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メトネルを聴く ― エカテリーナ・デルジャヴィナ《8 Stimmungsbilder》 [音楽]

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Ekaterina Derzhavina

今日は朝から雪だ。東京としては、かなり大雪になっている。これから出かけなければならないと思うと憂鬱だ。

YouTubeでメトネルのピアノ曲をなんとなく検索していたら、ドミトリー・ラフマニノフというちょっと名前負けしてしまいそうなピアニストに行き当たった。あのラフマニノフと関係があるのだろうか? たぶん無いのだろうけれど、手が大きくてダイナミックで、まさにラフマニノフを弾くのにはふわさしい。

でもそれよりエカテリーナ・デルジャヴィナ (Ekaterina Derzhavina) のメトネルである。デルジャヴィナは1967年ロシアのモスクワ生まれのピアニストであるが、ラ・フォル・ジュルネで来日したこともあるらしい。ハイドンのピアノ・ソナタで有名だが、私はまだ未聴である。
ゴルトベルクの演奏もあって、これも評判になったらしいが現在廃盤らしく入手しにくい。グールドと比較していたネットの記事もあったが、グールドのゴルトベルクは確かに孤高で画期的ではあるけれど、グールドだけがピアニストではないと私は思う。何事もそうだが、カリスマをつくりあげてしまうと冷静な判断がしにくくなる。

メトネル (Nokolai Karlovich Medtner, 1880-1951) はロシアの作曲家であるが、ピアノ曲がその作品の大半であり、ピアノ以外では室内楽曲が少しあるだけである。ロシア人であるがもともとはドイツ系であり、ロシア革命後 (正確に言えば十月革命後)、ロシアを出てパリに住んだが彼の作風はその頃のフランス楽壇の先進的な音楽とは合わず、やがてロンドンへと行きその地で没した。
メトネルの作風はやや時代遅れのロマン派的な傾向であり、つまりラフマニノフ的であり、たとえばプロコフィエフのような音楽を嫌っていたという。作品から醸し出される印象は暗く、やや晦渋で屈折した抒情であり、常に多声で鳴っているような構造をしていて、求められるテクニックは高度である。

メトネルは私の偏愛する作曲家のひとりであるが、そのためにかえってあまり書くことができない。メトネルの演奏ではイリーナ・メジューエワがよく知られているが、それに対してデルジャヴィナがどうなのかは、私の中ではまだよくわからない。
デルジャヴィナの最近の録音には夭折の作曲家スタンチンスキーがあり、その選曲が私好みである。

YouTubeにメトネルの《8 Stimmungsbilder》(8つの情景画) を弾いたデルジャヴィナの動画があった。英訳されたタイトルだと Mood Picutures であるが、 邦題の 「情景画」 というのは、言葉としてそういうのもあるのかもしれないが、やや違和感がある。ラフマニノフには《Études-tableaux》(音の絵) という曲があるが、それと同じようなタイトルの付け方のような気がする。

《8 Stimmungsbilder》は作品番号1で、書き始められたのは1895年であるが、書き継がれ、書き終わったのが何年かははっきり特定できなかった。1903年に楽譜が出版されている。
8曲で構成されているが、調性的には2曲ずつのセットになっているようで、1曲目:Prologue: Andante cantabil が E、2曲目のAllegro con impeto が gis であるが、3曲目:Maestoso freddoと4曲目:Andantino con motoは es と Ges になっていて、1~2曲目のセットとは半音/一音とごく近い。5~6曲目 Andante & Allegro con humore は5度上がった b と Des、そして7曲目:Allegro con ira と8曲目の Allegro con grazia - quasi valse のみこの法則性から外れて、どちらもfisとなっている。

6曲目 (デルジャヴィナのリンク動画で14’20”あたりから) の L’istesso tempo と表記のある18小節目 (14’48”) からとつぜんリズムが変わって懐旧的なメロディが紡ぎ出される。これは古いタンゴのリズムなのだそうだが、ドヴォルザーク的な俗謡のようで、でも陰翳は曖昧で寂しい。この6曲目から終曲の8曲目までがこの作品のピークである。
作品番号1の楽曲がこのように完成されたものであることからもわかるように、メトネルには習作曲とかわかりやすい曲というのが存在しない。すべては緻密で凝縮された暗い輝きのなかにある。

(メトネルについては→2012年01月29日ブログ、スタンチンスキーについては→2014年11月04日ブログに少しだけ書いたが、まだ全然消化不良である)


Ekaterina Derzhavina/Haydn: The Piano Sonatas (Profil)
ハイドン : ピアノソナタ全集 (Joseph Haydn : The piano sonatas (Die Klaviersonaten) / Ekaterina Derzhavina) (9CD Box) [輸入盤]




Ekaterina Derzhavina/
Medtner: 8 Stimmungsbilder (8 Mood Pictures, 8つの情景画) op.1
live 2015.10.11 モスクワ音楽院小ホール
https://www.youtube.com/watch?v=LwEzcKDqoeM
1曲目楽譜画面
https://www.youtube.com/watch?v=SMbooLjwLmE
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ぼんぼちぼちぼち

すごい大雪でやすね。
温かくしてお出掛けくださいねでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2018-01-22 22:09) 

末尾ルコ(アルベール)

今日はこちらも底冷えがしておりまして、朝から雨でした。ただ、子どもの頃は高知でもちょっとは冬に雪が降ってたりして、小さな雪だるまが作れたりしたのですが、このところはまったくないですね。山間部はさすがに雪は降りますが、高知市の平野部には降りません。やはり温暖化?と思ってしまいますが、それにしても冬は寒いことは寒いです。しかしロシアではマイナス50度を下回ったとかいうニュースを耳にすると、(高知の寒さでどうこう言うな)と自分に言い聞かせたりしています。そう言えば、ナポレオン軍もナチス・ドイツもロシアの冬将軍には勝てなかったという歴史に思いを馳せますと、広大な大地と厳寒にと共に生きるロシア人のある種の特殊性というんは悪い意味ではなく、あるのではという感もいたします。
メトネルもエカテリーナ・デルジャヴィナも知りませんでした。また素晴らしいも人たちを教えていただき、感謝です。

>ドミトリー・ラフマニノフというちょっと名前負けしてしまいそうなピアニストに行き当

ロシア芸術好きにとっては、即座に反応してしまう名前ですね。英語の名前だと世界に流通しまくってますので特に反応しないのですが、日本にいるとロシア的発音や名前は日常生活の中ではほとんど見かけないし耳にしないので反応してしまいます。フランスだとプポーとかエケとか、日本人的にはやや間抜けに聞こえる名前もけっこうありますね。ただテニスを観ていると、ロシア系東欧系のプレイヤーがかなり多く、「名前観察」にはとても愉しいです。
ところでロシアは音楽、文学、そしてバレエなどでは偉大な歴史がありますが、絵画ではどうでしょう。音楽や文学などと比べると、やや物足りないかなあと、小澤征爾のバッハなどを聴きながらそんなことが頭に昇りました。
リンクしてくださっている動画、視聴しました。実に美しく濃厚ですね。特にモスクワ音楽院小ホールでの演奏は素敵です。イリーナ・メジューエワはテレビや動画などで何度か視聴しております。カッコいいですよね・・・などと、専門的なことが分からないこともあり、すぐそうした方向へ目が行くのですが、lequiche様も「ブラームス=福山雅治」説を提示してくださいましたし(笑)、まあ福山っていうのはどうかとは思いますが(再笑)、わたしも自信をもってミーハーなクラシック愛聴道を邁進して行けそうです。ふと部屋の片隅を見れば、容姿に惹かれて買ったヒラリー・ハーンのCDが何枚もあったりする自分の人生を肯定すべきなのですね(笑)。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-01-22 23:14) 

えーちゃん

大雪のさ中のお出掛け、ご苦労様でした(゚□゚)
by えーちゃん (2018-01-23 01:25) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

久しぶりの大雪でしたね。
お気遣いありがとうございます。
by lequiche (2018-01-23 04:42) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

昔に較べれば雪が少ないというのも
地球温暖化の現象のひとつなのかもしれませんね。
ロシアの寒冷な気候も地球にとっては必要なのですから、
それが無くならないようにと思うばかりです。

ドミトリーというのはロシアではよくある名前ですが、
どうしても連想してしまうのは
カラマーゾフの兄弟の長男ドミトリーです。
ウラジーミルも、普通に考えたらナボコフなので、
プーチンもウラジーミルなの? というのが
ちょっと不満です。理不尽ですが。(^^)

美術は確かに少し弱いですね。
カンディンスキーくらいきり思い浮かびません。
帝政ロシアの頃は貴族付きの肖像画家というのが
画家の道のひとつでしたが、
そうした作品は無名性が勝っていますし、
そして帝政崩壊後はロシア・アヴァンギャルドとか
政治的な思想性をからめないと芸術として成り立たない
という共産主義の悪しき特徴がありましたから、
個としての芸術の存立がむずかしかった部分はありますが、
でもその他の芸術に較べると
絵画がなぜ発達しなかったのかは謎です。

ロシア系の女性は、若い頃はともかく、
年齢を重ねると豊満になってしまうのが多いなかで、
デルジャヴィナは例外的なのかもしれません。
音楽に対する姿勢もちょっとクールなようにみえて
でも大切にするものが見えているとでもいうのか、
不思議な雰囲気があります。
メトネルはものすごく難易度の高い作品が多く、
それをさらっと弾いてしまうのは素晴らしいです。
見た目はアイドルっぽいですが、
ロシア正統派ピアニストの系譜の人ですね。

メジャーエワは日本人のプロデューサーと結婚したので、
日本を中心とした活動をしていますから、
目に入りやすいのだと思います。
現在は京都の大学でピアノの講師もされているようです。

ミーハーということでいえば
カティア・ブニアティシヴィリの人気であって、
コンサートでは異常に男性客の比率が高いのだそうです。
まぁそういうのもひとつの売り方ではあると思うんですが。
https://www.youtube.com/watch?v=HOL0AlDMyLA
確かに上手い部分はあるのですが、
私はまず音楽性を重視しますので、やや疑問符があります。
by lequiche (2018-01-23 04:42) 

lequiche

>> えーちゃん様

ありがとうございます。
仕事ですから仕方が無いですね。(^^)
by lequiche (2018-01-23 04:42) 

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