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アカデミー賞のアダム・ランバートとクイーン、その他 [音楽]

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アカデミー賞のオープニング・アクトのクイーンをYouTubeで観た。少し時間が経ってしまったので今更、とも思ったのだが、記録として書いておくことにする。

クイーンのフレディ・マーキュリーを題材とした映画《ボヘミアン・ラプソディ》が大ヒットして、アカデミー賞にノミネートされていたこともあったのだろうが、オープニングのギミックとしては大成功で、ごく短い演奏時間であったのにもかかわらず、その音がもたらした印象は強く圧倒的であった。
クイーンといってもオリジナル・メンバーは2人しかいない。ヴォーカルはアダム・ランバートであり、彼はアメリカのオーディション番組でクイーンの歌を歌って以後、認められて何度か共演しているとのことだが、無理にフレディ・マーキュリーの真似をしているわけではなく彼なりの歌いかたをしているのに好感が持てる。日本のサマソニでのライヴ映像も観たが、それよりもさらに洗練されているし、歌唱に対する自信のようなものが窺える。
そしてランバートもそうだし、映画で主演したラミ・マレックもそうだが、どちらも風貌が似ているのか似せているのか、という面はあるにせよ、無理して似せようとはしていない。映画の出演者で一番似ていないのがラミ・マレックだなどという指摘はどうでもいいのである。同様に、ランバートが物真似をする必要はないのである。ランバートがクイーンの曲のなかに溶け込んでいることによる存在感が全てプラスに働いている。誰が歌ってもすぐれた楽曲はすぐれているし、逆にそのように普遍的であることによってオリジナル曲の価値がより高まるという構造を見ることができる。

ロック・ギタリストは立ち姿が命であり、そしてブライアン・メイの姿は美しい。立ち姿が美しければギターなんか弾けなくたって構わないというのは極端な形容過ぎるが、アカデミー賞のステージにおける彼のギターは、歌手を、そして観客を鼓舞するための増幅装置として見事に機能していた。ステージの先端まで行って観客を燃え上がらせ、それでいて十分に余裕のあるギターワークは何なのだろうか。カメラはステージと客席を交互に映し、それはアカデミー賞というすでに崩壊し始めているアメリカン・ドリームを体現させるための少し陳腐なクリシェでしかないのだが、音楽はそうした些末なヴィジョンを押し流し、会場を支配していた。まさにそれがブライアン・メイのギターなのである。
主演男優賞を獲ったラミ・マレックのスピーチや、他のアクトも観たのだけれど、オープニングのクイーンが全部持って行ってしまったような気がした。

     *

4日の夜、TVで《石橋貴明のたいむとんねる》という番組を偶然観た。石橋とミッツ・マングローブのMCで 「ベストヒット洋楽」 という特集で、ゲストはグッチ裕三。昔のヒットソングを聴きながらああでもないこうでもない、と話しているのだがくだらないのだけれど面白い。
グッチ裕三によれば 「70年代からプロでやっているが、その当時、バンドというのはレコードがわりだった。だから流行っている曲は全部歌えなきゃダメ。ジャンル関係ない」 とのこと。リクエストには何でも応えられなきゃいけない。つまりジュークボックスだったんだそうである。
〈君の瞳に恋してる Can’t Take My Eyes Off You〉も1967年のフランキー・ヴァリがオリジナルだけれど、それは山下達郎のラジオでも聴いていたらわかる知識であって、やはりボーインズ・タウン・ギャングのカヴァーのほうが印象が強い。つまりUB40の〈Red Red WIne〉(1983) も元曲はニール・ダイヤモンド (1967) なのと同じ。

マドンナの〈Like a Virgin〉(1984) やベリンダ・カーライルの〈Heaven Is a Place on Earth〉(1987) もかかるけれど、やはりスティーヴィー・ワンダーの〈I Just Called to Say I Love You〉(1984) がいい。スティーヴィーのハーモニカは音が違う、だからすぐにわかる、音色も違うしフレーズも違う、とグッチ裕三は言う。まだスティーヴィーが若い頃、モータウンの大御所たちと一緒のバスに乗って、彼は若いから一番後ろの席で、でもそこでハーモニカを吹き出すとそれがすごくて、最後は皆で大合唱。それがスティーヴィーのアドリブの曲だったということで、彼はやっぱり天才! という話です。
アーハの〈Take On Me〉(1985) のリフの部分が 「原宿表参道」 って聞こえるというのがメチャすごい。知りませんでした。でもこの時期の最もすごい曲はやはりマイケル・ジャクソンの〈Thriller〉(1982) で、このPVはいまだに色褪せていないと思います。しばらくマイケルの話が続く。
クイーンの動画に対してグッチ裕三は 「フレディ・マーキュリーの真似しようと思ってオカッパのカツラかぶって歌って、結構オレ的にはイケテるかなと思ってオンエア観たら、ぴんから兄弟だった」 とか、大爆笑です。

世界的なヒットでない曲のなかにビリー・ジョエルの〈The Stranger〉(1978) が選曲されていて、意外だねという話になる。ボンジョヴィの〈Runaway〉(1984) も同様だとのこと。でも日本で最初に人気になって、だんだん広がっていったバンドっていうのがクイーンだったりチープ・トリックだったりジャパンだったりするんだから、そこまでいかない曲っていうのもありだよね。


アカデミー賞オープニング
Queen and Adam Lambert 2019 Oscar Opening Performance
https://www.youtube.com/watch?v=7X4eXbdlzq8

クイーン+アダム・ランバート/ライヴ・イン・ジャパン サマー・ソニック2014
Queen+Adam Lambert/Bohemian Rhapsody (Live at Summer Sonic 2014)
https://www.youtube.com/watch?v=79EEnH_GwUc

石橋貴明のたいむとんねる
http://www.pandora.tv/view/fitting1/57252921#39151032
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末尾ルコ(アルベール)

昨日、クイーンの1986年ウエンブリー・スタジアムライブを観てましたが、なかなかおもしろかったです。
次々と知ってる曲が連発されるのはいいですね(笑)。
今観ると、驚くほど素っ気ないステージングで、ダンサーやアトラクションで観客を盛り上げようという要素が一切ないどころか、ライティングもシンプル極まりなく、楽曲のよさ、4人の演奏と、いわばフレディ・マーキュリーのヴォーカルと存在感ですよね。
これらの要素だけで観客を引っ張っている・・・昨今のショウアップされた(され過ぎた)ライブとはえらく違った風景です。

ブライアン・メイは体形など、若い頃のイメージが崩れてませんね。
ギタリストでがっくり来たのがクラッシュのミック・ジョーンズで、若き日は本当にカッコよかったんです。
それが、ブライアン・メイよりずっと年下なのに、髪の毛が薄くなったのは仕方ないにしても、ぽっちゃり体形になって、それで若い頃の曲をやってる動画とか、あまり観たくなかったです(笑)。
メイは日本のロック誌では初期の頃、「ジミヘンの後継者」とか言われてました。
何だったのでしょう、あれは?(笑)

わたしはロック・ギタリストの中では若い頃のピート・タウンジェントが好きなのですが(←もちろんリアルタイムではありませんが 笑)、あらためて見ると確かにブライアン・メイは特殊な存在ですね。
派手なアクションをすることも一切なくて、ただgracefulに立ち、ギターを弾いているだけで画になり、しかもロックであるという。
ロックと「見た目」って、とても重要ですよね。

上記ウエンブリーライブの86年くらいだと、日本のロックファンの間ではもう「クイーンのファンです」なんて言うと、ほぼ失笑の対象となってました。
クイーンと日本と言えば、まず「初期に日本人が見出した」というエピソードが語られますが、「80年代くらいからはほぼ見放していた」という状況も再検証したいところです。
ただ、『世界に捧ぐ』あたりからロックファンの外側に、じょじょに薄く広く浸透しつつあった状況も記憶しております。

>上原はアクティヴですが一本調子で、翳りがありません。

あ~、それ分かります。
わたしは上原ひろみ、ストリートな雰囲気もあって、けっこう好んで聴いてきておりますが、「翳り」とか「深さ」とかは感じません。
そういうところはどうなんでしょう、音楽的センスの問題は当然ですが、性格なども関わってくるのでしょうか。

> 《枯葉》だ、と気付くかが

あ~!また聴いてみます(笑)。

>揶揄は表裏一体

あ~~~(笑)!すごく腑に落ちます。
音楽だけでなく、単純化して優劣を決めつけようとする人間、多いんですよね。
まあそれは米国大統領を中心に現在の悪しき風潮でもありますが、そうした論調を見ると、怒りが湧くことしばしばです。

ちなみに、プルーストやドストエフスキーの訳では、今のところどなたが一番お気に入りでしょうか?   RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-03-07 17:15) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

最近の過剰なギミックのあるライヴということですが、
やはり会場が大きくなるにつれて視覚的要素が必要だという
そうした強迫観念で作られているような気がします。
私はほとんどライヴに行かないのでよくわからないのですが、
ライヴ映像を観ても、やたらにカメラを切り替えたり
視点が定まらず煩瑣なことこのうえない、という感じで、
映像があったほうがライヴの臨場感はあるのですが、
視覚のない音だけのライヴ演奏の記録のほうが
音楽そのものを聴くのにはいいのではないかと思うくらいです。

カッコイイはずのロックンローラーが
年齢とともに外見が変わってしまうのは仕方がないですが、
良い齢のとりかたと、そうでないのとがありますね。
ブライアン・メイの場合、その佇まいに雰囲気があるので、
良い音が出るのに違いないという先入観を持ってしまいます。
もちろん実際に良い音が出ているんですが。
ピート・タウンジェント、いいですね。
やっぱり彼の場合も佇まいです。
激しく動く人もいますし、そんなに動かない人もいますが、
それはその人それぞれのスタイルであり、
いかに自分の音を出すかということが最も重要です。
そして超一流のミュージシャンの動きと
超一流のスポーツ選手の動きは似ているように思います。

クイーンは映画が大ヒットして、
いわゆる 「にわかファン」 が 「雨後の竹の子」 状態 (^^;)
なのかもしれませんが、それはそれで仕方がないと思います。
むしろそういう中から本当のファンもできてくるはずです。
クイーンがダサかったというのを私はよく知らないのですが、
毀誉褒貶というか、山あり谷ありというか、
クイーンに限らず、よくあることですね。

ミュージシャンというのはあるレヴェル以上になると、
それぞれの個性もありますし、あとはリスナーの好みの問題です。
上原ひろみは爽快感が素晴らしいですし明るさは天性のものです。
必ずしも翳りがある表現が良いとも限りません。
音楽を聴くとき何を聴いているのかというと、
その演奏を聴きながら同時に自分の過去を聴いているような
そんな気がします。そうした点で
チック・コリアの〈Steps―What Was〉という曲には
私の過去が凝縮されて詰まっているように聞こえるのですが
これはごく個人的なことに過ぎません。
人それぞれに、そうした曲が存在するように思うのです。

昔のジャズ・ジャズミュージシャンはアドリブのなかに
他の曲の引用をチラッと混ぜるというのを
よくやっていました。
それをやり過ぎると下品だというような評価もありますが、
うまく入れられるとシャレていてウィットを感じます。

白か黒か、というような二者択一は、
基本的には善か悪か、敵か味方か、という選択肢ですから
単純でわかりやすいので
それを求める人が多くなってしまったのではないでしょうか。
昨今の風潮は世界的にそのようです。

翻訳者を云々するほど私は読んでいませんが、
一般的にいって最近の翻訳のほうが
研究が進んでいるためか、正確であるといえます。
対して昔の翻訳は誤訳もありますが言葉に味があります。
むずかしいですね。(^^)
by lequiche (2019-03-09 12:20) 

saia

「ボヘミアン・ラプソディー」、公開後すぐ観に行きましたー!
だってすぐ打ち切られるんじゃないかと思って、急いで。笑
ところがこんなロングラン・ヒットになって、めでたいことです。
映画の中(後半、ライブエイドの前あたり)に出てくる、フレディが住んでいた雪深いドイツの家は、夫が住んでいるアパートの割と近くにあります♪♪

by saia (2019-03-10 17:15) 

lequiche

>> saia 様

前評判はすごく悪かったみたいですね。
ところが公開されてみたら・・・!(^^)
評論家の言うことなんてあてにならないです。

>> 雪深いドイツの家は、夫が住んでいるアパートの割と近く

す、すごいです。
是非、記念写真を撮っておいたほうが
よろしいのではないでしょうか。
by lequiche (2019-03-11 00:11) 

ぽちの輔

その番組、見たかったです。
ネットで探そうかなぁ^^;
by ぽちの輔 (2019-03-11 06:14) 

lequiche

>> ぽちの輔様

石橋貴明のたいむとんねるでしたら
上記記事の一番下にリンクしてあります。
URLをクリックしてください。
画面の中に四角い広告が出てきて邪魔でしたら
カドにあるバツ印をクリックすれば消えます。
また、ときどきCMが入りますが
10秒間たつと左下ボタンがskip adになりますから
それをクリックすると動画に復帰できます。
by lequiche (2019-03-11 15:47) 

moz

クイーンはデビューの頃、周りの女の子たちがキャーキャー言っていたせいもあり? なんかミーハーだなと思って、思い返せばわざと遠ざかっていたバンドだった気がします。
おめえなぁ~、あんなのすぐに消えちゃうぞって ^^;
でも、映画のせいではなくて、最近になって(映画の前数年前です)ベスト盤のCD をHMV で買って聴いてみて、やっぱり良い曲だなと思いました。色んな影響(ほとんど独りよがりのですが)で目ならぬ耳が曇っていたなと ^^;
ボヘミアン・ラプソディーは見たいなと思っていてまだ見ていません。でも、DVD は気っと見るだろうな ^^;
by moz (2019-03-12 17:48) 

lequiche

>> moz 様

先入観が邪魔をして判断できないことってあります。
評論家がダメと言ってるからダメだとか。
クイーンはミーハー人気だったんですか。
私はそもそもクイーンをほとんど知らないので
今回の映画のヒットについても冷静に見られるのですが、
こうした何かのきっかけで局面ががらりと変わる
というのは面白い現象だなと思ってしまいます。(^^)
by lequiche (2019-03-14 12:52) 

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