ジェラートとシャンパン —《ローマの休日》 [映画]
昔、映画館の闇は夢の闇であったはずだ。でもその闇が喪われてしまって随分経つ。
突然思い出したブリジット・フォンテーヌの歌詞が頭の中を過ぎる。
Eros est un rocher
そう。映画もまたゴロンとした夢みたいなものであって、でも時によってそれは美しくて愛しい岩だ。
《ローマの休日》はそれまでまだ通して観たことがなくて、初めて全部をまじめに見たのは、幸いなことにデジタル・ニューマスター版のDVDだった。これはすごい! まるでニュープリントみたいな画質になっているから。
映画は、たとえばベルィマンとかフェリーニとか、アンゲロプロスがいいとかいうこともできるし私も言っているが、でも《ローマの休日》みたいな映画が本音では一番好きなのかもしれない、と思う。
こういう映画を映画館で、ちゃんとしたフィルム上映で観てみたい。そうすれば楽しかった夢の闇がかえってくるかもしれない。それともそんなものは単なるノスタルジアに過ぎないのだろうか。乱歩の慣用句をパロディすれば 「うつし世はゆめ、シネマの夢こそまこと」。
《ローマの休日》はそのほとんどすべてが完璧で美しい。カットカットのひとつひとつが単独で 「さま」 になっているし、タイトル文字ひとつをとっても、古いけれど上品で見やすくて、何よりわくわく感がある。
有名な、ローマのスペイン広場 (この形容矛盾な地名) のシーン。あるいは真実の口のシーン。ひとつひとつはたわいもない内容なのに、ずっと心に残っているシーンの数々、それらは決して風化しない。こんな映画、今は絶対作れないだろう。
この前、スカイツリーの下のソラマチでジェラートを食べたとき、反射的に思い出したのもこの映画のことだった。ジェラートはオードリーの食べ物なのだから。
きっと何事にも歴史の黄金期というのがあって、たとえばクラシック音楽はすでに確実にその時期を過ぎてしまっているけれど、映画だってそうなのかもしれない。
でもだからといってクラシック音楽も映画も無くなることはないのだけれど。
ウィリアム・ワイラー/ローマの休日 [デジタル・ニューマスター版]
(パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン)
William Wyler/Roman Holiday
http://www.youtube.com/watch?v=9hDQlNLZAm8
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