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あいみょん AIMYON TOUR 2019 [音楽]

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歌詞にあらわれるセクシュアリティ、あるいはジェンダーに関する言葉の質が私にとっては重要なのではないかと気づいた。あくまで私にとってであって普遍化できるものではない。
女性歌手の歌う歌詞のなかの 「僕」 という一人称に惹かれたきっかけは浜崎あゆみの〈Fly high〉だったが、それは性の未完成さ、あるいは不安定さのひとつのあらわれという解釈もできるのだけれど、でもそれだけでは納得できない不純さが歌詞という形態には存在する。それがきれいな言葉で形容するのなら歌詞というものの不思議さなのだと思う。

浜崎あゆみのもうひとつのキーとなる曲に〈Moments〉があるのだが、過去の私にはまだ〈Fly high〉と〈Moments〉というふたつの曲の差異がわかっていなかった。それを的確な言葉にすることができないのだが、簡単にいえば〈Moments〉はずっと爛熟で頽廃である。あるいは〈Fly high〉にはMVのヴィジュアルを別にしても少女マンガ的少年性が垣間見えるが〈Moments〉にはそれがない (Fly high とそれに付随することについてはすでに過去に書いた→2018年03月18日ブログ)。
しかし私は 「僕」 という一人称にこだわり過ぎていたのかもしれない。あるいは過反応していたのかもしれなかった。あのちゃんが自分を指すときの 「僕」 はジェンダーを意識させない 「僕」 だし、ヒコロヒーの使う 「わし」 は最初、違和感があったがすぐに慣れた (それに「わし」 は男性の一人称とは限らないことを後から知った)。

そして、あいみょんも作詞のなかに 「僕」 を使う。別にあいみょんだけでなく、他の歌手だって使うのだが、そして性の越境は日本の演歌歌詞ではごく日常的でさえあるのだけれど、あいみょんの場合、特に有名曲にこの 「僕」 頻度が高いような気がする。たとえば〈君はロックを聴かない〉がそうだし〈空の青さを知る人よ〉も〈ハルノヒ〉もそうだ。〈マリーゴールド〉には 「僕」 は使われていないが、あきらかに男性の心情を綴った歌詞である。
だからといって、あいみょんは性倒錯ではないし同性愛とも思えない。つまり作詞というストーリーの中での 「男性」 性でしかない。それに何よりも 「僕」 という人称を使っている違和感がなくて、初めて聴いてしばらく経ってから私はそれに気づいたのである。それは近年のジェンダーに対する一般的意識の変化などが原因ではなくて、歌詞というものに対するあいみょんのストーリーテリングの巧みさなのだと思う。
それとこれは極私的嗜好なのだが、歌詞のなかに具体的な地名が出てくることに惹かれる。〈ハルノヒ〉の 「北千住駅のプラットホーム」 がそうだ。RCサクセションの 「多摩蘭坂を登り切る 手前の坂の」 もそうだし、山崎まさよしの〈One more time one more chance〉の歌詞の 「明け方の街 桜木町で」 も同様である。

あいみょんのライヴ映像のなかで私が好きなのは、少し古いのだが《AIMYON TOUR 2019 −SIXTH SENSE STORY− IN YOKOHAMA ARENA》だ。
それの1年前の 「TOKYO GUITAR JAMBOREE 2018」 におけるライヴ映像もYouTubeにあるが、ギターもJ-45でなくトリプル・オーで、まだ初々しく真摯な歌唱でこれはこれで好きなのだが、1年経った後の確信に満ちた歌唱を観ると、こんなに進歩してしまうのかと驚く。
どの曲もキャッチーなメロディライン、それはリスナーが歌おうとしても決してむずかしくなく、それでいて安直なつくりでもない。このライヴの満足感と充実感にはすでに一種の風格が感じられるのだ。


AIMYON TOUR 2019 −SIXTH SENSE STORY− IN YOKOHAMA ARENA
あいみょん/今夜このまま
https://www.youtube.com/watch?v=V6RTQmohrMA

あいみょん/ハルノヒ
https://www.youtube.com/watch?v=MgY-OY3RjUM

あいみょん/空の青さを知る人よ
https://www.youtube.com/watch?v=nGY19DwskCg

あいみょん/君はロックを聴かない
https://www.youtube.com/watch?v=cJnO-Y_YnFg

TOKYO GUITAR JAMBOREE 2018
あいみょん/満月の夜なら
https://www.youtube.com/watch?v=eJhy3HjspEo

[参考]
浜崎あゆみ/Fly high (MV)
https://www.youtube.com/watch?v=2zTG-uhGKbo
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末尾ルコ(アルベール)

なるほど。代名詞の使い方、注意して聴いてみます。
現在村山由佳の「風よ あらしよ」を読んでおりまして、伊藤野枝の評伝なのてすが、大杉栄はもとより平塚らいてふなど当時の活動家、文学者らが多く登場して実におもしろい。女性史がわたしの最大の関心事のひとつとなってます。
NHK FM「夜のプレイリスト」、今週の担当がミッツ・マングローブで、おもしろいです。初日は中森明菜「クリムゾン」を取り上げてました。RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2024-02-27 04:34) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

『風よ あらしよ』は今、原作だけでなくドラマ化、映画化
と話題の中心らしいですが、この時代に大杉栄というのが
どうして出てきたのかということにまず注目しますね。

《夜のプレイリスト》はその回をらじる★らじるで聴いてみました。
ほとんどが楽曲の演奏時間で、ミッツのMCはごくわずかですが
最初の自己紹介が面白かったです。
問題の〈駅〉のことは以前にも話題にしましたが、
その後、思ったのはこの楽曲で難癖のターゲットとなったのは
実は編曲ではないか、ということです。
編曲者は椎名和夫ですが、
この曲のイントロから歌の始まりまでの展開は素晴らしいです。
歌唱部分に持っていくまでの流れが、
歌のメロディとの整合性というか
すっと入って行くストレートさが無くて凝った作りになっています。
この編曲に難癖をつけるということに対して私は、
難癖を付けた人が発する一種の 「嫉妬」 を感じます。
中森明菜は〈DESIRE〉でレコード大賞をとっていますが
この編曲も椎名和夫ですから。
アルバム《クリムゾン》と同じ編曲によるTVでの歌唱がこれです。

中森明菜/駅 (夜のヒットスタジオ)
https://www.youtube.com/watch?v=ixlnd17CPd8

ミッツは中山美穂への造詣も深くて
YouTubeにあるこの動画もなかなかマニアックです。

突然ですが中山美穂の全シングル曲を語ります
https://www.youtube.com/watch?v=sZ1hP3QCKbs
by lequiche (2024-02-28 02:51)