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さらばシベリア鉄道 ― 太田裕美を聴く [音楽]

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春は夕暮れ。歌のカヴァーというのは面白いなと思いながらいろいろと聴いていた。そのうちにカヴァーではなくて、曲を与えられた歌手の歌唱と作曲者本人の歌唱の違いというのに興味が移って行く。作曲者がシンガーソングライターであった場合、これはもっと微妙だ。その歌の歌手と作曲者と、どちらがいいかという比較はしたくないが、ああこういうふうになるのかと常に思う。ジェニファー・ウォーンズとレナード・コーエンが良い例だ。

今回、聴き較べてしまったのは太田裕美の〈さらばシベリア鉄道〉である。松本隆・作詞、大瀧詠一・作曲の1980年の作品。実は今月号のサンレコの細野晴臣の記事を読んでいるうちになぜか大瀧詠一に変化してしまったのだ。思いつきも甚だしい (尚、サンレコの表紙は細野晴臣になっているが、一番興味深い記事は 「ボヘミアン・ラプソディの舞台裏」 である)。
〈さらばシベリア鉄道〉は大瀧詠一が歌おうとして、なんとなく歌詞に違和感があると思ってしまい太田裕美に提供。でも結局、自分でも歌ってしまったという経歴を持つ。最初に聴いたとき、このサウンドってスプートニクスかも、と思ったのだが糸井重里もそのように書いているし、フィヨルド7の〈哀愁のさらばシベリア鉄道〉という傀儡バンドのシングルもあったらしい。まさに大瀧詠一のやりたい放題であるが、このジャケットを見るとあきらかにスプートニクス・サウンドのパクリだと言っているのがわかる (これも聴いたことはないし、入手困難だろう)。

そこで太田裕美40周年ライヴという映像をはじめて観たのだが、これがなかなかいい (→A)。伊勢正三、大野真澄らをバックに、あまり凝ったことをせずにシンプルなステージングなのだが、人柄が滲み出ている。さらにもっと最近の2018年の映像は普通にストリングスを中心とした歌謡曲セッティングなのだが、これも変わらずいい (→B)。すごく簡単にいえば曲がよくて歌手がよければ、その曲はいつまでも色褪せない。

ではその当時はどうだったのかと探してみた。おそらくこのへんがリアルタイムの歌唱なのだと思うが、バックのオーケストラがものすごくショボくて、それが時代を感じさせてしまうのだが、ヴォーカルそのものは不動である (→C)。そしてもう少し後になってからと思われる歌唱がこれである。太田裕美、岩崎宏美、本田美奈子の3人による〈さらばシベリア鉄道〉である (→D)。

先日、大瀧詠一の1983年のライヴというのがリリースされたとのことだが、まだ未聴である。大瀧は《A LONG VACATION》(1981) というとんでもない大ヒット作があって、この前と後とでは待遇に格段の変化があったのだと思う。もっともその前から勝手なことをやっていたのが大瀧詠一らしいのだが。
そして太田裕美も語っているように、結局その大瀧のアルバムにも収録されることになった〈さらばシベリア鉄道〉を、そのちょっと前に彼女が持歌として歌ってしまったということが、不思議な縁であるし、でもそれは偶然ではなく必然だったのかもしれないと思う。

大瀧詠一と太田裕美が一緒に歌っている (といってもそれぞれにキーを変えているが)〈さらばシベリア鉄道〉というのも、非常に音質が悪い音源だがYouTubeにあった (→E)。でも本当は、もっときれいな音源があるはずだし、さらには映像が存在しているはずである。私はその映像を観たことがあるが、いまだに発売されない。きっと大瀧のアーカイヴは膨大なのだろうが、その映像は最後の砦なのだろうか。出し惜しみしないで欲しいと思うのである。


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A) 太田裕美/さらばシベリア鉄道
太田裕美40周年ライブ 「音楽と歩いた青春」 2014.09.10.
さらばシベリア鉄道は 24’53”~
https://www.youtube.com/watch?v=vI4WWPrh7iE

B) 太田裕美/さらばシベリア鉄道 (2018)
https://www.youtube.com/watch?v=Ohh_pkz87u8

C) 太田裕美/さらばシベリア鉄道
8時だよ、全員集合
https://www.youtube.com/watch?v=cb_l24a73VU

D) 太田裕美、岩崎宏美、本田美奈子/さらばシベリア鉄道
https://www.youtube.com/watch?v=ra1u_7q79Kw

E) 太田裕美、大瀧詠一/さらばシベリア鉄道
https://www.youtube.com/watch?v=Xb4x1J62FN0

〈参考〉
ジョン・レイトン/霧の中のジョニー
https://www.youtube.com/watch?v=Z-rH1rtNFt8

スプートニクス/霧のカレリア
https://www.youtube.com/watch?v=bOMWrjSsLYg
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コメント 14

青山実花

太田裕美さんが、
「8時だよ、全員集合」で、
「さらばシベリア鉄道」を歌っているという、
とっても場違いな感じが、
面白いと思いました。
こういった番組、今はないですね。



by 青山実花 (2019-04-17 10:25) 

(。・_・。)2k

そういえば 太田裕美さんも歌ってましたね
どうも この曲自体が好きになれなかったんですよねぇ
A LONG VACATIONというアルバムの中で異色に感じたのかも
知れません 夏のイメージのするアルバムでしたからね
それに FUN×4という大好きな曲の後に 拍子抜けする
暗い歌という印象だったのかも知れません

by (。・_・。)2k (2019-04-17 11:21) 

kinkin

太田裕美も大滝詠一も両方自分のウォークマンに入っているので
聞き比べが出来ます^^;
太田裕美の曲では「君と歩いた青春」が一番好きかな・・・
by kinkin (2019-04-17 11:49) 

lequiche

>> 青山実花様

昔はジャンルなどあまり関係なく、
なんでもありだったような感じがします。
こういうバラエティ番組が無くなってしまったのは
お金がかかりすぎるからですね。
今のひな段番組はワイドショーも含めて
面白味がないように思います。
by lequiche (2019-04-17 14:48) 

lequiche

>> (。・_・。)2k様

そうですか。音楽の好みはそれぞれですから。
私にとってはこの曲がベスト・トラックです。
シベリア鉄道の原曲はジョン・レイトンですが
それに北欧インストの味付けをしたというのが笑えます。
サビが太田裕美と大瀧詠一では多少違いますが、
その違いにも味があります。
by lequiche (2019-04-17 14:55) 

lequiche

>> kinkin 様

それは素敵です。
お二人ともソニーですから、聴くとしたら
やはりウォークマンが最適ですね。(^^)
太田裕美はそんなによく知らないのですが、
佳曲が多くてやすらぎます。
by lequiche (2019-04-17 15:01) 

チャー

さらばシベリア鉄道 知っています
好きですよ(^^)v
by チャー (2019-04-17 16:14) 

末尾ルコ(アルベール)

太田裕美のシングル曲をチェックしてみましたところ、「木綿のハンカチーフ」リリースが1975年で、この後、「赤いハイヒール」「最後の一葉」「しあわせ未満」まではよく覚えておりまして、今でもサビは歌えます(笑)。
あ、それと「九月の雨」もいけます。
こうして見てみると、「木綿のハンカチーフ」からの数年間、わたしがプロレスファンになった初期とかなり重なっておりまして、まあそれで感無量になるわけではありませんが。
ちなみに「ムハメッド・アリVSアントニオ猪木」が1976年でした。
と、余談でたいへんしつれいいたしました。
ただわたしの中のイメージとしては、太田裕美はもう少し前かなというのがありまして、またしても記憶の修正ができてよかったです。

太田裕美は昨年も歌番組で何度か見かけましたが、こうしてしっかりと活動を続けてるんですね。
素晴らしいですね。そして表現者としてのクオリティもどんどん上げていて、ステージもより深く、より洗練されている。
ところが歌うのはいつも「木綿のハンカチーフ」で、「懐メロ歌手」扱いです。
太田裕美に限らず、年を追うごとに充実していく表現者は数多いですが、メディアや大衆には無視されるのが普通ですね。
「売れなければ価値がない」という拝金主義と共に、確かに日本の大衆は、実は音楽を初め、文化を必要としてないのだなと再認識してしまいます。

とは言えわたしは「さらばシベリア鉄道」、耳にしたことはあるかもしれませんが、記憶にはなかったです。
聴き比べるとおもしろいですね。
わたしは大瀧詠一を積極的に聴いた時期がないのでその作風などについてどうこうは申せませんが、太田裕美がこれだけの優れた歌い手であるのを知ることができたのは大きな収穫です。
「太田裕美40周年ライヴ」はまた全体をじっくり視聴してみます。

それにしても松本隆の仕事ぶりは凄いですね。
フジテレビNextの『ももいろフォーク村』は、フォークを中心に、坂崎幸之助とももクロメンバー、そしてゲストたちが生で歌ったりトークをしたりという実に充実した番組なのですが、昨年は松本隆が来て、じっくり掘り下げる企画がありました。
ちょっと怪物的な仕事ぶりだなあと感じましたね。
坂崎幸之助の博識とセンスのよさも光る番組です。

・・・

ビル・エヴァンスって、前にも書かせていただいたかと思いますが、ジャケットなどの写真は端正なまでにピシッとキメているものが多く、しばらく「そういう人」だと思ってたのですが、lequiche様がリンクしてくださる動画などを視聴していると、確かに「崩れている」のは明らかですね(笑)。
なるほど、ジャケットなどには「いい写真」を選んでいたのですね。
これからわたしの中では何やらふにゃふにゃしたエヴァンスが生き続けることに(笑)。

>つまりオペラとは何かとか、どのへんからミュージカルになるのか

わたし、オペラの観劇経験はなく、映像でも通して観たのは数えるほどというくらいの人間なのですが、現代では一般的に「オペラ=高尚 ミュージカル=誰でも愉しめるエンターテイメント」というイメージですよね。
でもこの分類は有効ではないということですね。
玉木正之でしたか、「オペラは演歌のようなもの」的なことを言っていたと記憶しております。
そもそも「高尚」という言葉も、嫌いではないですが(笑)、なかなかに曲者ですよね。
まあクラシック音楽は特に日本では、聴く前からかなり学問的イメージが付き纏っているというのはありますね。

>バッハ以前のイタリア、フランスは怖いです。

そういうお言葉を拝読させていただくと、自然ワクワクしてくるわたしがおります。
わたしもいろいろと自分なりに深堀してみよおっと!(←可愛いイメージで 笑)。

>でもエヴァンスやジミくらいの人になると

これはまた、ワクワクしてきましたよお~~(笑)。
いや~、刺激になります。

>まさに何もしないで済むような桃源郷、というような

「生まれても生まれなくても同じ」という桃源郷ですね(笑)。
未来は気色悪い明るさに満ちているような気がしてきました。
RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-04-17 16:56) 

lequiche

>> チャー様

そうですか。
そう言っていただけるとうれしいです。(^^)
by lequiche (2019-04-19 02:58) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

プロレスの歴史が世界の歴史を見るときの
時間的な目安になっているのですね。
そういう方法はなかなか便利なのかもしれません。

〈木綿のハンカチーフ〉という曲は、
まさに松本隆の出世作と言ってよいと思います。
大瀧詠一も細野晴臣も松本隆も、はっぴいえんどのメンバーですが、
はっぴいえんど解散後、作詞家として独り立ちするための
足掛かりとなった作品のなかで太田裕美への作詞提供は
非常に大きいことだったと思います。
〈木綿のハンカチーフ〉はいわゆる応答歌で、
男性と女性のそれぞれの心情が描かれているのですが、
最後にキーワードとしてあるのが 「木綿のハンカチーフ」 で
「木綿」 も 「ハンカチーフ」 も、その暗示する意味は
非常に深いです。

その後、あまりにも〈木綿のハンカチーフ〉が売れたために
それを歌いたくなかった時期もあった、ということを
40周年ライヴのインタヴューのなかでも言っていますが、
でも太田裕美としての原点はやはり〈木綿のハンカチーフ〉
だったのだと思います。

一時、活動を休止しましたがその直前にリリースされている
〈雨の音が聞こえる〉(1984) という曲は作詞が山本みき子で、
山本みき子は銀色夏生です。
そして 「雨の音が聞こえる」 というタイトルは
大島弓子の初期作品のタイトルでもあるのですが、
それについて触れている記事はありませんでした。
この時期の太田裕美はあまり売れることとか考えていなくて
そこがまた素晴らしいです。

〈さらばシベリア鉄道〉という曲は、
メロディーがジョン・レイトンの
〈霧の中のジョニー〉(Johnny Remember Me, 1961) のパクリで、
音色がスプートニクスのパクリなんですが、
ブログ記事のリンクに追加しておきました。
大瀧詠一は、わざとこういうことをするのが特徴です。
つまり 「新古今」 です。元ネタがむずかしいのです。(笑)
尚、スプートニクスの〈霧のカレリア〉には
さらにロシア民謡の〈トロイカ〉の引用があります。

松本隆の作品は松田聖子などを含め、数多いですが、
私にとって一番衝撃的だったのはKinKi Kidsのデビュー・シングル
〈硝子の少年〉(1997) です。
作詞・松本隆、作曲・山下達郎ですが、
この懐旧的テイストをうまくブレンドした構成力はさすがです。
そして山下達郎のバンド、シュガーベイブのデビュー・アルバム
《SONGS》(1975) をプロデュースしたのが大瀧詠一です。

ビル・エヴァンスはある意味、昔ながらの
破滅的ジャズ・ミュージシャンの典型ですね。
でもレコード・ジャケットは端正にというのは鉄則です。

これは例としてあまり適切ではないかもしれませんが、
クラシック音楽の演奏会場における交響曲はF1、
オペラはラリーです。
オペラの生演奏は何が起こるかわからない確率が高いのです。
それで逆にそうした現場で叩き上げた、したたかな
カルロス・クライバーのような指揮者を私は尊敬しています。
映画《アマデウス》にもオペラの場面がありましたが、
そもそも舞台芸術って結構アバウトで、しかも俗なんです。
それはバレエや演劇にも共通していえる要素です。

私の古楽への興味はスウェーリンク、
そしてドメニコ・スカルラッティあたりから始まっているんですが、
遡っていくときりがないんです。
それに玉石混淆ですがそれが面白いんですね。
エヴァンスは今週末に新しい未発表ライヴ盤が出るはずです。

「素晴らしき新世界」 というのはオルダス・ハックスリィですが、
アジモフ的SF思考も、遡ればチャペックの《R.U.R.》があります。
あるいはリラダンの《未来のイヴ》でもいいんですが、
こうした昔の作品は〈とんでもSF〉でもあるんですが、
そのティコ・ブラーエ的な〈とんでも感〉は必ずしも悪くありません。
その素朴な設定にこそ、むしろ真実が内包されているような気がします。
元来こうした小説は社会批評をベースにしていたはずです。
エンターテインメントなんですが、まるっきりそれだけではないのです。
そうした思考は《ブレードランナー》あたりまでは存在していましたが
現在はどうなのでしょうか。
by lequiche (2019-04-19 02:59) 

うりくま

太田裕美の曲はカラオケで時々歌わされましたが
昔は作られた清純派アイドルだと思っていました。
こんなに息の長い活動をし、セルフプロデュース
もできる方だったのかと最近見直しています。
あの透明感があり絶妙なタイミングで裏返る声は
彼女にしかできないし、年を経ても衰えない所も
驚きです。「さらばシベリア鉄道」は、洋楽に
訳詞をつけたものかと思っていました(^^;)。
今後も様々な名曲を歌い継いでもらいたいです。
by うりくま (2019-04-21 19:20) 

英ちゃん

シンガーソングライターは、人に楽曲を提供しても後で自分でも歌う人が多いよね。
ユーミンや竹内まりやでさえも(゚□゚)
by 英ちゃん (2019-04-22 00:37) 

lequiche

>> うりくま様

私もアイドルだと思っていました。
でも違いましたね。
40周年記念ライヴというのは化粧っ気もなくて、
あぁこういうのもありなんだ、と納得しました。
それと大野真澄さんがいたのにもびっくり。
ガロを聴いたほうが先なので、
ずっと後になってCSN&Yの《Déjà vu》を聴いて、
そっくりだ! と思ったことももはや昔のことです。

〈シベリア鉄道〉は、ほとんどジョン・レイトンですから、
ある意味、洋楽に訳詞をつけたようなものです。
こういうのって著作権法違反にならないのかなぁ、
とちょっと考えてしまいました。
何小節以上同じだったらパクリとか規定があるらしいですが。
高橋幸宏さんも何かの自作曲を、
「これ、バカラックのパクリですよね?」
と聞かれて 「いいのいいの。誰にもわからないから」
と答えていましたけど、とりあえず一人にはバレてるわけで。
そぉゆぅのが好きです。(^^)
by lequiche (2019-04-23 03:28) 

lequiche

>> 英ちゃん様

結局、シンガーですから。(^^;)
提供先と自分のと、印税が二重に入ってオイシイです。
by lequiche (2019-04-23 03:30) 

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