が治る、
ということがよくあります。
回復してしまえばたぶん大丈夫だと思います。

ジャズトゥナイトの放送予定を見ました。
番組後半がドルフィーの《Out to Lunch!》の特集のようです。
上記のセッショングラフィでいえば1964年2月25日録音の名盤です。
「Out to Lunch!」 とは 「昼食で外出中」 という意味ですが、
彼はこのレコーディングの後、ミンガス・グループの一員として
ヨーロッパに遠征し、しかしミンガスとは別れ、
アメリカでは不遇なので、そのままヨーロッパにとどまりました。
そして6月にベルリンで客死します。
「アメリカから昼食で外出中」 のまま、戻って来なかったのです。
つまり《Out to Lunch!》は死の4ヵ月前の録音です。
このアルバムは変拍子をうまくとりいれた静謐なジャズで、
《At the Five Spot》と並ぶドルフィーの最高傑作です。
by lequiche (2024-02-24 18:56) 

つむじかぜ

ドルフィーは学生時代に良く聴きました。
Five Spotのvol2がヘヴィロテでした^^
by つむじかぜ (2024-02-25 03:56) 

lequiche

>> つむじかぜ様

そうでしたか。ファイヴ・スポットは中毒性がありますね。
私が最初に聴いたのはメモリアル・アルバムですが
それを持っている友人からたまたま借りたからで、
まだ自分でレコードを買えなかった時代です。
あの、ちょっと古めな音響がジャズです。
そしてブッカー・リトルはファイヴ・スポットでの演奏が
ダントツに好きです。
by lequiche (2024-02-25 10:28)