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パンクとキャンプ ― 最近の本や雑誌の話題など [本]

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(switch-store.net より)

脈絡もなく最近の本や雑誌の話題など。

『SWITCH』6月号の川久保玲インタヴューを興味深く読んだ。「PUNK」 であり 「CAMP」 であること。「「PUNK」 という表現は反骨を意味し、しなやかな*精神を表現するものです。でも今はその意味は忘れられ、表面的な言葉になってしまった」 と川久保はいう。「私はアーティストではないです。ビジネスをやっていますから」 と言い、「先に行かないといけない」 とも言う。相変わらずの過激な言葉にねじ伏せられる。(* 雑誌本文には 「しなかやな」 とあるが、たぶん誤植)
これだけ高名なデザイナーとなってもパンクな精神を忘れないことにおいて、その精神性の強靱さにうたれる。パンクな精神については、かつてヴィヴィアン・ウエストウッドも同様なことを言っていた。今回川久保が追求したテーマは白であるが、話しながら彼女は、ギャルソンの昔の店は白い内装だったということを思い出したという。「原点はまさにキッチンのようなイメージでした」
だがギャルソンの黒のイメージはいまだに強く、白はむずかしい色でもあるという。

 「PUNK」 は状況を伝え、「CAMP」 は内面のものを伝えるもの。両者は
 似て非なるもの。白が果たして世にかっこいいと見なされるかですね。
 実際は着にくい色だと思う。黒からまだ人は出られない。(p.030)

ちなみに、wikiの 「camp」 の項を見ると説明がいろいろ別れているのに気づく。ja.やen.では、キャンプはフランス語の代名動詞 「se camper」 から派生した語であるというが、fr.にはそういう説明はない。なぜcampという俗語ができたのかという説明ではja.に記述されているサミュエル・R・ディレイニーの 「野営地における売春婦の物真似」 という説明に笑ってしまうが的確な指摘のような気もする。
スーザン・ソンタグの 「何がキャンプで何がキャンプでないか」 という切り分けより、fr.にキャンプの例としてあげられているアリエル・ドンバール、ミレーヌ・ファルメールといった名前に納得してしまう。
「反抗の精神、そして少年のいたずらな心、不完全なものへの憧れ」 こそが 「少年のように」 というブランドネームを選び取った理由を示しているのだ。

インタヴュー、というより対談なのだが、樹木希林と是枝裕和の記事も映画が成立するまでの経過がよく分かって、まだ観ていない映画なのにその話術に (話術だよね?) 引き込まれてしまう。樹木希林は撮影時に入れ歯を外したのだそうで、顔が変わることも厭わず、監督に提案してそうしたとのこと。「良家のおばあさんなら駄目だけど、あんな家に住んでいるおばあさんだから、入れ歯を抜いてやらしてって」
試行錯誤しながらも全ては計算された上での演技であるのだ。そういうおばあさんであることが、すべての演技に反映してゆく。
カンヌを獲っても現宰相は無視している、などと言われているが、万引きは犯罪だし、つまりジャン・ジュネなんかと同じで、反社会的なそんなものを評価するわけにはいかないという姿勢でしかない。政治に美学は不要だからである。コムデギャルソンも《万引き家族》も反骨の精神ということでは同じ。だからコムデギャルソンがオリンピックのユニフォームに採用されることは無いのだ。

『夜想』は特集号として中川多理の写真集を出している。これはすごいです。是非買いましょう。ムックといっても一種の雑誌なのに、表面に紗がかけてある。
山尾悠子とのコラボレーションのことは以前の記事にしたが、今回も 「とりあげた作品」 としてマンディアルグ、ガルシア=マルケス、カフカ、夢野久作、そしてもちろん山尾悠子など。
その山尾悠子の久しぶりの作品『飛ぶ孔雀』は現在読んでいるところです。ガジェットとしてのペリット。
夢野久作全集は現在第4巻。「ドグラマグラ」 の巻。月報 (月報じゃないけど) に 「江戸川乱歩様恵存 夢野久作」 と書き込みのある出版記念会の写真掲載あり。小栗虫太郎とか喜多実とか。もちろん乱歩先生もいらっしゃいます。恵存とか硯北とか、いまでは死語か?

ちくま文庫の森茉莉『父と私 恋愛のようなもの』は例によって初出を含めたアンソロジーの第4弾。初出だから何、っていうほどのものはもはや無いが、堀口すみれ子の解説あり。facebookに青柳いずみこと堀口すみれ子の並んでいる写真があって、なんかカッコイイなぁと思ってしまう。いや、名前が。

『CG』7月号を読むと、ありえないけれど一応ロードスポーツということになっているマクラーレン・セナ。ディーノと同じで、名前を入れるのならセナなのだろうか。ノンハイブリッド最後の1台とも。


SWITCH 2018年6月号 (スイッチパブリッシング)
SWITCH Vol.36 No.6 特集:川久保玲 白の衝撃 Comme des Garçons Homme Plus




山尾悠子/飛ぶ孔雀 (文藝春秋)
飛ぶ孔雀




森茉莉/父と私 恋愛のようなもの (筑摩書房)
父と私 恋愛のようなもの (ちくま文庫)




夜想#中川多理 (ステュディオパラボリカ)
夜想#中川多理: 物語の中の少女

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majyo

樹木希林さんと是枝監督との間にそんなエピソードがあったのですか
近くでやっていますから必ず見に行きます
女優と監督、共に芯が強いものをお持ちです
楽しみです

by majyo (2018-06-10 07:35) 

えーちゃん

樹木希林は、若い頃から婆さん役をやってたよね(゚□゚)
by えーちゃん (2018-06-10 08:28) 

末尾ルコ(アルベール)

今回のお記事、わたしの好きな作家の名前がずらりで、それだけでも上機嫌になっちゃいます。
マンディアルグ、ガルシア=マルケス、カフカ、夢野久作、山尾悠子・・・。と書いて、山尾悠子はまだ読んでないことに気づきました。ノートへ大きく書いておきます。
特にマンディアルグの「燠火」や「城の中のイギリス人」は大好きで、何度となく読んでいます。
カフカはどの作品がお好きですか?

PUNKにはわたしなりのこだわりがあるのですが、振り返ってみれば、いささかブリティッシュに偏っていたですね。NY系にはもう一つ乗れなかったのですが、聴いてみればなかなかいいですよね。
わたしはPUNKどまんなかの世代ではなく、しかしクラッシュの『サンディニスタ』やPILの『メタル・ボックス』『フラワーズ・オブ・ロマンス』などはリアルタイムで買いました。
この3枚は今聴いてもいいと思います。
それもあって、近年「PUNK」とされているグループはほとんど「PUNK」として聴こえてこないんです。グリーン・デイとか、普通のポップロックに聴こえます。
あと、現在はネットで現地の評価などが過去へ遡ってチェックできますよね。かつて日本では文句なしに「PUNKの名盤」とされていたストラングラーズの『ブラック・アンド・ホワイト』が英国ではとても評価が低いのに驚きました。

>アリエル・ドンバール、ミレーヌ・ファルメールといった名前に納得してしまう。

なるほどです。現実の存在としての「camp」を目の当たりにすると、納得せざるを得ませんよね。

『万引き家族』と政治家の関係ですが、基本的に今の政治家は映画だけでなく、芸術文化が理解できない人たちがほとんどなのだと思ってます。
もっとツッコんで言えば、人間として極めて幼稚な人たちが多いのではないかと。そうでなければ今の政界の様々な醜態は説明できません。
だから彼らから映画だけでなく、芸術文化に関する発言はほとんど聞かれないのも当然かなと思いますし、まあ分かりもしないことに首つっこんでもらいたくない感も強いですね。
国民栄誉賞は、「国民スポーツ大賞」とでも変更すればいいのに、と思います。
まあ、大統領や文化相が率先して映画や文学に言及するフランスとは比べようもありません。

スタチンスキーのお話をしていただき、まずます興味を持っています。
ちょいちょい考えるのは、現在のロシアの芸術文化状況はどうなのかということで、最近のロシア映画なんかもハリウッドの物真似みたいなものが多く、エイゼンシュタインやタルコフスキーのような存在はいそうにないですし、かつてのような偉大な文豪、音楽家輩出という状況でもないような気がします。
時代的に仕方ないのかもしれないですし、いろいろいるけどわたしが知らないだけかもしれないですが、もっとロシアからいろいろな人や作品に出てほしいといつも思ってます。

>デルジャヴィナは確かに軽快で明るいですが、それは軽薄ということではなくて

それはわたしも感じました。「軽薄とは真逆の、とてつもない深奥に達した人の持つ軽快さ」とでも申しましょうか。
そう言えば、今夜のeテレ『クラシック音楽館』にMaria João Piresが出ますね。早速予約をしております。とても愉しみ。

>今の日本はそんなレヴェルではなく、もっとずっと低いです。

ですよね。
「最低常識」以前に、「大人として最低限のメンタリティ」も見当たらなくなっています。
本来であればこのような社会状況は、政治家の中から「どうにかしなければ」と動く人がいてもいいのですが、幼稚な政治家が、それ以上の幼稚な人たちを利用しているような状況になっています。

>音楽は聴き較べより種類

なるほどです!
わたしの場合、なるべく多様な音楽に接するようにはしておりますが、やや「聴き流す」に近いことが多いので、もっと正面から対峙し、聴き込まねばという思いもあります。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-06-10 12:50) 

salty

アーチストの本意も込められていますね。売る 前提なら商品。それは製造業ですからね。
by salty (2018-06-10 14:59) 

きよたん

中川多理 興味があります。
by きよたん (2018-06-10 21:20) 

lequiche

>> majyo 様

樹木希林は是枝監督にとって非常に重要な女優
ということなのだと思います。
こうした映画がどれだけ受け入れられるのか
注目したいですね。
ご覧になったら是非ご感想をお聞かせください。
by lequiche (2018-06-10 23:38) 

lequiche

>> えーちゃん 様

最近は年齢相応の役になってきたということですね。(笑)
majyoさんも書かれているように、
1本芯が通っています。
by lequiche (2018-06-10 23:38) 

NO14Ruggerman

是枝監督の「そして父になる」を観て、役者としての
リリーフランキーに惚れ込んでしましました。
なので「万引き家族」観に行きたいです。

by NO14Ruggerman (2018-06-11 00:50) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

山尾悠子は幻想文学のカルト作家みたいなポジションでしたが、
最近はよく名前が出るようになってきています。
生硬で、ときとしてわざと難解に見える文体と
イマジネーションに特徴がありますが、
パターンがわかってしまうとそんなに難解ではありません。

中川多理の人形の写真集『夜想#中川多理』は
「物語の中の少女」 をコンセプトとして製作された作品を
集成したものです。
その展覧会が今日まで開催されていましたので実物を見てきました。
これです。
http://www.yaso-peyotl.com/archives/2018/04/1805_yaso_nakagawatari.html
本の帯の背には皆川博子・山尾悠子とのコラボと表記されています。

マンディアルグから選ばれたのは 「海の百合」 のヴァニーナです。
平安工房/古書わらべさんというところのTwitterに
ヴァニーナの写真があります。これは今日も展示されていました。
https://mobile.twitter.com/heiank/status/892808913904558080

尚、ミレーヌ・ファルメールの2008年のアルバム
《Poinde suture》のジャケットはドール写真です。
https://www.amazon.co.jp/Point-Suture-Mylene-Farmer/dp/B001BSH10M

カフカはどれが好きというほどには読んでおりません。
山尾悠子の『飛ぶ孔雀』にはKという主人公の出てくる章があります。

パンクはロックの歴史としては知っていますが、
リアルタイムでは私は知らないんです。
何事もそうですがリアルタイムと後追いだと、
その対象へのニュアンスやこだわりはやや異なりますね。
グリーン・デイは《American Idiot》がリリースされたとき
初めて聴きましたが、パンクじゃないですよね。
と思ってwikiを見たらパンクバンドと書いてありました。
なるほど、そういうことですか。

政治は、そもそも民主主義とは最大公約数で成立しているものなので、
芸術とは本来相容れないものです。
反権力であって、ノーベル賞を拒否したサルトルが正当なのです。
文学を読む人間なんて反社会的存在のはずです。

ロシアが現在どういう状態なのかはわかりませんけれど、
ビッグな人は確かに出て来ていませんが、それはどこの国でも同様で、
むしろロシアという土壌には、そんなに簡単には無くならない
歴史的な素地があると思います。
デルジャヴィナはロシアで教えていますし、
メジャーな音楽ブランドとのコンタクトがないので
名前があまり売れません。
かつてソビエト連邦の頃、リヒテルも幻のピアニストでした。
今のロシアにもまだ鉄のカーテンはあるのだと思います。

森村泰昌が言っていましたが、
日本ではたとえば芸術作品の価値を判断するとき
「おいくら?」 が最優先するとのことです。
100万円するからエライ、1000円だからクズだ、という二分法。
すべてが経済効果による判断だけなんですね。
そういう経済的な思考方法だけで政治は動いていますから。

種類を多くというのは、オタク的に変わったものを追求する
という意味ではありません。
誰もがメジャーなものだけを追いかけているのでは
全体が閉塞するのではないか、と思います。
音楽はヒエラルキーで成立しているものではありません。
コンクールで1等をとることだけが音楽ではないのだ、
ということは今日のピリスの話にもつながります。
by lequiche (2018-06-11 01:15) 

lequiche

>> salty 様

川久保玲は最もシビアでいながら、最もアーティスティックです。
特にファッションは結局消耗品ですから、
その現実的な割り切りかたが必要なのだと思います。
by lequiche (2018-06-11 01:25) 

lequiche

>> きよたん様

ルコさんへのレスにも書きましたが、
今日までの展覧会があったので実物を見てきました。
http://www.yaso-peyotl.com/archives/2018/04/1805_yaso_nakagawatari.html
それについてはまた書くつもりです。
by lequiche (2018-06-11 01:25) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

おぉ、そうですか。
リリーさん、カッコイイですよね。
是非感想をお願い致します。
by lequiche (2018-06-11 01:25) 

うりくま

な、な、なんと!
パラボリカ・ビス・・あの空間で中川多理
展、浸れそうですね。終わってしまったの
ですか。最近人形とは距離を置いていたの
ですが山尾悠子さんとのコラボもあったの
なら尚更残念でした。装丁が美しい単行本
「歪み真珠」を先日購入してしまったため
「飛ぶ孔雀」はしばらくお預けのつもり
でしたが、やっぱり早く読みたいなあ。
lequicheさんの展覧会の感想と書評を
楽しみにしております。
by うりくま (2018-06-12 00:58) 

lequiche

>> うりくま様

パラボリカ・ビスは……。
ここだけの話ですけど、
誰もいなくて、つまり勝手に出入りできる空間で、
これ、盗られちゃったらどうするの? 状態でした。
あんなので、いいのかなぁ〜。(^^;)
いぁ、盗らないですけど。
それにそんなことしたら何か祟りがありそうな気がする。(笑)
私が一番気に入ったのは、ルコさんのレスにも書きましたが、
マンディアルグのヴァニーナです。
作りとして、いつもの中川多理からすると少し異質ですが。
今回の販売作品は、ほとんど全部が売約済みでした。

歪み真珠! こんな本もあるんですね。
知りませんでした。
山尾悠子はパターンはわかってきたんですけど、
この文体はアクが強過ぎて疲れます。

ただ最近、本が多くなり過ぎて困っています。
収納場所がありません。
by lequiche (2018-06-12 14:59)